喫煙者たけみっち
マイキーを筆頭とした幹部達に揉みくちゃにされながらも何とか帰宅させて貰えた俺は、家族も寝静まった真夜中にこっそりと家を出た。
近くの駐車場にひっそりと灰皿が置いてあり、常日頃から誰にも見つからないように一服することが日課になっていた。
「(まさかマイキーくん達にバレると思わなかったなぁ……もっと上手に隠さなきゃ)」
日常を過ごす中でも大抵誰かしらが傍にいることが多い為、特に煙草の匂いには気をつけるようにしていた。吸った後は必ず消臭剤を使用したり、風呂に入ったり……それらがどうしても出来ない時は、たまたま喫煙者が近くにいて匂いが移ってしまったなどと言い訳をしたり。
今では何とかそれで誤魔化してきたけれど、流石に誤魔化しきれなかったみたいだ。
「(でも、なんでバレたんだろ……匂いには気をつけてたし……もしかしてアイツがバラした?……なんて、態々言わないか)」
俺が喫煙する上で、仕方なく1人だけ協力者を作っていた為、その人物が東卍の幹部たちにリークしたのではないか、とも思ったが態々言うことでもないし、アイツも「ばはっ!2人だけの秘密だなァ♡」などと楽しそうにしていたので可能性から除外する。
大方、東卍の幹部たちでは無い者達にでも見られていたのだろう……気をつけなきゃ。
まだ、マイキー達はいつの間にか煙草を吸っていることよりも”大切な人”とは一体誰なのか、なんて問い詰める方にシフトしてくれたから内心、俺の唯一の楽しみを取り上げられなそうで良かったと安堵する。
▽▽▽▽▽
大人になってから、色々なものに疲れていた俺は嗜好品の一つである煙草に手を出した。
何処かで見た事のあるパッケージを手に取り、慣れない仕草で火をつける。恐る恐る口に含み煙を吸い込むと案の定咳き込んでしまった。それでも、もう一度挑戦し、今度は咳き込まずに吐き出したその匂いに実家を思い出した。
今はもういないけれど、俺の父親はヘビースモーカーで、俺が幼い頃からよく煙草を吸っていた。近くにいると煙くて嫌だったけれど、その匂いを俺は嫌いになんてなれなかった。
俺にとってこの煙草の匂いは俺の実家の匂いで、父親を思い出すきっかけで、俺の大切な思い出なのだから。
タイムリープをするようになってからは益々思い出に縋り付くように、煙草にのめり込んだ。中坊の俺ではそう簡単にタバコを手に入れられないから、とあるツテから入手して、1本1本大切に吸うことにしていた。
未成年だからやめろ、なんてさっき東卍の皆にも、うっかり吸っている所を見られてしまった知らないおっさんとかにも言われるけれど、俺だって肉体は未成年どころか中坊だけど中身はいい歳したおっさんだから少しだけ大目に見て欲しい。
恭しく箱から1本手に取り、火をつけ、煙草の煙を肺いっぱいに吸い込む。はじめの頃は身体が煙草に慣れていなくて思い切り噎せてしまったけれど、今ではすっかり慣れ親しんでしまったようで、寧ろもっと、もっと、と卑しく要求する。
名残惜しむように煙を吐き出すと、煙は風に流されて、俺をベールのように包み込んだ。その匂いに俺はホッと一息をつく。微睡んでしまいそうな程暖かい記憶が脳裏を埋め尽くし、ほんの少しだけ安心する。
今日も誰も死にませんようにと祈りを捧げ、短くなった煙草の吸い殻をそっと近くにあった灰皿に捨てて、今日もありがとう、さようならと別れを告げた。
何回もタイムリープを繰り返す俺が壊れてしまわないように。発狂してしまわないように。
今日も俺は大切な思い出を身体に取り込み、纏わせる。