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if梵天編



武道は普段の朗らかな表情などどこへ行ってしまったのかと言うほど無表情でひたすらに春千夜に水を飲ませ、口の中に指を突っ込み吐かせ続けるし、春千夜はさっきまで幻覚の武道達に可愛がられていたのに、急に殴られるわ、無理やり水を飲ませられた上で指を突っ込まれ、訳もわからずただ、泣きながら「ごめ゛んッ……ごめ゛んなさい……ッたけみち……ごめんなざい……」と謝りながら嘔吐し続けているし、周囲の部下たちはそんな二人を見てガタガタと震えていた。
そして、その光景は鶴蝶とココを伴って会合に出ていたマイキーと、別件の任務を実行していた灰谷兄弟達がたまたま組織前で鉢合わせ事務所内に「ただいまー!」と元気よく帰ってきてからも続いていた。梵天でも、比較的常識人でもある鶴蝶が止めに入ろうとするが、マイキーがそれを制止する。「タケミっちは今、多分三途の薬抜いてる最中だから行くな」と。
灰谷兄弟がニヤニヤと笑いながら傍観し、望月や武臣はやれやれと言った様子で溜息を吐き、鶴蝶はそれなら仕方ない……と踏みとどまって、それでもやや心配そうに様子を伺っていた。
粗方薬が抜けたのか武道が春千夜から離れ、汚れた手を洗浄しようと離れるとそれまで嘔吐し続けてボロボロになった春千夜が武道に縋り付くように足にしがみついた。


「たけみちッ!たけみちぃ……ごめん……ごめんなさい……ぅぐ………ひぐ……おいてがないでぇ……」


嫌われてしまったと思い込んだ様子で泣きながら呟いた春千夜に周囲からの視線を気にする、なんて余裕はなかった。頭の中にあるのは武道に捨てられてしまう、捨てないで欲しい、ということだけ。
そんな春千夜を無表情……何だったら冷めた瞳で見つめた武道はしゃがんでから春千夜の胸ぐらを掴んだ。


「ねぇ、春千夜。俺が今、なんで怒ってるか分かる? 」

「うっ……ぐす……おれが、わるいこだから……おれが、たけみちのいうこときかないで……ぐすっ……くすりのんだからぁ?」

「正解。ねぇ、春千夜。俺は散々君に言った筈だよね?薬物に手を出しちゃぁ、いけないよって。どうして約束守らなかったの?俺との約束なんて守る価値ないと思った?」

「ッ!!ちがうッ!!そんなことないッ!!……ッたけみちも……まいきーもいなくて……すげぇさみしくなって……つらいのわすれたくてのんじゃった……ごめん……ごめんなさい……」


ボロボロと目から涙を零し謝る春千夜を見てそれまで張り詰めた空気を纏っていた武道がフ……と笑い空気を弛めた。


「ちゃんと、正直に言えて偉いね春千夜。俺が薬を飲んじゃダメって言ったのは、春千夜がこのままドラッグ中毒になったりしたら君自身が辛い思いをしてしまうから厳しく注意したんだよ。もうやらないね?」

「ゔん……もう、ぜったいやらない……やくそくまもる……」

「いい子だね。よしよし……俺もさみしい想いをさせちゃってごめんね」


厳しく注意をして、ちゃんと謝ることが出来たらそれ以上に沢山甘やかす。武道は飴と鞭の使い方が非常に上手かった。
そんなやり取りをした2人を静かに傍観していた幹部たちは楽しそうにお喋りを始めた。


「いや〜〜やっぱり武道のあのギャップ堪んねぇ〜♡」

「やっぱりいいよな〜……普段の武道も好きだけど、あのゾクゾクするほど冷たい目!最高だよなぁ〜♡」

「あの冷たい視線もイイけど、オレはやっぱし、あの後の母性溢れるボスが最高に推せる……また、ヨシヨシして欲しい……」

「何言ってんの???タケミっちのヨシヨシは俺のものだし、タケミっちも俺のものなんだけど????第一お前撫でてもらってただろ昔」

「それは昔のオレだろ〜?今のオレも撫でて欲しいんだよ」

「はぁ?」

「あ゛?」

「こら、2人で言い争うな……2人とも撫でてもらえばいいだろ……「「俺だけがいいんだよ!!!!」」……もう好きにしてくれ……」

「ヨシヨシか〜……俺的にはそれよりも虐げられたいよなぁ〜〜!普段では想像もできないし、あの姿なかなかレアじゃん?」

「兄ちゃんもそっち派??俺も〜!でも、その後にヨシヨシもしてもらいたいな〜♡」

「お前らの性癖を武道に押し付けるな……」

「そんな鶴蝶だってホントはされたいんだろ〜??」

「鶴蝶むっつりだもんな〜〜」

「なっ!??さ、され、されたい訳ないだろ!!?」

「「絶対嘘じゃん」」


ケラケラ笑う灰谷兄弟に顔を真っ赤にしながら鶴蝶が怒り始める。周囲の幹部たちが傍観を決めていたのを見つけた武道が春千夜に抱きつかれながら傍に来た。


「なぁに?どうしたの、カクちゃん」

「ッ!な、なんでもない!」

「なぁなぁ、武道〜!俺にもさっきのアレ、やってよ♡」

「兄ちゃんずるい!!武道!俺にも!」


顔を赤くした鶴蝶の両端から灰谷兄弟が出てきて武道に擦り寄る。武道に抱きついている春千夜が威嚇しているが、それには目もくれず、両端から肩を組むようにして近づいた。


「えぇ?くすくす……随分と変わった癖をお持ちですね?でも、残念。悪いコトしてなきゃ俺が怒ることもないですし……あぁ、それとも……お2人を信頼している俺に軽蔑させるようなコトでも……しようとしていらっしゃるんです?」


2人を探るように、ス……と目を細めた。口はニコリと優美に微笑んでいるが目は全く笑っていない。


「「〜〜ッ!やっぱり最高だよ武道ィ!♡♡」」


灰谷のギャル2人がキャッキャっと盛り上がっている所を今度はマイキーとココが武道を囲い込んだ。マイキーに強く出ることが出来ない分、ココに対して威嚇をしまくるもやはり目もくれない。


「ねぇねぇ、タケミっち♡俺、今日の会合凄い頑張ったんだ〜!ほめて♡」

「ボス♡俺もすげぇムカついた奴いたけど手を出さなかったし、ちゃんと、ソイツのこと社会的に殺してきたから褒めてくれ♡」

「マイキー君ちゃんと会合行ったんですね〜!偉いです!いい子いい子……ココ君はそれ最早手を出してません??「物理的に手は出てないから」ん〜〜……まぁ……ギリ……いいのか……?踏みとどまったのは偉いですね!お利口さんですね〜〜」


褒めて褒めてとまるでしっぽを振るように擦り寄ってきたマイキーとココには望み通り褒めちぎった。実際この2人は表面にはあまり出さないが結構な仕事量を抱えているし、その内容も濃いものが殆どなのだ。マイキーもココも闇堕ち(反社にいるなら既に闇堕ちしてる?知らんな)する前にそのストレスを取り除いてあげないと大変なことになるのは散々理解していた。


「たけみちぃ〜〜〜!!!!俺にもォ〜〜!!!!」


それらを間近で見て、さっきまで嘔吐を決め込んでいた春千夜が叫び益々武道に抱きつく力を強めていた。
そんな幹部たちを眺めながら、その輪に入らずに傍観を決め込んでいた望月と武臣は煙草をふかしながらボソリと反社にあるまじき言葉を呟いていた。


「「今日も平和だなァ」」


今日も愉快な1日だったと吸い込んだ煙を吐き出した。

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