if梵天編
梵天……現代社会の裏では勿論、最近では表社会でもゆっくり侵食していくようにその名は知れ渡り始めていた。
そのトップであるマイキーこと佐野万次郎を始め、幹部たちは皆、狡猾で凶悪な者が揃っており、噂によると政治家達とも関わりがある様子。その為警察も迂闊に手出しが出来ない反社会的組織となっていた。
ただ、反社会的組織と言っても比較的ホワイト(?)でちゃんと有給制度もあるし、残業代も出るし、育児休暇も取れやすい。いや、ホワイトな反社会的組織とは????矛盾か????となってしまうが、何だったらそこら辺の一般企業より就労基準がしっかりしてたりする。そして、三途春千夜も日常的に薬をキメていない。薬をキメるより武道を吸った方が充分キマるからだ。
しかし、一度……たった一度だけ、春千夜が薬に手を出したことがあった。春千夜を擁護する訳ではないが、その時、春千夜の精神安定剤とも言える武道は別件を任されて地方に行っており、もう1人の安定剤であるマイキーもまた他所の組織との会合を行っていたのだ。
普段ならば会合には武道や春千夜が付くが、武道は別件を任されているし、春千夜はマイキーから”留守番”を仰せつかっていた。何故、会合に伴うのは自分では無いのかと散々駄々を捏ねたが、尊敬するマイキーに「会合の付き添いは誰でも出来る。だけど、俺やたけみっちが不在で隙が多くなっている組織自体の留守を任せることが出来るのは俺たちの懐刀である三途……お前だけだ」などと言われてしまえば頷かざるを得ないし、なんならさっきまでの駄々こねは何だったのかと言うほど速攻で頷いた。まぁ、最も実際は他組織の連中の態度にすぐキレてスクラップにしようとする春千夜など連れて行けない程大事な会合だったのだが……
そんなこんなで、春千夜は重大な任務である”お留守番”を頼まれたのだが、大変なことになったのはここからだ。
マイキーと離れたのもそうだが、普段必ず傍にいると言ってもいい武道がおらず春千夜は次第に不安になってきた。
「俺は……いらない子なのか……」と。
そもそも、いらない子認定してたら組織に置いて置く訳がないのに、一度でも不安になってしまった春千夜の脳内はそれしか思い浮かばなくなってきてしまった。
グルグルと負感情が脳内を巡った春千夜の視線の先には武道から「絶対に飲むな」と口を酸っぱくするほど言われていた薬物があった。
武道の言いつけは守らなきゃいけない………でも、その武道が傍に居ない。さみしいさみしいさみしいさみしい…………気がついたら春千夜は薬を手に取り口に含んでいた。
そこからは天国だった。
さっきまでの嫌な気持ちが全て吹っ飛んで、脳内に巡るのは高揚感と多幸感、武道やマイキーの幻覚も見ていたのか、ぺたんと座り込みあたかもそこにいるかのように話しかけている。そして、何を言われたのか知らないが武道に愛されていることが分かったかのように、堪らなくハイになった。
同じく梵天の組織に残っていた他の部下たちはそんな春千夜を目撃してしまい、ラリっている春千夜を何とか止めようとするも全く聞き入れないし、なんなら自分と幻覚の武道やマイキーの邪魔をする存在だと認定されて殺されかけた。
そして、そんな最中に武道は帰ってきた。帰ってきて、部下に泣き疲れて、ラリった春千夜を見た武道は……
思い切り春千夜をぶん殴った。
殴って、春千夜が思わず呆然としている所を首根っこを掴み、近くにいた部下に大量の水を頼んでからトイレへ向かった。
そこからは地獄だった。