柴家編
その日、壱番隊副隊長こと松野千冬は尊敬する人、”元”壱番隊隊長、場地圭介との待ち合わせに遅れまいと街中をやや早足で進んでいた。
件の”血のハロウィン”で場地は一虎に刺されそうになった所を武道に助けられ生き延びることとなった。だが、責任を感じた場地が「ケジメをつける」といい、東卍を脱退しようとするも武道、そして千冬がそれを阻止、”謹慎”という形で当分集会に出ることをやめ、隊長の座を武道に受け渡した。
なお、血のハロウィンでは千冬の信頼するたけみっちが場地の代わりに刺されるだとか、刺した張本人の一虎が混乱した様子で「傷物にした責任を取る!!!!」と言い放ち、それに対して倒れた武道を支えていた場地も混乱しながら「俺の代わりに刺されたんだから俺が責任とらねぇと……」と対抗しだすし、それらを見たマイキーはただでさえキレていたのにさらにブチ切れ、「コロス……ゼンインコロス……」と言いながら一虎だけでなく場地にも殴り掛かり全員で抑え込むなんてこともあったが、まぁ今度話すとしよう。
とまぁ、そんなこんなで(?)場地は武道に隊長の座を譲り、年始から謹慎も解かれしれっと壱番隊の隊員ポジションに収まっている。(なお、武道は認めていない)
例え隊員、何だったら現在の役職は千冬よりも下だろうが尊敬する男なのには変わりない。千冬は武道に関しても場地に関しても一途な男なのだから。
足早に街中を進み、近道をしようと路地をぬけ大通りへ向かう。そんな時、なんだか聞き覚えのある声が聞こえた。思わず足を止め聞こえた方へ視線を向けるとそこには大切な相棒たけみっち。
「……!たけみっち…えっ」
何だったら場地さんとの集まりにも連れていこう。きっと喜ぶ。そう思って嬉々として声を掛けようとするが、ふと、相棒の隣にもう1人いるのを見てしまった。それも、聖夜の夜に嫌という程見た男を。
小柄な相棒の隣に並び歩いているせいで大柄な男は益々大きく見えるし、威圧感のせいで完全にヤンキーとそのパシリみたいな組み合わせになっている。近くにいる街の人々もそんな2人の様子が気になるようで、やや心配そうな雰囲気でチラチラと視線を向けるが声を掛けるものなんていない。しかし、周囲の人々とは裏腹に当人達はいたって和やかに会話していた。
「…………いやいやダメですよ!そんな……悪いです!……えっ……いやすごい嬉しいんですよ!?だけど、こんなに毎回……柚葉や八戒だって困っちゃいますよ」
「その柚葉と八戒がお前を連れて来いってうるせぇんだよ。お前連れてこなかったら俺がどやされるだろ」
「どやされる大寿君……??なにそれ見てみたい」
「オイ」
冗談ですって!なんて言ってにこやかに笑うたけみっちとそれに対して大寿はそんな顔で来たのかと思えるほど穏やかな表情をしていた。
クリスマスであんなにバチバチにやり合ったって言うのになに?????なんであんな仲良さげなん?????しかも今、柚葉と八戒の名前出たよな???しかも家に連れてこいみたいなこと言ってるよな????いつの間に仲良くなってんの?????
ツッコミどころがありすぎて呆けた顔をしながら予想外の展開に思わず固まると視線の先の2人はそのまま仲良く話ながら通り過ぎていった。きっとこのまま恐らく大寿の家……柴家に向かうのだろう。
2人の空間に入り込む余地はなく、しばらく固まったままで過ごし、合流予定だった場地さんに「遅ェぞ千冬ゥ!!」と怒りの連絡が来るまで動けなかった。