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2023

どうやら主が俺に会いに来たらしい。


とは言っても、この時代の俺は天皇さんのお家の中でぐっすりと眠っていた上、そんなご身分のひとのもとにあれば、一般庶民の主が直接お目にかかれる訳もないので、もちろん当時の記憶に主の姿は残っていない。

それに主も、今の自分じゃ俺を見ることなんて出来ないと分かっていたから
結局外を一周歩いてみたりしているだけで、
たまに俺の形代を鞄から出しては、濠と形代を交互に見つめてにやにやとしているだけだった。

今みたいに自由に動ける身体があれば、
今よりももっと早く今の主に出会えていたかもしれない。


東京はもう随分と複雑になっていて、
主が迷って仕舞わないか心配で全く落ち着けなかった。


思えば、この時代の東京に関してはあまり記憶が無い。
何せ、明治に仙台から連れてこられてからは
たまに上野の博物館に飾られたりすることがあったものの、基本は倉庫の中でずっと眠っていた。

俺をこの場所に連れてきた御仁は、
何度も俺や一期のような刀たちを鞘から出して、
長い間見られていたような記憶もある。

それからは何度か代替わりした主に顔を合わせることもしばしばあった。
しかし、大体は手入れに来る侍従や書陵部の人間達しか見ることは無かった。

正直、少し退屈だったし、
特に懐かしいと言えるような出来事もあまり無かった。

だがまぁ、そういう平穏で何も無いことが一番良い事であると思えるようになったのは、
きっとこの時間があったおかげだと思う。



ところで、主に最近避けられている気がする

俺を加州と一緒に遠征に出したり、
ひたすら俺に畑当番をさせたり、
一体どういう心境の変化なんだろうか。

もしかすると、これが反抗期と言うやつなのかもしれない。
いやはや、人間の成長というものは、
こんなにも早いものなのか


いや、今年で成人するんだ
むしろ遅い方じゃないか?

俺たちみたいな時の流れが遅すぎる刀達と過ごしているせいで、
主の成長を妨げてしまっているかもしれない。

感慨に浸っている場合じゃない。
俺は、この子を少し子供扱いしすぎていたかもしれない

だからと言って、何故こんなにも俺の事を避けるんだ?

まさか、いやいや
いらない想像をしてしまった
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