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キミと、ボクと。

「こ、…こんなに、たくさん……」

目を見開き輝かせたその視線の先にあるのは、ツヤツヤとしたチョコレートでコーティングされたクッキー。それらは缶に丁寧に入れられて赤髪の少年___カシスの目の前に置かれた。

「えへへ♡…センパイのために、いっぱい作っちゃった…♡」
「…あ…ありがとう、ヒメちゃん…!」

カシスが「ヒメちゃん」と呼んだその人物は満足そうに微笑む。作るのにすっごく時間かかったんだよー、と呟きながら缶からうさぎの形のクッキーを取り出す。

「ほら、センパイ♡…あーん♡」
「ちょ、…ちょっと!?…ヒメちゃん…!?」

たちまちカシスは顔を赤くして後ずさった。手をブンブンと振り全力で拒否している。

「…あはは♡耳まで真っ赤だ〜♡センパイかわいい…♡」
「…そ、そういうの…ダメだよ…」

ヒメがからかうように笑うと、カシスはへなへなとソファーに座り込んだ。これは保健室に一つだけあるソファーだが、座り心地が良くカシスのお気に入りである。力が抜けてしまったカシスの様子を見て、ヒメはしょうがないなぁ、と強制的に食べさせる行為をやめた。

「…じゃあ、センパイ、これ___」

ヒメが次のクッキーを手に取りカシスに渡そうとした時だった。

「…失礼しま……、…うわ、すっごい甘い匂い…、…なんだ小鳥遊かよ」

保健室に用があったのか入ってきた男子生徒が途端に顔をしかめる。その生徒は、カシスは眼中に無い様子でヒメのことを蔑むように見つめた。

「…なんだって何?」

少々怒りを顕にしたような声色でヒメが問う。敵意をむき出しにし、強く睨みつけている。

「…どこかのクラスの女子力高いやつがバレンタインに浮かれてお菓子でも作ってきたのかと思ったよ。…お前男のくせによくそんなもの作るな」

「………は?」


その瞬間、ヒメは強く握った拳を振り上げた。
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