【オズ】会社パロ連載
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この春、転職した。
前職は都内の小さな広告代理店だった。華々しい仕事に見えて、不景気のあおりを受けて業績は右肩下がり。会社と共に沈むなんてごめんだ。
転職活動はなかなか骨が折れたけれど、デザインと営業の実務経験ありを買われて、この大手商社への内定が決まったときには思わずガッツポーズした。
社風は一見、堅め。歴史ある商社らしく、エントランスには重厚なソファとガラスのトロフィーケースが鎮座している。社員は基本的にスーツ、オフィスカジュアルもOKだが、商談の際などは品格が求められる。
しかし内部は意外とフランクで、上司も先輩もみんな下の名前で呼び合う。最初は戸惑ったが、時流もあってすぐに慣れた。
そんな私が配属されたのは、営業部――その中でも営業三課という、社内でもちょっと異質と噂のチームだった。
直属の上司は課長のギルティア。長いのでみんな「ギル」と呼んでいる。
見た目からして圧がある。背が高く、いつも皺ひとつない上等なスーツを着こなし、無駄のない所作で社内を歩く。クールな外観よろしく口数は少ない。というより、少なすぎる印象がある。
けれど営業数字は常にトップ。社内では“カリスマ課長”または”ほうれんそう”とひそかに呼ばれている……らしい。詳しくはまだ知らない。
そのギルの下で、実質的に課をまとめているのが課長代理のイヴだ。
細やかで温厚、誰にでも優しい。朝出社すると「おはよう、夢子。職場には慣れた?」と気にかけてくれる。この人がいてよかったと毎日思っている。社内パソコンの使い方も電話の受け答えも決裁の取り方も、全て彼に教えてもらった。
新人教育はもちろん、ギルが言わないことの9割をイヴが補うという、絶妙なバランスで三課は回っていた。
先輩のロビンとアンジュは、どちらも年下だが経験豊富。ロビンは人懐っこく場を明るくするムードメーカーで、「夢子、今日のお昼なに?」「昨日できた新しいスイーツのお店知ってる?」と毎日話しかけてくれる。
アンジュは対照的に口数が少ないけれど、質問には的確に答えてくれるし、やるべきことはきっちりこなす。無口なツンデレかと思っていたが、素朴で良い子だった。
そんな日々にも、少しずつ慣れてきたある日のこと。
お昼の時間になり、私は自席で手作りのお弁当を広げていた。今日のメニューは鮭のおにぎりと、卵焼き、ほうれん草のおひたしだ。
横からアンジュの視線を感じる。
「それ、卵焼き?」
「うん、甘めのやつだけど、食べる?」
「じゃあ、俺のと交換」
差し出されたのは、のりの混じった昔ながらの卵焼きだ。「料理はばあちゃんに教わったんだ」という彼の卵焼きはしょっぱい系で、素朴な味わいがする。彼のタッパーには、ほかに佃煮、ナスの煮浸しなどの具材が並ぶ。唐揚げはいつもある。
「ありがとう。アンジュの卵焼き大好き!」
「ありがとう。俺も夢子の卵焼きは好きだ」
ふたりで卵焼きを頬張っていると、ロビンが向かいの席で電話を終え「いいな~僕も味見したいな!」と顔を出す。
月中で仕事も落ち着いており、電話もそんなに多くない。今日の午後もきっとのどかだ。眠くなってしまうかもしれない。
そのときだった。
バタ、とエントランスの自動ドアが開く音がした。
「明日から出張だ」
足早に帰ってきたギルが、スーツの上着を肩にかけたまま言い放つ。
イヴがパソコンから顔を上げる。
「急だね。どこに?」
ギルはスッと社用スマホを見せる。
「東海方面。三泊四日。……お前もだ」
「は?!」
さすがのイヴも思わず素の声が出た。
「聞いてないよ!ギル」
「いま言った。夢子、」
ギルの視線がこちらに刺さる。私!?
「諸々手配を頼む」
「あっ…はい!ええっと、すみませんもう少し詳細な旅程を」
卵焼きを飲み込みながら立ち上がると、イヴは申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。それに頷きメモを取り出す。出張の手配。新人の仕事としては妥当だ。前職でもやったことがあるから問題はない…
「それから、お前も同行だ」
「はっ!?」
問題ある!!!
突飛すぎる出張メンバーに固まる。私が出張!?
ロビンは「出張いいな、お土産待ってるね」と他人事。
アンジュは「がんばれ」と一言。冷静だ。
ギルがこう言うと、もう決定事項だ。イヴはため息をつきながら、手帳をぱらぱらとめくった。
「……夢子、大丈夫そう? 女性は着替えとか準備とか大変だよね?急でごめんね」
「だ、大丈夫です!なんとかします!」
ギルはブリーフケースの書類を二、三入れ替えると、既に出口に向かって歩き出す。
「明日八時、東京駅、新幹線の改札前集合」
「待って、ギル!せめて用意するものとか…」とイヴが後を追いかけていく。
こうして私の、怒涛の出張デビューが決まったのだった。
前職は都内の小さな広告代理店だった。華々しい仕事に見えて、不景気のあおりを受けて業績は右肩下がり。会社と共に沈むなんてごめんだ。
転職活動はなかなか骨が折れたけれど、デザインと営業の実務経験ありを買われて、この大手商社への内定が決まったときには思わずガッツポーズした。
社風は一見、堅め。歴史ある商社らしく、エントランスには重厚なソファとガラスのトロフィーケースが鎮座している。社員は基本的にスーツ、オフィスカジュアルもOKだが、商談の際などは品格が求められる。
しかし内部は意外とフランクで、上司も先輩もみんな下の名前で呼び合う。最初は戸惑ったが、時流もあってすぐに慣れた。
そんな私が配属されたのは、営業部――その中でも営業三課という、社内でもちょっと異質と噂のチームだった。
直属の上司は課長のギルティア。長いのでみんな「ギル」と呼んでいる。
見た目からして圧がある。背が高く、いつも皺ひとつない上等なスーツを着こなし、無駄のない所作で社内を歩く。クールな外観よろしく口数は少ない。というより、少なすぎる印象がある。
けれど営業数字は常にトップ。社内では“カリスマ課長”または”ほうれんそう”とひそかに呼ばれている……らしい。詳しくはまだ知らない。
そのギルの下で、実質的に課をまとめているのが課長代理のイヴだ。
細やかで温厚、誰にでも優しい。朝出社すると「おはよう、夢子。職場には慣れた?」と気にかけてくれる。この人がいてよかったと毎日思っている。社内パソコンの使い方も電話の受け答えも決裁の取り方も、全て彼に教えてもらった。
新人教育はもちろん、ギルが言わないことの9割をイヴが補うという、絶妙なバランスで三課は回っていた。
先輩のロビンとアンジュは、どちらも年下だが経験豊富。ロビンは人懐っこく場を明るくするムードメーカーで、「夢子、今日のお昼なに?」「昨日できた新しいスイーツのお店知ってる?」と毎日話しかけてくれる。
アンジュは対照的に口数が少ないけれど、質問には的確に答えてくれるし、やるべきことはきっちりこなす。無口なツンデレかと思っていたが、素朴で良い子だった。
そんな日々にも、少しずつ慣れてきたある日のこと。
お昼の時間になり、私は自席で手作りのお弁当を広げていた。今日のメニューは鮭のおにぎりと、卵焼き、ほうれん草のおひたしだ。
横からアンジュの視線を感じる。
「それ、卵焼き?」
「うん、甘めのやつだけど、食べる?」
「じゃあ、俺のと交換」
差し出されたのは、のりの混じった昔ながらの卵焼きだ。「料理はばあちゃんに教わったんだ」という彼の卵焼きはしょっぱい系で、素朴な味わいがする。彼のタッパーには、ほかに佃煮、ナスの煮浸しなどの具材が並ぶ。唐揚げはいつもある。
「ありがとう。アンジュの卵焼き大好き!」
「ありがとう。俺も夢子の卵焼きは好きだ」
ふたりで卵焼きを頬張っていると、ロビンが向かいの席で電話を終え「いいな~僕も味見したいな!」と顔を出す。
月中で仕事も落ち着いており、電話もそんなに多くない。今日の午後もきっとのどかだ。眠くなってしまうかもしれない。
そのときだった。
バタ、とエントランスの自動ドアが開く音がした。
「明日から出張だ」
足早に帰ってきたギルが、スーツの上着を肩にかけたまま言い放つ。
イヴがパソコンから顔を上げる。
「急だね。どこに?」
ギルはスッと社用スマホを見せる。
「東海方面。三泊四日。……お前もだ」
「は?!」
さすがのイヴも思わず素の声が出た。
「聞いてないよ!ギル」
「いま言った。夢子、」
ギルの視線がこちらに刺さる。私!?
「諸々手配を頼む」
「あっ…はい!ええっと、すみませんもう少し詳細な旅程を」
卵焼きを飲み込みながら立ち上がると、イヴは申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。それに頷きメモを取り出す。出張の手配。新人の仕事としては妥当だ。前職でもやったことがあるから問題はない…
「それから、お前も同行だ」
「はっ!?」
問題ある!!!
突飛すぎる出張メンバーに固まる。私が出張!?
ロビンは「出張いいな、お土産待ってるね」と他人事。
アンジュは「がんばれ」と一言。冷静だ。
ギルがこう言うと、もう決定事項だ。イヴはため息をつきながら、手帳をぱらぱらとめくった。
「……夢子、大丈夫そう? 女性は着替えとか準備とか大変だよね?急でごめんね」
「だ、大丈夫です!なんとかします!」
ギルはブリーフケースの書類を二、三入れ替えると、既に出口に向かって歩き出す。
「明日八時、東京駅、新幹線の改札前集合」
「待って、ギル!せめて用意するものとか…」とイヴが後を追いかけていく。
こうして私の、怒涛の出張デビューが決まったのだった。
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