完結後SS
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一寸先は沼
プロバレーボールプレーヤー・千歳柊生、佐久早聖臣。同性のパートナー同士でもある彼らは、大阪にあるチーム・MSBYブラックジャッカル在籍10年のベテランで、パリ五輪の金メダリスト。
「聖臣、もう1回!」
「待って、両替してくる」
もはやこの国のスターであるふたりのファンとなること数年。偶然見かけた彼らは今、目の前で、ガチャガチャの沼におぼれています。
「したっけ今度こそは……‼……黒‼2匹目の黒ポメさん‼うん、かわいい!聖臣、そっちは⁉」
「……トライカラー?シークレットか?」
「かわいい!シークレットだね、多分!」
ガチャガチャが大ブームとなったのはここ数年といったところでしょうか。可愛いマスコットからポーチなどの実用品まで実にさまざまで、ブームの波はとどまるところを知りません。ふたりの目を引き付けてやまないのは、ポメラニアンのぬいぐるみ。
「そろそろ白出てー、白ー‼」
「俺と、柊生の分と、あと佐藤さんの分で3つでいいんだよな?」
「うん、だってこの長毛ポメさん完全にキャンディだもの。何が何でも持って行ってあげなくちゃあ」
同一個体を複数入手とはなかなか高いハードルを科している。ガチャガチャのタイトルは長毛種わんこのぬいぐるみ。二人の手の中にあるのは茶色、黒、シークレットのトライカラーのポメラニアンやマルチーズやシーズーのぬいぐるみ。
千歳選手が張り切って新札を取り出した。
「うーん、もう1回両替からだな。どうしたの聖臣」
「似たようなぬいぐるみ、普通に買った方が早……」
ふと正気に戻った佐久早選手が両替機を前に遠い目をしたけれど、他のお客様もお待ちだよと千歳選手に促されるがまま千円札を硬貨に変換。
「それは言わないお約束。なんか楽しいべや、こういうの。学生デートみたいでさ」
「デート……?」
「ゲーセンデート、したことなかったべ?学生の頃も行けばよかったね」
無邪気な言葉に周囲が息をのむ。彼らは学生時代から長年遠距離恋愛だったのだ。こんなささいなことも、甘いひと時。私はたまたま通りがかった一ファンとしてこっそりと眺めるだけに留めます。SNSにも書きません、と密かに誓っておくことにしましょう。
ご機嫌な千歳選手は鼻歌を歌いながら硬貨を押し込み、祈りながらガチャのダイヤルを回す。
「よし、祈りを込めてマシュマロコールを……マーシュ、マーシュ、マー……マシューーー!!」
「あ、本当に入ってた。もう入ってないかと思った」
「やったー!」
「よかったね」
大きな手のひらに愛犬を見出してぬいぐるみを撫でる姿は無邪気そのもの。心なしか佐久早選手もほっと一息……かと思いきや。
「これで佐藤さんの分は確保!あとはお前と俺の分を……ん?聖臣、そっちにガチャガチャないよー」
「いや、俺はこっちがいい」
佐久早選手、クレーンゲームに目をやったと思いきや一目散に向かってしまった。ガラスの向こうに詰め込まれているのは、ポメラニアンのビッグぬいぐるみ。
「え……うわっ!巨大マシュマロじゃないか!こんなの絶対ほしい!!!!!!!!」
「絶対獲るぞ」
ふたりの瞳は試合中かのように鋭く輝き、またも数枚のお札が小銭へと変わっていく。ガチャとは勝手が違いすぎるのもあって、なかなか苦戦しているようだ。
「難しいな……これ結構空間認識能力いるやつじゃない?宮くんとか得意そう」
「あいつ無駄に上手そうで嫌」
「それは大分失礼。ちょっと店員さんにコツを聞こうか」
店員さんにアドバイスをもらったり、取りやすいところに置いてもらったりしながら何とか3つのぬいぐるみを手に入れたふたりは、フルセットの後のように空を仰いだ。
「コンプリート!!!って……ギャラリーが出来てしまうくらい熱中してしまった……お、お騒がせしました……」
「柊生が騒ぐから」
「俺のせいにするんじゃな……何したの、聖臣」
少しばかりにぎやかになったゲームセンターを足早に去ろうとしたところ、再び足を止めたのは佐久早選手。疲れ果てていた黒い瞳に生気がもどった。
「……マスコット着せ替えポンチョ……」
「あっ、これ!このかえるのやつ、マシュのレインコートと同じやつ……えっ……ほしい……」
そばに飾られていた原寸サイズのポンチョ。最初に手にしたミニサイズのぬいぐるみを見比べると、千歳選手の目も再び輝きだす。佐久早選手が再び財布を取り出した。
「両替してくる。柊生、念のためお前はコンビニで現金下ろしてきて」
「……大人になってからのゲーセンデート、最高だね!」
ふたりとも一体今日いくらつぎ込んだのか、考えるのを放棄していた。その感覚、よーくわかります。
出会ったら最後。もう、底なし沼だってこと。
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