完結後SS
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シュガーブロッサム・イン・ザ・パリ 5
「昨日のオフ?俺は選手村見て回ってた!柊生たちは何してた?」
準決勝を控えた前日。金色の目とカメラが爛々と光って俺と柊生を捉えていた。チームカメラを回すのは木兎くん。
柊生はにこやかに、努めて冷静に、いつも通り受け答え。
「聖臣と部屋でゆっくり過ごしていましたよ」
ゆっくりっていうか、ベッドが壊れてないか若干心配なくらいの一日だったけども。ベッドは無事だったし、心身ともにいつも通り。何も答えない俺を横目で見た柊生は、神妙な顔をしてみせた。
「……皆はさ、五輪期間も家族と離れて過ごさないといけないしょ。俺達はここでもいつも通りの日常を過ごせるのが本当にありがたいなって噛み締めていました。……ふふ、贅沢モノですね」
神妙な顔から出てくるのはいい子のお返事。かといって、わざと言ってるわけでもない。
(……東京五輪のときよりも、正直メンタルは楽)
影山や日向、若利くんが海外で活躍したり、ネーションズリーグで優勝したこともあって今回は前回以上に注目もされている。でもやっぱりいつも通りの環境に近い状態にあるってメンタルにはいい。
マシュマロがそばにいれば完璧だと思ったけど、日本で元気にしてくれているのならそっちのが安心。ストレッチしながら柊生も愛犬に思いを馳せた。
「マシュ今日も元気かなー」
「キャンディとの写真待ち受けにした」
「可愛い!見てくださいこれ、愛犬と姉のキャンディがね、俺達の日本代表ユニフォームを着て応援してくれています。可愛いが過ぎません?」
まだカメラ回ってたのかよ。どこまで使われるのかわかんねえけど、柊生はご機嫌。更に厳しい舞台を前に、頼もしいものだと思う。
*
「うーん……経験値だねえ」
大歓声の中、ドリンクを煽って首をひねった。準決勝の相手は何度もこの場に立っている。方や俺達はもう何十年ぶりの舞台。
相手を追い詰めたと思ったら逃げられる。サイドアウトの応酬が激しくなるたびに何故?ってくらい落ち着いていられるのは、経験の差としか言えない。
死んでも勝つ、そんな言葉が目に浮かぶようなプレーの数々。俺も大概負けず嫌いだし、そう言われてきたけれど。
(皆、俺以上の負けず嫌いじゃない?)
及川さんとも話したけど、ここ五輪の舞台までひた隠しにされてきたみたい。そんな気分だよ。
「ボトル潰すなよ」
「あ痛。潰しません。……お前はすごいねえ、本当に」
聖臣はいつも通りしれっとした顔で俺の頭に手刀を落とすとアナリストやコーチに質問していた。
こういう場所だからかな。選手個々の強みや弱みがこんなに顕著になる場所もないと思うんだよね。
『佐久早サービスエースー!!ブロックにディグ、今日も高水準のプレーが光ってますね!』
『いやあこれぞアウトサイドヒッターの真骨頂ですねえ』
多分どこのポジションをどのタイミングでやらせても上手くチームが回る。それくらい弱点のない人。
(……かっこよすぎるんだからなあ)
ベンチから見ていて思うのは結局俺、聖臣がめちゃくちゃ好きなんだよなあ。例えば俺が今ここにいても、いなくても、最善を尽くす。
コートの上、アタックライン間際で聖臣が高く跳び上がった。影山くんの精緻なトスと、柔らかな手首に弾かれたボールが相手コートの隅に突き刺さる。
『日本佐久早のバックアタックで3セット目を取りました!セットカウント2-1!あと1セット!』
(この場面で普通に淡々と1点取っ……た……)
際どい場面を制したところでいつも通り。チームメイトの盛り上がりっぷりに対して、相変わらず小さなガッツポーズ。あの拳に触れたくて仕方ない。
「千歳、次のセット頭から入って」
「はい!次のローテ、もう一回確認していいですか」
うずうずしてるのを悟られてしまっただろうか。コーチと一緒に次セットの確認をした。
「柊生、サーブ」
「うん。聖臣、ちょっと次さ……」
いつも通りにできるのも、武器。まだまだ俺は未熟だなって思う。経験値も低いなって思う。だからね。
俺、まだまだもっとできるよって言い続けるのも、武器にするよ。
『日本はブロック3ま……千歳今手を引きましたか!?』
『どうでしょう……抜けたようにも見えましたが、佐久早が拾った!』
武器を繋いで、1点を積み重ねて、もっとお前のそばで戦わせてくれ。
『佐久早が拾ってボールは影……いや千歳がツー!!?き、決まった……決まりました!これは……大きな1点!』
『────いやあ、ちょっとすごい……すごいですね、これは』
会場が揺れていて、夜桜さんの悲鳴が聞こえた気がした。作戦に乗ってくれたパートナーにとびきりの笑顔と拳を向けておく。
「ナイス聖臣!お前の点だ!」
「……はあ」
突き出した拳にこつりと交わされる拳。その上から熱い手が次々重なった。
「千歳さんツー上手いすね、完全に不意打ちでした」
「いや俺も久々に打ったわ」
「柊生すげー!もっかいやって!もっかい!」
影山くんの珍しい笑顔に応じれば、ベンチから木兎さんがもっかい見せてとノセてくる。木兎さんと一緒になって拳を突き上げた芽生くんがベンチから転がり出てきそうなのを翔陽くんが抑えていた。
(……楽しいな)
手拍子、名前を呼ぶ声、ブザーの音。チームメイトの笑顔。ネットの向こうから飛んでくる虎視眈々とした視線。ここに1秒でも長くいたくて仕方がないんだ。
『っ……日本……決勝進出ーーーっ!!!!!』
『ちょっと、目の前でいることがすごすぎて……もうすでに泣きそうですが……』
『いえ、もう我々も泣いております。お聞き苦しいかもしれません、お詫びいたします』
ネット間際で翔陽くんが寝っ転がってガッツポーズ。影山くんが宮くんにめちゃくちゃ撫で回され、監督もスタッフも皆総出でもみくちゃだ。
「やっとか……」
熱の真ん中、牛島さんが感慨深そうにぽつりと呟いていた。今にも決勝を始めようとでも言いたげな横顔に、今日一番ヒリヒリと肌が粟立つ。
目標まで、いよいよあとひとつ。
「昨日のオフ?俺は選手村見て回ってた!柊生たちは何してた?」
準決勝を控えた前日。金色の目とカメラが爛々と光って俺と柊生を捉えていた。チームカメラを回すのは木兎くん。
柊生はにこやかに、努めて冷静に、いつも通り受け答え。
「聖臣と部屋でゆっくり過ごしていましたよ」
ゆっくりっていうか、ベッドが壊れてないか若干心配なくらいの一日だったけども。ベッドは無事だったし、心身ともにいつも通り。何も答えない俺を横目で見た柊生は、神妙な顔をしてみせた。
「……皆はさ、五輪期間も家族と離れて過ごさないといけないしょ。俺達はここでもいつも通りの日常を過ごせるのが本当にありがたいなって噛み締めていました。……ふふ、贅沢モノですね」
神妙な顔から出てくるのはいい子のお返事。かといって、わざと言ってるわけでもない。
(……東京五輪のときよりも、正直メンタルは楽)
影山や日向、若利くんが海外で活躍したり、ネーションズリーグで優勝したこともあって今回は前回以上に注目もされている。でもやっぱりいつも通りの環境に近い状態にあるってメンタルにはいい。
マシュマロがそばにいれば完璧だと思ったけど、日本で元気にしてくれているのならそっちのが安心。ストレッチしながら柊生も愛犬に思いを馳せた。
「マシュ今日も元気かなー」
「キャンディとの写真待ち受けにした」
「可愛い!見てくださいこれ、愛犬と姉のキャンディがね、俺達の日本代表ユニフォームを着て応援してくれています。可愛いが過ぎません?」
まだカメラ回ってたのかよ。どこまで使われるのかわかんねえけど、柊生はご機嫌。更に厳しい舞台を前に、頼もしいものだと思う。
*
「うーん……経験値だねえ」
大歓声の中、ドリンクを煽って首をひねった。準決勝の相手は何度もこの場に立っている。方や俺達はもう何十年ぶりの舞台。
相手を追い詰めたと思ったら逃げられる。サイドアウトの応酬が激しくなるたびに何故?ってくらい落ち着いていられるのは、経験の差としか言えない。
死んでも勝つ、そんな言葉が目に浮かぶようなプレーの数々。俺も大概負けず嫌いだし、そう言われてきたけれど。
(皆、俺以上の負けず嫌いじゃない?)
及川さんとも話したけど、ここ五輪の舞台までひた隠しにされてきたみたい。そんな気分だよ。
「ボトル潰すなよ」
「あ痛。潰しません。……お前はすごいねえ、本当に」
聖臣はいつも通りしれっとした顔で俺の頭に手刀を落とすとアナリストやコーチに質問していた。
こういう場所だからかな。選手個々の強みや弱みがこんなに顕著になる場所もないと思うんだよね。
『佐久早サービスエースー!!ブロックにディグ、今日も高水準のプレーが光ってますね!』
『いやあこれぞアウトサイドヒッターの真骨頂ですねえ』
多分どこのポジションをどのタイミングでやらせても上手くチームが回る。それくらい弱点のない人。
(……かっこよすぎるんだからなあ)
ベンチから見ていて思うのは結局俺、聖臣がめちゃくちゃ好きなんだよなあ。例えば俺が今ここにいても、いなくても、最善を尽くす。
コートの上、アタックライン間際で聖臣が高く跳び上がった。影山くんの精緻なトスと、柔らかな手首に弾かれたボールが相手コートの隅に突き刺さる。
『日本佐久早のバックアタックで3セット目を取りました!セットカウント2-1!あと1セット!』
(この場面で普通に淡々と1点取っ……た……)
際どい場面を制したところでいつも通り。チームメイトの盛り上がりっぷりに対して、相変わらず小さなガッツポーズ。あの拳に触れたくて仕方ない。
「千歳、次のセット頭から入って」
「はい!次のローテ、もう一回確認していいですか」
うずうずしてるのを悟られてしまっただろうか。コーチと一緒に次セットの確認をした。
「柊生、サーブ」
「うん。聖臣、ちょっと次さ……」
いつも通りにできるのも、武器。まだまだ俺は未熟だなって思う。経験値も低いなって思う。だからね。
俺、まだまだもっとできるよって言い続けるのも、武器にするよ。
『日本はブロック3ま……千歳今手を引きましたか!?』
『どうでしょう……抜けたようにも見えましたが、佐久早が拾った!』
武器を繋いで、1点を積み重ねて、もっとお前のそばで戦わせてくれ。
『佐久早が拾ってボールは影……いや千歳がツー!!?き、決まった……決まりました!これは……大きな1点!』
『────いやあ、ちょっとすごい……すごいですね、これは』
会場が揺れていて、夜桜さんの悲鳴が聞こえた気がした。作戦に乗ってくれたパートナーにとびきりの笑顔と拳を向けておく。
「ナイス聖臣!お前の点だ!」
「……はあ」
突き出した拳にこつりと交わされる拳。その上から熱い手が次々重なった。
「千歳さんツー上手いすね、完全に不意打ちでした」
「いや俺も久々に打ったわ」
「柊生すげー!もっかいやって!もっかい!」
影山くんの珍しい笑顔に応じれば、ベンチから木兎さんがもっかい見せてとノセてくる。木兎さんと一緒になって拳を突き上げた芽生くんがベンチから転がり出てきそうなのを翔陽くんが抑えていた。
(……楽しいな)
手拍子、名前を呼ぶ声、ブザーの音。チームメイトの笑顔。ネットの向こうから飛んでくる虎視眈々とした視線。ここに1秒でも長くいたくて仕方がないんだ。
『っ……日本……決勝進出ーーーっ!!!!!』
『ちょっと、目の前でいることがすごすぎて……もうすでに泣きそうですが……』
『いえ、もう我々も泣いております。お聞き苦しいかもしれません、お詫びいたします』
ネット間際で翔陽くんが寝っ転がってガッツポーズ。影山くんが宮くんにめちゃくちゃ撫で回され、監督もスタッフも皆総出でもみくちゃだ。
「やっとか……」
熱の真ん中、牛島さんが感慨深そうにぽつりと呟いていた。今にも決勝を始めようとでも言いたげな横顔に、今日一番ヒリヒリと肌が粟立つ。
目標まで、いよいよあとひとつ。