ひとさじの甘さ L月(白)未完

甘々練習 何となく手錠時代 無駄に長い文
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1口 、またひとくち
常人ならば吐いてしまいそうなほど糖度の高い甘ったるいケーキを口に運んでいく。最近できたばかりの駅前の高級店で買ってきた(正しくは、買ってきてもらった)、質のいいケーキのスポンジはふわりとした舌触りで、雪のように解けていく。生クリームはしつこさを残さない後味に仕上げられていて、しっかりと存在を感じる程度だが、やはり甘すぎるのだろう。実際のところ、これだけ売れ残りが多かったようだから。私としては、これくらいが丁度いいので好都合である。そうこう考えながら食べすすめていけば、やがてケーキのかたちは無くなり、私の胃の中に収まった。クリームが少しついたままのフォークを親指と人差し指でつまむように持って恨めしさを込めて見つめる
……かれこれ、本日でいくつめか








足らない。ここのところ、なぜだか空腹が酷い。食事をしていないというわけでは全くない。

いつもならショートケーキ、砂糖たっぷりのコーヒー、マカロン……甘味幾つかつまむだけでも十分な糖分がある。実際足りているはずだが、違うのだ。糖分ではない、別の何か、何処か物足りない。この空腹感は何を食べれば収まることか。本能から渇望するような、そんな感覚だった。



「……足りません」


「さっきも食べただろう、竜崎」


「足りないものはしょうがないです。食べないとやる気が出ません」

「……食べ過ぎも体に毒だろ」

まるで母を気取っているかのように(実際私は母を知らないのであくまでイメージのようなものであるが)小言をこぼしてこちらを心配する声を投げかけてくるキラ容疑者。否、キラ。……あぁ、苛苛する。 原因不明の空腹を和らげるために、また爪を噛む。何か と言うのが自分でも分からないのが本当に気に要らない。一体、なんだと言うのか。 そのものを、答えを求めるためだけにこの私の頭は働いているのに、一向に結論は出ない。こんな簡単な事に私が答えも出せないとは、やはり空腹は悪循環である。

このままでは事件の捜査も進まない。答えはもう出ている。目の前にいる彼こそがキラであるはずなのだが、決めてとなる決定的な証拠がない。
それを探す為だけに最近は捜査をしていたのだが。そういえばどうも月くんの様子がおかしい。


……そうだ、思い返してみればこの空腹が始まったのもこの頃のはずである。外面の綺麗に取り繕われた化けの皮の下に隠した、外面とはてんで対象的である人を見下すような そんな内面が初めは垣間見れていたのだ。


だが、この手錠による監視生活が始まってから以前のような歪んだ毒気はすっかり抜けてしまった。だからこんなに調子が狂うのだ。少年っぽいリアクション、手はすぐに出る、でも頭の回転は私のように早い。正義感が強すぎるだけの、ただの青年。



この月くんを、私は知らない。
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