ネクロマンス・イン・ザ・ルーム

 夢を見た。俺が死ぬ三か月前の夢だ。

「兄さん、これ見て」
「おー? どれだどれだ」

 啓二が歩いてくる。また小難しそうな本でも見せてくるのかと思えば、手に持っていたのは桜の枝だった。

「どっかから取って来たのか? だめだぞー勝手に枝折っちゃ」
「違う。ばあちゃんが庭のやつ折ってくれた。それより、見て」
「うん?」
「ソメイヨシノって桜は全部クローンなんだって。これを挿すと、みんなが同じになる。一つになるんだよ」
「そうなの? 分かんないなあ、俺には」

 結局、小難しい話だった。俺は首を傾げつつも、とりあえず弟の頭を撫でた。

「いろんなこと知って大きくなれよ、啓二」
「もう大きい」
「俺より全然小さいだろ。……今は兄ちゃんが守ってやるけどさあ、俺はいつまでもいられるわけじゃないんだから」

 啓二は目をぱちりと瞬いた。

「兄さん、いなくなるのか?」
「いなりたくないけど、まあそうなるだろ」

 結婚とかあるしな。そう言ってみれば、啓二はよく分からない、という顔をした。

「じゃあ、その時は俺も連れて行ってくれればいいだろ」
「そういうわけにはいかねえよ。ったく、おまえもまだこういうところは子供だなあ。うんうん可愛いぞ~」
「馬鹿にするな」

 弱い力でぽかぽか叩かれつつ、俺は思った。ああ本当に、置いていきたくないなあ。
 置いていきたくなかったのにな。
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