ネクロマンス・イン・ザ・ルーム
ぱっと視界が赤く染まった。
「兄さん!!」
啓二が駆けてくるのが見える。ああ、なんだ、そんな真っ青な顔して。俺よりずっと賢くていつでも余裕そうだったお前のそんな様子、初めて見るよ。
頭はおそらくカチ割れている。不思議と痛みは無かった。代わりにひどく熱い。極度の痛みは熱さに変換されるんだって、そういや昔啓二が図鑑片手に教えてくれたっけ。俺の弟、まだちっちゃいのにこんな頭いいお利口さんなんですよ。へへ。そうやって近所の婆さんにも自慢したな。
「にいさん、にいさん……行かないで、俺を置いてかないで……っ」
「けい、じ……」
「おれ、どうしたらいい? にいさん痛い? 行かないでっ、そばに……まだ…………こんなの、ちがう、そんな俺なんか助けて……あんたはこの世で一番、ううん、あんただけは生きるべき人なのに! 死なないで、まだそばに、俺を……」
涙がいくつも降ってくる。それなのに俺は拭うどころか、水滴の感触すら感じることができない。もう体の感覚がないんだ。俺、こいつの兄さんなのになあ。
もし、次があったとしたら。もし生まれ変わったら、俺__
「起きたか、試作品27号」
ばちりと瞼を開けた瞬間、飛び込んできたのは黒い天井だった。
「え……どこだよ、ここ?」
起き上がってあたりを確認しようとしたが、首や手足に何か硬い感触があって身動きが取れない。拘束されている。どうして? 状況が全くわからない。戸惑っていると、がたん、と物音がした。
「脈拍正常。虹彩の収縮確認。意識もある。発声も可能……か。ふむ、今回のはだいぶ調子がいいな」
低い男の声が耳を打つ。誰かいるのか? 俺はなんとか頭だけでもその声のする方向に傾けようとする。でもその必要はなかった。相手の方から近づいてきたからだ。
「私が分かるか……まあ、分からないだろうが。はは、いつもそうだものな。私も歳を取った。あんたはいつも忘れっぽい。俺の気も知らないで」
それは眼鏡を掛けた男の人だった。たぶん30代か40代かな。白衣を着ている。親や学校の先生では少なくとも絶対ない。俺より全然年上だし、ぶつぶつ何か言ってるのも怖い。けれど不思議と、直感があった。
俺はこの子を知っている。
「……啓二?」
ほとんど無意識に言葉がこぼれた。ふちのない眼鏡に隔てられた先、厳しいしわの刻まれた目元がみるみる驚きの色に染まっていく。ああ、やっぱり啓二だ。驚いた顔、変わらないな。
「に、い……さん…………」
「……ふふん。俺に分からないとでも思ったか。まだまだ甘いなぁ、お前は。いつも言ってるだろ__」
兄さんには何でもお見通しなんだからな。
「兄さん……っ」
衝動のままに俺の頭を掻き抱く腕の力強さ。落ちてくる雫。ああ、こんな感触だったんだなあ、と今更思った。
「兄さん!!」
啓二が駆けてくるのが見える。ああ、なんだ、そんな真っ青な顔して。俺よりずっと賢くていつでも余裕そうだったお前のそんな様子、初めて見るよ。
頭はおそらくカチ割れている。不思議と痛みは無かった。代わりにひどく熱い。極度の痛みは熱さに変換されるんだって、そういや昔啓二が図鑑片手に教えてくれたっけ。俺の弟、まだちっちゃいのにこんな頭いいお利口さんなんですよ。へへ。そうやって近所の婆さんにも自慢したな。
「にいさん、にいさん……行かないで、俺を置いてかないで……っ」
「けい、じ……」
「おれ、どうしたらいい? にいさん痛い? 行かないでっ、そばに……まだ…………こんなの、ちがう、そんな俺なんか助けて……あんたはこの世で一番、ううん、あんただけは生きるべき人なのに! 死なないで、まだそばに、俺を……」
涙がいくつも降ってくる。それなのに俺は拭うどころか、水滴の感触すら感じることができない。もう体の感覚がないんだ。俺、こいつの兄さんなのになあ。
もし、次があったとしたら。もし生まれ変わったら、俺__
「起きたか、試作品27号」
ばちりと瞼を開けた瞬間、飛び込んできたのは黒い天井だった。
「え……どこだよ、ここ?」
起き上がってあたりを確認しようとしたが、首や手足に何か硬い感触があって身動きが取れない。拘束されている。どうして? 状況が全くわからない。戸惑っていると、がたん、と物音がした。
「脈拍正常。虹彩の収縮確認。意識もある。発声も可能……か。ふむ、今回のはだいぶ調子がいいな」
低い男の声が耳を打つ。誰かいるのか? 俺はなんとか頭だけでもその声のする方向に傾けようとする。でもその必要はなかった。相手の方から近づいてきたからだ。
「私が分かるか……まあ、分からないだろうが。はは、いつもそうだものな。私も歳を取った。あんたはいつも忘れっぽい。俺の気も知らないで」
それは眼鏡を掛けた男の人だった。たぶん30代か40代かな。白衣を着ている。親や学校の先生では少なくとも絶対ない。俺より全然年上だし、ぶつぶつ何か言ってるのも怖い。けれど不思議と、直感があった。
俺はこの子を知っている。
「……啓二?」
ほとんど無意識に言葉がこぼれた。ふちのない眼鏡に隔てられた先、厳しいしわの刻まれた目元がみるみる驚きの色に染まっていく。ああ、やっぱり啓二だ。驚いた顔、変わらないな。
「に、い……さん…………」
「……ふふん。俺に分からないとでも思ったか。まだまだ甘いなぁ、お前は。いつも言ってるだろ__」
兄さんには何でもお見通しなんだからな。
「兄さん……っ」
衝動のままに俺の頭を掻き抱く腕の力強さ。落ちてくる雫。ああ、こんな感触だったんだなあ、と今更思った。
1/8ページ
