友達百年生きてくれ
深夜一時。良い子はさっさと寝る時間だが、わりといい子に分類されるはずの陸は全く眠ってなどいなかった。たまたま翌日が祝日なのをいいことに、最近プレイしているゲームの情報を見漁る。一人暮らしのいいところは、部屋の明かりが漏れ出ていようとも誰も何も言ってこないことだ。当然電灯は点けているしなんならカップ麺も食べている。自由っていいな、と陸がしみじみ幸せを実感していると、急にスマホが鳴った。
「ええ? こんな時間に誰だよ……」
首を傾げながら机の上に置いていたスマホを手に取ると、表示された名前も碌に見ず通話ボタンを押す。
「はーい、どちらさま?」
「あっ、あのー、あなたが陸くんで合ってますう?」
「……え? えっと…………はい、そうですけど」
全く聞いたことのない声だった。しかも名前を知られている。え? 知られている?
急に怖くなって、陸はスマホを耳から離し、スピーカーモードにすると画面をじっくり見た。まさか個人情報が洩れていやしないだろうな、と思いつつこわごわ伺うと、同時に相手がしゃべりだした。
「良かったあー。あのー、あたし今〇駅のさ、広場に居て。でもけーさつ来ちゃって、未成年ヤバいじゃん。えてか捕まったらどーしよ。普通に困るんだが。でもガチ意識ないっぽくて今。それで陸くんさ、迎えきてやってよ。友達じゃん。ねー」
「あの……一応確認なんですけど」
「確認おけ!」
「大也のスマホから掛けてるってことは、これ僕に大也を迎えに来いって話ですか?」
陸は非常に酸っぱい梅干しを食べた時の顔をした。今午前一時だぞ。〇駅はここから電車で一駅だが、もう終電がないので歩いて向かうことになる。今から往復一時間歩けというのは少し無理難題にすぎるのでは? 陸は訝しんだ。
「ガー死ぬ! え流石にそじゃね。やば。陸くんてえーえすでぃー? あたしADHDだから発達仲間じゃん。えぐいて」
「何もえぐくはないですし、あまり初対面の人にそういうことを言っちゃだめですよ。ところで本当に迎えに行かなきゃいけませんか?」
陸は半ばあきらめつつもう一度聞いた。電話先でぎゃあっという悲鳴がした。
「待って今足つった! 痛い! あ、痛くないかも。それで? え、そう。迎えきてあげなよ。つかきーてほしんだけどお、大也いま連絡先陸くんしか残してない。やばい。がち陸くん以外居らんこいつ」
「えっ」
「今日も他の未成年の子いたけどキレて帰っちゃったの。さすがに薄情で草。あ、大也がだよ? ちなうちら成人は残ったけど二次会すっから。そー、だから陸くん来たげてよ」
じゃよろしく! という言葉を残して電話は切れた。残された陸は黙ってスマホを握りしめ、ため息をついた。
「行かなくても……いや、それは。…………はあ、本当に、僕の責任が重大すぎるだろ……」
力なく呟くと、陸はあきらめて寝間着から適当なTシャツとジーンズに着替えた。スマホと財布を持ち、家を出る。まあ、こんなすぐに野垂れ死にされても困るしな、とどうにか自分をなだめつつ、街灯と地図アプリを頼りに陸は歩き出した。
やっとの思いで着いた広場には、だれの姿も無かった。
「…………はあ?」
陸は思わず怪訝な声を上げて辺りを見回したが、いない。誰1人としていない。大也の姿のみならず、電話をしてきた女性と思しき人の姿も見えなかった。騙された。そう思った瞬間陸の胸に怒りが湧いてくるが、いや、と思い直す。
「もういいや……帰ろ。考えてみれば、結局このド深夜に意識のない人間1人連れ帰んなくていいってことだもんな」
むしろ不幸中の幸いっていうか。もちろん、そもそも電話が掛かってこなければ1番良かったけど……と呟きつつ、陸がくるりと踵を返したその時。
「……? 何だ?」
何かが足に当たる感触がして、陸はスマホのライトを点灯し足元に近づけ、次の瞬間ぎゃっと鋭く叫んだ。
「だ……大也!?」
見ればそこには、倒れたまま放置されたものと思しき見覚えのある顔の青年……大也が転がっていた。
「全く本当に世話の焼けるやつだな……」
「ごめんってほんと」
どうにか夜道で街灯を頼りに重い身体を引きずり、家に大也を連れ帰った陸は盛大にため息をついた。ようやく昏睡状態から酩酊状態を経て正気に戻った大也がへらりと笑う。
「陸くんに迷惑かけたのは本当に申し訳なかったよ。電話なんかしないでくれたら良かったのに、よっぽど捕まるのが怖かったんだなあ、あいつら」
あいつら、の四文字に侮蔑を込めて言う大也に、陸は眉を寄せた。
「そんなふうに言うなよ。お前を心配して僕に電話してくれたんだろ……まあ、倒れてるのを放置していなくなるのはかなり酷いけどさ。何もしないよりはマシだ」
「心配してた訳ないって。そもそも倒れるまで煽ったのあいつらだし」
俺を心配してくれるのなんて陸くんだけだよー、と冗談めかして、けれど本気で大也は告げる。床に足を投げ出して座って、ゲーミングチェアに腰かける陸の腿の上に甘えるように顎を乗せた。陸は一層渋面を作り、直後ふと思いついて、引っ掛かっていたことを尋ねる。
「そういえば大也お前、何で倒れてたんだ……? その言い振りからして、明らかに風邪とか病気じゃないよな」
健康な若者が何の理由も無く倒れることはめったにないはずだが。そう、ナニカに手を出しでもしない限りは……と考え、陸は身震いした。
大也はすっと目を細くした。
「本当に聞きたい?」
「あ、いやあんま聞きたくないかも! メンゴ!」
ぱっと陸は前言撤回した。やっぱり何も聞きたくない。僕は善良な一市民として生きたいんだよ、と何度繰り返したか分からない文言が再び頭を流れる。あはは、と声に出して大也が笑った。
「まあ、あんまり心配しなくていいよ。今回は法律には……まあ片方はちょっと触れてるけど、未成年は駄目ってだけだし」
「いや、普通に心配だけどなその情報。頼むから長生きしてくれよ」
呆れながら陸が言えば、「愛だなあ」と大也はくすぐったそうに呟いた。陸はあまりの気恥ずかしさに、何も聞こえないふりをした。
「ええ? こんな時間に誰だよ……」
首を傾げながら机の上に置いていたスマホを手に取ると、表示された名前も碌に見ず通話ボタンを押す。
「はーい、どちらさま?」
「あっ、あのー、あなたが陸くんで合ってますう?」
「……え? えっと…………はい、そうですけど」
全く聞いたことのない声だった。しかも名前を知られている。え? 知られている?
急に怖くなって、陸はスマホを耳から離し、スピーカーモードにすると画面をじっくり見た。まさか個人情報が洩れていやしないだろうな、と思いつつこわごわ伺うと、同時に相手がしゃべりだした。
「良かったあー。あのー、あたし今〇駅のさ、広場に居て。でもけーさつ来ちゃって、未成年ヤバいじゃん。えてか捕まったらどーしよ。普通に困るんだが。でもガチ意識ないっぽくて今。それで陸くんさ、迎えきてやってよ。友達じゃん。ねー」
「あの……一応確認なんですけど」
「確認おけ!」
「大也のスマホから掛けてるってことは、これ僕に大也を迎えに来いって話ですか?」
陸は非常に酸っぱい梅干しを食べた時の顔をした。今午前一時だぞ。〇駅はここから電車で一駅だが、もう終電がないので歩いて向かうことになる。今から往復一時間歩けというのは少し無理難題にすぎるのでは? 陸は訝しんだ。
「ガー死ぬ! え流石にそじゃね。やば。陸くんてえーえすでぃー? あたしADHDだから発達仲間じゃん。えぐいて」
「何もえぐくはないですし、あまり初対面の人にそういうことを言っちゃだめですよ。ところで本当に迎えに行かなきゃいけませんか?」
陸は半ばあきらめつつもう一度聞いた。電話先でぎゃあっという悲鳴がした。
「待って今足つった! 痛い! あ、痛くないかも。それで? え、そう。迎えきてあげなよ。つかきーてほしんだけどお、大也いま連絡先陸くんしか残してない。やばい。がち陸くん以外居らんこいつ」
「えっ」
「今日も他の未成年の子いたけどキレて帰っちゃったの。さすがに薄情で草。あ、大也がだよ? ちなうちら成人は残ったけど二次会すっから。そー、だから陸くん来たげてよ」
じゃよろしく! という言葉を残して電話は切れた。残された陸は黙ってスマホを握りしめ、ため息をついた。
「行かなくても……いや、それは。…………はあ、本当に、僕の責任が重大すぎるだろ……」
力なく呟くと、陸はあきらめて寝間着から適当なTシャツとジーンズに着替えた。スマホと財布を持ち、家を出る。まあ、こんなすぐに野垂れ死にされても困るしな、とどうにか自分をなだめつつ、街灯と地図アプリを頼りに陸は歩き出した。
やっとの思いで着いた広場には、だれの姿も無かった。
「…………はあ?」
陸は思わず怪訝な声を上げて辺りを見回したが、いない。誰1人としていない。大也の姿のみならず、電話をしてきた女性と思しき人の姿も見えなかった。騙された。そう思った瞬間陸の胸に怒りが湧いてくるが、いや、と思い直す。
「もういいや……帰ろ。考えてみれば、結局このド深夜に意識のない人間1人連れ帰んなくていいってことだもんな」
むしろ不幸中の幸いっていうか。もちろん、そもそも電話が掛かってこなければ1番良かったけど……と呟きつつ、陸がくるりと踵を返したその時。
「……? 何だ?」
何かが足に当たる感触がして、陸はスマホのライトを点灯し足元に近づけ、次の瞬間ぎゃっと鋭く叫んだ。
「だ……大也!?」
見ればそこには、倒れたまま放置されたものと思しき見覚えのある顔の青年……大也が転がっていた。
「全く本当に世話の焼けるやつだな……」
「ごめんってほんと」
どうにか夜道で街灯を頼りに重い身体を引きずり、家に大也を連れ帰った陸は盛大にため息をついた。ようやく昏睡状態から酩酊状態を経て正気に戻った大也がへらりと笑う。
「陸くんに迷惑かけたのは本当に申し訳なかったよ。電話なんかしないでくれたら良かったのに、よっぽど捕まるのが怖かったんだなあ、あいつら」
あいつら、の四文字に侮蔑を込めて言う大也に、陸は眉を寄せた。
「そんなふうに言うなよ。お前を心配して僕に電話してくれたんだろ……まあ、倒れてるのを放置していなくなるのはかなり酷いけどさ。何もしないよりはマシだ」
「心配してた訳ないって。そもそも倒れるまで煽ったのあいつらだし」
俺を心配してくれるのなんて陸くんだけだよー、と冗談めかして、けれど本気で大也は告げる。床に足を投げ出して座って、ゲーミングチェアに腰かける陸の腿の上に甘えるように顎を乗せた。陸は一層渋面を作り、直後ふと思いついて、引っ掛かっていたことを尋ねる。
「そういえば大也お前、何で倒れてたんだ……? その言い振りからして、明らかに風邪とか病気じゃないよな」
健康な若者が何の理由も無く倒れることはめったにないはずだが。そう、ナニカに手を出しでもしない限りは……と考え、陸は身震いした。
大也はすっと目を細くした。
「本当に聞きたい?」
「あ、いやあんま聞きたくないかも! メンゴ!」
ぱっと陸は前言撤回した。やっぱり何も聞きたくない。僕は善良な一市民として生きたいんだよ、と何度繰り返したか分からない文言が再び頭を流れる。あはは、と声に出して大也が笑った。
「まあ、あんまり心配しなくていいよ。今回は法律には……まあ片方はちょっと触れてるけど、未成年は駄目ってだけだし」
「いや、普通に心配だけどなその情報。頼むから長生きしてくれよ」
呆れながら陸が言えば、「愛だなあ」と大也はくすぐったそうに呟いた。陸はあまりの気恥ずかしさに、何も聞こえないふりをした。
