友達百年生きてくれ

「俺、オリエンテーションって嫌いなんだよねー」
「へえ……」
 
 ようやっとのところでやってきた昼休み。なぜだか陸は大也に背中側の襟を鷲掴みにされつつ、校内を練り歩いていた。友達なんだから案内してよというのが大也の言い分だったが、ただ友情を盾に良いように使われているだけな気がする。やっぱり別の友達を探したほうがいいのかなと陸は躊躇した。
 
「だから昨日まで休んでたんだ」
「いや、それは普通に別件だけど」
 
 とはいえ会話を途切れさせるのもなんだか居心地が悪いので、あまり嫌だなあという気持ちを表に出さないようにしながら陸はとにかく口を動かす。
 一方の大也はよほど陸が気に入ったようで、陸が逃げ出さないのを見ると手を離した。そのまま陸の肩に腕を回し、重心を崩して歩く。腕が重いからやめてほしいと陸は思った。あと普通に歩きづらい。
 
「まあ……ちょっと妹と色々あってさ。思春期の女って本当に意味わかんないよな」
「妹居んの!?」
 
 ばっと風切り音がしそうな勢いで陸は隣を振り向いた。ようやく確証が取れて、思わず嬉しそうに上擦った声で訊ねてしまう。あまりに露骨な反応に、大也は鼻で笑って返した。
 
「居るけど彼氏持ちだよ」
「えっ…………そうなんだ……」
 
 分かりやすく陸のテンションは下がった。なんだよ、彼氏持ちかよ、と気落ちしつつ呟く。と、大也に載せられていた腕に急に体重をかけられた。イテっと顔を顰める。

 
 
「……で、その妹と何があったんだよ」
 
 そのまましばらく痛がったのち、陸は保健室に差し掛かったあたりで漸く立ち直って尋ねた。完全に忘れ去られたものだと思っていたのか、話の続きを催促された大也が目を瞬く。
 
「……聞いてくれるの」
「そのつもりで話したんじゃないのかよ」
「そうだけど……」
 
 忘れてなかったんだ、と呟いた。その声が少し嬉しそうで、陸は不思議に思った。てっきり話の腰を折ったことを怒られるのかと思っていたが、むしろそれを当然だと思っていたように見える。……やっぱ、変なやつだよな、と陸は考えた。
 
「本当に大したことじゃないんだ。うるさいとか遅くに帰るのやめろとか、普通の兄妹喧嘩ってやつ。でも……」
「でも?」
「うちの親も絶対あいつの味方だから……なんか、本気で腹立って」
 
 どうして居場所が無いんだろう、みたいなね。どうしても何も理由は知ってるけど。まあ、そんな感じ。そう言って曖昧に締め括った大也の話に、陸は__全力で頷いた。
 
「分かる! 兄貴だから我慢しろとか女兄弟相手にみっともねえとかめちゃくちゃムカつくよな!」
「……え、陸くんも?」
「僕も弟と姉が居るんだよ! ほんっとあれ腹立つよな。うわー初めてお前と共通点見つけたわ」
「……えっ、と………………」

 あまりに勢いのいい食いつきに戸惑う大也の肩をガッと掴む。陸は初めてできた兄トークに興奮していた。実は今まで陸の周りには弟妹を持つ友人がいなかった。1人共感されない苦悩を胸に生きてきた16年が一気に解放される。なかなか話の分かるやつだ、と陸は頷いた。やっぱ友達になってもいいな。
 
「初めて同じ境遇の奴に会えて嬉しいよ。そういえば、言い忘れてたんだけど僕もオリエンテーションは苦手なんだ。休めばよかった」
「同じ……そう、なんだ。それなら…………」
 
 お互いの肩に腕を回し、並んで歩いている。その姿が踊り場の鏡に映っているのが見えた。同じ、というワードを繰り返して、大也は俯いた。同じ。同じなんだ。
 
「じゃあ、来年はサボってどっか行こうよ」
「いいな、絶対やろうぜ」
 
 顔を上げた大也の提案に陸はにっと笑って頷いた。2人だけの犯行計画が、楽しげに廊下中を弾んだ。
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