このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

異世界と門

 プリシアナ学院・校長室。

「……というわけだ」

「なるほど。ルーク君の世界のモンスターが――」

 クエスト報告後、俺らは真っ先に校長に事の次第を報告した。

「撃退できたはいいが、あれはルークの世界での剣技がなかったらアウトだな。俺らの剣技じゃ、ギリギリっぽいし」

「なるほど……アユミさんがそこまで言うなら、かなり厄介な状況でしょうね」

 俺の言葉に校長が頷くと、途端に室内に沈黙が満ちていく。

 ドタドタドタドタ……バンッ!!!

「校長せんせ~っ!! お話聞きました~!」

 と、そこになだれ込んできたのはシルフィーだった。
 さらにドラッケン学園のユリとリンツェもいる。
 ……おまえら、モーディアル学園の復興に向かったんじゃなかったのか←

「おや、シルフィネスト君。ドラッケン学園のお二人も。どうしました?」

「復興作業のお手伝いが終わりましたのでこちらに来ましたの。こっちでも面白いことになっているみたいですわね♪」

「ゆ、ユリ様……楽しく言わない方が……」

 ユリがニコニコと喰えない笑みでルークを見る傍らで、リンツェがオロオロと俺らとユリに交互に顔を向けている。

「……なあ。この二人は?」

 自分に向けられている視線に居心地悪そうにしているルークが、ブロッサムに話しかけた。
 ブロッサムが耳打ちで説明する。

「エルフの女がユリ。隣の気弱そうなディアボロスはリンツェだ。二人は隣の大陸にあるドラッケン学園って学校の生徒で、俺らの知り合いなんだ」

「うふふ。よろしくお願いしますね。かわいらしい赤毛ヒヨコさん?」

「ヒヨ……ッ!!? ど、どーいう意味だよ!!」

 ユリの発言にキレるルーク。
 相変わらずイイ性格してやがるな、この女は……。

「ユリ様……やめた方が……」

「あらあら……しかたありませんわね」

「はぅ……あ、あの、ごめんなさい……」

「へっ? あ、いや……」

 小さくペコッと頭を下げて謝ったリンツェに、とりあえずルークも冷静さを取り戻したらしい。
 リンツェは見た目と(すごく)ギャップがあるからな。

「……で、シルフィー。一体何の騒ぎだ? なんかあったのか?」

 軌道修正する俺はシルフィーにたずねた。
 いや、もういい加減先に進まないとな。

「あったんだよ~。飛びきりすごいのに」

「そうか。じゃあ一応聞いとく。……何があった」

 非常に嫌な予感しかしないな←
 心の準備を軽く整えてから、シルフィーに先を促した。

「うん。あのね……ちょっと待ってて~」

 と言い、シルフィーは再び部屋の外へ。
 ちょっと待て! どこ行くに気だ!?

「……うん、この人たちがソレ」

「は?」

 5分どころか1分で戻ってきたシルフィー。
 ……が、その後ろには見慣れぬ二人もいた。

「どーも」

「し、失礼します……」

「ワン」

 違った。二人と一匹だ←
 黒髪のお兄さんとピンク髪のお嬢様。そして青い毛並みの、何故か貫禄ありそうな雰囲気の犬だ。

「……シルフィー。こいつらは誰だ」

「えっと、アユミちゃんに非常によく似たお兄さんがユーリで、お姉さんの方がエステルちゃん。で、犬ちゃんがラピード」

「そうか。……で、念のため聞くが、まさかこいつらも異世界の住人とは言わないよな?」

 笑みを浮かべ、同じく笑みを貼り着けているシルフィーにたずねてみた。

「…………」

「…………」

「…………あはっ☆」

「シルフィー。――あはっ☆ じゃねぇだろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 瞬間、俺の拳がシルフィーの頭に落ちた。
 ゴンッ、と鈍い音が響き渡る。

「うぇぇぇ……っ、いった~い……」

「痛くなるように落としたから当たり前だボケェ!!」

「だからってコブができるほどの馬鹿力で殴るか!?」

 そう言ってシルフィーの頭にヒーリングをかけるブロッサム。
 だって俺、力加減とかできねーしー←

 ガチャ。

「ただいま」

「あ~、ライラちゃ~んっ」

 今度はライラが帰ってきた。
 シルフィーはライラの姿を見ると、即行バビュンってライラに抱き着く。

「ただいま、シルフィー」

「おかえり~♪」

 おいそこ、いちゃつくなら外でやれやコルァ←

「相変わらず仲良しさんだね~」

「いや、仲良しっつーか……バカップルの間違いだろ」

「アスベル。『バカップル』って何?」

「え゙!? いや……えーっと……」

 と、ここで今度も乱入者。
 見慣れぬ青年と、ライラに似た女の子。
 見知った顔の内、一人はタカチホ義塾在籍中の俺の妹、アイナ。
 もう一人は幼馴染のフェルパーの男子、カエデ。
 なんだ、このイケメンパラダイスは。

「…………」

「…………。いや、大丈夫だから。ただ見比べただけだって」

 思わず遠い目をしていると、ぎゅうっと制服の裾を握られた。……言わずもがな、ブロッサムのヤキモチである。
 最近俺がちょっとでも他の男のことを考えると、すーぐ拗ねちゃうんだよ。この前もリージーといたら拗ねたし。
 ……でも独占欲だから嬉しいし、何より可愛いから許す!!←

「アユミちゃん。いずれ身を滅ぼすよ。その考え」

「身を滅ぼす……まさかのヤンデレルート落ち?」

「ブロッサムも心中してくれるなら、それも構わないがな」

「……死なせない方でいく」

「あーもう、膨れっ面も可愛いなあ♪」

「「爆発しろ、リア充め」」

 周りを無視して膨れっ面のブロッサムに抱き着いたら、呆れ顔のシルフィーとライラに同時に言われた。
 最近おまえらの辛辣なシンクロ率も上がったよな←

「まあまあ皆さん。落ち着いて。というか話を進めましょう? 周りが固まってますよ」

「「「ふぇーい」」」

「……ん」

 セントウレアの言葉に、すっかり置いてけぼりだった皆さんの存在を思い出した。
 ごめん。忘れてたわけじゃなくて、ただいちゃつきに夢中になってただけなのよ←

「とりあえず皆さん。どうぞこちらへ」

 セントウレアが扉を開け、自身の部屋へ招き入れた。
 俺たち全員促され、そのまま部屋に入る。

「あー。ようやく来たねー」

 入ると……何故か、ソファでくつろぎながら紅茶を飲むロアがいた。
 ちょっと待て……何故おまえがここにいる!!

「ロア……なんで……」

「ここにいるか? いやあ、ちょっとアユミたちの耳に入れておかせたい情報を仕入れてきたんで♪」

 ロアの楽しげな表情に、一瞬で嫌な顔になった瞬間だった。
 理由は決まってる。……絶対厄介な、ろくでもないことに決まってるからだ。

「ちなみに、聞かないって意見は……」

「無いね」

 即答された……クソッ←

「何せ超の付く緊急事態なんだ。この世界……そして、ルークや、そこの異世界人二組にも関わることだし」

「……は?」

 俺たちの目が点になった。
 ……オイ。今なんつった? 世界クラスの大事件ってどういうこと?
 というかライラが連れてきた二人も異世界人だったの!?←

「それって、大変なことなの?」

「まあ。ずいぶん面白そうな話ですわね」

「頭のネジが緩んでるユリにはそう聞こえるだろうな」

 首を傾げるアイナの隣でにこにこと笑みを浮かべるユリ。
 生粋の戦闘狂でもあるからな……こいつは。

「……で? 俺らの世界も関わってるってどういうこった」

「ロア……だっけか? それは……エフィネアも危険ってことなのか!?」

「そうだね。ユーリ・ローウェル君にアスベル・ラント君」

「そうか……いや、待て。なんで俺の名前を知ってんだ。アンタ」

「俺も……まだ名乗ってないよな?」

「コイツに関してはツッコミ無しの方向性で」

 ズバリと言い当てたロアに首を傾げる二人。
 それに一応補足してから、再びロアに向き直る。

「それで? いったい世界に何が起こっているんだ?」

「んー。まだ捜査中だから、俺も詳しくわからないんだけどね」

 笑みを浮かべつつ、「一つ言えるのは」とルークたちを指さした。

「この地方に五つほど、不安定と言えど世界が繋がっていること……かな?」

「……は? 異世界同士が繋がってる?」

「不安定……とは、どういうことですか?」

 ロアの言葉に、全員が首を傾げた。
 わからない俺らに、ロアが説明をする。

「不安定っていうのは、異世界同士が完全に繋がってるわけじゃないんだ。だから簡単に行き来もできないし、次元が目茶苦茶だから、別の時間帯のものが流れたりするの」

「別の時間……あ。ルークが過去に倒したモンスターが現れたのは……」

「不安定な扉――ゲート――を通ってきたからだろうね。安定させないと、みんなの世界が目茶苦茶になっちゃうよ」

 勘の良いブロッサムの問いにサラリと答える。
 なるほど。モンスターの件はそういうことか。

「あ、あの……ロアさん、“五つほど繋がってる”って言ってましたけど……それって、ユーリさんの世界以外にも……?」

 ここでリンツェが恐る恐る手を挙げた。
 ……そう言えば、そんなこと言ってたな。
 それは……まさか……。

「うん。俺が調べた限り、そこの三組の世界。それから、あと二つの世界が繋がってるね」

 嫌な予感的中しました←
 つーか、待てよ! あと二つも繋がってるだと!?

「おいおいおい、勘弁してくれよ! じゃあ何か? コイツらみたいに異世界人が、あと二組も存在してるってことか?」

「そうだね。ゲートが繋がったのはその世界の何かを召喚したからだけど、多分異世界人である確率が高いと思うよ」

「マジでか!」

「うん。というか異世界人だね。『冥府の迷宮』と『飢乾之土俵』に、知らない魔力を持った人の反応があるから」

「そうか……ってオイ! わかってんなら保護しろよ!!」

「いやー。いろいろ調べてたもんで、つい」

「つい、で済ませるな!」

 そこまでわかってんのに、なんで助けに行かないんだよ!
 そんな俺の疑問を笑ってやり過ごすコイツを全力で殴りてぇ。

「まあまあアユミさん、落ち着いて。場所がわかってるなら、こちらで捜索をしましょう。ロアさんには、今回の事件を隅から隅まで調べていただきます」

「ぐっ……しかたねぇ……」

 セントウレアの提案に、渋々だけどとりあえず納得した。
 ホントは嫌なんだけどな。ホントに嫌なんだけどな! 大事なことだから二回言いました!←

「……で、ロア。その異世界人は今もダンジョンをさ迷ってんだろーな?」

「うん。何せ最深部に出現したからね」

「ならばよし。ちゃっちゃと行って連れて帰るぞ」

 移動していないなら結構。
 あちこち捜す手間が省けるな。

「けどよ、アユミ。どっちに誰が行くんだ? これ、結構重要だぞ。どっちも複雑なダンジョンだし……」

「だよね~。ルークやユーリみたいに異世界のモンスターに襲われてるかも」

「ルークやユーリみたいに……だからこっちも襲われた?」

「……戦闘フラグは確実に成立したな」

 はい、行く前から難問発生。
 三チームとも襲われた。ということは戦闘は確実にある(むしろ無い方がありえねーな。俺らの場合)。
 加えて『冥府の迷宮』は細かい道や別れ道。『飢乾之土俵』は広大な砂漠。捜索するにはめんどい場所だったりする。
 うわー、めんどくさい……。

「そうだな……飢乾之土俵は、俺らタカチホ組が手伝うさ。学校も近いし、砂漠慣れた奴の方が探しやすいだろ」

「そーだねぇ。広いだけだから、まだ何とかなるかも」

「お? 行ってくれる? サンキュ。カエデ、アイナ」

「あ。じゃ、ボクとライラちゃんもそっちに行くよ。モンスター殲滅担当で~」

「モンスター殲滅……えいえい、おー?」

「そうか? んじゃ任せる」

 よし砂漠の方は解決したな。
 まあ広いだけだし、捜索は慣れた人が良いだろう。
 異界のモンスターの方も……まあ、『破滅の妖精賢者』と『全身凶器の精霊』の二人がいるし、何とかなんだろ。

「……となると、問題は冥府の方か」

「だな……初っ端から迷いそうな通路だし」

 俺の言いたいことがわかったか、ブロッサムも一緒に唸った。
 冥府の迷宮も、これはまためっちゃ広いダンジョンだ。
 しかもただ広いだけじゃなく、いくつも分かれた通路や迷路と言っていい構成……プリシアナ地方のダンジョンの中で二番目に面倒(一番は悲観の迷宮)なダンジョンなんだ。

「しかも二つなんだよなあ……片方どーしよ」

 さらに加えて、最深部は二つある。
 だから両方同時に攻略しないと、どっかで入れ違いになるに決まってる。

「こっちは最低2パーティ必要だな。……もしくは、居場所を特定できる魔法とかアイテムがあればいいんだけど」

「居場所を?」

 俺のつぶやきを耳聡く聞いたらしい。
 ロアがニコッと良い笑顔を浮かべた。

「……あんだよ」

「いや? それなら、いいのがあるよ。って」

「…………。ちゃんとまともなブツなんだろうな?」

 ロアの言葉に、第一に頭に浮かんだのはそれだった。
 こいつの“いいもの”なんて、何かしら欠陥があるに決まってるからな←

「うたぐり深いね。相変わらず」

「おまえのせいでどんだけひどい目にあったと思ってるんだ。うたぐり深くもなるわ」

 ギロッと強く睨みつける。
 こいつのせいでトラブルにあったことも少なくない。
 さすがにここで変なアイテムはださないだろうが、それでも積もった恨みは消えやしない。

「んもー。そんな怖い顔で見ないでよ。ちゃんとしたアイテムだって」

「ならまずそれを見せろ。使えるか使えないかはそれから判断してやる」

「君のその上から目線。やっぱり最高だね」

 俺の睨みなんてものともせず、ロアはポケットに手を突っ込んだ。
 で、出てきたのは丸いフォルムの水晶。

「……何コレ」

「んー……簡単に言えば探知器だね。魔力を察知して、その方向を示すの。あ。ちなみにすでに相手の魔力はインプット済みだから」

「ふーん。……つまりそこまでしておいて、助けに行かなかったってわけだな?」

「厳しい一言だねぇ」

 誰のせいだ。誰の←
 言われたくなかったら最初から助けに行ってこいや。

「……まあいい。借りるぞ」

「どうぞどうぞ」

「ブロッサム。おまえもついてきてくれるよな?」

「ああ。……あ。そういや、こいつらどうする?」

 頷き、けどその途中でユーリたちを指さした。
 おお。そういやそうだった←

「後は私が引き受けますよ。皆さんは、一刻も早く異世界人の方の保護へ。ルーク君。そしてドラッケンの皆さん。私の方を手伝っていただけませんか?」

「え? は、はいっ」

「あらあら……校長命令では、しかたありませんわね」

「あ……は、はい。ユリ様!」

「あららー。……じゃあ、そっちは任せたぜ」

 ユーリたちはセントウレアとルーク、そしてユリとリンツェが引き受けてくれた。
 よし。今度こそこれで大丈夫。

「行くぞ。これ以上後手に回るわけにはいかないからな」

「だな。ほっとくわけにはいかないし」

「悩める子羊を救いにレッツゴーだよ~」

「救いに……英雄、再降臨?」

「……英雄ってガラじゃねぇ気がするけど……」

「それは言っちゃいけないよ。カエデ」

 それぞれ意気込む俺ら四人と、首を傾げるカエデと微笑むアイナ。
 そんな六人で、ここに残る彼らを背に、室内を出て行くのだった。


 目指すは異世界人。

 最終目標は問題解決だ!
1/1ページ
スキ