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炎の谷の来訪者

 同時刻・炎熱櫓

「――はあ!!」

 パッコーンッ!!!

「吹っ飛んだ……ホームラン?」

 ナイトメア木魚を蹴っ飛ばした。
 そしたら谷の向こうまで吹っ飛んだ。
 ……やり過ぎた?

「アイナ……まだかな」

 シルフィーがいないからつまらない。
 今日はクエストの依頼で、私たちは別行動だから。

「ムスー……」

 シルフィーはドラッケン学園。私はタカチホ義塾のお手伝い。
 アユミの妹のアイナが来る。……なのに、まだ来ない。約束の時間、大幅に過ぎてるのに。

「……つまんない」

 時々来るモンスターと戦いながら待ってる。
 でも、弱いからつまんない。

「…………」

 まだかな。まだかな。
 ……早くシルフィーに会いたいのに。

「…………! いた! オーイ!!」

 ……誰? 声が聞こえる。

「はあ、はあ……さ、捜したぞ……! よかった……」

 後ろから声をかけられた。
 ……誰か捜してる?
 クルッ、と振り返ってみた。

「……あれ……? “ソフィ”……?」

「……?」

 ……ソフィって誰?

「お兄さん……誰?」

「えっ……? あの……」

 目の前の人は困った表情をしてる。
 赤みのある茶色の髪。透き通った青い右目に綺麗な紫色の左目。
 服は……学校の制服じゃない。白くて綺麗な服。

「……誰?」

「お、俺はアスベル。……アスベル・ラントって言うんだ」

「……アスベル」

 ……変わった名前。
 冒険者、かな?

「……ねぇ。アスベルは何してるの? ソフィって人を捜してるの?」

「あ、ああ……うん。そう、なんだ……。君とよく似ている女の子なんだけど……」

 アスベルって人は心配そうな顔をしてる。
 ……ソフィって子が、心配だから?

「……はぐれちゃった?」

「ああ……気がついたら、いつの間にか……見たことない地形や環境だし、心配で……」

「……?」

 見たことない環境……?
 ……お兄さん、この環境、見たことないのかな?

「ソフィ……大丈夫かな……」

「…………」

 泣きそうな顔にも見える。
 心配してるから。不安だから。

「……ねぇ」

「? な、なんだ?」

「一緒に、捜す」

「……え?」

 私がそう言えば目を丸くした。
 ……いきなり過ぎて、わからない?

「私も、捜す」

「……君も?」

「うん。お兄さん、この辺りの環境、わからないんでしょ?」

 私はよく知ってる。危ないところや通れるところ。
 シルフィーやみんなと一緒に冒険したから。

「この道、慣れてるから。……一人より、二人?」

 アスベルの服を摘みながら言う。
 一緒なら、不安も消えるよ。

「けど……いいのか? 俺の事情に首突っ込んで……」

「うん。だってアイナ、来ないんだもん」

「へっ?」

 あ。また目を丸くした。
 ……今度は、説明不足?

「行きながら話す。ソフィさん、先行っちゃうかも」

「あ、ああ。そうだな……よろしく頼むよ」

「うん」

 アスベルにお願いされた。
 とりあえず、お話しながらタカチホ義塾に行こう。

 ――――

「……じゃあライラは、その冒険者養成学校って言うところの生徒なのか」

「うん。みんなと勉強したりしてるの」

「そうか。偉いな、ライラ」

 アスベルとお話しながら炎熱櫓を進んでいる。
 お話したら、アスベルも緊張が少し取れたかも。……私がソフィって子に似てるのも原因?

「……それにしても、冒険者、か……。本の話なんかで、冒険者が主人公ってのはあるけど、それを学ぶ世界だなんて……“エフィネア”では考えられない話だな」

「そうなんだ」

 アスベルの話に相槌を打つ。

(エフィネア……。ルークとは、違う世界?)

 ぼんやり考える。
 ……アスベルもルークと同じ、違う世界の人だった。
 ただアスベルは、エフィネアって言う世界の人で、ルークのオールドラントって世界の人じゃない。
 ……世界、実はいっぱい?←

「アスベル、剣を持ってるけど……アスベルも戦うの?」

「ああ。俺は騎士学校に入ってて、そこで勉強してたんだ。今は、いろいろ辞めちゃったけど……」

「騎士……ナイト? 守る人?」

「まあ……間違ってはいない、かな?」

 ナイトだったんだ←
 ……アスベルに似合うかも。
 なんだがわからないけど←

「私にもナイトのお友達いるよ。弱気でネガティブなディアボロス」

「そうなんだ……ん? ディアボロス?」

「冥界の血を引く種族。えっと……わかりやすい言い方すれば、悪魔?」

「悪……ッ!!? そ、そうなんだ……あはははは……」

 何故かアスベルが苦笑いを浮かべている。
 ……ディアボロス、悪い種族じゃないよ?←

「……あ」

「? ライラ、どうした?」

 瞬間、私の耳に音が入ってきた。
 金属音、爆発音、打撃音。モンスターの咆哮。
 戦いの、音。

「モンスターと、戦ってる」

「なんだって!?」

「すぐ近く。……あ」

 瞬間、耳に入る、聞き覚えある声。

「アイナの声……それと、咆哮?」

「どっちにしても見捨てておけない! ライラ、位置はわかるか!?」

「うん」

「よし! 行こう!」

 アスベルが力強く頷く。
 アイナがいるなら私も行く。
 アスベルと一緒に、私も走り出した。

 ――――

「……いた」

「ホントか! ……! あれは……!」

 駆け出して、アイナを見つけた。
 それと、見慣れない黒い鳥みたいな魔物が三匹。それと紫の髪の女の子。

「ソフィ!!」

「……あの子が」

 ……似てる、のかな?
 髪型はたしかに似てるけど、あの子の方が長いし。

「……! 暴星モンスターも……今行くぞ、ソフィ!」

「あ」

 アスベル、行っちゃった。
 ……暴星モンスターって、何?

「ソフィーーーッ!!!」

「……! アスベル!!」

「え? あの人がアスベルさんなの? ソフィちゃん」

 アイナの結界の中で、ソフィとアイナがアスベルを見ながら話してる。

「散れ! 雷斬衝!」

「え」

 え……剣から雷が落ちた?
 それがモンスターに当たって、ガラスが砕けるような音がした。

「魔王炎撃破!」

「ギシャアーーーッ!!!」

 あ。効いてる。
 アスベルって強いんだ←

「はあ……はあ……ソフィ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ、アスベル。アスベルも大丈夫?」

「ああ、俺も大丈「危ない!!」えっ……」

 モンスターが起き上がった。
 大口を開けて、アスベルとアイナを食べようと迫った。

「やぁああああッ!!!」

「はぁああああッ!!!」

 ソフィがアスベルの背後を、私がアイナの背後にいる敵を殴り倒した。
 完全に倒したのか、ピクリとも動かなくなる。

「倒した……」

「トドメを刺さなきゃ……死んだら、手遅れ?」

「す、すみません……」

 ソフィと私に立て続けに言われたからか、アスベルがしょげた。
 ……きつかった?

「二人とも、その辺で。えっと、アスベルさん。大丈夫ですか?」

「あ、はい。ありがとうございま――」

 アスベルがアイナの手を引いて、立ち上がろうとした、瞬間。

「ギシャア……ッ!!!」

「!!」

 足元には魔法陣。モンスターの足元からも光が溢れてる。

「魔法!?」

「しまっ……!」

 防御も、回避も間に合わない……絶対、絶命っ?

「……失せろ!!」

 ズドォーンッ!!!

「……え?」

 何……? モンスターが、真っ二つ?

「ふぅ……危なかったあ……」

 土煙からシルエットが現れた。
 あ、ネコミミ。……フェルパーだ。
 肩に斧を掛けてる……見慣れた影?

「おい、アイナ。大丈夫か?」

「あ……カエデ」

 来たのは、斧を片手に持つタカチホ義塾のフェルパー、カエデ。
 明るめの黒髪にちょっともさーってした髪。少し呆れたっぽい表情が、何と無くブロッサムと似てる気がする人。

「おまえな……頼むから一人で暴走するなよ。俺が来なかったらやばかっただろうが」

「……だって、ソフィちゃんとアスベルさんを早く会わせたかったんだもん……」

「それはべつにいいんだけど。だからって一人で行くなって言いたいんだよ。何かあったらどうするんだよ」

「む、む~……」

 アイナは言い返せないから、唇を尖らせてる。
 ……負けず嫌い?

「待って。カエデ」

「ソフィ?」

 ソフィがアイナの前に出た。
 ……何事?

「アイナ、私を守ってくれたよ? 怒らないで」

「う……そ、それはわかってるけど……」

「……喧嘩、しない?」

「これは、喧嘩じゃ……いや、わかった! 喧嘩しない! しないから拳下げて!」

 拳を構えたソフィにカエデが冷や汗をかいた。
 ……カエデ、ソフィに弱い?

「よかった……喧嘩、ダメだよ? ね? アスベル」

「え? あ、ああ。そうだな」

 アスベルも苦笑い。
 ……ソフィって強いんだ。特に、メンタル?←

「アハハ……あ、ライラちゃん、大丈夫だった?」

「アイナ……」

 ニコッと笑ったアイナに、頬を膨らませて一言。

「……約束の時間、大幅に過ぎてる。ちゃんと待ってたのに……」

「あ……! ご、ごめんね! カエデが間違えて、ソフィちゃん連れて来ちゃって。私たち急いできたんだけど」

「ちょおぉおおおッ!!!? アイナ、そこで俺に責任転嫁する気か!?」

 間髪入れず、カエデがツッコミを入れた。
 ……相変わらず、ツッコミ系?

「私、ちゃんと時間と場所言ったもん! なのにカエデが間違えてソフィちゃんを連れてくるから!」

「『炎熱櫓の入り口』しか聞いてねーんだからしょうがないだろ!」

「制服着てるか着てないで判別してよ!!」

「無茶苦茶だな、おい!!」

 ……喧嘩勃発中← ……仲するほど、仲が良い?

「そうか。ソフィはライラと間違われたのか。だから近くにいなかったんだな」

「うん。ライラって人と間違われた」

「なるほど。たしかに、二人は似てるからな。俺も、ライラをソフィと間違えたし」

「アスベルも?」

 アスベルは原因がわかって納得してる。

「……そんなに似てる?」

「ああ。雰囲気とか体型とか。髪型も似てるし」

 言ってソフィと向き合う。
 ……似てる?

「…………」

「…………」

「「…………」」

「……ふ、二人とも? 何か、しゃべってくれないか……?」

 アスベルが戸惑ってる。
 私とソフィは一歩前に進み、ガシッと握手。

「……よろしくね」

「うん」

「何か通じ合った!!!?」

 アスベルが驚いてる。
 その間にも私とソフィはにっこり笑って、通じ合う何かを感じていた。


 炎の谷の来訪者

 ――――

(ソフィ、強いね)

(ライラも、強いね)

 ――――

(だいたい俺に迎えに行かせること自体おかしいだろ!)

(私、忙しかったんだからしょうがないじゃない!)

(そもそも、おまえは……!)

(だってカエデが……!)

 ――――

(……収拾着かないんだけど。どうすればいいんだ……)
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