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雪原からの来訪者

 約束の雪原

「ふわあ……いっぱいあるね~」

「そ、そりゃ、モーディアル学園に届ける物品です、から……」

「復興をしなければ、生徒を募集できませんもの。ホント大変ですわよね。この方以外は」

「黙れ。そこで僕を指さすな」

 リンツェ君が荷台にあるおっきな荷物を見ながら。ユリちゃんはその荷台を引くエデンを見ながら答えた。
 モーディアル学園復興のお手伝いのため、今日のボクはドラッケン学園の二人と荷物を運んでいるエデン君といるんだ~。
 あ、ちなみにライラちゃんはタカチホ義塾の方を手伝ってるよ~。

「くそっ……本当だったら今頃アユミをモーディアル学園にさらうはずだったのに……おのれ、あの黒天使め……」

 とんでもなく不吉なことをサラっと言っちゃうエデン君。
 というか、まだ諦めてなかったんだね、それ。

「まあ、あなた……私を差し置いてアユミをさらうなんて……そんなこと許しませんわよ」

「誰がおまえに許可を求める。アユミは僕のものだ」

「嫌ですわ。あの娘は私のお気に入りなんですもの」

「女のくせにアユミを狙う気か! 許さん! 許さんぞ!!」

「ふ、二人とも……ど、どうか落ち着いて……!」

 一触即発の状態になる二人に、オロオロあわあわとしだすリンツェ君。
 ……たしかにこの二人、異常に仲が悪いもんね~。

「リンツェ! おまえ、本当にこの女に何もされていないのか? 本当に無事なのか!?」

「ええ!? そ、それは……」

「人聞き悪いですわね。リンツェにそこまでの重労働はさせた覚えはありませんわ」

「ふん。どうだがな」

「あ、あの……」

 うわぁ、すごい空気。
 リンツェ君も間でどう仲裁しようか悩んでるや。

「リンツェ! おまえ、やっぱり僕の生徒会に来い! それがダメならクラスでもいい!」

「そ、それ……結局はモーディアル学園に転校しろってことじゃ……」

「そう言ってるんだ。この女といたら、いつかおまえが心労死するに決まってる」

「あなた、私をいったいなんだと思ってるのかしら?」

「アユミとリンツェの敵」

「…………。処分しますわ」

「返り討ちにしてくれる!」

「え、エデン!? ユリ様も!!?」

 あちゃ~。とうとう武器を取り出しちゃった。

「――エデン君って、なんだかんだでリンツェ君にも飛びきり優しいよね~。よかったね、リンツェ君♪」

「は、はぅぅぅ……っ。……じゃなくって! シルフィーさんも傍観していないで助けてくださいぃぃぃっ!!」

 いや、そんな真っ赤な顔で言われても、可愛くってついいじりたくて~。
 ……うん、この考え方。やっぱりアユミちゃんの悪影響だよね、ボク←

「エデン君、ユリちゃん。早くモーディアル学園に行かないと、ヌラリの雷が落ちちゃうよ? ましてやエデン君、仕事放棄の回数ひどいし……」

 一瞬ピクッ、と止まったエデン君に「今度こそ軟禁されて仕事のノイローゼ漬けにされちゃうよ?」とトドメを刺した。
 それにエデン君は悔しそうにしながらも剣を収める。

「……行くぞ、リンツェ」

「え……あ、う、うん……」

「あら、おとなしく尻尾巻いて逃げ「ユリちゃんもそこまで~」シルフィネストさん、邪魔しないでいただけます?」

 巨大なぬいぐるみみたいな人形を出して、人形の持つ斧がこっちに向けられた。
 ……さすがドラッケン学園最凶の闇魔法人形遣い。

「ユリちゃんも落ち着こうよ~。暴れてたら、なんか変な厄介事に『きゃあぁあああッ!!!』巻き込まれ……、……え?」

 ……あれ。今、何か、変な声が聞こえたような……。

「……あ、あの……今、何か聞こえました、よね……?」

「ああ。聞こえたな」

「ええ。はっきりと」

「あ、やっぱり?」

『…………』

 三人もコクリと頷いた。
 それを確認して、ボクらに沈黙になる。

「……行かないと大変だね☆」

「い、言ってる場合じゃないですよね!!?」

「面白そうですわね。私は参りますわ。いらっしゃい、リンツェ」

「うわぁっ!?」

「な……貴様あああッ!! リンツェから手を離せえええ!!!」

 ユリちゃんが楽しそうにおっきな人形に乗って、リンツェ君はその人形に担がれていっちゃった。
 で、エデン君がそれを追いかけていく。

「……うん。リンツェ君も大変だね~」

 呑気にそうつぶやきながら、ボクも荷物と一緒にテレポルで転移しながら、三人の後をヒュンヒュンと追いかけていった。

 ――――

「よっ、と。……あ」

 あれ。三人より先に着いちゃった。
 そんなことを思いながら周りを見れば、プリシアナッツの木の下に誰か――生徒じゃない誰かがいるのがわかった。

「チッ……腕、やられちまったな……」

「ユーリ、大丈夫です!?」

「ワフッ!」

「なんとかな、エステル、ラピード。……とは言え、こりゃ、ちと厳しいかな……」

「三人でこの数は、ちょっと厳しいですね……」

「クゥ……」

 アユミちゃんと非常に良く似たお兄さんと、ピンクの髪のお姫様っぽい人。それから青い犬ちゃんの三人(じゃなくって二人と一匹)みたい。

「ギルルル……!!」

 それとその人たちを囲む大量のモンスター。
 なんか……外見は鮫っぽいんだけど、人間みたいに二足歩行して、さらに手には錨のような形の武器を持ってる。
 ……というか、あんなモンスター見たことないんですけど。

「どうしましょう……治癒術も、思ったより発動しませんし……」

「……万事休すってか」

 傷を押さえてる……。
 思ったより、やばい的な~?

「……! バウ、バウバウッ!」

「どうしました、ラピード? ……あ!」

 あ。犬ちゃんに気づかれちゃった。
 それと同時に二人にも気づかれる。

「ゆ、ユーリ! 大変です! あんなところに子供が!」

「なんだと……!?」

「あちゃ。見つかっちゃった~」

 もう見つかっちゃったからフロトルで軽く浮かした荷物を引きずりながら、目を丸くしている二人にてこてこと近寄る。

「えーっと……お兄さんたち、大丈夫?」

「まあな……つーか、おまえも何やってんだ?」

「ユーリ! 今はそんなことを言ってる場合じゃ……」

「ワフッ」

「あ。それもそうだね~」

 モンスターに囲まれてるからね~。
 話し込むには一掃した方がいいかも。

「んじゃ~。あとはボクがやっちゃうから、お兄さんたちは一旦下がってて~」

「……は? おまえが?」

 お兄さんたちが目を丸くしている。
 え? なんで?←

「だ、ダメです! 相手は魔物ですよ!」

「ワン!」

「マモノ? あ、モンスターのこと? べつに大丈夫だよ~。大変になったらお兄さんたち連れて逃げるから」

「連れてって……おまえ、いったいどこにそんな力が……」

 お兄さんの言葉は無視して、くるりとモンスターの方を見る。
 だってさっきから暴れたそうにウズウズしてるからね~。

「ギシャアァアアアッ!!!」

 ほら、やっぱり←

「危ない!」

「おい、逃げ……ッ!!」

 錨を振り上げるモンスターに背後からの声。
 全部無視して身体から紫の魔力を纏う。

「バリバリ響け! 雷の鉄槌! トール!!」

 そしてそれを、雷魔法として敵を落としました。
 モンスターたちは広範囲に落とされた雷に、それはもう瞬く間に焼かれちゃったね~。

「……殺り過ぎちゃったかな☆」

「楽しく言う言葉かよ……」

 マントの中で開いていた本を閉じて、お兄さんからのツッコミを楽しく聞きながら、再び振り返った。

「そういえば、お兄さんたち、大丈夫~?」

「大丈夫なわけない……ってかその前に……」

「あ。そうだね。お兄さんたち、怪我してるもんね~」

「いや、そうだけどそうじゃなくてな……」

「じゃあ治すね」

「おーい。おまえ、人の話聞いてるか?」

 うん、聞いてるよ?
 だって質問の内容が何と無くわかっちゃったから無視してるんだし←

「癒しの光を分け与えて。メタヒーラス!」

『……!?』

 全体系の回復魔法を使って傷を回復させる。
 一人一人にメタヒールは面倒だからね~←

「はい、おしまいっ」

「……マジか」

「うわぁ、すごいです! こんなにすごい治癒術を使えるなんて……」

「……治癒術……」

 ピンク髪のお姉さんの言葉をぽつりとつぶやく。
 ……うん。やっぱりかも……。

「ねぇ」

「なんです?」

 にこにこと笑うお姉さんに、同じくニコッて笑いながら伝えた。

「お姉さんたち……異世界から来た?」

「……え?」

「……そりゃ、また唐突だな。どういう意味だ、それは」

「バウ」

「あのね。こういう意味だよ~」

 目を丸くするお姉さん、どこか警戒しているお兄さんと犬ちゃんに、ちょっと寒いけどマントを外してボクの羽を見せた。

「ゆ、ユーリ! この子、羽があります! 妖精です! 絶対妖精です!!」

「わかったから落ち着け、エステル」

 あ。この反応、やっぱりだ。
 ルークも驚いていたからもしかして、とは思ったけど。

「なるほど。たしかに、俺らの世界にゃ存在しないな」

「うん。えーっと……ユーリお兄さん?」

 ボクがエステルってお姉さんが言ってた名前を呼べば「ああ」と頷かれた。

「俺はユーリ・ローウェル。ユーリでいいぜ」

「エステリーゼって言います。私のことはエステルって呼んでください」

「ワン!」

「で、こいつがラピード。俺の相棒だ」

「ボクはシルフィネスト=オーベルデューレ。長いから、ボクのことはシルフィーって呼んでね~」

「! シルフィーですね! はい、わかりました!」

「シルフィー、か。たしかにこっちの方が俺も呼びやすいな」

「クゥ?」

 何故か異様に目を輝かせるエステルちゃんと、やっぱりアユミちゃんとよく似ているユーリ。それと同じくラピードも首を傾げていた。

「……じゃ、早速なんだけどよ。なんでシルフィーは俺らが異世界から来たってわかったんだ?」

「えっとね。先日、異世界から来たって人にあったからだよ~」

 はしゃぐエステルちゃんの代わりに冷静になって聞いてきたユーリ。
 とりあえずサラっとボクも答えた。

「では、私たち以外にテルカ・リュミレースの方がいるんです?」

「そうそう、テルカ……え?」

 頷きかけて、だけどすぐにキョトンとなった。
 ……今……“テルカ・リュミレース”って言った?

「……オールドラントじゃなくって、テルカ・リュミレース?」

「なんだ、そりゃ。俺らの世界はテルカ・リュミレースって言うんだぜ」

「……あらら~」

 まさか……ルークとは違う世界から来たの?
 ってか、それしかないよね。絶対。

「……どうしようっかな~」

 違う世界からか~……ルークが帰るヒントにはなるかな~。
 よーし。ここはユーリたちも連れて帰っ――。

「シャイガン!」

「ダクネスガン!」

「だ、誰か~~~っ!!!」

「あ」

 と、ここで道からドラッケン学園の三人が登場した。
 ただ何があったのか、ユリちゃんとエデン君は完全にバトってて、ユリちゃんの人形に捕まってるリンツェは泣きながら助けを求めてる。

「おいおい……アレ、おまえの連れか?」

「仲間と言えば仲間だけど~」

「!! シルフィーさん、助けてぇ~……!」

 あ。泣いてるリンツェに気づかれちゃった。
 ……でも最強の二人相手って面倒なんだけどな~←

「あ、あの。どうします? なんか、助けを求めてますが……」

「……んー。助ける……というか、止めるしかないかな~」

 このまま流れ弾とか来たら困るしね~。

「止めるって……どうやって止められんだよ」

 怪訝そうにしているユーリ。
 けど気にせず「あるよ~」といいながら、閉じた本をまた開いた。

「二人とも、お互いに気が向いているし~。……横からの即死魔法なんかコロッと効くよね♪」

「「……え?」」

「ワゥ?」

 一瞬、二人の時が止まった気がした。
 けどボクは気にせず、即死魔法の名を口にしちゃいました←


 雪原からの来訪者

 ――――

(……うん、終わったよ~)

(あの、シルフィーさん……即死魔法はなかったんじゃ……)

(結果的に黙ったからいいんじゃないかな? リバイブル使ってもロストの危険性ないし)

(そ、それはそうですけど……)

 ――――

(ほ、ホントに死んでます?)

(……そのようだな。ホント末恐ろしいガキだな)

(ワン!)
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