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小さな異変

「あー。転入生紹介すっぞ。今日からこのクラスに入る……えっと、名前は?」

「る、ルークです。ルーク・フォン・ファブレって言いますっ」

「あー、そうだったな」

 朝礼が始まった教室。
 俺らのクラスに赤毛ヒヨコ、もといルークが転入生としてやってきた。
 つかリーロ先生よ。やる気ないにも程があんだろ←

「学科は……戦士とアイドルか。また微妙な組み合わせだな。とりあえず席は、そこにいるブロッサムの隣、な。パーティなら問題無いだろ」

「は、はい……あ、よ、よろしくお願いします!!」

 最後にバッと大きく一礼するルーク。
 教室中にその挨拶が届き、その後パチパチ、とやや控えめな拍手が広がった。

「ま。あんまイジメんなよ。……んじゃアユミ。それとブロッサム。あとよろしくな」

 ルークを席まで(ちなみに席は窓際の一番奥。俺もブロッサムの隣)促すと、用は済んだと言わんばかりにリーロ先生はさっさと出ていった。
 ねぇ。ホントに仕事してんの、この人←

「えっと……よろしく、か?」

「まあな。ま、一応パーティは組んでるけど」

「まあ……わからないことあったら、なんでも聞けよ。べつに、嫌じゃねーから」

「ああ! ありがとう、二人とも!」

 ブロッサムのツンデレもものともせず、にこにこ笑いながらルークは着席する。

「……か、可愛い……っ」

「あれ、ホントに男か……?」

「うらやましい……」

 途端に耳に入ってくるひそひそ話。
 ……どうやらヒヨコオーラは何かと周りを癒すらしい。

「……さすがだな」

 こりゃ、ジャーナリスト学科とかがしばらく騒ぎそうだな。

 ――――

「……よーし、ルーク。午後から“あの”クエストに行くか」

「クエスト?」

 首を傾げるルークの横で、「新入生歓迎クエストか」とブロッサムが補足する。
 午前の講義は終わり、昼休み、中庭で飯を食っていた(ホントは食堂行きたかったけど、やり合っているエデンとセルシアがいたから急いで逃げてきた)俺は、フリージアからいただいてきたクエスト用紙をルークに渡す。

「簡単に言えば課題だ。必要なものだったり、悩み解決の相談だったりといろいろあるけど」

「あとで図書室で説明するよ。温厚知的眼鏡美少年にも会わないと」

「ち、知的眼鏡……な……わ、わかった」

 あれ。なんか心なしか、ルークの顔色が悪いような……。
 知的+眼鏡に、何か嫌な思い出でもあるのか?←

「まあ、とにかく。午後から実践だ。モンスターもいっから気をつけねーとな」

「わかった。魔物相手なら大丈夫だし」

 ふむ。ルークは魔物(モンスター)は大丈夫っと。
 なら……御手並み拝見ってやつだな。

 ――――

 歓迎の森

 準備を整え、ルークを連れて早速ダンジョンへ行く。

「シルフィーとライラ、来れないか……」

「個人の都合もあるからな。俺らは重要なこと以外、四人召集ってないんだよ。ましてこのクエストは新入生限定だし」

「そっか……」

 落胆するルークに悪いが、こればっかりはどうしようもないんだよなー……。

「悪いな。あいつらにも、重要なことがあっからよ」

「いや、べつにいいんだ。ただちょっと残念だなって」

「そっか」

 よかった、わかってくれて。
 何せあいつらの用事はモーディアル学園復興の手伝いだからな。できる限りの手助けを、が、三学園の共通伝達なんだ。

「わかってくれてありがとう。……それにしても懐かしいな。だろ? ブロッサム」

「え? ……ああ。まあな」

「……? 何かあるのか?」

 事情を知らないルークが首を傾げて、キョトンと目を丸くしている。
 ……だからッ!! なんで一々可愛いんだ、この赤毛ヒヨコ! ブロッサムと並べばますます可愛いわ!!←

「……まあ、な。元々俺はタカチホ義塾っつー、別の学校の生徒で、半年前にプリシアナ学院に入ったんだ。で、転入直後の俺をブロッサムが親切してくれたんだ」

「へぇ……やっぱブロッサムって良い奴なんだな」

「バッ……!! 違っ……あれはグラジオラス先生に言われて……!!」

「そしてその日を境に俺に心を奪われたブロッサムは、俺と一緒にいたいと望み……!!」

「え!? それってブロッサムはアユミが――」

「違う違う違ーーーうッ!!!」

 驚きながら言うルークの口を、超真っ赤な顔で防ぐブロッサム。
 うわぁ……楽しい♪

「ほ、ほら! 校章の宝箱はこれだろ!!」

 言って指さす先には、たしかに校章が入っている宝箱。

「え!? マジで!?」

「え、ちょっと待っ……」

 言って走り出すルーク。
 いや、ちょっと待て。たしかこの宝箱は……。

「ルーク! 待っ――」

「!」

 ギィンッ!!!

 近づくな、と言おうとした瞬間、辺りに短い金属音が響いた。

「……っぶねぇ!」

「ルーク!」

「へぇ……」

 ルークは左手に剣を握り、プチ死神の攻撃を受け止めていた。
 ……なるほど。剣を習ってモンスターとやり合っただけのことはあるか。

「よっと!」

「ルーク、無事か!?」

「ああ、大丈夫。平気だ」

「だろうな。素晴らしい反射神経だったぜ」

 剣を抜いて距離を取るまで、一切無駄がなかった。
 相当の死戦と場数を踏んできた証拠だ。

「なかなかやるな。あれ、この付近のモンスターより強いんだよ。慣れれば雑魚だけど」

「へぇ……」

「むろん、俺らの敵じゃないぞ」

「それだけわかりゃ、十分だ!」

 ルークが再度剣を構え(いまさらだけど、ルークって左利きなんだな←)、それに習うように俺らも武器を構える。

「ギギ……ッ!」

 プチ死神も俺らの気迫にビビっているのか、じりじりと下がっている。

 ……ズガァンッ!!!

「のわぁ!!」

「わわっ!?」

「だ、大丈夫か!?」

 その時だった。
 突如地響きが俺たちを揺らしたのは。

「平気だっ! ……けど」

 今のは、いったい……?
 そう二人に問おうとした時だった。

 バキッ!!

『!?』

 激しい音が聞こえ、そっちに目を向ける。

「何んだよ……アレ……!」

「……! あれは……」

 現れたものは、巨大な塊。背中には剣が数本刺さっており、翼は無いけど、形態は竜に近い。近いものをあげるなら、キルシュのペット、炎王牙ジャバカに似てるな。
 そいつは木々や植物を薙ぎ倒し、プチ死神をたやすく吹っ飛ばす。

「なな……な、なんだよ、ありゃあ……!」

「まさか……ブレイドレックス!?」

「ルーク……知ってるのか?」

 呆然となってる俺らの代わりに、ルークが驚いた様子でモンスターに叫んだ。
 思わぬ展開に、モンスターから死線を外さずルークにたずねる。

「……ああ。前に戦ったことがある魔物なんだ」

「前に……? ……ってまさか……それって、ルークの世界のモンスターってことになるのか!?」

「……多分、そうだと、思う……」

「……!」

 ……マジかよ。ルークどころか、オールドラントのモンスターも流れてたってこと!?
 こんな超展開アリか!!?

「ギャオォオオオッ!!!」

『……っ!!』

 ブレイドレックスっつーモンスターが吠える。
 ……あの。いや、ホントちょっと待って。こんなもん放置してたら、あっちゃこっちゃ大被害間違い無しだろうが!!

「ど、どうする!?」

「こんなもん駆除するに決まってるだろ!」

 ほっといたらマズすぎる!
 いろんな意味でな!!←

「ルーク! こいつに弱点ってあるか!? 箇所とか属性とか!」

「たしか……火属性が苦手だったはず!」

「よりによってそれかよ……」

 火属性を扱うシルフィーがいないのに……!
 地道に物理で潰せってことか!

「……しかたない。ブロッサム。回復と援護中心に頼む。奴は俺とルークで仕留めてみる。ルークもそれで大丈夫か?」

「わ、わかった!」

「ああ!」

 軽く目配せをし、意向を伝えたのを確認してからすぐモンスターへ向き直る。

「よし……絶対に仕留めるぞ!」

「わかってる!」

 刀を構え、ルーク共々突っ込んでいく。
 モンスターは俺らに標的を定め、ズシンズシン、と太鼓のように鳴らしながらやってくる。

「光の精霊……! いでよ、ウィスプ!」

「せぇやぁあああッ!!!」

 背後から走ってきたウィスプがブレイドレックスに命中すると同時に、即座に懐に潜り込み、腹から斬りつけた。

「グォオオオッ!!!」

「チッ……!」

 思った以上に硬いな……。
 こりゃ、思ったよりきついかもな……!

「チッ……うわっ!?」

 瞬間、急に風圧を感じた。
 とっさに身構えると、バシンッ! と尻尾で横から叩きつけられる。

「ぐっ……!」

 いっだ……っ。
 思った以上に、ダメージがキツイ……。

「アユミ! 避けろッ!!」

「……ッ!!?」

 叫びと同時に自分が影に包まれる。
 上を見れば、ブレイドレックスが口を開けて頭を振り上げていた。

「しまっ……!」

 嘘……食われる……!

「――魔王絶炎煌ッ!!」

「……!!?」

 ……え? なんだ、今の……?
 食われると感じた瞬間、ブレイドレックスの足が炎に包まれた。やつが炎が苦手だから、受けたダメージは凄まじいものらしい。

「アユミ、大丈夫か!?」

「ああ、なんとか……ってかルーク……今の……」

「二人とも、次来るぞ!」

 ブロッサムの言葉にハッとなれば、モンスターが再びこちらを喰らおうと頭を上げている。

「クソッ!」

 直ぐさま横に転がり避ける。
 幸い頭は獣程度しかないのが救いだったな。

「危ねぇだろ、マジで……いで……っ」

「大丈夫か、アユミ? ……聖なる癒しよ。メタヒール!」

 ブロッサムの魔法が俺を優しく包み込んだ。
 ダメージが完全に癒え、すぐに元の調子に戻る。

「サンキュ、ブロッサム」

「いいけど……今の炎って……」

「ああ……ルーク!」

 モンスターから目を離さずルークに駆け寄る。
 あの炎、あの声……間違いなくやったのはルークだから。

「今の……えーっと、マオウゼツエンコウ? え? 何? 必殺技かスキルか何か?」

「必殺技って……いや、ただの奥義だけど……」

「……奥義?」

 え? 何ソレ? 剣を極めた物のみ使える的な?

「何なんだ、ソレは! 詳しく教えろ! そしてあるもの全部見せろ!」

「は!? いきなり何――」

「アユミ、それは後だ! 今はアレだろ!!」

 半分暴走気味に言うと、ブロッサムに腕を引っ張られた。
 おっと、そうだった。まだモンスターはいるんだから。

「しかたない……ルーク! 後で教えろよ!」

「わ、わかったよ! とりあえず今は、魔物を何とかしないとな」

 そうだな。あんな強力なやつ、放って置けないしな。

「よし……もう一度!」

 意気込み、再びモンスターに突っ込んでいく。

「双牙斬!」

「ファイガン!」

 ルークが凄まじい斬り上げを放ち、俺は炎魔法で足止めを行う。

「グギャアァアアアッ!!!」

 わぉ、効果はてきめんらしい。
 モンスターは炎にやられ、バタバタともがいている。

「今だ!」

「OK!」

「任せろ!」

 ブロッサムの叫びに俺が下から、ルークが上から構える。

「失せろ!」

「紅蓮襲撃!!」

 下から瞬速の居合を、上から炎を纏った蹴りが降り注いだ。
 一撃が強烈だったらしく、ブレイドレックスは断末魔の叫びを上げて倒れ込んだ。

「……やった、か?」

「みたいだな……ぐっ……」

「アユミ、大丈夫か?」

 慌てて駆け寄ってきたブロッサムに「大丈夫」と伝えておく。
 あくまで体力が激減しただけだけど……まずいな、やっぱりキツイ……。
 今度体力アップの修業を考えた方がいいかな……。

「俺の方はいい……それより、これはどうする」

 言って俺が指さすのは、ブレイドレックス。

「ルークの世界のモンスターなんだろ? それがここに流れてるのって……正直まずいだろ」

 俺らにできるのはせいぜい駆除くらいだ。
 こんなもん、放置しとくにはマズすぎる。

「ルークは……渡ってきたこともわからないのに、知るわけないよな」

「う……ご、ごめん……」

「いや、謝らなくていいから。……でも、どうする?」

 ルークを気遣ってからブロッサムが俺にたずねてくる。

「……とりあえず校長に報告しとこう。嫌な予感は早目に潰さないと、後々どんな問題に発展するかわからない」

「そう、だな……」

「ごめん……」

「謝るな。……謝るなら」

 未だしょぼくれているな、このヒヨコは。
 校章を拾い、ルークに渡してから肩を掴む。

「さっきの必殺技について教えろ。あれはなんだ? 魔法剣的な何かか!?」

「えっ!? いや、アレは……」

「ちょ、まだそれを引きずる気かよ!?」

 ブロッサムのツッコミを無視し、戸惑うルークに問いただす。
 だってあーいうのを使えたら、確実に俺らも戦力アップじゃん! 一騎当千獲得かもね!

「逃げるぞ、ルーク! こいつに教えたら、絶対最強最悪の存在になる!」

「ええッ!!?」

「逃がすかあああ!!!」

 ルークを連れて逃げ出したブロッサムを追いかけ、全速力で追いかける。
 ……絶対聞き出しちゃる!!←

 ――――

 ???Side

「……ほう。思ったよりやるようだな」

 彼は遠くから眺めていた。
 たしかに、この世界は興味深い。と視線が少女の方へ向く。

「あの少女……なかなか良い太刀筋だな」

 ルークとともにいた黒髪の少女――アユミ。
 この世界の英雄と呼ばれるだけあり、戦闘力など目を見張るものがある。と彼は思った。

「ねぇ」

 背後から声。
 振り返れば、白い衣装に身を包み、薄く光る羽を生やす金髪の少年。

「戻るよ。……“奴ら”は次の段階に進むそうだ」

「そうか……」

「君もだ。早く来い」

 少年はすぐ傍の女性に声をかける。
 淡い翠のような長いウェーブのかかる髪。端正で美しい顔がにこりと微笑む。

「はい。御心のままに」

「……成功すれば、ボクらはこの苦しさから解放されるんだから」

「……わかっている」

 少年の苦しげに吐いた言葉に、男も重々しく返事を返す。

(すべては……“我が世界”のために)

 そして三人は、その場から姿を消した。


 小さな異変

 ――――

 歯車が回っている。

 それに俺らは、

 まだ気づかなかった。
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