このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

赤毛のヒヨコの今後

「いらっしゃい、みんな。そしてようこそ。異世界からのお客様」

「まだ何も説明してないんだけど!?」

「落ち着けって。……実は折り入って頼みたいことがあるんだけどよ……」

 翌日。ルークに叩き起こしていただいた俺たちは、外出届け提出後、一直線にロアの元へ。
 ロアの挨拶にブロッサムがツッコミを入れるが、ロアならなんでもありなので、無視して本題に早速入る。

「……なるほど。たしかに幽霊状態は大変だろうねぇ」

「ルークの……音素の分解? とかそういうのはまだイマイチわからないんだけど。でも消え失せるって問題だよな。何とかならねーか?」

 タカチホの建物が珍しいか、辺りをキョロキョロしているルークに目を向ける。
 ロアもルークを見ると「ふむ」と軽く唸る。

「……音素ってのが拡散する様子はないから、乖離って現象は起きないと思うけど。でも薄い感じだし、どう転ぶかわからないね」

「サラっと不吉なこと言うなよ……何とかならないか?」

「アハハ。ヤダな、俺は神だよ? 状態も解決策もわかったって」

「マジでか!!」

 ブロッサムの心配すらもサラっと言って除けた辺りはさすがだな。

「……方法はまともだよな?」

「大丈夫だよ。依代一つあれば十分だから」

「……依代?」

 コテン、と首を傾げたライラに「うん」とロアが頷く。

「聞けばレプリカって、第七音素って言うやつの塊みたいなものでしょ? で、それが拡散するのはそれが塊からボロボロこぼれて、だんだんとなくなるからで……」

「待て待て待て! いきなり専門用語言われても、規模が大きすぎるんだけど。もうちょっと身近なもので例えろよ! ブロッサムがパンクするだろ!」

「そこで俺を出すな! 腹立つから!!」

 自分の学力のことを遠回しに言われたからか、涙目で俺に叫ぶブロッサム。

「身近なもの? んーと……つまりわかりやすい話、音素という水を固めた氷がレプリカ。そして固まった氷が溶けて形を失って、水になるのが乖離だよ」

 ご丁寧にロアはどこからか図式を用意をし、指示棒で示しながら解説してくれた。
 ブロッサムもわかりやすかったか、納得いったような顔をする。

「じゃあルークが乖離しない為には、音素を固めた状態を維持しなきゃダメってことか?」

「まあ、それも一つの手なんだけどね。でもこの世界に音素ないからそれは無理。というか、ルークの世界でも、それを防ぐ方法わからないんでしょ?」

「あ、ああ。そうだけど」

 ルークが戸惑いながらも頷いた。
 ……ややこしくてわけわからなくなってきた。

「あーもうめんどくさい。結局依代でどうとでもなるんだろ?」

「まあね。“器”みたいなものだし」

「あ? 器?」

「そう」とロアが続ける。

「剥き出しの氷が水になったらもう掴めない。では水になっても保存する方法は?」

「保存って……そりゃ、コップに入れるとか?」

「コップ……ああ、なるほど」

 ……そういうことか。
 ブロッサムの言葉に合点がいったか、シルフィーも「わかった~」と飛び回っている。

「つまりはノームと同じ、依代という肉体に入れてがっちり蓋しちゃえば、中で拡散しても音素が外に流れないってことか~」

「そういうこと。まあ気持ち悪いとか、体調不良はあるかもしれないけど」

「けど乖離で消えることはない、か。……まあ、マシな方か? ルークもそれで大丈夫か?」

 ブロッサムは首だけルークに向けてたずねてみる。

「え? あ、ああ……つーか、乖離しないどころか見えるようにもなるなんて。正直、こんなにやってくれただけでも十分っつーか……」

 わぉ、律儀ーっ。
 頬も赤に染めちゃって……もう可愛いな、この赤毛ヒヨコは←

「アハハ。気にしなくていいよ。俺、面白いこと好きだし。それにここはアユミを中心になんでもありだから」

「おーい。俺をトラブルメーカー扱いするんじゃねぇ」

 失礼な。俺はトラブルメーカーじゃない。
 ただ、なんやかんやでトラブルにあっちまうだけなんだ!←

「アハハ♪ まあ、それはそれとして。そろそろ依代に憑依しよっか。ルー君が乖離しちゃったら大変だし」

「チッ……ほら行ってこい。ルーク」

「はい……」

 苛立つ俺に若干引き気味ながら、ルークはロアに着いていく。
 ……さて信じて待つしかないから、雑誌でも読むか←

 ――――

 数分後、二人が返ってきた。

「お待たせー♪」

「おう。おかえり、ルーク」

「た、ただいま、か?」

 どうやら無事に帰ってきたらしい。
 ルークの姿形は変わらないが、ノーム族特有の髪飾りや機械的な瞳、機械の部分が目立つ。
 そしてそれが珍しいか、そいつはあちこち触ったりしていた。

「大丈夫か? どっか、不具合とか……」

「んー……いや、慣れてないせいか、まだ身体が動きにくいだけ。全然大丈夫」

「そうか? ならいいけど……」

「なんか困ったことがあったら言ってね~」

「……いいのか?」

 ルークがキョトンとしながら俺たちを見ている。

「なんだよ。意外そうな顔して」

「いや、だって……知らないヤツ相手にここまで……その、話だって、信じないとか、怪しむとかしないか?」

 ……つまり、自分を良くしてくれることに戸惑ってるわけ?
 まあたしかに初対面(しかも幽霊)の奴相手にはここまではしない。
 けど。

「いまさら言うなよ。あのな、いつまでも幽霊状態でいられると、依頼を受けた俺たちはずっと徹夜で見張らなきゃならない。そしたら俺は授業中に居眠りして、リリィ先生の魔力鉄拳でホントに冥負行きになっちまう。おまえの苦悩にも気づかないし、そしたら俺が困る。だからそれ以上言うんじゃねぇ」

 長々と面倒に告げ、「それにおまえ、嘘は言ってねーし」と笑いながら、ヘタレってるルークの額にデコピンを入れる。

「おまえな……えっと、ルーク。誤解ないよう言っておくけど、結局はおまえが苦しんでるとアユミは困るって言いたいんだ」

「アユミが困る……なんだかんだで、助けちゃう?」

「他人の事情に首を突っ込んだり巻き込まれては、結局見捨てず助けちゃうからね~」

「うっせーぞ! そこの三人!」

 好き勝手語り出す三人に怒鳴り、ついでにルークの額をさすっていたブロッサムの背中を蹴っ飛ばした。

「なんで俺!?」

「なんかイラッときたからだ!! とにかく! 用は済んだから、一度学院に帰るぞ! スポット準備! ルーク、来い!!」

「イェッサ~!」

「イェッサー」

「え、おい!?」

「ふざけんなァァァァァァッ!!!」

 怒鳴る俺。戸惑うルーク。敬礼しながら魔法を唱えるシルフィーと真似するライラ。叫ぶブロッサム。

「またのご来店、お待ちしてまーす♪」

 そして、微笑むロアディオス。
 ブロッサムの悲鳴の余韻を購買部に残しながら、俺たちはタカチホを後にした。

 ――――

 スポットでタカチホからプリシアナに戻った俺たちは、即刻セントウレアの元へ。
 ちょうどチャイムがなってるから大聖堂だろうな。

「…………」

 で。今はその大聖堂の前。
 ふと足を止めた俺は大聖堂を一睨みし、軽く意気込んだ後、扉を見据える。

「頼もォォォォォォッ!!!」

 ドバガァンッ!!!!!

 そして助走し、ドアを思いきり蹴り飛ばして乱入した。

「どんな開け方してんだテメェはァァァァァァ!!!」

 もちろん即座にブロッサムのツッコミが飛んできた。

「グホォッ!!!」

「あ。エデン」

 それとほぼ同時に、エデンの潰れた蛙のような悲鳴が聞こえた。
 ……まあ知ってるけど。つーか、いるのがわかったため蹴り飛ばしたんだから←

「よし、死んだな。おーい、セントウレアー」

「死んだなって……」

「いや、よしじゃねぇだろ……」

 背後でルークとブロッサムがエデンの骸(いや、気絶な、気絶)に合掌しているのを無視し、パイプオルガンを弾き終わり、こちらを振り向いた校長につかつかと歩いていく。

「アユミさん。ずいぶんと騒がしい開け方ですね。今月だけで4回目ですよ」

「後で直すよ。つか半分はそこのヤンデレストーカーのせいだっつーの」

「そこは私も否定しません」

「否定しないんだ!?」

 校長の発言にブロッサムがやや遠くからつっこむ。

「まあエデン君の話は、今は置いておきましょう。――君がルーク・フォン・ファブレ君ですね?」

「え? は、はいっ!」

「お話はロアディオス君から伺っています。早速この書類にサインを……ああ、文字が違うのでしたね。ブロッサム、代筆をお願いします」

「俺ですか? いや、べつにいいですけど……」

 急に指名されたブロッサムは驚きながらも席に着き、校長に手渡された書類にペンを走らせようとした。

「……校長」

「はい?」

 が、その手はすぐ止まった。
 ブロッサムは校長と書類を交互に見ながら口にする。

「あの……これ、入学願書なんですけど……」

『え?』

「そうですけど、何か?」

 ブロッサムの言葉に目が点になる俺ら。
 それを気にせず、サラっと答えるセントウレア。

「あの、俺たち、ルークの住まいに関してを相談しに来たんですけど。ルークの入学をお願いしに来たんじゃないんですけど!?」

「それも知っています」

「知ってんのかよ! じゃあなんで入学する方向性にいっちゃってんですか!?」

 身を乗り出しながらガンガンツッコミを入れる。
 ……たしかにどういう思考をしたら、ルークの入学に行き着くんだ?

「異世界の人間であるルーク君を慣れない環境に預けるのは、私も重々承知です。ですがこの世界について何も知らない彼を、知らない場所に一人にする方も不安でしょう?」

「そ、それは……」

「同じ慣れていない環境ならば、事情を知っているあなた方の傍にいた方が彼も安心では?」

「うっ……」

 返す言葉がないせいか、ブロッサムは言葉を詰まらせた。
 それから「どうする?」と目でこっちに問い掛けてくる。

「まあ……校長の言い分も間違っちゃいないが……ルーク。おまえはそれで大丈夫か?」

「俺? えっと……たしかに、知らない奴といるよりはいいけど……おまえらが迷惑だって言うなら……」

「迷惑とは思ってねぇ。とにかく、入学は大丈夫っと……」

 ……ルークも不安そうだな。そしてその自信なさ気な返事はなんだ。
 心の中でそうつぶやきながら、ブロッサムからペンを引ったくり、願書に彼の名前を記入していく。

「……クラスは俺とブロッサムと同じでいいよな? あとパーティも。こっちは四人だから、一人くらいOKだし」

「もちろんいいですよ。彼は元はヒューマンと聞きましたが、表向きはノームで構いませんね?」

 校長の問いに「ああ」と頷き返しておく。

「一々説明してたらキリがねーし。肉体依代だからばれることもないだろ。幽霊騒ぎのクエストの報告も、適当にでっちあげとく」

「わかりました。……で、学科の方はどうしましょう」

「学科?」

 目を丸くしてつぶやくルーク。
 学科か……あー、どうしよ←

「学科っつーのは……ブロッサム。ルークに説明を」

「俺かよ!?」

 だってめんどくさいし←
 いつものように説明はブロッサムに丸投げした。

「えーっと……ここは冒険者養成学校って言うのは説明したよな? で、学科って言うのは、自分の伸ばしたい力を鍛えるため、それを中心に勉強する項目……って言えばわかるか?」

「ああ、大丈夫。冒険者って言うから、やっぱ、戦い方とか勉強するのか?」

「そうだけど……中には物理攻撃が苦手だったり、魔法が苦手って種族や奴がいるからな。だから学ぶにしても武器攻撃の戦士とか、魔法を扱う魔術師とか、自分の得意なものを学ぶんだ」

「へぇ……」

 さすがツッコミと説明をやらせただけあってわかりやすい説明。
 やっぱやらせて正解だったな。

「……まあ学科についてはこんなもんだろ。ルークは剣と魔法、どっちが使える?」

 ブロッサムの問いに「剣!」とルークの即答。

「譜術……あ。魔法、だっけ? 俺、それは使えないし、剣で戦ってきたから」

「そっか……んじゃ、無難に戦士学科がいいか……」

「いいんじゃねーの? そしたら俺とライラと授業が一緒になるし」

「……ブロッサムとシルフィーは一緒じゃないのか?」

 何故か途端に子犬みたいな目になりやがった。
 え? 何、この可愛い生き物←

「ごめんね~。ボクとブロッサム、二つとも魔術系学科だから~」

「そうなのか…………二つ?」

 一瞬頷きかけ、が、学科が二つも受けられるのか、という目でブロッサムを見てきた。

「あ、悪い。学科はメインとサブ、二つまで専行できるんだ。ただサブの方は受けるか受けないかは個人の自由でいい。メインは必ずだけど」

「ふーん。……ってことは、サブ学科選べばブロッサムやシルフィーとも一緒に慣れるのか?」

「学科次第だけど……まあ、間違いではない」

 ブロッサムの言葉を聞いて「ホントか!?」と赤毛ヒヨコが目を輝かせた。
 ……子供か、こいつは。

「なんだ。俺らじゃ不満か?」

「いや、そうじゃなくて……やっぱ、仲良くなれたから、一緒にいたいっつーか……もっと仲良くなりたいっつーか……」

 ちょっと照れ臭そうにはにかみながら、こちらをちらちらと視線を投げたり反らしたりしている。

(…………なんだこいつ)

 ……保護欲そそられるんですけど。何なの、このおっきな子供は!?
 ブロッサムも今にもツンデレ発動しかけてるよ!?
 シルフィーとライラも、校長すらも和んじゃってるよ!!?

「い~よ~、ルー君。わからないことがあったら聞いてね~。そっちのお兄さんに」

「ああ。なんでも聞け。そこの天使に」

「……頑張ろうね? そこのセレスティアと」

「慣れない環境は大変でしょうか、頑張ってください。何かあれば彼が助けてくれますから」

「はい!」

「って、おまえら全員、俺任せかよ!!」

 ブロッサムのツッコミが飛んできたが、俺らは全員無視するのだった。

「……よし。じゃあサブは……何にするか」

「んー……アユミたちは、何の学科についているんだ?」

 キョトン、と目を丸くして、ルークが俺らの方へ振り向く。

「俺は侍学科。剣士みたいなもんだ。サブは盗賊。罠解除担当でもある」

「格闘家……それだけ」

「ボクは様々な魔法を扱う賢者学科! 後は魔法壁って防御法を使える予報士だよ~」

「俺は光の魔法を使う光術師学科。あと…………ル学科」

「……ル?」

 ……ブロッサムの言葉が聞き取れなかったらしい。
 当然だよな。俺も聞こえなかったし。

「ブロッサムのサブはアイドル学科。みんなを楽しませる歌を歌ったり、歌魔法っつー歌うことで発動する魔法の使い手だ」

「アユミ! ちょ、なんでばらすんだよ!」

 サラっとルークに耳打ちすれば、すぐに赤面しながらガシッと肩を掴んできた。
 しょうがないだろ。後々ばれるんだから。

「歌魔法……へぇ。譜歌みたいだな」

「あ。おまえらの世界じゃ譜歌って言うんだ。歌いながら魔力を放てば、勝手に発動してくれるから、はっきり言って他の魔法より使いやすいし」

「マジで!? じゃあそれにする!」

「即決!?」

 偉く早く決まったな……まあいいや。俺もめんどくさいし←

「よし。じゃあこれで9.5割はブロッサムの責任ってことで」

「なんでだよ!? 保護者か、俺は!」

「当たり前だ!!」

「断言!!?」

 おまえは世話焼きポジションって決まってるんだ! 俺の中で!

「……ま。ルーク本人も喜んでいるし。というわけで、アイドル同士ユニット組んで、一気に億万長者に……」

「なるかっ!!」

 断れた。……やっぱりか←

「……ま。とりあえずアイドル学科って書くから。テメー、ルークいじめるんじゃねーぞ」

「しねぇよ!」

「はいはい。……んじゃ。書き終わったし、よろしくな」

「もちろんです。ルーク君、明日からよろしくお願いします」

「は、はい」

「良い返事です。……それでは、また」

 優雅に一礼し、そのまま入学願書を持って出ていった。
 残された俺は背筋を伸ばし、そしてルークに振り向く。

「……ま。というわけで、こっからよろしくな。ルーク」

「ああ! よろしくな!」


 赤毛のヒヨコの今後

 ――――

(あー……可愛いなー)

(レオとは違うタイプの天然さんだね~)

(……うん)

 ――――

(……なんか勢いでアイドルになっちまったけど、いいのか?)

(えっと……歌とか得意じゃないけど……でもサブ学科一緒じゃないと、ブロッサムと一緒になれないしな!)

(……え?)
1/1ページ
スキ