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最初の来訪者

 いくつもあるという世界。

 この世界って……。

 ……意外と、侵略されやすい?

 ――――

「寒い寒い寒い……! 夜ってさーむーいー!!」

「ば、バカッ! 引っ付くな!」

「……ぶるぶる」

「ライラちゃん、寒い? 一緒に毛布引っ被る?」

「うん……シルフィー、ぬくぬくしてる?」

「ライラちゃんだから、ぬくぬくしてるよ~」

「ぬくぬく……私もかも?」

「コラ、そこ!! リア充か!」

「俺らもだ!」

「聞いてない!」

 泣く子も黙る丑三つ時(?)の実験室。要するに夜中にぎゃいぎゃい騒ぐのは、いつも通り俺ら4英雄←
 普通ならとっくに休んでいるが、今回は訳合って実験室にいる。言っておくが、決して何かの罰とかじゃない。

「……つーか。ホントにいるのか? ……幽霊って」

 ブロッサムが手に持った紙……クエスト用紙を再確認する。

「クエスト名『謎の幽霊』。『実験室から変な声や人影が見えます。怖くてしかたありません。何とかしてください』、か……」

 一通り読み終えるブロッサム。
 読者にもわかりやすい解説ご苦労様←

「それって~。たしか、魔術系学科の子が書いたんだっけ~?」

「ああ。死霊使い学科の連中も、何人か見かけたって話らしい。というか、魔力の値が高い奴しか見かけねーって噂だ」

「魔力が高い……私は、見れない?」

「まあ……現に見れたのは、魔術系学科だけらしいしな」

 知ってる情報を交換し、共有していく。
 上記の説明通り、俺たちは魔力が高い奴しか見えない『幽霊』の存在に関わるクエストを受けた。
 つーかホントに『幽霊』か、という疑問もあるけど。

「なんかベタなクエストだけど……ホントにいるのかよ。よりによってプリシアナ学院に」

「あー……たしかに、セントウレアとかが浄化してそうだよな」

「だよな……ってアユミ、校長を呼び捨て……」

 恐ろしいげな表情で俺を見ているブロッサム。
 だって腹黒権力天使兄弟に敬いとかねーし!

「意外と気づいてないかもしれないよ? ほら。悪くない幽霊さんなら、校長先生も見逃してるかもだし」

「悪くない幽霊……無邪気な子供とか?」

「いや、そーいうのが一番悪霊とかになりやすいと思うんだけど」

 適当に意見を言い合い、そろりと実験室を見て回る。
 ……べつに変わったところはない。夜中だから明かりは窓から注す月の光だけ。

「――ガセネタとかそういうのじゃないよな……?」

 些か心配になってきた。
 何かいないか、と部屋を歩き出した。

 ガッ!!

「うぉッ!!?」

「いだッ!!?」

 直後だった。
 何かに足が引っ掛かり、思いきり躓いちまった。

「アユミ!?」

「え~、どうしたの~!?」

「……?」

 それに慌てて駆け寄る三人。
 俺は痛む個所を押さえながら、引っ掛かった思うところに目を向ける。

「いっでぇえ……っ。いきなり何すんだよ、ホントに……」

「……え」

 視線の先にいるのは、ヒューマンと思う赤毛の青年。ただ制服じゃなく私服なので、多分学院外の人物と思われる。

「……え? ヒューマン……?」

「どうした……って、誰だ、こいつ?」

「見たことないな~。生徒……なの~?」

「…………?」

 やってきた三人も目を丸くしている。
 俺たちの視線に気づいたか、赤毛のヒューマンも俺たちに顔を向ける。

「……え、何?」

「いや、この場合、聞くのは俺なんだけど」

「聞くって……つーかおまえら、“俺が見えるのか”?」

「……は?」

 ……今なんつった、こいつ。
 質問の意味がわからずにいると「ねぇ」とライラが声をかけてきた。

「……誰か、いる?」

「……は?」

「誰か、いる? ……何も見えないよ?」

『……えっ?』

 俺、ブロッサム、シルフィー。そして赤毛のヒューマンの声が揃った。

「…………まさか」

 俺たちの探す幽霊は、魔力が高い人物しか見えない。
 ブロッサムとシルフィーは魔王とやり合った魔術系学科の英雄なので当然高い。
 俺は転換の呪で魔力をほとんど封印しているが、あくまでも『封印』なので高い。かかっているけど維持しているので、この状態でもそれなりにある。
 だが兵器として生まれたライラは、もともと魔力がほとんど無いので違う。
 魔力が無いライラだけが見れない。……つまり。

「まさか……」

「こいつが……?」

「……件の幽霊さん~?」

「は……?」

 ……俺たち三人の疑問が、確信となった瞬間だった……。

 ――――

 件の幽霊を発見し、ひとまずブロッサムの部屋にやってきた。
 もちろん幽霊を連れて。

「まさかガチで生幽霊を見るとは……」

「幽霊……やっぱり俺、死んでるの?」

「自覚があるのか?」

 即座に飛び込むブロッサムのツッコミ。
 幽霊君は申し訳なさそうに頬を掻く。

「いや……うん。実を言うと俺、消えたはずんだけど……気づいたら、この建物の中にいて……」

「気づいたら幽霊状態ってか? えっと……あれ、名前は?」

 呼ぼうとして、けど名前を聞いてなかった、ということに気づく。

「俺か? 俺は……ルーク。ルーク・フォン・ファブレ」

 一瞬何故か躊躇ったあと、幽霊――ルークは名乗った。
 続けて俺たちも名前を告げる。

「ルーク、な。俺はアユミ。アユミ=イカリだ」

「俺はブロッサム=ウィンターコスモス。……ブロッサムでいい」

「ボクはシルフィネスト=オーベルデューレ! 長いから、シルフィーって呼んでね~」

「……ライラ」

「アユミにブロッサムに、シルフィー、ライラ……よし!」

 ルークが俺たちの名前を復唱する。
 これで互いの名前はわかったな。後は……。

「覚えたか。……で、ルーク。おまえはなんで幽霊なんだ? つーか、いつから幽霊なんだ?」

 ……そう。ルークのこと。
 家名は聞いたことないが、多分彼は貴族だと思う。
 いつから何で幽霊なのか。そこのところもはっきり聞いておきたい。

「う……い、いつからって言われても、どれくらいかわからないし……それに」

「それに?」

「……ブロッサムとシルフィーって。“人間”……なの?」

「は?」

 またも目が点になった。
 人間なのか……って、え? 何? どういう意味?

「人間って……べつに普通のセレスティアとフェアリーだぞ? 他の同種族より強いけど」

「セレスティア? フェアリー? ……種族?」

 ちんぷんかんぷんなのか、俺と二人を交互に見始めるルーク。
 ……まさか。

「……ルーク。おまえ、俺と同じヒューマンだろ?」

「ひゅ、ヒューマン? えと……アユミと同じって……普通の人間ってことか?」

「…………」

 ……疑問が確信に変わった。
 ルークは、俺たち種族のことを知らないらしい。

「え~……どういうこと~?」

「……ヒューマンしか、知らない?」

「ヒューマンという単語自体知らないからな。多分……そうだと思う」

「し、しかたないだろ!? ヒューマンとかセレスティアとか、見たことも聞いたこともないし!」

「ないって……」

 常識を知らないってどういうことだ?
 この世界では当たり前なことを……。

「……なあ、ルーク」

 ここで今度はブロッサムが片手を上げた。

「おまえさ……いったいどこから来たんだ?」

「はっ?」

「あ?」

 え。何ソレ。どういうこと?

「えーっと、ブロッサム。それはどういう意味?」

「いや、だって……俺たちのこと知らないし、ライラをヒューマンと勘違いしてるし、何より知らないのは“この世界”のことで“自分自身”じゃないだろ? ……だからもしかして……」

「もしかして……何?」

 非常に言いにくそうな表情で、けど意を決したか、言葉を続けた。

「ルークって……違う世界の人間……なのかなーって……」

「…………」

 部屋にブロッサムの言葉が静かに響いた。
 そしてそれを聞いた俺たちは沈黙に陥る。

「……ブロッサム~。いくらなんでもそれは~……」

「それは……信じられない?」

「いや、それは自覚してるけどさ。けどそっちの方がいろいろとつじつまが合うっつーか……」

「ブロッサム」

 二人の視線にしどろもどろになるブロッサムの肩を掴み、俺は一言。

「もう面倒だからそれでいこう」

「面倒って何!!?」

「つー訳でルーク。おまえの世界についていろいろと教えてくれ。あと、おまえの死んだ原因もできれば。こっちも必要最低限のことは教えるから」

「あ、ああ」

「聞けよ!!」

 ガタガタ騒ぐブロッサムを無視し、ルークに説明を頼んだ。
 だってこれ以上議論しても意味ないからな←

 ――――

 とりあえず平静を保ち、ルークの話を聞いてみたが……。

「……予想以上にぶっ飛んだな」

「ああ……というか、途中着いていけなかったか、シルフィーとライラが寝ちまったんだけど」

「ご、ごめん……俺、説明下手で……」

「いや、べつにいいけど」

 ソファで猫のように丸まって眠る二人に毛布をかけながら、ルークの話を脳内で整理し始める。
 ルークはオールドラントと呼ばれる世界にいたこと。
 その世界には一から七まで属性が分かれた音素フォニムと呼ばれるエネルギーと、身近に預言スコアという予言があること。
 預言による戦争や、世界を滅ぼし&再生紛いなことを企む一派を、ルークとその仲間が阻止したこと。
 ルークが第七音素セブンスフォニムによって作られるレプリカという存在で、ローレライという奴を解放後、消滅した。はずだったということ。

「なんつーかな……やっぱアレだな。予言とかは撲滅すべきだな。くだらない結果しか招かん」

「って、そうじゃなくて!! いや、俺も思ったけどさ!」

「わーってるよ」

 ツッコミを入れてきたブロッサムにうるさそうに返事を返しながら、ため息ついて続ける。

「過去にいろいろあったのは良くわかった。けど大事なのは、今のルークだ。そしてこの幽霊状態をどうにかするかだ」

「わかってるならいいけど……」

 さすがに疲れたか、もう何も言いたくなさそうなブロッサム。
 それを無視し、再びルークについて考える。

「そもそも、なんで幽霊状態なんだ? ルークの話通りなら、レプリカは死ねば音素となって消える……んだよな?」

「それは間違いないんだ。……見てきたのもあるし」

 辛そうに、泣きそうなのを我慢したような顔でつぶやいた。
 ……誰かいたんだな。そういう奴。

「魔法関係はそんな得意じゃないからな……ブロッサムはどう見る」

「お、俺か? ……んー」

 あいにく魔法は苦手なんだ。
 そう心の中でつぶやきながら、ブロッサムに問い掛ける。

「……あくまで仮説だけど。音素って言うのが薄れているから、半ば幽霊になっちまった、んじゃないか? 実際、ルークから魔力っぽいのを感じるけど、ホントに極わずかだし」

「かろうじてルークを構成しているだけ。何とか魔力が集まってるって感じか。……となると、問題はどうやってルークを具現化するか。そしてルークの今後だな」

 ブロッサムと意見を交えながら、ルークに触れてみる。
 触れるが、あまり感覚を感じない。袋越しの空気を触ってる感じだった。

「具現化はロアに頼んだ方がいいんじゃないか? あいつならなんでも出来そうだし……住まいとかは校長がいいだろ。俺ら学生だし……」

「……そうするしかない、か」

 魔王とやり合った冒険者って言っても、俺らはまだ学生だもんなー。
 ましてやルークはこの世界のことを知らないし。

「んじゃ、それでいくか。……もういい加減眠くなってきたし」

「……そういや、もう四時半だしな」

 うわ、完璧寝不足だ。
 ずっと起きてたからな……。

「ルーク。悪いが七時半になったら起こしてくれ」

「わ、わかった。七時半か」

「悪い……頼む……」

 もう限界突破だ。
 ルークに目覚ましをお願いしてから、俺とブロッサムもズルズルと床に横になった。


 最初の来訪者

 ――――

(眠い……)

(くー……)

(よく寝てるなー……にしても、異世界、か……)
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