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英雄VS魔女

 ――――

 アユミSide

『何と言うことでしょうか。開始わずか10分でブロッサムが何と5ポイントも獲得してしまいました。この差は大きいです』

 校内放送で校長が実況してきた。
 ブロッサムの奴……どんだけラッキー発揮しまくってんだ?

「コレ、俺たちが何もしなくても勝てるんじゃね?」

 ブロッサムの幸運力はハンパないからなー……。
 ある意味一種の才能だろ。

「何せ、こんな無茶苦茶な借り物競争で5ポイントだもんなー」

 そうつぶやきながら、俺はメモを再確認する。

『セルシア=ウィンターコスモス』

「明らかに悪意的な何かを感じるんだけど。つーかこの筆跡って明らかに校長だろ」

 あの校長なら、占いとか預言とかできそうだし。
 絶対何か企んでるに違いない。

「まったく……」

 まあ負けるのも癪だから探すけど。何かあれば叩けばいいし←

「ふぅ……あ」

 そうつぶやいて前を向けば、見慣れた悪魔と天使。

「ブロッサムにザッハトルテ」

「おお! アユミなのだ!」

「おまえか……」

 やっぱブロッサムとザッハトルテか。
 何やってんだ、こんなところで。

「何やってんだよ」

「いや、俺も会ったばかりなんだけどな……」

「うむ。私も探し物の途中だぞ」

 答える二人。
 ……けど気のせいか? ブロッサムが異様に疲れてないか?

「おい、大丈夫か?」

「ああ……まあな、うん……」

 ……もしかして、おまえも何か無茶を?

「何を探してるんだ、おまえら。そしておまえは何を二つ見つけたんだ」

「……神の剣とディアボロスタイプのペット」

「……それ、新手の虐めか?」

 借り物競争に神の剣は無理じゃね? ペットも対象にしていいものか? いや、それ言ったら人物もそうだけど。
 後者はともかく、前者はホントよく借りられたな……。

「……おまえのラッキーがなかったら無理だな」

「まったくだ。神の領域まで踏み込むとは……」

「…………」

「……で。今度はなんだ」

「……エイリークの血斧」

「「…………」」

 もはや疲れ切った表情で語るブロッサム。
 ……なんつーか……ご苦労様←

「……ざ、ザッハトルテは、10分も何を探しているんだ」

「私はこれだ」

 ザッハトルテにメモを渡される。
 広げてみると、書かれてた内容は『本(武器)』。

「……は? 本?」

 え、何この拍子抜けな内容。
 というか10分探して見つからないって……。

「……ザッハトルテ」

「なんだ?」

「……おまえ。いったい何の本を探してんだ」

 念のため聞いてみる。
 名前は書いてないから、べつに何でもいいはず。
 魔術系学科を当たれば一人くらいいるはずだ。

「何って……本と言えばネクロノミコンなのだ!」

「何故それ!!?」

 即座にブロッサムのツッコミが飛んだ。
 ツッコミはしなかったが、俺も脱力感と頭痛がしている。

「なんでわざわざ自分から難易度アップしてんだよ! 本なんてもっと他にあるだろ!?」

「他? 他の本とは……黄衣の王やヘルメスの緑柱板とかか?」

「なんで全部宝箱限定のアイテム!?」

 たしかに持ってる奴は少ないと思うが……まあ俺はつっこまない。
 迷ってうろうろしている間にポイントゲットさせてもらうし←

「まあアレだ。見つかるように頑張れよー」

「ハッハッハッ!! もちろんなのだ!」

 そう言って「サラバなのだ!」とザッハトルテは駆けていった。
 俺と、何とも言えない顔のブロッサムを残して。

「……大丈夫かよ、あいつ」

「まあポジティブにいきゃ、一個くらいは見つかるんじゃね? つーか俺らも探さないと。逆転されてもおかしくない点数だから」

「ああ……」

 事実だし、ツッコミきれないからな。
 疲れきったブロッサムの腕を引っ張り、さっさと次のターゲットを発見しないとな。

 ――――

 とりあえずブロッサムと行動し、セルシアとエイリークの血斧を探してみる。
 普段は頼んでもいないのに現れるくせに、こういう時に限って姿を表さないってなんでだよ←

「まああれからポイント加算の放送はないから、多分全員探すのに苦戦中なんだろうけど」

「……変な物に当たってたり、ボケてなきゃいいけどな」

 言うなよ……否定できないんだから←

「……あ。先輩?」

「「ん?」」

 呼ばれたので振り返ってみると、背後からライトがメモを片手に駆け寄ってきた。

「よ。ライト」

「ライトもまだ探し中か?」

「はい……片っ端から声をかけていますが、見つからなくて……」

 ライトも相当参っているらしいな。
 ……まあたしかに、学院内といえ、持ってる奴に当たるかどうかは運次第……。

「……ちなみにライト。おまえは何を探してんだ」

 聞いてみた。
 ……何と無く嫌な予感がしたから。

「私ですか? 私はししゃもです。武器の」

「ああ、ししゃもか……っておまえもレアアイテム!?」

 一瞬スルーしかけ、すぐにブロッサムが慌ててツッコミを入れた。

「おい、なんでどいつもこいつもレアアイテム探してんだよ。ライト。おまえのメモに何が書かれてたんだ!?」

「え? これですが……」

 言ってライトがメモを見せてくれた。
 ブロッサムと一緒に見る。

『弱い武器』

「いや、そうだけど!!」

 ブロッサムが大声で同意した。

「たしかにししゃもの攻撃力1しか無いけど! レベルいくつ上げても弱いけど! でもだからってししゃも探す必要無いだろ!?」

「……俺も釣竿とか物干し竿とかでもOKだと思うぞ」

 ツッコミ入れるブロッサムに同意しつつ、俺(多分ブロッサムも)は探す物に関してもツッコミたくなった。
 神の剣だのエイリークの血斧だの、ペットだのセルシアだのと無茶ぶりはもちろん、探し物のお題も抽象的過ぎじゃね?

「あ! せんぱーいっ!」

 ツッコミに息を切らしているブロッサムに(心の中で)ご苦労様と言っておくと、今度はツヅカが現れた。
 どういうわけか、白目剥いて気絶しているジークことジークムントを引きずって。

「ちょっとツヅカ!? どうしてジーク先輩を……」

「だってボクの探し物がジーク先輩だったから。それで腹に一撃与えてズルズルと」

「いや、なんでジークが探し物なんだよ。ジーク連れて来いって書いてあったのか?」

 説明したツヅカのメモを引ったくり、内容を見る。

『特攻する者』

「ああ、たしかに!!」

 同じくメモを見たブロッサムが、先程同様同意した。

「たしかにあいつはレオと一緒に特攻して魔王にやられそうだったけど!! つーかこの借り物競争のお題、絶対変だろ!? これ完全に連想ゲームみたいじゃねーか!!」

 ブロッサムのツッコミがシャウト状態になっている。
 さすがツッコミストのNo.1←

「あとアイテムだけじゃなくて、動物やモンスターも対象みたい。実際ミラが探してます」

「それは借り物競争の題材にしていいのか!!?」

「あ、ちなみにミラの探し物は炎王牙ジャバカです」

 サラっと言ったライトの付け足しに「ジャバカ!?」とますますブロッサムの目が見開いていく。

「おい、それはヤバすぎだろ! なんでキルシュのペットも借り物競争の対象に入ってんだよ!!」

「どうやら借り物競争のメモは、プリシアナ学院の全生徒とアユミ先輩たち除く31英雄の持ち物が書かれているそうです」

「ライト、そこにセントウレア校長とロアも付けとけ」

「どーでもいいわ!! んなこたあ!!」

 俺たちの会話にブロッサムがシャウトツッコミを入れてきた。
 相変わらずツッコミの性は抜けないわけだ。

「どーすんだよ! キルシュのペットの凶暴性は全員知ってんだろ? このままだと襲われちまうだろうが!!」

「先輩、大丈夫です! どうやら借り物対象のモンスターたちはいつもと違って、ボクたち参加者八人だけを襲います!」

「なおさら悪いわ!!」

 ヒートアップしたツッコミでブロッサムが続ける。

「それ、俺たちに死の宣告与えられたもんじゃねーか!! ってか何? モンスターって他にもいるの!?」

「はい。ヴィナスダイトラップとか紅き聖獣とか」

「あ! さっき自我を喰らいし者とかニワカームとかもいましたよ!」

「完全にモンスターハンターの間違いじゃねーかァァァァァァッ!!!」

 うわ、ブロッサム荒れてるな。
 まあ、全部ボスクラスモンスターだからしかたないけど。

「どうすんだよ! ヴィナスダイトラップとかはまだ何とかなるけど、異界の神軍団は個人じゃ相手に……」

 訴えるように叫び、ブロッサムが被りを入れた直後。

『ここで加算です。ザッハトルテチームのミラさんが、炎王牙ジャバカを倒して連れてきました。単独でこの強さ……10ポイント贈呈です』

『セントウレア様。ライラがインハンダーを仕留めたと報告が』

『校長! さっきシルフィーがレブルを持っていったよー!』

『ありがとうございます、ネメシア。レオノチス君。……というわけで、アユミチームは英雄ハンデで一体につき5ポイント。合計10ポイント加算です』

「あいつら仕留めたァァァァァァッ!!!」

 ブロッサムのツッコミが叫びとなって辺りに響いた。

「よく仕留められたな。さすが」

「いや、先輩。さすが、の一言で片付けないでくださいって!」

 ライトにツッコミを入れられた。
 だって他に何が言えると?

「まあアレだ。メモを取らない限りは出くわしても戦わなくていいだろ」

「そうだけど……しかし誰だよ。異界の神をメモに書いた奴は」

 ……そこはつっこまない方がいいと思うぞ。絶対。

「……んじゃ、そろそろ馬鹿話はやめて、借り物競争の続きと行きましょうぜ」

「そうする……。というか、俺もう、ツッコミ疲れてきた……」

 ブロッサムががっくりと肩を落としながら頷いた。まああれだけガンガンツッコミ入れればな←

「そうですねー。じゃあ先輩! また後で!」

「あ……じゃあ私も行きます」

 ツヅカもジークを引きずり、ライトも探しに出発した。
 ……見つかるのか、あいつら。

「点数も思いっきりバラバラだし。こりゃ、ガチで攻めていかないと負けるな」

「みたいだな……コレもうなんでもありだろ」

「まあツッコミを入れない限り、永遠にボケが続くからな。俺らの場合」

「カオスの極みだもんな……」

 ブロッサムが負のオーラをドロドロと出しながらため息をついた。
 まあ俺もここまでみんながボケるとは思わなかったけどな……。

「俺らも行くか。なんか、こう……まずい事態に逢う前にな」

「不吉な預言をするな!!」

「大丈夫大丈夫。そんな簡単に当たらないって」

「どうなっても知らないからな……」

 心配性だなぁ、ブロッサムは。
 大丈夫だよ。きっと。絶対……。……多分……←

 ――――

 そのあとは、何故かエイリークの血斧を持っていたセルシアを見つけ(絶対ブロッサムのラッキーパワーのおかげだ!)、同時に得点を手に入れた。
 そこからはメモ越しによる大量のボケをさばきつつ借りて、点数を上げていった。
 だがやはり相手も強力で、上げては追いつき、抜かれては追い抜くの繰り返し。要するに同点を保つながら、俺たちはヒートアップしていった。

「まず……あと30分で試合終了だぞ」

「メモも残り少ないしね。時間が来るか、先に取るか取られるかだよ」

「だな……」

 セルシア(連れていってからずっとついて来る)に頷きつつ、借り物を探す俺ら。
 メモも少ないし、このまま行けば順調に終わる。……はずだ。

(……嫌な予感がする)

 俺の本能が、ひしひしとそう感じている。
 理由は二つ。まず一つ。こういう行事ものでは、必ずと言っていいほど、俺たちは厄介事に巻き込まれるから。
 もう一つは……。

「ほ、ほら、来たぞ。バロータ、言ってこいよ!」

「いやだ! アユミとセルシアとフリージアに殺される! ジークが言えよ!」

「そんなことしたらイカリ家に婿入りできないだろ!!」

「おまえが双子妹へ婿入りなんて無いから安心して言ってこい!」

「んだとォォォ!!」

 ……これだ。少し離れた場所の物陰から、ジーク(復活したらしい)とバロータが言い合っている。
 しかも内容からして、絶対ろくでもねぇことに決まってる。

「……おい」

「ああ」

「うん」

 どうやら二人も気づいているらしい。
 目配せ後に頷き合い、二人が物陰に近づいていく。

「おい」

「え……げっ!!」

「バロータ? ねぇ、君、いったい何やっているの? ねぇ、何やってるの?」

「げっ!? セルシア!!」

 二人揃ってビクゥッ! と肩を震わせた。
 そして冷や汗ダラダラの状態で二人を見上げて(しゃがみ込んでいるから)いる。

「おまえら、何やってんだよ。言いたいことがあるならさっさと言えばいいだろ」

「い、いや~……俺は、べつに、そんな……」

「バロータ? ねぇ、僕に隠し事って何? ねぇ、僕とアユミとフリージアに殺されるような事をしたってどういうこと? ねぇ、いったい何をしでかしたの?」

「いや、ちょッ! まず剣をしまって! 剣をしまってください!!」

 怯えるバハムーン二人(バロータは命の危機的な意味で)に問い詰めるセレスティア二人。
 歯切れ悪い二人に、俺もまた二人に歩み寄る。

「おい、エロティックバハムーンズ。おまえら何を隠してやがんだ、コラ」

「あのー。そのコンビ名、恥ずかしいし、つけた覚えも無いんですけど……」

「いいから言えっつってんだろ。その頭の……えーっと角? いや、触角? どっちでもいいか。へし折るぞ、コラ」

 凄みを含めた俺の言葉に、バハムーンズの顔が青ざめた。
 そして互いに目を合わせると、観念したか、バロータが話しはじめる。

「あー、実は……モンスター一体が校内にいるんだよな。しかもでかいの」

「でかいモンスター?」

 ……なんか、急に雲行きが怪しくなってきたんだけど。
 そしてすごく嫌な予感がMAXなんだけど。

「……メモのモンスター以外にも、何か校内に入り込んだのか?」

「そ、そうなんだよ。まあ、その、多分他の連中は知らないみたいだけど」

「知るわけないって。メモのモンスター入れる時に一時的に結界解いたんだから。その隙に入ったみたいだし」

「人事みたいに言うなっつの!」

 ボソッとつぶやいたジークの呟きに、即座にバロータが振り返ってゴンッ! と頭突きをぶつけた。
 即座にジークも額をゴツッ!! とぶつけ合う。

「元はと言えば、おまえがあんな変なのを連れてくるからこんなことになったんだろ!?」

「しょうがないだろ!? まさかプリシアナ学院の塀に大穴開いてるとは思わなかったんだよ! つーか整備のなってない学院にも問題あるだろ!」

「学院だって知らなかったんだよ! だいたいどこで拾ってきたんだよ、あんなでかいの! 捨てろって言われただろ!」

「捨てろってどこに!?」

「おい」

 まったく終わりが見えないために痺れを切らした俺は、両手で二人の触角(って言っていいのか?)を掴んだ。

「まったくわかんねーよ。とっとと答えろ」

「いだだだだッ!!! ちょ、折れる! マジで折れるって!」

「言うから! 言うから離せ! いや、離してください!」

 パッと手を離せば、よほど痛かったのか、二人が頭を押さえながら涙目になっている。
 ……もしかして弱点なのか? バハムーンの。

「……で。いったい何なんだ。事の顛末は」

「……えーっと……」

 ジークが視線をあっちこっちに飛ばしながら答える。

 ――――

 ジークの話によるとだな……。
 ジークはメモの内容に、プリシアナ付近で見つけたというモンスターを書こうとしたが、学院側はもちろん拒否した。
 結局ジークはお題に別のモンスター(ちなみに書いたのは闇竜グルームゴア←)を書いたが、そのモンスターは学院近くのダンジョンに放置したまま忘れ、そしてモンスターは一時的に結界が解かれた学院に入り込んでしまった。
 というわけらしい。

「だからメモにもなくて……。騒ぎにもなってないから、まだ見つかってないと思うんだよな……」

「俺らも、三階から遠目で見て慌てて来たけど、どっかに行ったあとみたいだし……」

 正座で畏縮しているバハムーン二人に、仁王立ちする俺たちの視線が集まる。

「つまり。今もそのモンスターが学院のどこかにいる。……そうなんだね?」

「はい……」

「セルシア様のおっしゃる通りデス……」

「マジかよ……いったいどんなモンスターだよ?」

 ブロッサムが呆れながら聞くと、またもビクッ。とびくつく二人。

「……ド……ン……」

「ド、ン……?」

「全然聞こえねーよ。もっとはっきり言えや」

 小さ過ぎてまったく聞こえない為、指の関節をゴキゴキと鳴らしながら言えば、二人は一つ息を吐き、同時にこう答えた。

「「……ドラゴン……」」

 蚊が鳴くような小さな声。
 だけど俺らには、はっきりと聞こえた。『ドラゴン』と。

「「「……………………」」」

 沈黙に包まれる俺たち。

「ド――ドラゴンンンン!!?」

 沈黙を破ったのはブロッサムの絶叫だった。
 俺とセルシアは叫びはしなかったものの、驚き過ぎて言葉が出てこない状況だ。

「ドド、ド、ドラゴンって……アレだよな? あのドラゴンだよな!? その……竜! バハムーンたちの祖先!」

「そ、そうなんだよ~」

 声がもつれるブロッサムに、ジークが苦笑いでこう付け足した。

「ちなみに、大きさは15メートルくらい?」

「腹回りなんか、50センチくらいかな……」

「いや、デカすぎるだろォォォォォォッ!!!」

 バロータの補足に、ようやく時が凍ってた俺も叫び上げた。

「おい、ふざけんなよ! なんでもっと早く言わなかったんだよ!!」

「だって言ったら怒るどころか殺されるだろ!?」

「当たり前じゃあァァァァァァッ!!!」

 二人の頭を掴み、そのまま減り込ませるほど強烈な勢いで地面に叩き込んだ。
 なんでこんな厄介なことになってるのかなァァァッ!!!?←

「ドラゴンって……あ。でも、異界の神と比べれば――」

「いや、見たことなかったし、多分新種のドラゴンだと思うけど……」

「ジーク、バカ!」

 頭を押さえながら起き出したジークの口を塞ぐが、まあそんなの、すでに遅く。

「……へぇ。新種、か……つまり。実力未知数?」

「「あ、ははは……」」

「そんな敵をプリシアナ学院に入れるなんて――バロータ、ジークムント君? ――ちょっと後でお話しようか?」

「「イィィィヤァァァァァァッ!!!」」

 黒笑顔で剣を構えるセルシアに、二人は泣いて震えるしかなかった。

 ――グォォォ……!!

 その時だ。とてつもなく嫌ーな咆哮、そしてすぐに大勢の悲鳴が聞こえてきたのは。

「な、なあ……今のって……」

「多分出たんだろうね。そのドラゴンが」

 怯えるブロッサムに、至極冷静にセルシアがコメントする。

「……しかたない。こうなったら一つ」

「ど、どうするんだよ」

 フッ、と笑い、そして悲鳴が聞こえたのとは逆方向に向き。

「三十六計逃げるにしかず!」

「はい、捕まえた」

「な――うわぁっ!?」

 全速力でとんずら開始。
 が。しようとしてすぐ、何故か先回りしていたセルシアに捕まった。
 いや、それだけならまだいい。なんで俺、姫様抱きで抱えられてるの!?

「なんだよ! 降ろせよ!!」

「ダメだよ。みんなが困ってるのに、一人だけエスケープは無いんじゃないかな。というわけで行こうか」

「ちょ……降ろせっつのーーーッ!!!」

「せ、セルシア、待てやァァァッ!!!」

 セルシアに強引に連れ去られ、そしてブロッサムも俺たちを追いかけていくのだった。
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