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恋人は誰!?

 あたしは度々思い、叫びたくなります。

 ……本気なら誰と付き合ったっていいじゃない!!

 ――――

「はぁ……♪ 我ながら最高の仕上がりですね……♪」

 矢に塗る、新しく出来上がった薬品を見ながら、恍惚と達成感に浸る私ことライト。
 ちなみに作ったのは毒草とモンスターの毒を毒の魔法で結合させた強力な毒薬です←

「これなら、攻撃力の低さもいくらかカバーできるはず……」

 何せミラとツヅカの攻撃力には(当然)敵いませんし……。
 少しでも工夫をしませんと。

「そうと決まれば早速……」

 矢に薬を塗りましょうか。
 そう思い、棚から数本の矢を取り出した。

「いるか! ライトッ!!」

 その時だ。ド派手に音を起て、扉を破壊しかねない勢いでクレーエパーティが私の部屋に乱入してきたのは。

「な、なんですか、いきなり」

 危うく毒薬を落としそうになりましたが……。
 そんな考えを知らず、クレーエとイヅナが真っ青な顔で私に詰め寄ってきた。

「う、嘘だよな!? あのミラに限って、そんなことないよな!?」

「ミラ殿の噂は真実か!? 嘘なのか!?」

「……ミラ?」

 ミラに噂……? 何の噂ですか?
 どういうことかわからず、一人冷静でいるシズルに視線を向ける。

「ライト……ホントに知らない?」

「知りませんよ。最近新しく薬品作ってたので」

「あー。じゃあ知らないのね」

 納得いった表情で頷くシズル。
 何なんだ、と目を細めると、ありえない爆弾発言を落とした。

「ミラがプリシアナ学院の生徒と付き合ってるって噂なんだけど……ライトも知らないなら確かめられないかあ……」

「……え?」

 その言葉に、私の思考は止まってしまった。

 ――――

「うー……あー……」

 くるくると、何回もパスタをフォークで回す。
 だって、あのミラに恋人って……絶対信じたくない――というか絶対信じられない話だし。

(今まで好意なんて気づかないくらい鈍感なのに、いったい誰が射止めたんだろ……。ってか、そもそもミラから好かれる人物って誰なのです?)

 考えれば考えるほどわからない。
 元々ミラはモテるけど、ミラと恋愛が結び付くことはないんだし……。

「はあ……」

 誰なんだろ……あのミラに好かれる人って。

「あれ? どしたの、ライト。ネガティブゲイト出して」

「あ、ツヅカ……」

 背後から聞き慣れた声をかけられ、何気なく振り返った。

「い゙ッ!?」

「……何よ。失礼ね」

「ご、ごめん。ミラ……」

 慌ててツヅカの隣にいたミラに謝る。
 いや、だって。悩みの原因が目の前にいたから……つい……。

「ライト。前、いい?」

「は、はい! もちろん……」

「あっりがとー♪」

 なるべく自然に振る舞い、二人を前に座らせた。
 ……大丈夫。鈍感なミラと天然なツヅカは気づいていない。

「ツヅカ。アンタ、課題終わった?」

「いちおー。体育のレポートなら楽勝だもん」

「あー。ツヅカならそっか」

 楽しそうに話し合っている。
 特に変わりはない。いつもの二人だ。

(そうだよ……あくまで噂だよ? 本気にするだけ馬鹿馬鹿しいって……)

 きっと何かの間違いだ。見間違いか勘違いだろう。

「……ライト。アンタ、また何か作った?」

「え?」

「何日引きこもってたのよ。ライトを見かけない時って、たいてい薬品作りじゃない」

「あ……ああ! はい、ちょっと……時間かかってしまって……」

 そうだ。そうに決まってる。
 ミラに恋人なんていないですよ。

「少し根を詰めすぎたね。何せ、ミラに恋人がいる、なんてデマがあるくらい……」

 そうです。いるはずが無いのです。
 いるはずが――。

「…………」

 カチャン、と。フォークが皿にぶつかる音が小さく響いた。
 ……ミラの方から。

「……ミラ?」

「ほ、ホントー? うわー、変な噂が発って困るわー!」

「冬ってクリスマスとかあるからね~。何か勘違いしてんじゃないの?」

「そうね! きっとそうよ! ただの間違いよ!」

「うん、うん。ミラに恋人ってありえないし」

「ひ、ひどいなー。ツヅカは、もう!」

 アハハ、と笑い合うミラとツヅカ。

(……いや、明らかに動揺してましたよね、ミラ!)

 天然なツヅカは気づいてなかったけど……ミラは目が泳ぎまくってましたよ!?
 え、嘘。恋人がいるって本当ですか!?

(ミラに、恋人……あのミラに……)

 唖然となって固まってしまった私は、引き攣った笑いで二人と笑うしかないのだった。

 ――――

 プリシアナ学院

(ミラに恋人……ミラに……)

 翌日。昨日のことをまだ引きずる私は、重い足取りで歩いていた。

(いったい誰なんですか……ミラに好かれる人物なんて……)

 うらやましいにも程がある。
 私はミラの事が異性として好き……かどうかはわかりませんが、ミラは可愛いから、誰かに取られるのは嫌だ、という気持ちにはなる。
 何せ仲間の私から見ても可愛いと思いますから。どこの馬の骨とも知れない男には絶対渡しません←

「はあ……」

 どうしましょうか……相手は誰なんですか……。
 そんなことを考えながら、とぼとぼと歩いていた時だった。

「おい」

「は……のごぉ!?」

 横から声をかけられ、向けば何故か蹴りが飛んできた。
 突然のことに対処できず、床に尻餅をついてしまう。

「な、何……」

「うっとーしいため息つきながら歩いてんじゃねぇよ。クソ兄貴」

「なっ……」

 向こうが悪いのに暴言が降ってきた。
 嫌な予感がし、恐る恐る顔を上げる。
 目に映るのは、私たちエルフと同じくらい輝く金髪を持ち、バンダナを額に巻くクラッズ。

「……レイ。もう少し言葉は丁寧に話しなさいって、あれほど……」

「うるせぇ。貧弱なアンタと俺を一緒にするな」

「うぐっ……」

 言い返すが、あまりの口の悪さに逆にダメージを受ける。

(我が“弟”ながら、なんて口の悪い……)

 弟――レイの言葉に、どこで教育が間違ったのだろうと泣きそうになった。
 彼はレイ=セルファン。プリシアナ学院初等部所属。正真正銘、私の弟です。クラッズですけど←
 実は私たちの両親、父はエルフで母はクラッズなんです。結果、生まれた子供は混血児ということです。
 実際私はエルフ族の割に手先は器用な方(ミラいわく)ですし、レイもクラッズ族の中では、割と長身(165㎝)な方ですしね。

「……で。何やってんだよ」

「いえ、クエストでプリントを届けに……」

「あっそ」

「はあ……レイ。ちゃんと勉強しているんですか?」

「してるよ。兄貴に紹介された、あのかてきょー様のおかげでな」

「そっか……ミラ、ちゃんとしてくれてんだ」

 弟の報告に、ちょっとばっかし安堵する。
 弟は12歳で、来年中等部に編入する。その際本格的に学科に分かれるので、アドバイザーとしてミラが家庭教師みたいなことをしています。
 いや、家庭教師っていうか……モーディアル学園のクエストとして、高等部の全員が誰かしらついているけど。
 で、ミラはレイについているというわけです。

「来年から中等部ですからね……レイ。あなた、ちゃんとご飯食べてます? 偏ったりしてません?」

「食ってるよ」

「自炊は?」

「…………。そこそこ上達した」

「…………」

 ふい、と目を反らした。
 拗ねた表情も見せている。

「……せっかくですし、腕前見せてください」

「な、なんでだよ」

「そこそこは上達したのでしょう? なら見てもいいですよね?」

「ぐっ……クソ兄貴め……勝手にしろ」

 悔しそうにそう言って、そのまま寮の方へ歩いていった。
 ため息をつきながら、私も後を追う。

(やれやれ……変わってませんね。この子は)

 レイは知られたくない事がある時、目を反らす癖がある。
 先程の自炊――つまり料理だけ、どういうわけか不器用でまったく上手くならない。目を反らしたということは、まったく上達していない。ということだろう。
 盗賊スキルや知識は初等部トップなのに、いったい何故なのでしょうか←

(……いまさらながら、すごく心配になってきました)

 はたしてまともな食生活をしてるのか……。
 兄として、不安で不安でしかたなかった。

 ――――

 弟の食生活に不安を覚え、部屋へやってきた。

「……レイ。この包丁が刺さったままのカボチャとヒビ割れたまな板は……」

「うるさい黙れ何も聞くな!!」

 で、台所を目にした感想。
 ヒビ割れたまな板の上に丸々とした大きなカボチャがあった。何故か真ん中で包丁が食い込んでいる。
 ……何となく予想はできましたが。

「レイ。カボチャの調理法、ちゃんと勉強しましたか?」

「…………」

「あとこのまな板……まさかとは思いますが、とりあえず切ろうとして切れず固さに癇癪起こして、包丁突き刺したままのカボチャで叩き付けたりしてませんよね? そして叩き付ける際、包丁の方を持ってました?」

「…………」

「レイ。ちゃんと聞いて……」

「あーーー!!! もう一々うるせぇし細けぇんだよ!!」

「……はあ」

 キレた。どうやら図星らしい。
 ……なんでこの子は料理だけ不器用なんですか。
 いや、ツヅカやブロッサム先輩と比べたら遥かにマシ(二人の料理は酷すぎる)ですが……。

「レイ、怒らない。調理法教えますから」

「……チッ」

 納得したか、舌打ちしながらも「早くしろ」と目で訴えてきた。

 子供っぽさのあるその顔に苦笑しながら、カボチャに刺さった包丁を引き抜いた。

 ――――

 なんやかんやで自分が調理方を教える事となり、とりあえず基本のカボチャの煮物を教えることにした。
 これでも私は執事ですから。もちろん料理はできます。薬品調合の次に←

「……結構できるんだな。兄貴」

「料理や菓子作りも、執事学科の必修教科ですからね」

「変な薬品ばっか作る問題マッドサイエンティストのくせにか」

「へ、変って……」

 べつに変な薬品は作ってませんって。
 毒薬とか麻痺薬とか、沈黙薬とかくらいしか←

「事実だろうが。兄貴、プリシアナで変人扱いだったって自覚あるのか?」

「う……否定できませんね……」

 痛いところ突きますね……事実だけに、余計否定できないし。

「実の兄が変人だなんて……俺にして見れば汚点だ、汚点」

「そこまで言いますか!?」

 なんでここまで口が悪いんですか!?
 これ以上ぼろくそ言われる前に、何か……何か話題変えないと……。

「……そ、そういえば、レイ!」

「なんだよ」

「えーっと……ミラに恋人がいるらしい噂があるんですが、何か知ってますか!?」

「…………。は?」

 振った話題に、レイの目が丸くなった。
 ……しまった。話題の選択を間違えた……かも。

「……あ、いや……その……べつに、深い意味はなくて……ただそういう噂があったから、ちょっと気になったって言うか……」

「……なんだよ。散々困ってるとか愚痴言うくせに、兄貴、ミラが好きなのかよ」

「ち、違いますよ!? その……妹……そう、妹みたいに放っておけないって言いますか……」

「何だよ、それ」

 うっ……言い回しが下手だったかな……。
 レイの目に不信感が宿ってる。

「ホントですって! ……確かに、相手は気になりますけど、だからって邪魔するとかしませんし」

「……しないの?」

「ええ。……ミラが幸せなら、それで良いですから」

 自分にそう言い聞かせつつ、呆れ顔な弟にそう告げた。
 これはホントの話。ミラが心の底から幸せなら、私は文句なんて無いんです。

「…………。……それなら、多分大丈夫だから」

「……え? レイ、何か知っているんですか?」

「あ……」

 思わず聞き返せば、何故か「しまった」と墓穴を掘った顔をした。
 ……まさか……相手が誰か、知っている?

「……もう一度聞きますが……レイ、ミラから何か聞いてます?」

「……し、知らない」

 目を合わせないで答える。
 ――やっぱり……。

「レイ「え? うわっ、ライト!?」」

 絶対何か知ってますよね。
 確信持って言おうとした瞬間、驚き混じりの言葉に遮られた。

「よぉ、ミラ」

「ミラ。どうしました?」

「いや、レイに勉強教える約束……っていうか、兄弟揃って何やってんのよ」

「「料理」」

 弟と声が揃った。
 ……こういう時は良く揃うんですよねぇ←

「あ、そう……レイの様子を見にきたの?」

「あ、いえ、これは偶然でして……。あ、すみませんが、味見していただけますか?」

「え? 味見? ちょうだい!」

 本題を突かれないよう、煮込んでいた煮物を小皿に乗せて差し出した。
 案の定、食べる事が大好きなミラはそれを拒否することなく食べはじめる。

「んー、やっぱりおいしい」

「味は調度良いですか?」

「うん。平気。っていうか、ライトってホント料理上手だよね。薬品作りは迷惑だけど」

「うっ……ミラもそれを言いますか……?」

 思わぬダメージが襲い掛かり、軽く心に傷が付きました。
 ……そんなに、私って変人扱いされまくっているんですか……?

「ライト?」

「いえ、大丈夫です……。ミラ。これ全部食べます?」

「いいの? やったぁ♪」

 ぴょんこぴょんこ、と跳ねるミラ。
 かわいらしいので、頭を撫でようと手を伸ばす。

「おい!」

 が、それはレイの手が、怒鳴り声とともに止めた。
 痛いくらい掴まれ、バシッと思いきり払われる。

「なっ……レイ、いきなり何を――」

「うるせぇ!! 用事済んだんならとっとと帰れ!」

「え?」

「いつも愚痴ってるくせに、ミラにちょっかい出すな!」

「はい!?」

 な、なんで急に怒ってるんですか!?
 我が弟ながら、まったくわかりません!

「ちょ、ちょっとレイ!」

「あの、レイ。どうしたんです「言っとくがな! ミラが世界一好きなのは俺なんだからな!!」……え?」

「あ、う……」

 レイの言葉に、思わず固まってしまった。
 横を見れば、ミラが赤くなったり青くなったりと忙しくしている。

(忙しいな……ってそれよりも)

 それよりも、気になる言葉がある。
 だって……“ミラが世界一好きなのは俺なんだから”って……。
 それはつまり、レイはミラが一番大好きって意味で……。

「……まさか……ミラの恋人って……」

「ち、違っ……いや、あの「うるさい! 先に手ェ出したのは俺だから問題無いだろ!」ちょっとレイ! 黙って!!」

 手を出した!? え、嘘? ホントにレイが、ミラの恋人!?

「レイが……ミラと……。レイが……」

「……ライトが壊れた……。――レイのバカァ!! もうちょっとライトには黙っててって言ったのにィ!!」

「ふん。遅かれ早かれ、兄貴には話す気でいたんだ。だいたいミラは無自覚過ぎるんだよ」

「む、無自覚って?」

「……それは……。……とにかく、ミラは俺のものだ!!」

「わかんないんだけど!?」

 混乱する私をよそに、ギャーギャーと言い合う二人。

(よりによって……弟とミラが……?)

 予想外の出来事に、私の許容量が超えたらしい。
 もう完全に頭がパンクし、しばらく石化状態のように固まっているたのだった。


 恋人は誰!?

 ――――

(ばれちゃった……ばれちゃったよぉ……)

(べつにいいだろ、ばれても)

(よくないわよ!!)

 ――――

(レイが……ミラと……よりによって……?)
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