共闘
戦い、競い合い、高め合う仲間たち。
それは素晴らしいもの……だよな?
――――
「――着いたぞ。プリシアナ学院だ」
「はい。……しかし、いつ見ても綺麗な学校ですね」
「まあねー。品行方正の校長や生徒会長のおかげでしょうけど」
「そうだな。三学園中、群を抜いてそう言えるだろ」
「そんなのでいいんですか、二人とも……」
ある日のプリシアナ学院。
学院の校門前で、何やら話し合っている三人がいた。
黒と紺色の制服のヒューマンの男子。その後ろにはピンクと赤の制服を来たノームとバハムーンの女子二人だ。
「さてと……よし行こう、早く行こう、すぐに行こう!」
「慌てンな、カリナ。まずは学院で話を聞くのが先だ」
「学園では噂程度ですからね……。まずは情報収集が先ですよ」
「うー……しかたない! わかったよ」
何やら興奮状態にあるバハムーンの少女……カリナを少年と少女が説得した。
カリナは頷くが、表情はすごく楽しそうだった。
「絶対見つけるわよ……“謎の宇宙人”と言う奴を!」
――――
「ふわぁあ……」
「あふ……」
プリシアナ学院通路。
大きなあくびをしながらも堂々と歩くのは、言わずもがな、俺ことアユミとブロッサムだ。
「二人ともあくびすごいね~。そんなに寝れなかったの~?」
「んー、まあな。ブロッサム、意外と体力あるから、つい……」
「体力ある……寝れないのと、どういう関係?」
「いや、ただの運動だよ。ただし夜の「あーあーあー! 聞かない聞こえないむしろ聞くな!!」」
遠回し気味な俺の発言にも、顔を茹蛸状態にして邪魔してきた。
ひどいな……最終的にはそっちもノったじゃないか←
「……そうだね~。聞かない方が身のためだね★」
「身のため……大人の事情?」
「可愛くねーガキどもめ……」
最近小賢しい知恵を身につけたな……まあいいけど。
「……ん?」
と、その時だった。
俺の耳に、何やら騒ぎ立てる声が入ってきたのは。
「騒ぎ立てる……図書室から?」
ライラもそう思ったか。
疑問符浮かべる男子二人をそれぞれ引き連れ、早速図書室へ向かった。
――――
さすが鍛えた俺の聴覚。
騒ぎはやはり図書室からだ。
怒ると超怖い金髪イケメンクーデレ眼鏡のフリージアがいるはずなのに……なぜじゃ?←
「……聞き慣れない声があるな」
ドア越しに聞こえる声にボソッとつぶやく。
それに三人も思わず聞き耳を立てた。
「……たしかに聞き慣れないな。誰だ?」
「聞き慣れない声……プリシアナ以外の人間?」
「学校だから、そんなのしょっちゅうだけどね~」
「というかフリージアは? これだけ騒いで放置って……」
「フリージアは今日、執事学科の授業に出てるぞ。代わりにいるのは……確か、リーロ先生だったと思う」
「……なるほど」
じゃあ無理だな← 8割近くはやる気のなさで出来てるような教師だし。
「……しかたない。ちょっと中を見てみようか」
「は? ちょ、ま……」
好奇心以外何物でもない感情で中を覗き見ることを決めた。
それで動くか? 動きますよ、俺様はな!!←
「という訳で、早速「よし、しゅっぱーつッ!」がふぁ!!?」
と思った矢先、扉が開いて顔面にぶつかってしまった。
ってか誰!? すげぇ痛いんだけど!!
「あれ? 今、何か激突したような?」
「ようなじゃねぇ! ガチでブチ当たっとるわ!! とんでもない馬鹿力でな!」
開いた扉をぶっ壊す勢いでさらに開けた。
壁に叩き付けた瞬間、バキッ! と音がしたけど気にしない。
だって俺の顔面の方がめちゃくちゃ痛い!! それはもう、目から火花がチカチカするほどに!
「あ、ごめん。見てなかった。ってか、それより私、急いでんだけど」
「な・ん・だ・と!?」
目の前にいるのは、モーディアル学園の女子制服を着たバハムーンの女。
そいつの発言に、もはや俺の怒りはリミットブレイク寸前だ。
「どうしたんです?」
「見たところ、カリナが何かやらかしたみたいだがな」
俺と目の前の……カリナって奴の騒ぎに気づいたか、カリナの後ろからまた二人が現れた。
ノームの女子とヒューマンの男子。どちらもモーディアル学園の制服を着ている。
「あ。イクミ、ライ」
「悪かった。コイツ、少し大雑把なところがあるからな」
「何よ。人をトラブルメーカーみたいに言って」
イクミ、と呼ばれたヒューマンの男子が無表情(呆れも見える)で言うと、言われたカリナは唇を尖らせた。
そんな彼女に「実際そうだろ……」と、今度ははっきりと呆れた顔でため息をつく。
「すみません。怪我はありませんか?」
申し訳なさそうに謝るのはノームの女子。多分、彼女がライだろうな。
「いや。顔面はまだひりひりするけど、それだけだし」
「そうですか。よかった……」
俺に怪我がないとわかったからか、安心したようにホッとした。
……いい子だよ、アンタって←
「なんだ。見た顔だな、って思ってたらおまえらか」
すると図書室のカウンターから、本を読むリーロ先生が声をかけてきた。
いやいや……もう少し真面目に働こうぜ? 完全に給料ドロボーだろうが!!
「リーロ先生。知ってるんですか?」
「同じ学校だから当然……あ、そうだ」
イクミの質問に頷き、だが俺らを見て、リーロ先生は閃いた的な表情を見せた。
……あれ? なんか、嫌な予感が……。
「“例の件”なんだか……それ、そいつらに手伝わせてくれ」
『……は?』
俺、ブロッサム、シルフィーの声が重なった。
それを気にせず、リーロ先生は続ける。
「こっちの方が俺以上に暇だろうからな。戦闘力も探索力も高いから役立つぞ」
「役立つって……というか、何勝手なことを言ってやがんだ!!」
ハッと我に返り、好き勝手ぬかす猫教師に怒鳴った。
だって話が見えないのに、いきなりそんなこと言われましてもなあ!?
「何カリカリしてんだ。暇なのは事実だろ?」
「事実とかそういう問題じゃなくって……」
「ふーん。先生が言うんなら……アンタたち、手伝いなさい」
「おまえもか!!」
リーロ先生に便乗するように頷き、カリナが俺に指さして言った。
どんだけフリーダムなんだ、おまえら!
「ダメだこりゃ……カリナの悪い癖が始まった」
「他人も身内も巻き込むことを気にしませんからね……」
後ろからイクミとライの話し声が聞こえ、さらに俺の頭がフリーズする。
「んじゃ、頑張れよ」
「はーい。という訳でよろしく」
「うぉぉぉおおおいッ!!!」
フリーダム過ぎるわ、こいつらぁぁぁぁぁぁッ!!!
――――
ブロッサムSide
「……えーっと。まずは状況を説明してくれるか?」
図書室の一件後、とりあえず全員を引き連れて談話室へ。
……じゃないと、アユミが図書室で大暴れするからな←
「説明か……まずは何から説明すればいい?」
「んー……ここは定番中の定番、自己紹介じゃないかな~? 知ってるの名前だけだし」
「名前だけ……それだけじゃ、不安?」
「そうですね。まずはお互いを知るところから始めましょうか」
妖精霊コンビの一言に、ライって言うノームの女子が頷いた。
そして、ライとカリナの視線がイクミに注がれる。
「……おい」
「だってリーダーじゃない」
「お願いするのはこっちですから、まずは代表から挨拶するのが筋ですよ」
「…………」
ぐっ、と悔しそうにしつつも、反論できないか、一つため息をついて俺たちに向き直る。
「……イクミだ。モーディアル学園所属で、学科は侍と忍者。……よろしく」
「私たちのリーダーですよ。とっても頼りになるんです」
「余計なことは言うな、ライ」
ニコニコと笑うライに、イクミが照れ臭そうにそっぽを向く。
俺らには無表情だったが……仲間には表情を出すタイプか。
「ボクはライって言います。同じくモーディアル学園所属で、灰色魔術師とメイド学科に所属しています」
「ん……よろしく?」
「はい、こちらこそ」
ニコニコと笑みを浮かべながら、礼儀正しくぺこりと頭を下げる。
独特の口調のライラにも笑顔で接するのもあって、なんだか同じノームとは見えない(俺らがライラと長くいるだけかもしれないが……)。
「最後に私ね。私はカリナ。竜騎士と姉学科に所属しているわ。仲良くしてよね」
「人様巻き込んでおいて言うセリフか」
「アユミちゃん、どうどう」
俺の後ろで、巻き込まれたことにイライラ気味のアユミがイワシの串焼きをやけ食いしながらつぶやいた。
それをシルフィーが氷の壁を張りながら、横からなだめにかかってる。
……下手に手ェ出すと、逆にこっちに火花が飛ぶからな。うん。
「で、アンタたちは? なんて名前なの?」
「ホントに気にしてないんだな……巻き込んだ相手とか。……俺はブロッサム=ウィンターコスモス。白魔術師とアイドル学科だ」
思わずツッコミを入れつつも名乗り出る。
それを聞くと、俺の両脇に気配が二つ。
「……ライラ。格闘家と普通科に所属」
「ボクはシルフィネスト=オーベルデューレ。長いからシルフィーでいいよ~。灰色魔術師で、とりあえず今は殿様学科所属中」
「……“今は”……?」
「前に受けてたサブ学科が無くなっちゃってね~。だから試験的な意味でいろいろ模索中なんだ~」
首を傾げるカリナも納得したか、「なるほど」と両手をパチンッ、と合わせた。
納得していただいたところで、俺と両脇のコンビは、くるりと顔だけ後ろに向ける。
「……ほら。おまえもやれって」
「……わーってるよ」
俺に言われて不服そうにしつつも、アユミも三人へ顔を向ける。
「アユミ=イカリ。侍と盗賊学科専行。ちなみに俺がリーダーだ。ま、よろしく」
「……ああ」
ちらちらと苛立ちは見えるが……よし。大分落ち着いてきたな。
これならもう少しで治まるかも……。
「……それで~。そろそろ話を戻すけど~。三人は何しにここにきたの~?」
「ふっふっふっ……。よく聞いてくれたわね、そこのフェアリー君!」
シルフィーが聞いて見ると、カリナが何故かドヤ顔で、両手を腰に当てて立ち上がった。
「私たちはね、学者も驚く超不思議な生き物……ずばり!“謎の宇宙人”の有力情報を求めてやってきたのよ!!」
『…………』
カリナの素晴らしく良い笑顔で言った発言に……思わず俺たちは固まってしまった。
え。何、それ。どういうこと?
「……カリナは宇宙人やお化けの類いを信じてる奴だから」
「信じてる……今回、それが原因?」
「えっと……詳しく説明しますと、ボクらの学校――モーディアル学園では、いろいろな噂話か飛び交いまして……」
「噂……?」
苦笑気味のライにたずねると、「はい」と頷く。
「三大陸から新入生が入学するせいか、そこからいろんなお話が入ってくるんです。……それで、ですね。少し前にプリシアナ大陸出身の生徒が、とある話を持ち出してきまして……」
「え……。プリシアナの……?」
……なんだろう。今、とてつもなく嫌な予感がしてきた。
それはどうやら後ろの三人も同じく、どこか表情が強張ってる。
「……あの、さ。その噂話って、カリナの言う謎の宇宙人とやらに関係あるのか?」
恐る恐る聞いてみれば、カリナは「そうよ!」と、超笑顔で言った。
「その人はプリシアナ学院の現二年生から聞いたそうよ。……『プリシアナ学院の伝説の生徒が、謎の黒いタコみたいな生命体と接触した!』……ってね」
『…………』
――この瞬間、俺たち四人の心はシンクロしたに違いない。
ああ……やっぱりか。……ってな←
「その先輩ってプリシアナ学院に在籍中で、数々の伝説を作ってるらしくてね。だからその人捜して、何か話が聞けないかな~って」
「ボクたちはカリナに付き合わされまして……。まあ、伝説の先輩って方に興味があるのは確かですが。……ですよね。イクミ」
「……まあ、な」
二人も、後半は否定しなかった。
目的はそれなりに一致してるからかな……できれば止めてほしかったが……。
「……で。話は戻すけど、『伝説の先輩』って人、何か知らない?」
「あー……それは……」
話を振られ、三人に目を向ける。
……が、シルフィーは笑うだけ。ライラは無表情のまま目を合わせない。アユミに至ってはすでに俺から顔を背けていた。
……反らす理由は多分……。
(それ……絶対俺たちのことだよな……?)
……多分、これだ。
おそらくカリナの言う『謎の黒いタコみたいな生命体』とやらは、『学びの終わりを夢見る落し子』のことだろう。黒いタコみたいな、の時点できっとそうだ。
……ってか、いったいどこから流れたんだ、その情報!
(……いや、この際それはどうでもいい。……俺にどうしろって言うんだよ!)
これだ。だってさ、これ完全に俺に丸投げしてるよな?
絶対俺が何とかしろ的な話だよな!?
「お、おい……」
『おまえに任せた』
『適当にごまかそ~』
『……グッドラック?』
それぞれに目だけを動かして見ると、三人はカンペ(イクミたちに見えないように)を出していた。
いや、おい! どんだけ無気力なんだよ!? 俺が何言ってもいいんだな!?
「ねぇ、知ってるの? 知らないの?」
「……し、知らない、な。はい……」
「……ホントに知らないの? 同学年なのに」
「は、はは……」
痛いところ突くな……。どうしよう……。
「ですがカリナ。相手がそんなすごい方なら、きっと忙しいと思いますよ? いきなり会うのもどうかと思いますし」
「……だな。おまえ、あれが出現したダンジョンにも行きたいんだろ」
「当たり前じゃない。よくわかったわね」
「ったく……当たり前だ」
イクミとライに言われ、カリナの顔が不満げな表情となった。
……けど俺としてはありがたい。よし。そのまま諦めて……。
「じゃあダンジョンだけでも行ってみるか? 場所は知ってるぞ。多分何もないだろうけど」
「乗ったわ!」
アウトォォォォォォッ!!!
なんでそこで面倒に巻き込むんだよ、アユミーーーッ!!!
「……いいのか?」
「どうせ俺ら暇だし。何かあったら責任は押し付けたリーロ先生のせいで」
「話がわかるわね。アンタ」
「……元はカリナのせいだろう」
アユミとカリナが結託したせいか、すでに話はまとまりつつある。
……なんでこうなるんだよ。おい。
「あの……すみません。こちらのせいで……」
「……もういいよ。ライは気にしなくていいから」
俺の心を察したか……いや、表情に出てたか?
申し訳なさそうに謝るライに、放心気味になりながらも気にしないよう伝えた。
「そうだな。一々気にしたら身がもたない。人間、諦めが肝心だ」
「おまえが言うな!!」
誰が元凶だと思ってんだ!!
無駄だと思うが、アユミには噛み付く勢いで怒鳴るしかなかった。
それは素晴らしいもの……だよな?
――――
「――着いたぞ。プリシアナ学院だ」
「はい。……しかし、いつ見ても綺麗な学校ですね」
「まあねー。品行方正の校長や生徒会長のおかげでしょうけど」
「そうだな。三学園中、群を抜いてそう言えるだろ」
「そんなのでいいんですか、二人とも……」
ある日のプリシアナ学院。
学院の校門前で、何やら話し合っている三人がいた。
黒と紺色の制服のヒューマンの男子。その後ろにはピンクと赤の制服を来たノームとバハムーンの女子二人だ。
「さてと……よし行こう、早く行こう、すぐに行こう!」
「慌てンな、カリナ。まずは学院で話を聞くのが先だ」
「学園では噂程度ですからね……。まずは情報収集が先ですよ」
「うー……しかたない! わかったよ」
何やら興奮状態にあるバハムーンの少女……カリナを少年と少女が説得した。
カリナは頷くが、表情はすごく楽しそうだった。
「絶対見つけるわよ……“謎の宇宙人”と言う奴を!」
――――
「ふわぁあ……」
「あふ……」
プリシアナ学院通路。
大きなあくびをしながらも堂々と歩くのは、言わずもがな、俺ことアユミとブロッサムだ。
「二人ともあくびすごいね~。そんなに寝れなかったの~?」
「んー、まあな。ブロッサム、意外と体力あるから、つい……」
「体力ある……寝れないのと、どういう関係?」
「いや、ただの運動だよ。ただし夜の「あーあーあー! 聞かない聞こえないむしろ聞くな!!」」
遠回し気味な俺の発言にも、顔を茹蛸状態にして邪魔してきた。
ひどいな……最終的にはそっちもノったじゃないか←
「……そうだね~。聞かない方が身のためだね★」
「身のため……大人の事情?」
「可愛くねーガキどもめ……」
最近小賢しい知恵を身につけたな……まあいいけど。
「……ん?」
と、その時だった。
俺の耳に、何やら騒ぎ立てる声が入ってきたのは。
「騒ぎ立てる……図書室から?」
ライラもそう思ったか。
疑問符浮かべる男子二人をそれぞれ引き連れ、早速図書室へ向かった。
――――
さすが鍛えた俺の聴覚。
騒ぎはやはり図書室からだ。
怒ると超怖い金髪イケメンクーデレ眼鏡のフリージアがいるはずなのに……なぜじゃ?←
「……聞き慣れない声があるな」
ドア越しに聞こえる声にボソッとつぶやく。
それに三人も思わず聞き耳を立てた。
「……たしかに聞き慣れないな。誰だ?」
「聞き慣れない声……プリシアナ以外の人間?」
「学校だから、そんなのしょっちゅうだけどね~」
「というかフリージアは? これだけ騒いで放置って……」
「フリージアは今日、執事学科の授業に出てるぞ。代わりにいるのは……確か、リーロ先生だったと思う」
「……なるほど」
じゃあ無理だな← 8割近くはやる気のなさで出来てるような教師だし。
「……しかたない。ちょっと中を見てみようか」
「は? ちょ、ま……」
好奇心以外何物でもない感情で中を覗き見ることを決めた。
それで動くか? 動きますよ、俺様はな!!←
「という訳で、早速「よし、しゅっぱーつッ!」がふぁ!!?」
と思った矢先、扉が開いて顔面にぶつかってしまった。
ってか誰!? すげぇ痛いんだけど!!
「あれ? 今、何か激突したような?」
「ようなじゃねぇ! ガチでブチ当たっとるわ!! とんでもない馬鹿力でな!」
開いた扉をぶっ壊す勢いでさらに開けた。
壁に叩き付けた瞬間、バキッ! と音がしたけど気にしない。
だって俺の顔面の方がめちゃくちゃ痛い!! それはもう、目から火花がチカチカするほどに!
「あ、ごめん。見てなかった。ってか、それより私、急いでんだけど」
「な・ん・だ・と!?」
目の前にいるのは、モーディアル学園の女子制服を着たバハムーンの女。
そいつの発言に、もはや俺の怒りはリミットブレイク寸前だ。
「どうしたんです?」
「見たところ、カリナが何かやらかしたみたいだがな」
俺と目の前の……カリナって奴の騒ぎに気づいたか、カリナの後ろからまた二人が現れた。
ノームの女子とヒューマンの男子。どちらもモーディアル学園の制服を着ている。
「あ。イクミ、ライ」
「悪かった。コイツ、少し大雑把なところがあるからな」
「何よ。人をトラブルメーカーみたいに言って」
イクミ、と呼ばれたヒューマンの男子が無表情(呆れも見える)で言うと、言われたカリナは唇を尖らせた。
そんな彼女に「実際そうだろ……」と、今度ははっきりと呆れた顔でため息をつく。
「すみません。怪我はありませんか?」
申し訳なさそうに謝るのはノームの女子。多分、彼女がライだろうな。
「いや。顔面はまだひりひりするけど、それだけだし」
「そうですか。よかった……」
俺に怪我がないとわかったからか、安心したようにホッとした。
……いい子だよ、アンタって←
「なんだ。見た顔だな、って思ってたらおまえらか」
すると図書室のカウンターから、本を読むリーロ先生が声をかけてきた。
いやいや……もう少し真面目に働こうぜ? 完全に給料ドロボーだろうが!!
「リーロ先生。知ってるんですか?」
「同じ学校だから当然……あ、そうだ」
イクミの質問に頷き、だが俺らを見て、リーロ先生は閃いた的な表情を見せた。
……あれ? なんか、嫌な予感が……。
「“例の件”なんだか……それ、そいつらに手伝わせてくれ」
『……は?』
俺、ブロッサム、シルフィーの声が重なった。
それを気にせず、リーロ先生は続ける。
「こっちの方が俺以上に暇だろうからな。戦闘力も探索力も高いから役立つぞ」
「役立つって……というか、何勝手なことを言ってやがんだ!!」
ハッと我に返り、好き勝手ぬかす猫教師に怒鳴った。
だって話が見えないのに、いきなりそんなこと言われましてもなあ!?
「何カリカリしてんだ。暇なのは事実だろ?」
「事実とかそういう問題じゃなくって……」
「ふーん。先生が言うんなら……アンタたち、手伝いなさい」
「おまえもか!!」
リーロ先生に便乗するように頷き、カリナが俺に指さして言った。
どんだけフリーダムなんだ、おまえら!
「ダメだこりゃ……カリナの悪い癖が始まった」
「他人も身内も巻き込むことを気にしませんからね……」
後ろからイクミとライの話し声が聞こえ、さらに俺の頭がフリーズする。
「んじゃ、頑張れよ」
「はーい。という訳でよろしく」
「うぉぉぉおおおいッ!!!」
フリーダム過ぎるわ、こいつらぁぁぁぁぁぁッ!!!
――――
ブロッサムSide
「……えーっと。まずは状況を説明してくれるか?」
図書室の一件後、とりあえず全員を引き連れて談話室へ。
……じゃないと、アユミが図書室で大暴れするからな←
「説明か……まずは何から説明すればいい?」
「んー……ここは定番中の定番、自己紹介じゃないかな~? 知ってるの名前だけだし」
「名前だけ……それだけじゃ、不安?」
「そうですね。まずはお互いを知るところから始めましょうか」
妖精霊コンビの一言に、ライって言うノームの女子が頷いた。
そして、ライとカリナの視線がイクミに注がれる。
「……おい」
「だってリーダーじゃない」
「お願いするのはこっちですから、まずは代表から挨拶するのが筋ですよ」
「…………」
ぐっ、と悔しそうにしつつも、反論できないか、一つため息をついて俺たちに向き直る。
「……イクミだ。モーディアル学園所属で、学科は侍と忍者。……よろしく」
「私たちのリーダーですよ。とっても頼りになるんです」
「余計なことは言うな、ライ」
ニコニコと笑うライに、イクミが照れ臭そうにそっぽを向く。
俺らには無表情だったが……仲間には表情を出すタイプか。
「ボクはライって言います。同じくモーディアル学園所属で、灰色魔術師とメイド学科に所属しています」
「ん……よろしく?」
「はい、こちらこそ」
ニコニコと笑みを浮かべながら、礼儀正しくぺこりと頭を下げる。
独特の口調のライラにも笑顔で接するのもあって、なんだか同じノームとは見えない(俺らがライラと長くいるだけかもしれないが……)。
「最後に私ね。私はカリナ。竜騎士と姉学科に所属しているわ。仲良くしてよね」
「人様巻き込んでおいて言うセリフか」
「アユミちゃん、どうどう」
俺の後ろで、巻き込まれたことにイライラ気味のアユミがイワシの串焼きをやけ食いしながらつぶやいた。
それをシルフィーが氷の壁を張りながら、横からなだめにかかってる。
……下手に手ェ出すと、逆にこっちに火花が飛ぶからな。うん。
「で、アンタたちは? なんて名前なの?」
「ホントに気にしてないんだな……巻き込んだ相手とか。……俺はブロッサム=ウィンターコスモス。白魔術師とアイドル学科だ」
思わずツッコミを入れつつも名乗り出る。
それを聞くと、俺の両脇に気配が二つ。
「……ライラ。格闘家と普通科に所属」
「ボクはシルフィネスト=オーベルデューレ。長いからシルフィーでいいよ~。灰色魔術師で、とりあえず今は殿様学科所属中」
「……“今は”……?」
「前に受けてたサブ学科が無くなっちゃってね~。だから試験的な意味でいろいろ模索中なんだ~」
首を傾げるカリナも納得したか、「なるほど」と両手をパチンッ、と合わせた。
納得していただいたところで、俺と両脇のコンビは、くるりと顔だけ後ろに向ける。
「……ほら。おまえもやれって」
「……わーってるよ」
俺に言われて不服そうにしつつも、アユミも三人へ顔を向ける。
「アユミ=イカリ。侍と盗賊学科専行。ちなみに俺がリーダーだ。ま、よろしく」
「……ああ」
ちらちらと苛立ちは見えるが……よし。大分落ち着いてきたな。
これならもう少しで治まるかも……。
「……それで~。そろそろ話を戻すけど~。三人は何しにここにきたの~?」
「ふっふっふっ……。よく聞いてくれたわね、そこのフェアリー君!」
シルフィーが聞いて見ると、カリナが何故かドヤ顔で、両手を腰に当てて立ち上がった。
「私たちはね、学者も驚く超不思議な生き物……ずばり!“謎の宇宙人”の有力情報を求めてやってきたのよ!!」
『…………』
カリナの素晴らしく良い笑顔で言った発言に……思わず俺たちは固まってしまった。
え。何、それ。どういうこと?
「……カリナは宇宙人やお化けの類いを信じてる奴だから」
「信じてる……今回、それが原因?」
「えっと……詳しく説明しますと、ボクらの学校――モーディアル学園では、いろいろな噂話か飛び交いまして……」
「噂……?」
苦笑気味のライにたずねると、「はい」と頷く。
「三大陸から新入生が入学するせいか、そこからいろんなお話が入ってくるんです。……それで、ですね。少し前にプリシアナ大陸出身の生徒が、とある話を持ち出してきまして……」
「え……。プリシアナの……?」
……なんだろう。今、とてつもなく嫌な予感がしてきた。
それはどうやら後ろの三人も同じく、どこか表情が強張ってる。
「……あの、さ。その噂話って、カリナの言う謎の宇宙人とやらに関係あるのか?」
恐る恐る聞いてみれば、カリナは「そうよ!」と、超笑顔で言った。
「その人はプリシアナ学院の現二年生から聞いたそうよ。……『プリシアナ学院の伝説の生徒が、謎の黒いタコみたいな生命体と接触した!』……ってね」
『…………』
――この瞬間、俺たち四人の心はシンクロしたに違いない。
ああ……やっぱりか。……ってな←
「その先輩ってプリシアナ学院に在籍中で、数々の伝説を作ってるらしくてね。だからその人捜して、何か話が聞けないかな~って」
「ボクたちはカリナに付き合わされまして……。まあ、伝説の先輩って方に興味があるのは確かですが。……ですよね。イクミ」
「……まあ、な」
二人も、後半は否定しなかった。
目的はそれなりに一致してるからかな……できれば止めてほしかったが……。
「……で。話は戻すけど、『伝説の先輩』って人、何か知らない?」
「あー……それは……」
話を振られ、三人に目を向ける。
……が、シルフィーは笑うだけ。ライラは無表情のまま目を合わせない。アユミに至ってはすでに俺から顔を背けていた。
……反らす理由は多分……。
(それ……絶対俺たちのことだよな……?)
……多分、これだ。
おそらくカリナの言う『謎の黒いタコみたいな生命体』とやらは、『学びの終わりを夢見る落し子』のことだろう。黒いタコみたいな、の時点できっとそうだ。
……ってか、いったいどこから流れたんだ、その情報!
(……いや、この際それはどうでもいい。……俺にどうしろって言うんだよ!)
これだ。だってさ、これ完全に俺に丸投げしてるよな?
絶対俺が何とかしろ的な話だよな!?
「お、おい……」
『おまえに任せた』
『適当にごまかそ~』
『……グッドラック?』
それぞれに目だけを動かして見ると、三人はカンペ(イクミたちに見えないように)を出していた。
いや、おい! どんだけ無気力なんだよ!? 俺が何言ってもいいんだな!?
「ねぇ、知ってるの? 知らないの?」
「……し、知らない、な。はい……」
「……ホントに知らないの? 同学年なのに」
「は、はは……」
痛いところ突くな……。どうしよう……。
「ですがカリナ。相手がそんなすごい方なら、きっと忙しいと思いますよ? いきなり会うのもどうかと思いますし」
「……だな。おまえ、あれが出現したダンジョンにも行きたいんだろ」
「当たり前じゃない。よくわかったわね」
「ったく……当たり前だ」
イクミとライに言われ、カリナの顔が不満げな表情となった。
……けど俺としてはありがたい。よし。そのまま諦めて……。
「じゃあダンジョンだけでも行ってみるか? 場所は知ってるぞ。多分何もないだろうけど」
「乗ったわ!」
アウトォォォォォォッ!!!
なんでそこで面倒に巻き込むんだよ、アユミーーーッ!!!
「……いいのか?」
「どうせ俺ら暇だし。何かあったら責任は押し付けたリーロ先生のせいで」
「話がわかるわね。アンタ」
「……元はカリナのせいだろう」
アユミとカリナが結託したせいか、すでに話はまとまりつつある。
……なんでこうなるんだよ。おい。
「あの……すみません。こちらのせいで……」
「……もういいよ。ライは気にしなくていいから」
俺の心を察したか……いや、表情に出てたか?
申し訳なさそうに謝るライに、放心気味になりながらも気にしないよう伝えた。
「そうだな。一々気にしたら身がもたない。人間、諦めが肝心だ」
「おまえが言うな!!」
誰が元凶だと思ってんだ!!
無駄だと思うが、アユミには噛み付く勢いで怒鳴るしかなかった。