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世界一危険な……

「……【ハミンギア】?」

「おう。俺らと同じく、世界樹を突破したギルドよ」

 酒場である『踊る孔雀亭』にて、ネルガルからその名を聞いた。
 クエストを探しがてら、いつも通りケンカをし出したコーラルとミストをトコヨとフィリアに仲介を頼み(丸投げしたとも言う←)、二人から逃げてきた。
 ……これにバルド様も入ってたら危なかったな。

「まあ、世界樹に行けるようになったからな。ちらほらと突破するギルドも出てきたし」

「それでも少数だろ? まあ【ハミンギア】は結構な数のギルドメンバーがいるらしいからな」

「なるほどな」

 私ら【ポリアンサ】は最低限の人数だからな。臨時要員にミストがいるくらいだし。
 そう思いながら、クエストの紙を1枚1枚確認していく。

「……これがいいかな」

 その中の1枚に目を止めた。
 取ったクエスト名は「南瓜の発生」。クエストの詳細は第六迷宮に出てくる南瓜型のFOEが、ダンジョンの外に大量に出てきた、という事だ。
 中から次から次へと出ているらしく、討伐し、原因解明を求めている、というものらしい。

「へぇ。三色パンプキンヘッドを始末すればいいのか」

「原因解明もな。まあ問題あるまい」

 あの三原色なら何度も勝っている。
 油断しなければ大丈夫だろう。

「「すいません、これを」」

 そう決め、私は店主にクエストを。だが隣から、同じ内容の声がした。

「あら。【ポリアンサ】に【ハミンギア】ね。あなたたちなら大丈夫かしら」

「「……なんだって(なんですって)?」」

 ……今、聞き覚えのあるギルド名が。
 そう思った瞬間、隣にいた金髪の少女と目が合った。

 ――――

 気球艇に乗ってクエストのダンジョンを目指す。
 ケンカしてた二人も「やめないと口聞かないぞ」と脅せば簡単に頷いた。
 ……まあ後が怖いがな。

「このクエストでも面倒が起きなければいいが……」

「その面倒を押し付けたアンタが言う? 私がどんだけ大変だったと思ってんの?」

 後ろからバシッ! と後頭部を殴られた。
 見れば白髪にバレッタを着けた我がギルドの弓使い、トコヨが仁王立ちで私を睨んでいた。

「あの二人が争うとろくなことにならないのよ? 今回バルドゥールがいなかったからよかったけど……」

「いても押し付けるが」

「言っとくけど全力で逃げるからね!? 一人だけでも大変なのに、三人いたら質が悪いわ!!」

「まあまあ、トコヨちゃん」

 ガーッ! と魔物顔負けに吠えるトコヨを横目で見れば、桜色の髪を結んだ天然娘、フィリアがにこにこしながらこっちにきた。

「もう終わってるから終わりにしよ? それよりかぼちゃさんたちを倒す事を頑張らないと! FOEさんがわんさかだもん」

「フィリア……」

「それに今日は他のギルドと共闘でしょ? 怖いお顔しちゃダメだよ」

「……わかっちゃいるわよ」

 ニコニコと言うフィリアに毒気が抜かれたか、トコヨも諦めた。
 助かった……フィリアの天然にはいろいろ助かるな。主にキレるトコヨの毒気を抜くのに。

「姉さん……共闘ってホント?」

「チッ……アーシアに食いつく奴らがいなければいいが」

「おまえら、話聞いてろよ……」

「「姉さん/アーシア以外に興味はない」」

 私に張り付くコーラルとミストが揃って言えば「もういいや……」とネルガルは早々諦めた。

「……早く着かないかな」

 この空気の中から早く解放されたい。
 揺れる気球艇の中、私は心底そう思った。

 ――――

 第六迷宮・暗国ノ殿の前

 一足先に着いた私たちは、ゆっくりと気球艇を着陸させた。
 そして双眼鏡で遠くの様子を見る。

「……なるほど。確かに不気味だな」

 第六迷宮を囲むように大量にいる三色南瓜。迷宮の周囲だけだが、遠目でも数千はいる。

「こんなハロウィンパーティーは嫌。……かと」

「あんな南瓜などジャックランタンにすらならんな」

「いや、あの三色パンプキンヘッド自体いらんだろ」

 同じく双眼鏡で見ていた男性陣からの意見。
 ハロウィンで例えるな。同意見だが。

「アーシアー。あっちのギルドさん来たわよー」

「わかった」

「よろし――って、ちょっとぉおおおッ!!!?」

 フィリアと準備をしていたトコヨが隣を指さした。
 見れば同じクエストを受けたもうひとつのギルド……【ハミンギア】の気球艇が隣に着陸し、パーティーメンバーが外に出てきているところだった。
 フィリアがこっちの気球艇に案内しているのを見ながら、私も気球艇から降りる。
 面倒だから甲板から←

 シュトンッ。

「あ。アーシアさん、ハミンギアの皆さんですよ~」

「知っている。……ポリアンサの責任者(一応)のアーシアだ」

 ギョッと驚いているハミンギアのメンバーをよそに、ニコニコと手を振るフィリアに頷く。
 ちなみに一応なのは、私は度々トコヨかネルガルに押し付けるからだ。面倒だからな←

「えっと、改めまして……ハミンギアのサブギルドリーダーのエルディアよ。今日は共闘の協力、感謝するわ」

「こちらもだ。約2名面倒を起こすのと口うるさいツッコミがいるが、できる限り協力しよう」

「余計な事言うんじゃないわよ!」

 後頭部をチョップで殴られた。さらに背中に軽い衝撃。
 後ろを見ればトコヨと、背中に張り付いたコーラルが。

「姉さん……先に行っちゃ、ダメ」

「というか、甲板から飛び降りるんじゃないわよ。アンタ、どんだけめんどくさがりなのよ」

「ん……怪我したら、僕は嫌。……心配」

「……すまない、コーラル。これからは気を付ける」

「ん……っ♪」

「アンタら、あたしはあああ!!?」

 コーラルの頭を撫でれば猫のように擦り寄ってくる。
 隣で騒いでいるトコヨは無視だが←

「すまんな。ウチのリーダーとその弟は互いにブラコンとシスコンなんで」

「わー……ブラコンでシスコンってすごい姉弟だね」

「……って言うか。あの人が女の人なのがびっくりだけど」

 片手を上げて謝るネルガルの呟きに、頭巾を被ったソードマンの少女と砲剣を背負ったルーンマスターの少年がそれぞれ言う。
 愛しの弟を愛でているんだ。ブラコン・シスコン同士で何が悪い。

「とりあえず、共闘前に挨拶しましょうか。私はメディックのフィリアって言います~。ミスティックでもあります~」

「私はナイトシーカーとソードマン。物理担当なので状態異常スキルはあまり期待しないでくれ」

「コーラル。ソードマンとモノノフ。突剣使い。以上」

「ミ・ストレイ。ミストで構わない。ミスティックとダンサーだ」

「マイペース過ぎるわよ!! アンタら!」

「俺はネルガル。ルーンマスターとメディックだ。……ほらトコヨ。ツッコミ入れるだけ無駄だから挨拶しろって」

「……わかったわよ。トコヨよ。スナイパーとモノノフ。……よろしく」

 なんだかんだあったが、全員が名乗った。自由すぎるのもあったが、細かい事は抜きにしようか←

「さっきも言ったけど、あたしはエルディア。今日はギルマス代理で来てるの。フォートレスとダンサーね。よろしく」

「はいはーい! アタシはリント。ソードマンとダンサーだよ~。よろしくね!」

「俺はオルフィ。ナイトシーカーとスナイパーだ。……はい。シズク」

「は、はい! えっと……わ、私はシズクですっ。スナイパーとナイトシーカーです! よろしくお願いいたしますっ!」

「……ルイス。ルーンマスターだけど、インペリアルでもあるから、武器は砲剣。……よろしく」

 向こうも名乗る。これでお互いに素性がわかったな。……まあこっちは暗殺者と闇医者と、いささか物騒だがな←

「今日の共闘、感謝する。先ほど双眼鏡で見たが、敵の数は数千くらいいてな。迷宮周辺しかいないが、あれはヤバい」

「世界一不必要なハロウィンパーティー開催中、かと」

「えっ、ホント? 戦いがいがあるのはいいんだけど、さすがに辛いかな~」

「しかも南瓜だから結構キツイかもね~。どうしようかな~」

「ミストの破陣に期待する。その為に連れてきたんだからな」

「……アーシアが言うならしかたないな」

 この時の為に無属性スキルが使えるミストを連れてきたんだ。
 じゃなかったらコーラルとセットではいない。周りへの被害が酷いからな。

「殺れ、ミスト」

 私が言えば「任せろ」と一回頷く。
 杖を構え、一歩ずつ敵へ歩いていく。

「……、……?」

 が、途中で止まった。
 そして不可解な物を見るような目で首をかしげ、なぜかその場でしゃがみ込む。

「ミスト、どうした?」

「……アーシア」

 立ち上がり、クルリと振り向く。

「南瓜どもがマンドレイク並の小ささだった」

『キーキー』

『え』

 その片手には摘ままれる猫のように、南瓜の魔物が暴れながらぶら下がっていた。
 遠くで双眼鏡だったからな……気づかなかった。遠近法、恐るべし。

「わあ、小さいカボチャさんです。可愛らしいサイズですね~」

「だね~。ちっこいFOEだし」

「……可愛い?」

「可愛いとはかけ離れた顔だろ……」

 なぜか喜ぶフィリアにリントも頷いた。信じられないようなルイスの横で、オルフィがボソッと呟いた。
 その横で私は足元に絡む青南瓜を掴む。

 グシャ。ベシッ。

「造作もないな」

「いや、なんで頭を握り潰したのよ!?」

「おまえ……毒があったらどうすんだよ」

「ああっ! ボクの姉さんの右手が汚されて……っ!!」

「くっ……おのれ、南瓜風情が……! 俺のアーシアを汚すだと……!!」

「いや、汚したの本人だから!!」

 頭を握り潰し、その骸を投げ捨てた。南瓜の耐久力0。赤子の手を捻るより簡単だ。
 それを見ていたトコヨとネルガルのツッコミ。そして嘆くコーラルとミストに再び叫ぶトコヨ。
 ……今日もポリアンサはカオスだな。

「数千いるが問題無いな。無視して先に行くか」

「簡単に倒せるしね……スキル無しで行けるんじゃない?」

「そ、そうですね……」

「……あの。ツッコミは……」

「諦めろ、少年たち。ウチのリーダーと信者2名は常にマイペースだからな」

「マイペース過ぎるだろ……リント並みにすごいな」

 後ろで何やら言う男性陣だが、私が双剣で一掃するのを見て、武器を構え直す。
 無論スキルを使わず対処できた。術師組の杖でも倒せるんだ。問題無い。

(とはいえ、この大量発生が異常なのは間違いないな)

 ミニマム南瓜でもFOE。理由無しに大量発生するはずがない。迷宮の中で何か起こってるのは間違いない。
 南瓜を双剣と蹴りで吹っ飛ばしながら、迷宮の入り口を見据えた。
 迷宮から出てくるなら、中に原因があるはず。
 そうと決まれば……。

「エルディア。私は中を調べようと思うが、おまえたちはどうする?」

 彼女に投げかければ「というと?」と返す。

「連中は中から出てくる。つまり、増殖の原因は迷宮の中と言うこと。そしてクエストの内容は原因の解明も含めている」

「……つまり、突っ切って中に入って原因を突き止めようってこと?」

 エルディアの言葉に「ハロウィンパーティーを止めたいならな」と不敵な笑みで返す。
 慎重に行くにしろ、原因を取り除くにしろ、中に入らねばわからん。
 虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ。

「……わかったわ。アーシアの案に乗る」

 エルディアは少し迷ったが、私の言葉に頷く。
 ……決まりだな。ではまずは……。

「ネルガル。こいつらをまとめて一掃しろ。一気に迷宮に突っ込む」

「へいへい。……ったく、相変わらず人使いの荒い奴だぜ」

 ぼやきながら、杖で殴りつつネルガルは詠唱に入る。

「ぶっ飛びやがれよぉ!? 喰らえ! 始原の印術!!」

 全体攻撃の印術が盛大に発動された。迷宮前のカボチャたちは吹っ飛び、入口まで道ができる。

「リント! 迷宮に入るよ! オルフィはシズクとルイスを引き連れて中へ入って!」

「了ー解ー!」

「コーラル! トコヨとフィリアを連れて中に入りなさい! くれぐれも魔物と鉢合わせないように!」

「アーシア姉さんは……」

「私は全員入ってからだ! いいから早くなさい!」

「う、うん……!」

 エルディアとほぼ同時に指示を出し、仲間たちを中へ行かせる。
 コーラルは少し戸惑ってしまったが、叱咤すればすぐに動き出す。

「エルディア、全員入ったらあなたも行って。私はその少し後で行く」

「……大丈夫なの?」

「ええ。次の策なら、すでにネルガルとミストに出している。問題ない」

 不敵に笑みを返せば、伝わったか「わかったわ」と頷いてくれた。
そして全員が入口に固まったのを見た瞬間、エルディアも走り出す。

「よし……。ネルガル! ミスト! やれ!」

 最後のエルディアが入った瞬間、用意した合図を出す。
 そしてそれと同時に、私も走り出す。

『キーキーキー!!!』

 最後まで敵に攻撃し続けていた私のみに反応し、私だけを狙い定めてきた。
 まあこれは予想できた……というか、わざと狙ったんだが。

「ネルガル! ミ・ストレイ!」

「はいよ。始原の印術!!」

「破陣:亜空鳴動!」

 入口で待機させていた二人に叫ぶと、すぐに動き出した。二人の魔法により、FOEたちはあっという間に崩れ去る。

(二人に言っておいて正解だったな)

 入口に行く前に、あらかじめ二人には指示を出しておいたのだ。私だけを狙わせておき、一ヶ所に群がるところを叩く、という作戦。
 小さいうえに弱いが、FOEはFOE。放っておけばどんな災害となるかわからないからな。

「なるほどね。策ってこういうことか」

「いやー、爽快だねー。出来ればあたしがやりたかったけど」

「やめろ。リントが暴れたら被害が増える。別の意味で」

「ああ……。わかる、わかるわ。その気持ち」

「アーシアさんが絡むと凄いことになっちゃいますからね~。コーラル君とミストさんとバルドゥール様が~」

「ば、バルドゥール様も……?」

「突っ込まないで。その件に関しては」

 羨ましそうに見るリントに突っ込むオルフィ。
 それにトコヨとフィリアが共感して頷き、バルドゥール様という単語にルイスが反応したところで止めた。
 バルドゥール様にスキャンダルが起きる訳には行かない。絶対に。

「それより……。迷宮に入ったが……」

 双剣から手を離さずに辺りを見回す。
 暗国ノ殿。この大地に中で一番高難度の迷宮だ。こんな事態なので、より一層注意深く見回す。

「……? 何も、ない……?」

 ……が、何もおかしな様子はない。だが魔物の気配も異様に感じない。
 暗殺者としての経験を持つ私は、それが不思議でならない。

「おまえも気づいたか。ああ……あれだけ殺気と好戦的な空気が満ちていたのに、今はかなり薄れている」

「オルフィ少年が気づいたんで、俺もちょい奥を見たんだがよ。どうやら外のFOEだけじゃねぇ。こっちの魔物も、大半が小さくなってる」

「なんだと……?」

 同じく気づいたオルフィ。そしてネルガルの言葉に耳を疑う。
 外だけじゃなく中も? 魔物の小型化……いったい何が起こっているんだ?

「あ、後ですね……。なんか、変な音もたまに聞こえるんです……」

「変な音?」

 シズクの言葉に首を傾げると「バサーって感じ」と大雑把にトコヨが話す。

「なんせ静か過ぎるんだもん。音も拾いやすくてさ。……で、耳を済ませば時々バサーって、何かがぶちまけるような音が聞こえるのよ」

「ふむ……」

 同じくスナイパーであるトコヨも話す。
 森に住み、自然と生きてきたトコヨだ。聴覚と視力の良さは私も知ってるし、それに何度も助けられた。私も信頼している。

「何にせよ、何かおかしな事態が起こっているのは間違いない。かと」

「うん……。僕もコーラルの意見に賛成かな……」

「アーシア。どうする?」

 コーラルとルイスも異様さに疑問を感じてる。
仲間の意見をいち早く聞いていたエルディアが私の意見を聞いてくる。

「依頼の遂行を除くにしても、調べなければならない事態だろうな。私としても、この状況は気になる」

「ではアーシア…」

「引き続き、ハミンギアと合同捜査を行う。……エルディアたちはかまわないか?」

「アタシたちはとっくに決まってるから異論はないわよ」

「そうか」

 ハミンギアのメンバーに聞けば、とっくに決まってる、という返事が返ってくる。
 ならば私たちに異論はない。

「よし、行こう。互いに助け合いながら、決して無理はしないように。……行くぞ!」

 原因がわからないのも気持ち悪いしな。
 一同の気持ちを確認し終えたところで、私たちは迷宮の中を進んでいくのだった。
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