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対決

「――――」

「え――」

 刹那――目の前に銀の刃が迫った。
 本能的に顔を反らし、何とか刃は頭を貫かずに終わる。

「イクミ!? 何を「……良い」……え」

「この感じ……この緊張感……この強さ。……最高にたまらねェ……!!」

「……イク、ミ……?」

 ……どうしたんだよ。目が爛々どころかギラギラなんですけど!?
 しかもいつもより表情が楽しそうって言うか興奮してるし!
 まさか俺……押してはいけないスイッチ、押した?←

「おい。イクミ! 正気に戻「そら、行くぞ!!」チッ!」

 片方の刀をしまい、一刀だけで攻撃してきた。先程までと違い、かなり荒々しい太刀筋になっている。
 しかもまずい。聞く気ゼロだ。

「ファイガン!」

「効かねェよッ!」

 距離を取るためにファイガンを放つ。
 が、刀で簡単に弾かれ、怒涛の乱舞で追い詰めてくる。
 さっきまでと動きが明らかに違う……限界突破――リミットブレイク――って状態だ。

「二重人格かよ……!」

「どうしたんだァ!! その程度で終わりかよッ!」

「誰のせいだと思ってんだよ!」

 的確に狙ってくる刃や蹴りをかわしたり受け流したりしながら、こっちも隙を見て斬りかかる。
 じゃないと、俺が殺される。

「……一か八か」

 人間相手にこの技は正直やりたくないが……こっちも命がかかってるし、イクミなら死にはしないだろう。

「成功祈るのみ!」

 大きく刀を打ち合い、ギリギリと力を拮抗させる。その隙を狙ってイクミを蹴り飛ばした。
 うまく行くかはまだわからないが……これに賭けるしかない。

「逃がすかよッ!」

「……痛っ……!」

 大きく吹っ飛ばされながらも、イクミは冷静に空中で受け身を取る。
 その時針のような衝撃波も飛ばされたが、今避けるわけにいかないのでなんとか耐えて我慢する。

「これで終わり……ッ!!」

 刀を振り上げ、再び俺に迫りくるイクミ。
 それを見据え、俺は刀に手をかける。

「白刃一閃――雷ッ!!!」

 雷の魔力も込めながら、白刃一閃の居合を放った。
 それにイクミが当たった瞬間――激しい雷が落ちた。

「おわっ……!!?」

「きゃっ!」

 雷の轟音が凄まじかったらしい。
 戦ってる奴らも観客も、その音で一瞬で黙り込んだ。

「はぁ……はぁ……」

「うっ……く……」

「よ、ようやく……止まった……か……」

 さすがに一撃が効いたらしい。
 イクミはバッタリと倒れ込んでいた。

「……ったく……。情けねぇ有様だぜ……」

「アユミ!」

 力が使い切った身体を、刀を支えになんとか踏ん張る。
 ……が、ブロッサムが傍に来た瞬間、一気に力が抜けた。

「おいおい……無茶するなよ、おまえ」

「はは……さすがにイクミの相手は、ね。……魔力もうまくコントロールできなかったし」

 背中に当たるブロッサムの温もりを感じながら、イクミ周辺の黒焦げた地面に目を向ける。
 あの時はこっちも必死だったから加減できなかったが……魔力をもう少しコントロールする術を身につけないと、マジで俺、殺人鬼になっちゃう←

「アユミ、いったいいつからあんな真似……」

「いつぞやのおまえとシルフィーの複合魔法を見てな。剣術と魔法の複合をやってみました。まだ練習中だけど」

「それを実戦(しかも人間相手)で試したのか、おまえは!」

 さすが実践でユニゾン魔法を試した男。その危険性と精密性と破壊力をよく理解している。

「やるなら加減できるようになって! マジ頼むから! 殺人的なことまで寛容じゃないから!!」

「わかってる。わかってるって」

 俺だって後輩殺しなぞになりたくない。
 かなりの決め手になることはわかったから、練習して力として手に入れないと……。

「うっ……」

「イクミ! 死んじゃダメだよ! 目を開けてよ~!」

「イクミは別に死んでないわよ、カリナ」

「リアスさん……心配じゃないんですか?」

「はぁ……ほんま皆さんに心配ばっかりかけて……罪な人や」

「いや、現在進行形で回復アイテムドーピング中のリラが一番心配してるッスよね!?」

 イクミの周りにはパーティメンバー五人が集結していた。
 ……しかし周りが女子だけとなると、やっぱハーレムにしか見えん。イクミ君、君はどこの落とし神ですか?←

「まあまあ。思ったよりは怪我もしてないし、そのうち目を覚ますよ~」

「思ったより……意外と頑丈?」

 イクミに回復魔法をかけていたシルフィーとライラが話す。
 ……いないと思ったら、そんなところにいたのか←

「シルフィー。イクミの具合はどうなんだ?」

「軽い脳震盪で済んでるよ~。ってかアユミちゃん、もう少し魔力をコントロールしてよ~。イクミ君が強かったから大事に到らなかったけど、そうじゃない人は一発で消し炭だよ~」

「さすが魔法の天才、シルフィネスト=オーベルデューレ。……意外と医者に向いているんじゃないか?」

「茶化すな、馬鹿」

 シルフィーに賞賛を送っていると、ブロッサムに軽く頭を叩かれた。
 いきなり何をするんだ、この男は。

「……ぐっ……うぅ……」

「あ。起きましたわ」

 リラの声に目を向けると、イクミがぽっかりと目を開けた。

「よう、イクミ。目が覚めましたか?」

「アユミ…………あれ? 何故全員、俺の周りに集まってるんだ?」

「……覚えてねーの?」

 頭を押さえながら起き上がる辺り、丈夫さが高いな。
 けど覚えてないって……。

「アユミと戦い始めて……かなり拮抗して、気分が上場だったのは覚えてンだが……」

「そこは覚えてるのか」

「一撃を喰らって……そこから先は、かなり楽しかったことは覚えてるンだが、具体的なことは覚えてない」

「…………」

 イクミのその発言から、俺は確信した。
 つまり俺との戦いでテンションアップし、結果(本人も知らなかった)秘めた戦闘狂な人格が表に出てきた、ということだろう。
 ……まあイクミはかなり強いから、よほどの強者でなければ、あの人格は出てこないだろうな……。

「イクミってば……こっちは心配したってのに……」

「ホント、ね。そんなにアユミ先輩との戦いが楽しかったのかしら」

「イクミっぽいって言えばそれまでですけどね………」

「ホンマや。ウチらのことも考えてたってや」

「イクミ、今回ばかりはフォローできないッス」

「な、何怒ってるンだ……?」

 女子5人に怒られるが、記憶がないイクミには何がなんだかわからないらしい。
 ……まあ言わないけど。言ったらあの人格がいつでも現れるかもしれないし……。

「気にするな。それより、ちゃんと保健室に行ってこい。最後の一撃は加減できなかったし、まだ感電してるかも」

「そう、か? たしかに、心なしかビリビリと痺れてるが……指先もうまく動かないし」

「それ、完全に重症ッスよ! 保健室行くッス!」

「そうです! 急ぎましょう!」

「お、おお……?」

 シリナとライ筆頭に、イクミは保健室へ向かった。
 ……やはり、ハーレムだな←

「……大丈夫かな」

「俺に聞くなよ」

「アユミちゃんが責任取ってよ~」

「……ノーコメント?」

「おまえら……」

 冷た過ぎるだろ……。
 授業の終わりを告げるチャイムを聞きながら、一人がっくりとうなだれる俺だった。

 ――――

「はぁ……なんとか終わった……」

 とりあえず今日のフォルティ先生の実戦授業をすべて終え、一息着いた俺。
 イクミの戦い以外は特に何事もなかったので、まあ上々と言えるだろう。

「んー……明日に備えて、腹一杯食わないとなー」

 明日も何が起きるかわからないし。
 動きすぎて軋むような身体を捻りながら、ブロッサムたちが待つ校門に向かおうとした。

「アユミ」

 ……が、それは曲がり角からの声と手に寄って遮られた。しかも声の主は、今一番会うと気まずい人物。

「……イクミ。何故ここに」

「休んで目が覚めたらこんな時間だった。そしてアユミがそろそろ帰ると聞いて、こっそり抜け出してきた」

「寝てろよ。俺はそこまで擁護しないぞ」

 なんでこのタイミングで目を覚ます。
 二重人格の件があり、いつでも魔法を撃てる体勢は取っておく。

「今日は悪かった。記憶はねェが、俺がやり過ぎたんだろ?」

「まあ……ただの訓練としては、な」

「やはりか……」

 ふむ……記憶がなくても感覚的には感じてるらしいな。
 ……まあ、気がついたら感電してました。じゃ、しょうがないかもだが。

「いや、中々強い相手と本気で戦う機会がなくてな。いても5人がいるし、めったに力を解放できない」

「前衛かつ戦闘狂が3人もいるんじゃな……」

 リアスにカリナ、そしてシリナな。イクミも含めてごり押しすれば、それはしかたないか。

「アユミは強いし、前回の共闘も……あれほど爽快な戦いは、数えるほどしかなかった」

「強いからな。イクミは」

「今日の戦い……思いきり戦える、力を震える瞬間はすごかった。――特に、アユミに斬られた時の感覚など……」

「……ん?」

 あれ……声のトーンが低くなった気が……。
 ってかさ……何か嫌な予感がする。

「全力でやらねェと決着が着かないくらいの強さ、血沸き肉踊るような荒ぶる剣の音……何より、本気で力をぶつけ合う衝動!! あれほど楽しいものは、ない!!」

「やっぱりかよッ!!」

 やっぱり人格が変わってた! ホントにイクミか、おまえは!?

「今度は負けねェ……なんなら、今この場で!!」

「あー、今日はもう閉店ですぅ! しばらくクローズドさせてもらいまーす!」

 俺は校門目掛け、全力疾走し出した。
 これ以上やられてたまるか!!

「あ! 逃げンな、アユミ!!」

「誰が待つかあああッ!!!」

 逃げる俺。追い掛けてくるイクミ。
 夕暮れのモーディアル学園で、関係が深まったか減ったかわからない俺らだった。


 対決

 ――――

(逃がさねェぞ! 待ちやがれェェェッ!!!)

(だが断るゥゥゥッ!!!)
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