対決
絆や縁というのは、
実は意外と続いていく。
――――
「……ああ? モーディアル学園に?」
「はい。アユミさん」
真昼の大聖堂。呼び出されたアユミは、セントウレア校長よりクエストを受けているらしい。
「ったく、なんで俺が……」
「ギャンブルの借金がどれだけ増えたと思っているんですか。いえ。私は良いのですが、ネメシアがうるさくて……」
「おのれ、あの悪魔執事め……」
ギリッ、と強く歯ぎしりするアユミ。
だが元はと言えば、借金するアユミが原因なのだが←
「……わーったよ。受ければいいんだな?」
「ええ。お願いします」
「どーなっても知らねーからな」
アユミはため息をつきながら、そのまま踵を返した。
残された校長はにこやかな笑みを浮かべながら、その背中を見送った。
――――
イクミSide
モーディアル学園。半年程前に創設された第四の冒険者養成学校。
ここは三大陸から生徒が入学していて、三大陸の文化・伝統・技術の全てを学ぶには最適と言える学校である。
俺も、俺の実家と別大陸であるタカチホ直伝の侍・忍者の技術を直に学びたく、この学校に来た、という訳だ。
実家も近いし、旅費もさほどかからなくて済むからな←
「おーい、イクミーっ!」
「ん?」
誰に聞かせているかわからない説明を脳内でしていると、真後ろから俺を呼ぶ大声。
「シリナ、リアス」
「もうーっ。イクミ、足が速いッスよー。追いつくの、大変だったッスからね!」
「忍者だからな。それより、何か用か?」
シリナの膨れっ面を指で小突きながらたずねる。
一々構ってたらキリがないからな。
「ああ、そうそう。あのね、今日の戦闘技術の実技なんだけど」
「……フォルティ先生の授業か。どうした」
「うん。なんか先生、体調不良で来れないっぽいッス」
「と言っても、タンスの角に小指をぶつけただけなんだけどね」
シリナとリアスの説明に、思わずずっこけてしまいそうだった。
フォルティ先生……どんだけ弱いンだ?
「それで、今日の実技なんだけど。今日はプリシアナ学院の方から、何人か手だれの生徒さんを来るらしいわ」
「プリシアナから……」
「ええ。手合わせしてくれるみたいだし……少しは楽しめそうね」
「……ふむ」
リアスの言葉に、ぼーっと生返事してしまった。
(プリシアナ……)
その単語を聞き、脳裏にあの女が思い浮かぶ。
カリナの私的欲求に付き合わされ、結果、異界の生物と戦う羽目になった。
その時、俺たちと一緒に来たあいつらが協力してくれた。
実力揃いで二つ名も持つ四人。そのうちの一人、黒髪の女が強かったのは今でも覚えてる。
「可能ならぜひ来てもらいたいな……」
「え?」
「いや。なんでもない」
「そうッスか? ……ってイクミ。なんか楽しそうッスね」
「なに?」
シリナに言われ、思わず目を見開いた。……楽しそうって……。
「俺だって楽しむ時くらいあるンが」
「いや、そりゃそうだけど。イクミが笑う時って中々ないッス」
「そうね。あなた、基本無表情だもの。……珍しいわね。よほど楽しみなのかしら?」
「……否定はしない」
クスクスと笑っているリアスには素直にそう伝える。
下手に隠そうものなら、逆にからかわれるしな。
「もういいだろ。授業もあるし、早く行くぞ」
「ああっ! 待ってほしいッス~~~!!」
「あらあら……」
それに慌てて着いてくるシリナ。小さく笑いながら来るリアス。
そんな二人を振り切りながら、俺は教室へ歩くのだった。
――――
教室
「えー。知っている方もいらっしゃると思いますが、本日フォルティ先生は急病にて欠席となりました」
ルドベキア先生の言葉に、一部の生徒がざわつき、一部は「あ、やっぱ?」的な雰囲気になった。
……なんだ。意外と知れ渡っているのか。
「先生ー。じゃあ次の授業は自習ですか?」
「いいえ。残念ながら違います」
にっこりと言い切った先生に、「えーーーっ!!」と大半がブーイングした。
……そんなに自習になってほしかったのか?
「本日はフォルティ先生の代わりとして、プリシアナから戦闘技術の訓練を担当してくれる方をお呼びしました。今、校長とお話し中ですが、授業の始まりには間に合うと思います」
その言葉に再びざわめき出す。
校長と直に、か……やはり、よほど実力者だろうな。
「彼女たちは皆さんより一つ上の先輩ですが、冒険者として、すでに活躍の名も上がっています。彼女たちから何か学べると良いですね」
にこりと笑顔を浮かべ「では、本日はここまで」とルドベキア先生は去っていった。
先生が去ると同時に、生徒のほとんどがそれぞれ動き出す。
「イクミ、イクミ! プリシアナから代理って……」
「カリナ。耳元で叫ぶな」
「ええ。怒鳴らなくても聞こえているわ」
「カリナ。落ち着くッス」
「うー……だってー……」
「まあまあ、カリナ。落ち着いてくださいって」
「せやな。慌てんでも、代理の人は逃げへんよ」
「ライ、リラ」
俺とリアスの両方に言われ、唇を尖らすカリナ。
そしてカリナに引かれるように、俺のパーティメンバーたちがやってきた。
「だって楽しみなんだもん。フォルティ先生が相手だと、すぐにリタイアして退屈だけどさ」
「それは否定しないが」
「そうね。否定しないわ」
「私も否定しないッス」
「み、皆さん……」
俺、リアス、シリナの頷きにライが苦笑いを浮かべた。
ライ……残念だが、これは全員が思っていることだ←
「まあいいや。骨がある人と戦えれば良いし」
「ええ。せめて、ミラくらいの実力があるといいんだけど」
「ああ。隣のクラスのミラちゃんやな。たしかに、モーディアル学園女子の部ではトップの方やし」
「まあな……」
モーディアル学園の実力者の一人、ミラ=カーネリアン。
大剣を振り回す強烈な攻撃力が売りのディアボロスの女だ。
たしかに奴も強い。俺の数少ない組み手相手に認定しているからな。
「……あ。アカン。そろそろ行かへんと遅刻してしまうで」
「そうだな。行くか」
「ええ。楽しみがなくなっちゃうわ」
時計を見ながら頷き合い、次の授業の場所である校庭へ向かう。
次の授業に来る代理人を楽しみにしながらな。
――――
校庭
授業開始5分前。プリシアナからの代理人というのに興味が高いのか、すでにクラス全員が集合していた。
代理人がどんな奴か気になり、周りは少し騒がしい。
「うわあ……みんな興奮してるッスね」
「かなりの実力持つゆー話さかい、どんな人か興味津々なんやろうな」
「そうでしょうね。私たちも同じなんだもの」
「あーうーあーうー……早く来ーいーっ!」
「カリナ、落ち着いてくださいってば」
「まったく……」
それは俺らも例外ではなかった。
カリナと、わかりにくいだろうがリアスが特に気になるらしい。
この二人、俺のパーティの中でもかなり戦闘好きだからな……←
(実力者、か……アイツは来るのか?)
頭に浮かぶのは黒髪のアイツ。
並の実力者よりも、圧倒的に強い彼女と戦いたい。
そんな欲求が頭を占めていた。
「――あ。ここか?」
「はい。今日はこちらのクラスを担当してください」
……その時だった。
俺の耳に、聞き覚えのある声が耳に入ったのは。
「一年生か……ふふふ、初々しい奴らよのぉ」
「何キャラだ、おまえは。……言っとくけど、あんまり変な目で見てるんじゃねぇぞ」
「変な目……アユミのハーレム状態?」
「つまりブロッサムはヤキモチ妬いてるってことだね~」
「黙れ、おまえら!!」
ソフィアール校長に連れられながら、賑やかに会話している四人。
金髪のセレスティア。緑髪のフェアリーの少年。紫のツインテールのノーム。
そして、長い黒髪のヒューマン。
「あ……!」
「え、あの方々は……!」
前回会ったことがあるカリナとライはすぐに気づいた。
他の生徒が注目する中、ソフィアール校長と四人が全員の前に立つ。
「こんにちは、皆さん。ルドベキア先生からお聞きしていると思いますが、今回の授業はフォルティ先生に代わり、プリシアナ学院から来ていただいたこちらの四人に戦闘技術の訓練をお願いしています」
ソフィアール校長の言葉に、全員の視線が四人に向けられた。
四人を見て、ひそひそと話し出す。
「誰だろ……ってか、あのノームの女の子……スゲー美少女……」
「あのフェアリーの男の子……結構可愛い~♪」
「ちょ……! あの人ってブロッサムじゃない!? プリシアナで最近人気な美声アイドルの!」
「黒髪の人……男か? 女か!? 美形過ぎる……!」
四人を一目見ての感想。
……たしかに。あの四人は、タイプは違うが、全員整った顔立ちをしているからな。
特にブロッサムは天才的な音楽の才能と歌声の持ち主だから、結構有名人だし。
「彼らが今回、プリシアナ学院からやってきた代理人です。実力も高いですので、皆さんには良い経験ともなるでしょう」
ソフィアール校長はにっこりと笑いながら俺たちを見渡した。
クラスメートたちも「はい」と頷く。
「うわあ……アユミたちと戦えるのかあ……!」
「たしかに……あの方々なら納得ですよねぇ」
「当たり前だ。プリシアナ最強の実力者だからな」
俺とカリナ、ライは四人を見ながら頷いた。
剣術、体術、援護、支援。すべてのバランスの取れたパーティの四人だ。
しかもチーム戦にしろ、個人戦にしろ、簡単に勝てる相手ではない。
「? なんや、皆さん。あの四人知ってるんですか?」
「リラ、前に言ったじゃん! プリシアナで会った『伝説の先輩』のこと!」
「あら。じゃああの娘たちが、イクミたちの言ってたすごく強い人なのね?」
「ってことは、プリシアナの数々の噂も事実ってことッスか!?」
首を傾げるリラに、カリナが興奮気味に話した。それにリアスが納得し、シリナも目を輝かせる。
『伝説の先輩』とはあの四人のことだ。一年と少し前、暗黒の魔道士アガシオンがこの三大陸に災いをもたらそうとし、それを救ったのがアユミたちだ。
知る人のみ知る、まさに『生きた英雄』というわけだ。
「うふふ……なら……ますます楽しみ、ね? イクミ?」
含みのある笑みで、リアスが俺の方へ振り向いた。
俺もその笑みに頷き、無意識に舌なめずりするのだった。
――――
アユミSide
(あー、面倒だな。ったく、なんでこんなことになってのかね?)
脳裏で失礼なことを考えながら、現在の自分の状況を面倒がっていた。
だってこの大人数の相手はな……。
「誰のせいだと思ってんだ。おまえが借金を重ねまくったからだろうが」
「そこで心を読むなよ、ブロッサム」
小さくため息をつくと、ブロッサムがギロッと睨んできた。
どうしてこうも勘がいいんだろうな。おかげで隠し事もできないよ。
「とにかく。頼むからしっかりしてくれよ。せっかくの依頼をパーにするつもりか」
「しないから。頼むから低い声で怒らないで」
怒り声のブロッサムに謝りつつ(心は篭ってないけど←)、再び後輩たちと向き合う。
モーディアルの新生……どこまでやれるか見物だし、修行の一環になるしな。
「では皆さん。後はお願いしますね」
そうこうしている内に、ソフィアール先生は一礼してから去っていった。
それを見届け、俺らを興味深そうに見る後輩に目を向ける。
「あー、コホン。えー、今も先生から話はありましたが、今回は俺らが担当することになりました。つってもぶっちゃけ、次から次へと俺と戦えばいいので、そんな難しく考えなくていいから」
メガホン片手にそう伝えると、途端にざわめき出す一同。
「あ。言っときますけど、こー見えても俺ら、結構強いですよ? マジ嘗めてかかると返り討ちに遭わせるんで」
強くなるのは死闘が一番だからな。
好奇の目の中、刀を持って校庭のフィールドに歩いていく。
「さてと……俺に挑もうって言う自信ある人、前に出ておいでー」
刀を突き付けながら見渡す。
と、ここで「俺だ!」と勢いよく誰かが出てくる。
「戦士学科だ。まずは俺から行くぞ!」
「バハムーンに斧か。典型的なガチムチ野郎って感じだな」
俺より体格や力があり、斧もブンブンと振り回すバハムーン君。
そんな俺らを対峙を見て、「うわあ……」だの「ダメじゃん……」だの声が聞こえる。
「合図が出てから動くこと。あと俺を屈服させたら勝ちだ。負けは……フィールドから出たり、気絶したらだな。建物崩壊しないレベルなら魔力も好きなだけ使え。これは全試合共通な」
「了解! ま、俺の勝ちは決まってるけどな」
俺を見下ろしながら彼は言う。
自信があるんだな。体格もいいし。
「んじゃ、はっじめ~!」
「よっしゃあ! 喰ら――」
「遅い!」
――が、一瞬の隙や慢心が命取りとなる。
大振りかつ隙だらけの攻撃を避け、強烈な峰打ちを叩きこんだ。
彼はそれをまともに受け、悲鳴すら上げることなく倒れる。
「……勢いは良いがまだまだだな。もう少し斧の扱いに慣れること、それから単独で突っ込まず、仲間との連携を取り合いながら戦った方がいい」
「は……はい……」
「他にいねーか? 集団で来ても構わねぇぞ」
倒れ、気絶した生徒はブロッサムに任せ、俺は不敵な笑みでもう一度後輩たちに話し掛ける。
「じゃあ今度は……」
「俺たちが相手だ!」
「その次は私たちよ!」
「いいだろう。全員まとめてかかってこいやあああ!!!」
やる気が触発されたか、一斉に武器を後輩たち。
それに笑みを浮かべながら、俺は刀をクルクルと構えるのだった。
――――
どれくらい倒したのだろう。
パーティと連携して戦い、それでも着実に勝利を収めてく。
「他いねーか、他。早くしないと終わっちゃうぞ~」
刀を回し、辺りを確認する。
……が、もうほとんどの後輩は相手したのか、名乗り出る人物はいなかった。
「……あらま。もう倒しちゃったか?」
まあちぎっては投げ、ちぎっては投げ……と繰り返してたけど。
刀で肩を叩き、周りを見回した時だった。
「……なら、次は俺とやってもらおうか」
聞き覚えのある声。
聞こえてきた方へ顔を向けると、そこには過去、とある目的で行動をともにし、一緒に共闘した人物。
「イクミ!?」
「ひさしぶりだな。アユミ」
そいつは前、プリシアナ学院に来て、とある目的に俺たちを巻き込んだ連中の一人。……リーダーのイクミだった。
「あ! イクミ君だ~」
「……おおっ」
「いっ……マジで……?」
「おまえ、なんで――」
顔見知りたる俺らは彼を見て、それぞれ反応する。
「って……モーディアル学園の生徒だから当たり前か」
「ああ。そうだ」
「愚問だったな。質問を変えよう。何しに前へ出てきたんだ?」
「……それこそ愚問だ」
楽しげに笑い、そして次の瞬間、
「……!」
ガキンッ! と、金属同士が打ち合う音がなった。
そして、ほぼ同時に飛んできた矢を片手で止める。
「あら、すごい動態視力。さすが、イクミが認めるだけあるわ」
「そりゃどーも」
矢をへし折りながら、弓を持つ(多分撃ったのこいつ)ディアボロスの女に目を向ける。
……しかしなんだろ。グラマーなボディや雰囲気のせいか、すっごい色っぽい。ホントに後輩?←
「アユミ、伏せろ!」
「!」
ぼーっと見てると、ブロッサムの鋭い声が走った。
刀を弾き返し、素早く転がる。
ドドスッ。
「あー! 惜しかったッス!」
そしてさっきまで俺のいた位置に、二つの斧が打ち当たった。
……ブロッサムがいなかったら、今頃死んでたな。ありゃ……。
「今度はドワーフ……それも典型的なパワーファイターか」
「はい! シリナって言うッス、先輩!」
あー、良い後輩口調だな。
アルビノで顔色悪そうだなーって思ってたけど……真逆っぽいな。印象覆されたかも。
「いやあ、良い動きやなあ。イクミが惚れ惚れする言うのもわかる気がしますわ」
今度はクラッズの女子が出てきた。
短剣を構えながら、にこにこと笑っている。
「見たことない奴が三人……念のため聞くが、そいつらもパーティメンバーか?」
「はい、そうですよ」
「フルの6人だからねっ」
俺の何気ない質問に答えたのはライとカリナだった。
5人はイクミの周りに集まり、フィールドへと足を踏み入れる。
「おいおい……どこのハーレム大王だよ」
「ふふ。さあね。それより、早く勝負を楽しみたいんだけど、始めてもいいかしら?」
軽くため息をつく俺に、ディアボロスが薄ら笑いを浮かべながら弓を構えている。
イクミはイクミでやる気が高く、刀二本を器用に回していた。
「やれやれ……言って聞くような相手じゃないか」
「アユミちゃ~ん。今度は数が多いし、僕も飽きてきちゃったから、そろそろ良い~?」
「飽きた……退屈?」
「ここまで全員アユミだけで片付けてきたんだよな……」
あー、三人(ブロッサムは回復魔法で怪我を治してもらったから、それなりに動いてたが)も退屈かあ。
まあこいつら以外、全員俺が片付けたからな←
「たしかにこいつらの強さは期待が高いからな……よし、こっちも行こうか」
「やった~♪」
「たー」
シルフィーとライラが揃って跳ねた。
そんなに退屈だったのか、おまえら。
「決まりだな」
「ん。そっちもその気だし……やらせてもらおうか」
イクミとニッと目を合わせ、お互いに戦意が高いことを伝え合う。
「じゃ、行きますか!」
「ああ。行くぞ!!」
大きく踏み出し、再び激しい金属音が鳴った。
それを合図に向こう五人も突撃し出す。
「始めるよっ! ライラ、覚悟ぉ!」
「覚悟……お命ちょうだい?」
「いや、そこまでやらなくていいッスよ!?」
ライラはカリナ&シリナ、槍と斧のパワーコンビとか。
……まあライラなら力もそこそこあるから大丈夫だろ。
「じゃあ、私はこっちの可愛い男の子たちの相手かしらね」
「そやなぁ。イクミはあっちのリーダーさんと、全力勝負したいんやし」
「さすがに、ライラのところには行けませんしね……」
「わ~い♪ 可愛い女の子と勝負だ~」
「いや、シルフィー……喜んでる場合じゃないぞ」
どうやら残り女子三人はウチの男どもとやる気らしいな。
……デレデレするなよ、ブロッサム←
「で……俺はおまえ――かッ!」
「そうだッ!」
二本の刀を受け流しながら、俺はイクミと一対一の勝負に入る。
前回共闘したことがあるから知っているが……イクミはたしかに強い。
一対二だったら、ちょっと厳しいところだな。
「ま、強い相手なら不足はないけれど……な!」
「同感だな……!」
刀を蹴りと鞘で流し、その隙に刀で斬りかかる。
「甘いな……!」
「っと……」
だが相手は自分と同じ侍、そしてあらゆる動きに対応しやすい忍者学科である実力者イクミ。
やっぱ、そう簡単には斬らせてくれない。
「相変わらず良い動きだな」
「伊達じゃないから、な!」
もはや訓練なんて生温いのじゃ無理だな。
本気の死闘で戦わないと、奴には勝てない。
「一撃必殺……ってな!」
居合の構えにし、前方に扇状に落としたサンダガンで距離を取る。
……ああ。魔法はシルフィーほど得意ではないが、撃った魔法の軌道や落とし方を変える程度なら俺もできるぞ?←
「この程度では……」
「わーってる……よッ!!」
もちろんこの程度では何にもならないことはわかってる。
これはただのフェイク。一瞬でも時間が稼げれば良い。
「はあっ!!」
「……ッ!!!」
研ぎ澄まされた精神で居合の一撃を放った。
さすがに予想外だったか、イクミの目が見開いた。
「ぐっ!?」
「……っ! どうだ……!」
手応えは、あった。
イクミは膝をつき、肩を押さえてる。
「……くっ……」
頬に一筋の斬り傷。肩にもわずかだが、居合の一撃が決まった血と傷があった。
「んー……やっぱかすり傷程度がオチか。おい、イクミ……」
「…………」
「……イクミ?」
呼びかけに応じず、ただ傷を押さえてるだけだった。
え……意外と傷が深かった? わけがわからず、思わず一歩踏み出した。
実は意外と続いていく。
――――
「……ああ? モーディアル学園に?」
「はい。アユミさん」
真昼の大聖堂。呼び出されたアユミは、セントウレア校長よりクエストを受けているらしい。
「ったく、なんで俺が……」
「ギャンブルの借金がどれだけ増えたと思っているんですか。いえ。私は良いのですが、ネメシアがうるさくて……」
「おのれ、あの悪魔執事め……」
ギリッ、と強く歯ぎしりするアユミ。
だが元はと言えば、借金するアユミが原因なのだが←
「……わーったよ。受ければいいんだな?」
「ええ。お願いします」
「どーなっても知らねーからな」
アユミはため息をつきながら、そのまま踵を返した。
残された校長はにこやかな笑みを浮かべながら、その背中を見送った。
――――
イクミSide
モーディアル学園。半年程前に創設された第四の冒険者養成学校。
ここは三大陸から生徒が入学していて、三大陸の文化・伝統・技術の全てを学ぶには最適と言える学校である。
俺も、俺の実家と別大陸であるタカチホ直伝の侍・忍者の技術を直に学びたく、この学校に来た、という訳だ。
実家も近いし、旅費もさほどかからなくて済むからな←
「おーい、イクミーっ!」
「ん?」
誰に聞かせているかわからない説明を脳内でしていると、真後ろから俺を呼ぶ大声。
「シリナ、リアス」
「もうーっ。イクミ、足が速いッスよー。追いつくの、大変だったッスからね!」
「忍者だからな。それより、何か用か?」
シリナの膨れっ面を指で小突きながらたずねる。
一々構ってたらキリがないからな。
「ああ、そうそう。あのね、今日の戦闘技術の実技なんだけど」
「……フォルティ先生の授業か。どうした」
「うん。なんか先生、体調不良で来れないっぽいッス」
「と言っても、タンスの角に小指をぶつけただけなんだけどね」
シリナとリアスの説明に、思わずずっこけてしまいそうだった。
フォルティ先生……どんだけ弱いンだ?
「それで、今日の実技なんだけど。今日はプリシアナ学院の方から、何人か手だれの生徒さんを来るらしいわ」
「プリシアナから……」
「ええ。手合わせしてくれるみたいだし……少しは楽しめそうね」
「……ふむ」
リアスの言葉に、ぼーっと生返事してしまった。
(プリシアナ……)
その単語を聞き、脳裏にあの女が思い浮かぶ。
カリナの私的欲求に付き合わされ、結果、異界の生物と戦う羽目になった。
その時、俺たちと一緒に来たあいつらが協力してくれた。
実力揃いで二つ名も持つ四人。そのうちの一人、黒髪の女が強かったのは今でも覚えてる。
「可能ならぜひ来てもらいたいな……」
「え?」
「いや。なんでもない」
「そうッスか? ……ってイクミ。なんか楽しそうッスね」
「なに?」
シリナに言われ、思わず目を見開いた。……楽しそうって……。
「俺だって楽しむ時くらいあるンが」
「いや、そりゃそうだけど。イクミが笑う時って中々ないッス」
「そうね。あなた、基本無表情だもの。……珍しいわね。よほど楽しみなのかしら?」
「……否定はしない」
クスクスと笑っているリアスには素直にそう伝える。
下手に隠そうものなら、逆にからかわれるしな。
「もういいだろ。授業もあるし、早く行くぞ」
「ああっ! 待ってほしいッス~~~!!」
「あらあら……」
それに慌てて着いてくるシリナ。小さく笑いながら来るリアス。
そんな二人を振り切りながら、俺は教室へ歩くのだった。
――――
教室
「えー。知っている方もいらっしゃると思いますが、本日フォルティ先生は急病にて欠席となりました」
ルドベキア先生の言葉に、一部の生徒がざわつき、一部は「あ、やっぱ?」的な雰囲気になった。
……なんだ。意外と知れ渡っているのか。
「先生ー。じゃあ次の授業は自習ですか?」
「いいえ。残念ながら違います」
にっこりと言い切った先生に、「えーーーっ!!」と大半がブーイングした。
……そんなに自習になってほしかったのか?
「本日はフォルティ先生の代わりとして、プリシアナから戦闘技術の訓練を担当してくれる方をお呼びしました。今、校長とお話し中ですが、授業の始まりには間に合うと思います」
その言葉に再びざわめき出す。
校長と直に、か……やはり、よほど実力者だろうな。
「彼女たちは皆さんより一つ上の先輩ですが、冒険者として、すでに活躍の名も上がっています。彼女たちから何か学べると良いですね」
にこりと笑顔を浮かべ「では、本日はここまで」とルドベキア先生は去っていった。
先生が去ると同時に、生徒のほとんどがそれぞれ動き出す。
「イクミ、イクミ! プリシアナから代理って……」
「カリナ。耳元で叫ぶな」
「ええ。怒鳴らなくても聞こえているわ」
「カリナ。落ち着くッス」
「うー……だってー……」
「まあまあ、カリナ。落ち着いてくださいって」
「せやな。慌てんでも、代理の人は逃げへんよ」
「ライ、リラ」
俺とリアスの両方に言われ、唇を尖らすカリナ。
そしてカリナに引かれるように、俺のパーティメンバーたちがやってきた。
「だって楽しみなんだもん。フォルティ先生が相手だと、すぐにリタイアして退屈だけどさ」
「それは否定しないが」
「そうね。否定しないわ」
「私も否定しないッス」
「み、皆さん……」
俺、リアス、シリナの頷きにライが苦笑いを浮かべた。
ライ……残念だが、これは全員が思っていることだ←
「まあいいや。骨がある人と戦えれば良いし」
「ええ。せめて、ミラくらいの実力があるといいんだけど」
「ああ。隣のクラスのミラちゃんやな。たしかに、モーディアル学園女子の部ではトップの方やし」
「まあな……」
モーディアル学園の実力者の一人、ミラ=カーネリアン。
大剣を振り回す強烈な攻撃力が売りのディアボロスの女だ。
たしかに奴も強い。俺の数少ない組み手相手に認定しているからな。
「……あ。アカン。そろそろ行かへんと遅刻してしまうで」
「そうだな。行くか」
「ええ。楽しみがなくなっちゃうわ」
時計を見ながら頷き合い、次の授業の場所である校庭へ向かう。
次の授業に来る代理人を楽しみにしながらな。
――――
校庭
授業開始5分前。プリシアナからの代理人というのに興味が高いのか、すでにクラス全員が集合していた。
代理人がどんな奴か気になり、周りは少し騒がしい。
「うわあ……みんな興奮してるッスね」
「かなりの実力持つゆー話さかい、どんな人か興味津々なんやろうな」
「そうでしょうね。私たちも同じなんだもの」
「あーうーあーうー……早く来ーいーっ!」
「カリナ、落ち着いてくださいってば」
「まったく……」
それは俺らも例外ではなかった。
カリナと、わかりにくいだろうがリアスが特に気になるらしい。
この二人、俺のパーティの中でもかなり戦闘好きだからな……←
(実力者、か……アイツは来るのか?)
頭に浮かぶのは黒髪のアイツ。
並の実力者よりも、圧倒的に強い彼女と戦いたい。
そんな欲求が頭を占めていた。
「――あ。ここか?」
「はい。今日はこちらのクラスを担当してください」
……その時だった。
俺の耳に、聞き覚えのある声が耳に入ったのは。
「一年生か……ふふふ、初々しい奴らよのぉ」
「何キャラだ、おまえは。……言っとくけど、あんまり変な目で見てるんじゃねぇぞ」
「変な目……アユミのハーレム状態?」
「つまりブロッサムはヤキモチ妬いてるってことだね~」
「黙れ、おまえら!!」
ソフィアール校長に連れられながら、賑やかに会話している四人。
金髪のセレスティア。緑髪のフェアリーの少年。紫のツインテールのノーム。
そして、長い黒髪のヒューマン。
「あ……!」
「え、あの方々は……!」
前回会ったことがあるカリナとライはすぐに気づいた。
他の生徒が注目する中、ソフィアール校長と四人が全員の前に立つ。
「こんにちは、皆さん。ルドベキア先生からお聞きしていると思いますが、今回の授業はフォルティ先生に代わり、プリシアナ学院から来ていただいたこちらの四人に戦闘技術の訓練をお願いしています」
ソフィアール校長の言葉に、全員の視線が四人に向けられた。
四人を見て、ひそひそと話し出す。
「誰だろ……ってか、あのノームの女の子……スゲー美少女……」
「あのフェアリーの男の子……結構可愛い~♪」
「ちょ……! あの人ってブロッサムじゃない!? プリシアナで最近人気な美声アイドルの!」
「黒髪の人……男か? 女か!? 美形過ぎる……!」
四人を一目見ての感想。
……たしかに。あの四人は、タイプは違うが、全員整った顔立ちをしているからな。
特にブロッサムは天才的な音楽の才能と歌声の持ち主だから、結構有名人だし。
「彼らが今回、プリシアナ学院からやってきた代理人です。実力も高いですので、皆さんには良い経験ともなるでしょう」
ソフィアール校長はにっこりと笑いながら俺たちを見渡した。
クラスメートたちも「はい」と頷く。
「うわあ……アユミたちと戦えるのかあ……!」
「たしかに……あの方々なら納得ですよねぇ」
「当たり前だ。プリシアナ最強の実力者だからな」
俺とカリナ、ライは四人を見ながら頷いた。
剣術、体術、援護、支援。すべてのバランスの取れたパーティの四人だ。
しかもチーム戦にしろ、個人戦にしろ、簡単に勝てる相手ではない。
「? なんや、皆さん。あの四人知ってるんですか?」
「リラ、前に言ったじゃん! プリシアナで会った『伝説の先輩』のこと!」
「あら。じゃああの娘たちが、イクミたちの言ってたすごく強い人なのね?」
「ってことは、プリシアナの数々の噂も事実ってことッスか!?」
首を傾げるリラに、カリナが興奮気味に話した。それにリアスが納得し、シリナも目を輝かせる。
『伝説の先輩』とはあの四人のことだ。一年と少し前、暗黒の魔道士アガシオンがこの三大陸に災いをもたらそうとし、それを救ったのがアユミたちだ。
知る人のみ知る、まさに『生きた英雄』というわけだ。
「うふふ……なら……ますます楽しみ、ね? イクミ?」
含みのある笑みで、リアスが俺の方へ振り向いた。
俺もその笑みに頷き、無意識に舌なめずりするのだった。
――――
アユミSide
(あー、面倒だな。ったく、なんでこんなことになってのかね?)
脳裏で失礼なことを考えながら、現在の自分の状況を面倒がっていた。
だってこの大人数の相手はな……。
「誰のせいだと思ってんだ。おまえが借金を重ねまくったからだろうが」
「そこで心を読むなよ、ブロッサム」
小さくため息をつくと、ブロッサムがギロッと睨んできた。
どうしてこうも勘がいいんだろうな。おかげで隠し事もできないよ。
「とにかく。頼むからしっかりしてくれよ。せっかくの依頼をパーにするつもりか」
「しないから。頼むから低い声で怒らないで」
怒り声のブロッサムに謝りつつ(心は篭ってないけど←)、再び後輩たちと向き合う。
モーディアルの新生……どこまでやれるか見物だし、修行の一環になるしな。
「では皆さん。後はお願いしますね」
そうこうしている内に、ソフィアール先生は一礼してから去っていった。
それを見届け、俺らを興味深そうに見る後輩に目を向ける。
「あー、コホン。えー、今も先生から話はありましたが、今回は俺らが担当することになりました。つってもぶっちゃけ、次から次へと俺と戦えばいいので、そんな難しく考えなくていいから」
メガホン片手にそう伝えると、途端にざわめき出す一同。
「あ。言っときますけど、こー見えても俺ら、結構強いですよ? マジ嘗めてかかると返り討ちに遭わせるんで」
強くなるのは死闘が一番だからな。
好奇の目の中、刀を持って校庭のフィールドに歩いていく。
「さてと……俺に挑もうって言う自信ある人、前に出ておいでー」
刀を突き付けながら見渡す。
と、ここで「俺だ!」と勢いよく誰かが出てくる。
「戦士学科だ。まずは俺から行くぞ!」
「バハムーンに斧か。典型的なガチムチ野郎って感じだな」
俺より体格や力があり、斧もブンブンと振り回すバハムーン君。
そんな俺らを対峙を見て、「うわあ……」だの「ダメじゃん……」だの声が聞こえる。
「合図が出てから動くこと。あと俺を屈服させたら勝ちだ。負けは……フィールドから出たり、気絶したらだな。建物崩壊しないレベルなら魔力も好きなだけ使え。これは全試合共通な」
「了解! ま、俺の勝ちは決まってるけどな」
俺を見下ろしながら彼は言う。
自信があるんだな。体格もいいし。
「んじゃ、はっじめ~!」
「よっしゃあ! 喰ら――」
「遅い!」
――が、一瞬の隙や慢心が命取りとなる。
大振りかつ隙だらけの攻撃を避け、強烈な峰打ちを叩きこんだ。
彼はそれをまともに受け、悲鳴すら上げることなく倒れる。
「……勢いは良いがまだまだだな。もう少し斧の扱いに慣れること、それから単独で突っ込まず、仲間との連携を取り合いながら戦った方がいい」
「は……はい……」
「他にいねーか? 集団で来ても構わねぇぞ」
倒れ、気絶した生徒はブロッサムに任せ、俺は不敵な笑みでもう一度後輩たちに話し掛ける。
「じゃあ今度は……」
「俺たちが相手だ!」
「その次は私たちよ!」
「いいだろう。全員まとめてかかってこいやあああ!!!」
やる気が触発されたか、一斉に武器を後輩たち。
それに笑みを浮かべながら、俺は刀をクルクルと構えるのだった。
――――
どれくらい倒したのだろう。
パーティと連携して戦い、それでも着実に勝利を収めてく。
「他いねーか、他。早くしないと終わっちゃうぞ~」
刀を回し、辺りを確認する。
……が、もうほとんどの後輩は相手したのか、名乗り出る人物はいなかった。
「……あらま。もう倒しちゃったか?」
まあちぎっては投げ、ちぎっては投げ……と繰り返してたけど。
刀で肩を叩き、周りを見回した時だった。
「……なら、次は俺とやってもらおうか」
聞き覚えのある声。
聞こえてきた方へ顔を向けると、そこには過去、とある目的で行動をともにし、一緒に共闘した人物。
「イクミ!?」
「ひさしぶりだな。アユミ」
そいつは前、プリシアナ学院に来て、とある目的に俺たちを巻き込んだ連中の一人。……リーダーのイクミだった。
「あ! イクミ君だ~」
「……おおっ」
「いっ……マジで……?」
「おまえ、なんで――」
顔見知りたる俺らは彼を見て、それぞれ反応する。
「って……モーディアル学園の生徒だから当たり前か」
「ああ。そうだ」
「愚問だったな。質問を変えよう。何しに前へ出てきたんだ?」
「……それこそ愚問だ」
楽しげに笑い、そして次の瞬間、
「……!」
ガキンッ! と、金属同士が打ち合う音がなった。
そして、ほぼ同時に飛んできた矢を片手で止める。
「あら、すごい動態視力。さすが、イクミが認めるだけあるわ」
「そりゃどーも」
矢をへし折りながら、弓を持つ(多分撃ったのこいつ)ディアボロスの女に目を向ける。
……しかしなんだろ。グラマーなボディや雰囲気のせいか、すっごい色っぽい。ホントに後輩?←
「アユミ、伏せろ!」
「!」
ぼーっと見てると、ブロッサムの鋭い声が走った。
刀を弾き返し、素早く転がる。
ドドスッ。
「あー! 惜しかったッス!」
そしてさっきまで俺のいた位置に、二つの斧が打ち当たった。
……ブロッサムがいなかったら、今頃死んでたな。ありゃ……。
「今度はドワーフ……それも典型的なパワーファイターか」
「はい! シリナって言うッス、先輩!」
あー、良い後輩口調だな。
アルビノで顔色悪そうだなーって思ってたけど……真逆っぽいな。印象覆されたかも。
「いやあ、良い動きやなあ。イクミが惚れ惚れする言うのもわかる気がしますわ」
今度はクラッズの女子が出てきた。
短剣を構えながら、にこにこと笑っている。
「見たことない奴が三人……念のため聞くが、そいつらもパーティメンバーか?」
「はい、そうですよ」
「フルの6人だからねっ」
俺の何気ない質問に答えたのはライとカリナだった。
5人はイクミの周りに集まり、フィールドへと足を踏み入れる。
「おいおい……どこのハーレム大王だよ」
「ふふ。さあね。それより、早く勝負を楽しみたいんだけど、始めてもいいかしら?」
軽くため息をつく俺に、ディアボロスが薄ら笑いを浮かべながら弓を構えている。
イクミはイクミでやる気が高く、刀二本を器用に回していた。
「やれやれ……言って聞くような相手じゃないか」
「アユミちゃ~ん。今度は数が多いし、僕も飽きてきちゃったから、そろそろ良い~?」
「飽きた……退屈?」
「ここまで全員アユミだけで片付けてきたんだよな……」
あー、三人(ブロッサムは回復魔法で怪我を治してもらったから、それなりに動いてたが)も退屈かあ。
まあこいつら以外、全員俺が片付けたからな←
「たしかにこいつらの強さは期待が高いからな……よし、こっちも行こうか」
「やった~♪」
「たー」
シルフィーとライラが揃って跳ねた。
そんなに退屈だったのか、おまえら。
「決まりだな」
「ん。そっちもその気だし……やらせてもらおうか」
イクミとニッと目を合わせ、お互いに戦意が高いことを伝え合う。
「じゃ、行きますか!」
「ああ。行くぞ!!」
大きく踏み出し、再び激しい金属音が鳴った。
それを合図に向こう五人も突撃し出す。
「始めるよっ! ライラ、覚悟ぉ!」
「覚悟……お命ちょうだい?」
「いや、そこまでやらなくていいッスよ!?」
ライラはカリナ&シリナ、槍と斧のパワーコンビとか。
……まあライラなら力もそこそこあるから大丈夫だろ。
「じゃあ、私はこっちの可愛い男の子たちの相手かしらね」
「そやなぁ。イクミはあっちのリーダーさんと、全力勝負したいんやし」
「さすがに、ライラのところには行けませんしね……」
「わ~い♪ 可愛い女の子と勝負だ~」
「いや、シルフィー……喜んでる場合じゃないぞ」
どうやら残り女子三人はウチの男どもとやる気らしいな。
……デレデレするなよ、ブロッサム←
「で……俺はおまえ――かッ!」
「そうだッ!」
二本の刀を受け流しながら、俺はイクミと一対一の勝負に入る。
前回共闘したことがあるから知っているが……イクミはたしかに強い。
一対二だったら、ちょっと厳しいところだな。
「ま、強い相手なら不足はないけれど……な!」
「同感だな……!」
刀を蹴りと鞘で流し、その隙に刀で斬りかかる。
「甘いな……!」
「っと……」
だが相手は自分と同じ侍、そしてあらゆる動きに対応しやすい忍者学科である実力者イクミ。
やっぱ、そう簡単には斬らせてくれない。
「相変わらず良い動きだな」
「伊達じゃないから、な!」
もはや訓練なんて生温いのじゃ無理だな。
本気の死闘で戦わないと、奴には勝てない。
「一撃必殺……ってな!」
居合の構えにし、前方に扇状に落としたサンダガンで距離を取る。
……ああ。魔法はシルフィーほど得意ではないが、撃った魔法の軌道や落とし方を変える程度なら俺もできるぞ?←
「この程度では……」
「わーってる……よッ!!」
もちろんこの程度では何にもならないことはわかってる。
これはただのフェイク。一瞬でも時間が稼げれば良い。
「はあっ!!」
「……ッ!!!」
研ぎ澄まされた精神で居合の一撃を放った。
さすがに予想外だったか、イクミの目が見開いた。
「ぐっ!?」
「……っ! どうだ……!」
手応えは、あった。
イクミは膝をつき、肩を押さえてる。
「……くっ……」
頬に一筋の斬り傷。肩にもわずかだが、居合の一撃が決まった血と傷があった。
「んー……やっぱかすり傷程度がオチか。おい、イクミ……」
「…………」
「……イクミ?」
呼びかけに応じず、ただ傷を押さえてるだけだった。
え……意外と傷が深かった? わけがわからず、思わず一歩踏み出した。