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二人の夏祭り

 セルシアVer.

「……げっ……」

 ……セルシアだった。どうやら単独行動中らしい。珍しく。

(……係わり合いにならない方がいいな)

 最近のセルシアは前とちょっと変わってる。はっきり言ってしつこい。
 係わり合いになりたくない俺は、即逃げようとした。

 ガシッ。

「つれないね、アユミは。話しかけてくれたっていいじゃないか」

「っ!!?」

 ……どういうことだ。何故セルシアに抱きしめられてるんだ!?
 ってかちょっと待て。さっきまで5メートルくらい離れてたよな?
 こいつは瞬間移動能力でも持っているのか!?

「な……いつから……!?」

「君が僕に気づいた時からかな。話しかけてくるかな、って思ってたら君が逃げるから。それでね」

「だからってどうやって一瞬で!?」

 それを説明しろよ! 怖いんだけど!?

「気にしない方がいいよ。それよりここで会ったのも何かの縁だからね。一緒に回ろうか?」

「あの、俺……これからブロッサムと……」

「……一緒に回ろうか?」

「……はい」

 嘘言って逃げようにも黒い笑顔になったうえ、抱きしめる力が強くなった。それはもう痛いくらいに。
 ……逆らったらまずい。
 本能的にそう感じた俺は、おとなしく同行することに決めたのだった。

 ――――

「ふぅ……」

「ずいぶん大量だね」

 セルシアにツッコミを入れたり入れられながら、とりあえず屋台は制覇していく。
 今は先程輪投げで戦利品をいただいたところだ。

「アイナさんも言っていたが、アユミは本当にお祭りが好きなんだね」

「……まあね」

 とりあえず頷いておく。
 屋台制覇はさせてくれるので、もういいや。と半分諦めていた。

「あ、屋台発見」

「え? まだ食べ「おっさん、かき氷メロン一つ!」…………」

 ……あれ? セルシアの視線が痛いんだけど。
 胡散臭いような風貌のおっさんに金を渡しながら、俺は後ろのセルシアの視線に耐えるのだった。

「ほらよ」

「サンキュ、おっさん」

「いいえー。またねー、男前な少年」

「……少年……?」

「う……い、行くぞ、セルシア!」

 どういう訳かセルシアから一瞬殺気が見えた。
 慌ててセルシアの腕を引っ張り、次の屋台へ向かうのだった。

 ――――

「はあ……何とか制覇した」

 なんだかんだあったが全屋台を巡り、完全制覇を果たした。
 今は広場の角に座り込み、かき氷にかじりついてる。

「すごいね。本当に制覇するなんて」

「当然だ。夏祭りの女帝に不可能はない」

「…………」

「……そんな痛い目で見るなよ」

 もぐもぐと食べ物に食いつく。
 セルシアの視線もそれなりにやり過ごし、今は至福に浸る。

「……アユミ」

「ん?」

「なんで訂正しないのかな?」

「は?」

「君が男じゃなくて女だってこと」

 ああ、そのことか。

「べつによくあるこったし。否定して時間費やすのも惜しいし。何よりべつに気にしないしな」

 俺にとっては些細な問題なんだよ。
 そう思いながら再びかき氷を食いはじめた。

「…………」

 セルシアがため息をつくのが横から聞こえた。
 同時にがさがさと何かを取り出す音が。

「アユミ」

「なん……」

 だ、と言おうとした瞬間、

 ぐいっ。

「え……」

 いきなり頭を抱えられた。
 両腕が首に回され、自然とセルシアの肩に顔がくっつく羽目に。

「え、な……?」

「ああ、動かないでくれ。上手く結べないから」

「わっ、ちょっ……!」

 ぐいっとさらに抱きしめられた。それから作業続行する。

「……っ」

 セルシアの指が時々首に触れる。くすぐったくて仕方がない。
 何よりこんな至近距離でセルシアを感じたことはない。

「ま、まだか……?」

「もう少しだよ」

 早くしろよ……っ!
 心臓バクバクで死にそうなんだけど!

「……はい、出来た」

「あ、ああ……?」

 言われ、ようやく解放される。
 ……と、首に何かが着けられていた。

「これは……」

「チョーカーだよ。そこの露店で売ってたんだ」

 鏡で見てみると、俺の首にリボンみたいな黒いチョーカーが着けられていた。

「なんで……」

「アユミに似合いそうだなって思って。……思ったより似合ってるよ」

「そう、か?」

 まあ、デザインは嫌いじゃない。逆に気に入った。

「あ、ありがと……」

「どういたしまして」

「……っ」

 急に顔に熱が込み上げてきた。
 なんだか気恥ずかしくて、セルシアから視線をそらすしか出来なかった。

 黒いチョーカー

(気に入ってくれたみたいだね。よかった)
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