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二人の夏祭り

 ブロッサムVer.

「ブロッサム!」

「え……? アユミ!?」

 ブロッサムだった。
 両手にはそれぞれチョコバナナとかクレープとか……甘い物ばっかりだ。

「あ、楽しんでんだ。よかったよかった」

「まあな。おまえも……楽しんでるよな、全力で」

「ああ。あと半分近くだし」

「この短時間で!?」

 ぎょっとした表情で見られました。
 いいじゃないか、べつに←

「あ。ここで会ったのも何かの縁だし、どうせなら一緒に回ろうぜ」

「え? あ、ああ。……まあ、一人は飽きてきたし」

「よし。という訳で次はそこのもんじゃ焼きと焼鳥だ!」

「まだ食うのか!!?」

 ――――

「よ……っ、このっ……あ゙」

「またか」

 ブロッサムにツッコミを入れられながら、着々と屋台を制覇していった。
 とりあえず今は水ヨーヨー釣り中だ。ブロッサムは連敗中だけど。

「おまえ……手先不器用過ぎだろ」

「くっ……おっさん、もう一回!」

「はいはいっ。慌てないのよ、少年」

「おっさん、俺にも一回分」

「え?」

 ブロッサムの目が丸くなった。
 胡散臭いような風貌のおっさんに金を渡しながら、俺は水ヨーヨーと向き合う。

「おまえに任せてたら時間が無くなっちまうからな。この水色のだろ?」

「あ、ああ……」

「…………。よっと」

「!?」

「お、上手いねぇ」

 一発でブロッサムの狙ってた水ヨーヨーをゲット。
 ついでに俺の目当ての黒いヨーヨーもゲットしてある。

「ほらよ」

「あ、ありがと……」

「おっさんもサンキュ」

「いいえー。またねー、男前な少年」

「え? いや、こいつは」

 何か言いたげなブロッサムの腕を引っ張り、次の屋台へ向かった。
 あと数件で制覇だからな!

 ――――

「よし! 制覇だ!」

 全屋台を巡り、完全制覇を果たした。
 今は広場に座り込み、タコ焼きともんじゃ焼きにかじりついてる。

「マジでやりやがったよ、この女……」

「当然だ。夏祭りの女帝に不可能はない」

「何? 夏祭りの女帝って?」

 もぐもぐと食べ物に食いつく。
 ブロッサムのツッコミもそれなりにやり過ごし、今は至福に浸る。

「……つかさ」

「ん?」

「おまえ……なんで訂正しないんだ?」

「何が」

「男じゃなくて女だってこと」

 ああ、そのことか。

「べつによくあるこったし。否定して時間費やすのも惜しいし」

「よくあるって……おまえなあ……」

「べつに気にしないしな」

 俺にとっては些細な問題なんだよ。
 そう思いながら再びタコ焼きを食いはじめる。

「…………」

 ブロッサムがため息をつくのが横から聞こえた。
 同時にがさがさと何かを取り出す音が。

「おい……」

「ん? なん……」

 だ、と言おうとした瞬間、

 ぐいっ。

「え……」

 いきなり右手を取られた。
 それから薬指に何か……指輪が嵌められた。

「これは……」

「露店で売って……た、ただおまえが好きそうだからあげただけだからな!」

「へぇ……」

 指輪をじっと見つめる。
 銀色の細い指輪。何の飾りも無いが、それが逆に気に入った。

「たしかに俺の好きなやつだな。シンプルで良い」

「そ、そうか……よかった」

「しかし薬指か……」

 俺がぽつりとつぶやくと、「え?」と首を傾げた。
 ……まさか知らないのか?

「薬指にやる指輪は、婚約とか結婚的な意味じゃなかったっけ?」

「え」

 俺がそう言うと、ボッと顔が赤くなった。
 べつに知らない訳じゃなかったんだな。

「ち、違っ!! 俺、そういう意味であげたんじゃなくてッ!!」

「はいはい。ま、俺はおまえらならもらわれてもよかったんだけど?」

「なっ……」

 真っ赤な顔に思わず笑いが込み上げてきた。
 相変わらず可愛い男だな、こいつは。

「ま。指輪は気に入ったよ。ありがとな」

「あ……ああ……」

 銀色に光る指輪を見ながら笑いかけた。
 ブロッサムの顔は赤いままだけど、それでもちょっとうれしそうな表情だった。


 銀の指輪

(本当はアユミの為に買った……なんて言えないけど)
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