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新しい未来

 おまえの胸の奥まで、

 届くように、この思い―メロディ―を、

 おまえに奏でるよ。

 ――――

「……ほら。コーヒー」

「ああ。ありがとう」

 テラスにてブロッサムにコーヒーを渡し、俺も自分のコーヒーを口に含む。
 いや……ブロッサムに任せると、コーヒーという未知の物体。最悪生物兵器が出来上がるからな←

「……おい。今失礼なこと考えたよな?」

「何……!? ブロッサムとの超の付く刺激的なことを感知したのか!?」

「どんだけ変態なことをする気だよ!! つーかごまかすな!」

 騙されなかった! ……こいつの勘の良さは新年も良さそうだ←

「……ったく。おまえが『初日の出』ってやつを見たいっつーから付き合ってるのに……」

「ヒューマンの性欲は他より高いんだ!!」

「でかい声で言うんじゃない! そして自分の種族をそんな風に言うな!! よかったよ、防音性の部屋で!」

 うん、新年一番のツッコミもやっぱり良いな。
 ツッコミのないブロッサムなんて、ギャンブル無しの俺の人生みたいなもんだ!!←

「また変なこと考えたよな!?」

「だから気のせいだって」

 ブロッサムのツッコミも受け流しつつ、俺の目は外へ向いている。
 1月1日。新しい一年の始まりの年ということもあり、6時でも外はまだ暗かった。
 だけど外の暗さとは反対に、俺の内心は弾んでいる。

「……うれしそうだな」

「そう……だな。今年は、な」

 今年は少し……いや、すごくうれしいんだ。

「タカチホ義塾じゃ、家のごたごたとかで気乗りじゃなかったし。ましてや去年……今じゃ二年前か。にはアガシオンに狙われて、エデンや闇の生徒会、魔王どもと死闘の毎日だったからな」

「あ……そう、だったな。悪い」

「いいって。結果的に、そういう人生だったからこそ、俺はここにいるんだなって。今はちょっと感謝してる」

「アユミ……」

 そうだ。ろくでもない、何の価値も無い、我慢することだけを覚えたような感じだったけど……でも、全部を否定することはできない。

(だって、できたからな。……ホントに、心から大切なものが)

 今は心から信じられる仲間がいる。
 笑って。泣いて。怒って。ボケたりツッコミを入れたり事件に巻き込まれたり……。
 大変な事や厄介な事に巻き込まれたりすることもあるけど、今となっては良い思い出になる。
 心が躍るように、楽しい毎日だから。

「だから。今は笑って言えるんだ。生きててよかったって」

「……生きてて……」

「ここにいることが。俺の生まれた意味とか……いや、大袈裟に言う気は無いんだけど。……でも、よかったって」

「――そうだな。よかった。ホントに」

 ブロッサムの声が耳元から聞こえた。
 そう頭が理解した次には、ギュッと傍に引き寄せられた。

「俺も……俺も、よかったって思える。アユミが来るまでは楽しくなかったけど……でも、今は楽しいって……心から思える」

「ブロッサム」

「何の取り柄も無い俺だけど、さ……それでも、少しだけど、出来ることってあったから。アユミがそう教えてくれたから。……アユミが、その……すごく好き、だから……なおさら、な……?」

「……うん。今のタイミングで言われると、さすがにちょっと照れるな。その言葉は」

 というか、鼓動が早くなってる。不意打ちとかどこで覚えてきたんだよ。
 やばい。不覚にもキュン死にしそうなんだけど。

「――ありがとな、ブロッサム」

 やばいよ。俺様、目が潤んできてる。
 それをブロッサムに見られないよう、正面から抱き着いた。
 うれしくて泣くって……俺のガラじゃないんだよ。

「な、泣くなよ!? どうしたらいいかわからないだろ!?」

「いや、べつにいいって。このままいれたら……それでいいから」

 ……やっぱりこいつにはばれてた。
 こういう時はいらなくていいのになー←

「~~~……っ。あーもう!」

 片手で頭をガシガシ掻いた……かと思えば、ぎゅむって抱きしめられた。
 あー……体格はやっぱり男の子だなー。すっぽりはまっちゃうんだし……俺が隙間にも入れそうな豆粒体型のせいじゃないぞ!?←

「た、頼むから泣き止めよ……」

「……もう泣いてねーよ」

 すりすりと擦り寄りながら、俺の顔は満面の笑みでいるんだろうな。

「ん……もう平気だ。ありがとうな」

「……な、なら、いいんだけど……」

 顔を上げれば、すごく真っ赤な顔のブロッサムが目に映る。
「うー……あー……」と目を忙しなく動かしているのも。

「何?」

「いや……あのさ、アユミ」

「ん?」

「……俺、セレスティアで……違う種族だけどさ……あの……」

「うん」

「その……種族とか関係なく、アユミのことは……た、大切なんだからな……っ!」

 新年からツンデレ大披露しながら「だから……」と続ける。

「……、……アユミが……好きだ」

「……うん」

 耳元に囁かれる言葉。
 俺だけに聞こえるように。俺だけが聞いていいように。

「俺もブロッサムが好きだよ。種族とか、家系とか。そんなの関係なしに」

「……ああ」

「好きになるのは理屈なんかじゃないし、こじつけとかもいらない。ただブロッサムだから――ブロッサムがブロッサムだから好きなんだ」

「……ありがと」

 ゼロ距離と言っていいほどに抱きしめられる。
 ちょっと息が苦しいけど、力が籠る腕の中は心地よかった。

「あ」

 ふと、外に目を向けたブロッサムがつぶやいた。
 つられて外を見る。

「日が登った……夜、明けたな」

「ああ……すげえ綺麗……」

 昇り出した日の光を魅入りながら、ちらっとブロッサムを横目で見る。
 光が受けた金髪と碧眼が、宝石のようにキラキラとしていた。

「ブロッサム」

「なん――」

 振り向き様、身体を伸ばして、言葉を遮るようにキスしてやった。
 離れれば……うわあ、耳まで真っ赤だ←

「い、いきなり何すんだよ!?」

「んー……何となく?」

「はあ!?」

「好きなんだモン♪」

「口調が寒い……」

「俺も思った」

「なら言うな!!」

 目を丸くして慌てふためくブロッサムと、いつものようにじゃれあった。
 昇る日の光が、じゃれあう俺たちを暖かく照らし出した。

 ――――

 強がらなくたっていいんだ、べつに。
 喜びも不安も受け止める最高の奴がいるから。
 ……まあ……多少素直じゃないけど。
 ――その分、自分が素直になればいいんだから。


 新しい未来

 ――――

(心の裏をくすぐられるような)

(惹かれ合う二人に、幸せな未来を!)
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