このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ゲームしよう?

「アユミ。なんでそんなにギャンブル好きなの?」

「あはははは」

「笑い事じゃねぇっつの!」

 俺は呑気に笑ってるアユミの襟首を掴みながら、掴んでる手と反対の手を差し出す。

「出せ! 金を! また借金を増やす気か!?」

「おまえこそ俺の楽しみを奪う気か!? ひどいぞ、ブロッサム!」

「おまえだろうが!」

 毎回事あるごとに難易度の高いクエストに付き合わされてんだぞ!?
 こっちだって我慢の限界があるわ!

「絶対行かせないからな! 付き合わされる身にもなれや!」

「むー……どうしても、ダメ?」

 う、上目使いにキョトンと首傾げ……!?

「そ、そんな目で見たって、ダメなものはダメ!!」

「チッ……ダメか」

 あ、危なかった……! あと少しで流されるところだった……。

「わ、わかったら行かない! 金も置いてけ!」

「んー……でもタダで退きたくないなあ……」

 なんでこういう時だけ粘るんだよ。
 俺の部屋をキョロキョロと見渡すアユミに、心の中でそうツッコミを入れる。

「……あ。ちょうどいいの発見」

「は?」

 そう言ってアユミが手に取ったのは……細い焼き菓子にチョコをかけたお菓子。

「なあ。これでゲームしよう?」

「……はい?」

 ますます目を丸くさせた。
 何の変哲もないお菓子でどうゲームしろと……?

「ほら。これ、手持ちの部分はチョコがかかってないだろ? 俺がこっちの部分を支えるから、おまえはチョコのかかった部分を食ってけ。途中で落としたり、食うのを止めたら負けな?」

「……まあ、それくらいなら」

 なんだ……たいして難しくなさそうだな。
 難易度も低そうなので、特に疑いもなく頷いた。

「よしよし。……あ、いまさらやめる、は不戦勝ってことで俺の勝ちだからな?」

「わかってる」

「ならば良し。じゃ、はい、どーぞ」

 にっこり笑いながらアユミは座り、チョコがかかってない部分を口にくわえた。
 ……え? くわえた?

「ちょ!? 何やってんだよ!」

「何って……これ、こういうゲームなんだよ?」

「はあ!?」

「知らなかった?」と笑いながら、楽しそうに俺を見るアユミ。
 そんなの知らない……! というか、俺、騙された!?

「な、なな……こ、この状態で俺、食ってくのか!?」

「うん。……早く食べないと、不戦勝にすっぞ」

「ううっ……!」

 ぐっ……それは困る。
 また借金が増えるのは避けたい。

「い、行くぞ……?」

「うぃ」

 逃げ場が無くなった俺はアユミと向かい合い、意を決して食うことにした。

「……っ」

 サクサクと、菓子が砕ける音が妙に大きく聞こえる。
 だんだん近くなるアユミの顔のせいで、味なんかわかったもんじゃない。

(あと、ちょっと……)

 少しずつ噛み砕き、ようやく半分近く食べ終わる。
 ……なんて疲れるゲームなんだろう。

「ほらほら、早くー」

「わ、ひゃっ、てる」

 今やろうと思ってただけだ!
 にやにやと笑って催促するアユミを睨みながら再開する。

「可愛いなあ。……キスして喰いたいくらい」

「ギ……ッ!?」

 ……が、3分の2くらいかな。
 アユミの発言で、ボキッ! と、一際強く菓子を噛んだ音が響いた。

「な、ななな、何言って!!」

「あんまりしゃべると落っこって負けるぞ?」

「うぐっ……!!」

 思わず動揺して菓子を落としそうになったが、なんとか耐えた。
 こいつ、なんつータイミングで爆弾落としてんだよ!

「ブロッサム? もう少しなんだけど」

「……わかってます」

 ちらっと見ると、残り一口くらい。
 一口、なんだけど……。

(ち、近すぎ……っ)

 もう鼻がくっつくくらい近いのに、これ以上やったら……ホントに触れそうなんだけど。
 こいつの発言もあって、これ以上は中々進まない。

「う……っ」

 目の前には超間近で、にやにやと笑ってるアユミ。
 ……今思えば、絶対この展開を計算してただろうな。

「ブロッサム。この体勢、疲れたんだけど」

「わっ……!?」

 な、なんで抱き着くんだよ! それも真っ正面から! ただでさえ吐息も感じるのに、そんな真似されたら……!

「……り」

「ん?」

「も……、無理ぃ……っ」

 恥ずかしさが強くなって、目を強くつぶる。これ以上は直視できなかった。
 あと一口なのに、これ以上無理……っ!

「……しょーがないなあ」

「え……?」

 言葉の割には楽しそうな声。
 思わず目を開けば、同時に口に何か突っ込まれ、唇には柔らかい感触。

「あ……!」

「ま、今回は特別に許してやるよ。可愛かったし♪」

 すぐに離れたその顔は楽しそうで、金を置いて残りの菓子を食いはじめた。

「……意地悪」

「可愛いブロッサムが悪いんだよ」

 ぼふっとクッションに顔を埋める。
 顔の熱のせいで、しばらく上げることができなかった。


 ゲームしよう?

 ――――

(それからしばらく)

(俺はあの菓子を無意識に避けるようになった)
1/2ページ
スキ