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惹かれ合う光と闇

 病んだ心も、自分を貫く強さも。

 俺とおまえはよく似ている。

 ――――

「…………」

 暑苦しい。非常に暑苦しい。
 なんで朝っぱら(早朝5時)からこんな目に会わなにゃならんのじゃ。
 ……あ? 原因? ……んなもん、決まってるだろ。

「可愛い……なんて可愛いんだ、おまえは……」

 ……ベッドに押し倒すかのように俺に抱き着いて、可愛いと連続で口にしながら擦り寄ってくるこの男……エデンのせいだよ。

(あー、くそっ。……なんで真夜中に部屋に入れたんだ、俺……)

 今すぐ耳を甘噛みしてくる銀髪のこのバカを殴り殺したい。切実に。
 そんな衝動を押さえつつ、自分の行動にも後悔する。

 ――――

 そもそもこんなになった原因は昨日……というか、今日の日付に変わった時だった。
 たまたま明日は休みだから、借りてきた本を夢中になって読んでいた。
 気づいた時はかなり遅い時間だったので、よし、寝ようか。とした時に奴は来た。しかも窓から←

「やあアユミ。こんばん」

 バタンッ。

 姿を見た時、一瞬思考が止まったが、すぐに窓を閉めた。
 そして何も見なかったふりをして、再びベッドに戻る。

 バンッ!!!

「待て! なぜ僕を無視をするんだ!?」

 もちろん奴は入ってきた。
 ……つーか、おい。なんでナチュラルに窓から入ってきた。ここは四階だぞ←

「こんな夜中に何しに来た。即刻帰れ」

「明日は互いに休みだからいいだろう! というか来て早々には帰りたくない!」

 生徒会長が駄々をこねるな。しかもなんで俺が休みなのを知っている。
 とはいえ、真夜中に騒ぎ立てるこいつを追い出すのも面倒だったので、嫌々しかたなく部屋に入れた、という訳だ。

 ――――

 ……しかしやはり追い出せばよかった。面倒だからって部屋に入れたのが間違いだった。

「ホントに綺麗だな……。琥珀の瞳も、黒髪も、白い肌も……もういっそ、僕だけのものとして、さらってしまいたいくらいに……」

「黙れ、ヤンデレ。殺されたいのか」

 ……これだからだ。さっきから目が妖しい色になってきている。しかもさっきから触る手が妙にくすぐったい。
 セルシアの黒デレ(?)もアレだが、こっちはヤンデレだからもっとタチが悪いし。

「……いや、それよりも……おい、エデン」

「なんだ? どうかしたか?」

 超至近距離(少し動けば唇がマジで触れそうなくらい)で顔を見てくるエデンに、とりあえず身体を押し退けようと試みる。

「……っ、痛いんだが……やめてくれないか?」

「それは、俺のセリフ……ッ!」

 ……もちろん全力で抵抗していやがる。
 グイグイと押すが、やはり男女の差と言うものがあって。
 つまり早い話、まったくの無駄に終わりつつある。

「痛いと言ってるだろう。――アユミ」

「うるさ、い゙っ……!?」

 それでも何もしないまま、ただやられるのは俺のプライドが許さない。
 だから無駄と知りつつも抵抗する。……が、ガブッと耳たぶを噛まれた。

「いった……っ。テメェ、何しやが……ゃあっ!!?」

 み……っ、み、耳の中を舐められた……っ!
 さらに息も吹き込まれ、思わず身体が跳ね上がる。

「そう……おとなしくしてくれ。悪いようにしないし……何より、痛い目に合わせたくない」

「現在進行形で痛い目に合わせてるくせに……っ」

 耳をかぷかぷと噛まれながらも、つい反撃気味に言うが……正直かなりやばい。
 だってエデンの手には、いつの間にかナイフが握られてんだし←

「その生意気気味な目も口調もアユミらしくて良いが……あまり言わない方がいいぞ。いつ何時後ろから刺されても文句は言えないからな」

「だからっ! 今現在刺し殺しそうなことをしている奴が言うなっつーの!!」

 必死に顔を避けつつも怒鳴り返す俺。
 向けられるナイフをかわしたいところだが……のしかかってる分、エデンの方が有利なので多分無理。

「そんな怖い顔をするな。……しかたないだろう。僕はアユミが好きだから。すべてを独占してしまいたいし、見られないよう、僕だけしか知らない場所に閉じ込めたいんだ」

「……完全にヤンデレだな……」

 ……ダメだ、こりゃ。
 エデン……まだアガシオンの闇が燻ってんじゃねぇのか?
 つーか、むしろそうであってくれ。間違ってもそっちに目覚めた――は、絶対に思いたくない←

「なんとでも呼べ。……好きだ。誰よりも何よりも。アユミが一番、僕をわかってくれるから」

「それは……」

「君だってわかるだろう? 僕と君は似た者同士。……心の奥底にある部分が、求め合ってる」

「…………」

「僕は好きだ……何もかもが」

 擦り寄るエデンに……思わずため息をついてしまった。
 なんだってこいつは、こうも俺をぐらつかせる一言を言うのだろうか。

(否定は……できないからか)

 エデンの言うことは、あながち間違いでもない。
 ドラッケンの優等生という肩書き故に、出来て当たり前、という周りの期待が重かったエデン。
 タカチホの古き伝統に縛られ、周りの大人の言うことや使命が嫌だった俺。
 望んでいない環境で過ごし、それぞれ俺たちは孤立していた。

(違うのは、エデンが先に闇に堕ちたから、俺が光になっただけ)

 予言の子という運命だったにしても、闇に捕われたエデンに殺されたくなかったから。
 そして、プリシアナ学院で出会った皆と助け合って、俺は強くなれたから。

(決して一人じゃなかったから、最後の最後まで諦めなかった)

 だから、俺は勝てた。
 そして闇に消えたエデンを助けることが出来た。
 死んだと思ったエデンを。

「…………」

 ……認めるのは酌だが……うん、俺も少なからずエデンに惹かれてる……はず。……多分……←

「エデン……」

「? どうした?」

 キョトンとして俺を見るエデン。
 ……と言っても、瞳はまだ闇がかかってるけどな←

「……逃げも抵抗しない。だからナイフはしまえ」

「……え……」

 俺の言葉に目を丸くさせる。
 そんなエデンに苦笑しつつ、逃げる意思はないと告げるように背中に腕を回した。

「まあ、その……アレだ。俺もエデンに惹かれてる部分もある。……あんまり認めたくないけど」

「――それは……君も僕が好きだ、と言うことか……?」

 驚く表情を変えないまま、エデンがたずねてきた。

「そう言ったつもりなんだけど。……ってか、なんで自信なさ気に聞くんだ」

「はっきりした答えじゃなければわからないし、信用しにくい」

「ひどいな。おまえも人のことが言えないじゃないか」

 軽く「傷つくぞ」と告げながらも、拒むようなことはしなかった。
 どんなに否定しても、一度気づいたものはごまかしようがないから。
 俺は気づいたものは、何でも受け止めちまうんだ。

「……まあいい。俺は受け入れるって決めたんだ。煮るなり焼くなりヤるなり、好きにしやがれ」

「女子がそんな単語……いや、アユミに言っても無駄か」

 よくわかってるじゃないか←
 俺を普通の女と一緒にするな。

「こんな女は嫌かよ」

「まさか」

 わかりきった問いに、わかりきった答えがキスと一緒に返ってくる。

「その部分も、むしろ望むところだ」

「それはどーも」

 互いに不敵に笑い合う。
 病んだ闇も、思い合う光も、すべて似ているから。
 だから惹かれていくんだ。

 惹かれ合う光と闇

 ――――

(同じ部分も違う部分も)

(全部引っくるめて惹かれ合う)

(似た者同士な光と闇)
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