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二人の夏祭り

「はー……。だーるーいー……」

「うぜぇぞ、レオ。愚痴るならどっか行けや、バカヤロー」

「ヤダ。ここ涼しいんだもん」

「たしかに。堂々とゴロゴロできるしな」

「アユミさん?」

「嘘です。すいませんでした、フリージア様」

 季節は夏。時刻は昼。
 レオパーティ、セルシアパーティ、そして俺らは図書室にて過ごしていた。

「あー……スッゴい退屈ー……」

「まあなー……おまけに、暑いともなると……」

「うぇー……なんか楽しいこと無いかなー……」

「気持ちはわかるが、おまえらちょっとダラけ過ぎだろ」

 図書室の椅子でぐてーってしているレオ、バロータ、シルフィーに呆れるブロッサム。
 ツッコミ役は苦労するな……。

「ホントにも~。レオってば、ダラけ過ぎなんだから」

「そういう意味じゃ、ウチのシルフィーも同じだけどな」

「バロータも同様ですね。まあ彼は年中ダラけてますが」

「サラっとひどいこと言っちゃったな、オイ」

 フリージアの言葉にツッコミを入れておく俺。
 どうやら彼も(主にセルシアに悪影響を与えそうな奴に)相当口が悪いようだ。

「まあまあフリージア。たまには何も無い時間というのも、案外悪くはないよ?」

「さすがセルシア様。どんな時でも有意義に時間を過ごされているのはさすがです」

「それも褒めんのかよ」

「気持ちはわかるが、それはツッコミ入れてもめんどくさいだけだ。アユミ」

「フリージアさんは、セルシアさん至上主義だものね」

 俺のツッコミにブロッサムとブーゲンビリアが苦笑する。
 まあフリージアのセルシア至上主義は知ってるけどさ……。

「ねぇ暇なんだけどー」

「うぇー……」

「なんかないかなー……」

「……あいつらをファイガンかサンダガンでぶっ飛ばしたくなったんだが」

「アユミさん。それでは火事になる可能性がありますので、クエイガンかアクアガンでお願いします」

「いや、図書室で魔法使うな! つかフリージア、攻撃はいいのかよ!?」

 俺の発言とフリージアの無慈悲な言葉にツッコミを入れたブロッサム。
 さすがツッコミ係は反応速度が違う←

「だってよー……」

 …………ドドドドドド。

「……ん?」

 反論しようとした時だった。
 ……なんか、変な地響きが聞こえるような……。しかも気のせいか、だんだんこっちに来るように音がでかくなってね?

「なあ」

 この音は何?
 そう言おうとした瞬間だった。

 バンッ!!!

「お姉ちゃああああああんっ!!!」

「え――ぐっほぉあッ!!!」

『!!?』

 扉が盛大に開かれた。それとほぼ同時に聞き覚えのある声が耳に入り、さらに俺の腹に何かが突撃してきた。
 突然のことに俺は腹に大ダメージ+椅子から落下の追撃。残りの皆さんは唖然呆然の硬直状態に陥った。

「ぐぉおおお……っ! な、何が……」

「お姉ちゃん! ようやくこっちに来れたよ!」

「はぁ……はぁあああ!!?」

 腹に乗る人物を見て、盛大に大声を上げた。
 俺の腹に馬乗りし、さらに俺の叫びを無視して『お姉ちゃん』と呼ぶのは……。

「な……アイナ!?」

「えへっ♪」

 タカチホ義塾にいるはずの俺の妹――アイナだった。
 ……なんでこいつ、ここにいるんだ!?

「え……アユミちゃんが、二人……?」

「……あ。アユミ。もしかしてこの娘が例の……」

「知ってるのか!? ブロッサム! このものすごく可愛いタカチホ娘、どこのお嬢様だ!?」

「なんでバロータ、そんなに必死に食いつくんだ?」

「セルシア様、バロータは無視してください」

 アイナを初めて見る5人(ブロッサムは存在は知っているけど)は横で話し合っていた。
 ……まあまともに驚いているのはシルフィーだけだけど。

「あ! 交流戦の時に会った……えーっと……」

「もうっ! レオったら、忘れちゃったの? アユミさんの双子の妹のアイナさんでしょ」

「お腹壊した時、回復魔法かけてもらったのにねー」

 三学園交流戦で会ったことのあるブーゲンビリアとチューリップはアイナを覚えていてくれたみたいだ。
 ……レオは忘れてたけど。

「あ。たしか……レオノチス君とブーゲンビリアさんとチューリップちゃん、だっけ?」

「ええ、そうよ。また会えてうれしいわ♪」

「あの時はレオがお世話になったよね~。アイナのおかげで同点まで行けたんだから。戦ってたのは主にブーゲンビリアだけど」

「お……おお! もちろん覚えてるさあ! お腹治してもらったんだから!」

「嘘つけ。さっき綺麗さっぱり忘れてただろうが」

 レオにため息をつく。
 ……まあアイナはにこにこしてるから特に気にしてないみたいだけど。

「へぇ、アユミの双子の妹かあ……よく似てるな」

「はい! ……えーっと……?」

 話しかけてきたバロータに首を傾げてる。
 当然だ。初対面なんだから。

「バロータ。まず名前を言わないと。僕はセルシア。プリシアナで生徒会長を務めているよ」

「ああ、悪ィ悪ィ。俺はアユミの同級生のバロータってんだ。よろしくな」

「私はセルシア様の執事を務めています、フリージア=スノーと申します」

「ボクはアユミちゃんの仲間のシルフィネスト! でも長いからシルフィーでいいよ~♪」

「ちょっ、おまえら早ッ!! ――あー……俺はブロッサムだ。一応こいつの仲間な」

「あ、はい! 私はアイナって言います。よろしくお願いします、皆さん。あとお姉ちゃんがいつもお世話になってます」

 全員に笑顔でお辞儀するアイナ。
 そりゃもう笑顔なんざセレスティア顔負けにニコー、ってな。

「……か……ッ! 可愛い過ぎる……ッ!! ホントにどこの姫だ、この子……?」

「……バロータ、俺の妹に変なことしてみろ。テメェの肋骨全部バラッバラに折るぞ」

「うわ、怖いお姉さん……」

「お姉ちゃん! そういうこと言わないの!」

 バロータに一睨みすると、聞いてたか否か、横から怒鳴ってきた。
 もううるさいくらいにな。

「……顔はともかく、性格はおまえと似てないな」

「性格まで一緒だったらある意味絶望的だけどな。……で? いったい何の用だよ」

「あのね! コレ!」

 そう言ってアイナが一枚のチラシを、両手で広げて俺の目の前に出す。

「……何コレ」

「トコヨの夏祭り開催ポスターだよ!」

「見ればわかるわ。これ差し出してどうしたいんだって聞きてぇんだよ、俺は」

「今日の夜に始まるの! お姉ちゃん、一緒に行こうよ!」

「いきなりだな、オイ」

 なんでこいつは唐突なんだ、いつもいつも。
 頭を片手で押さえてため息をつく。

「そういうことはもっと事前に言え。おまえ、もし俺に予定とか課題とかあったらどーすんだよ」

「それはないよ」

「なんでんな断言……」

「お姉ちゃんの場合、課題は初日で終わらせて、残りの休み全部遊びに使うじゃん。昔から。それに強引じゃないと外に行かないし」

「ゔ……っ」

 い、痛いとこ突きやがって……! 否定できないところが悔しい……ッ!

「ぷぷ……アユミってば、妹に負けてる」

「おいレオ、今なんつった? あ゙あ゙?」

 笑いやがったレオにギリギリと音を発たせながら頭を片手でシメた。
「いだだだ!!」とばたばたと暴れているが……無視←

「トコヨの夏祭りと言えば、毎年開催されている伝統的なお祭りですよね?」

「うん! 毎年お姉ちゃんと行ってるの! 美味しいお菓子や面白いお店も出るし!」

「お菓子!? うわぁ、行ってみたい!」

「いだだ……ボ、ボクも!」

「お菓子か……どんなのがあるか、ちょっと興味あるな」

 お菓子大好きなシルフィーとレオ、パティシエ学科として興味を注いだバロータが食いついた。
 まあこいつらならそうだろうけどさ。

「夏祭り、か……僕も少し興味あるな」

「トコヨの夏祭りは、古くから伝わっていますからね」

「面白そうな秘密とかあるかなー?」

「伝統的なお祭りなら、さぞ楽しいでしょうかねぇ」

「……だろうな」

 セルシア、フリージア、チューリップ、ブーゲンビリア、ブロッサムもそれぞれ興味を持ったようだ。

「そう?」

「うん。いいなーお菓子ー……」

 シルフィーとレオがじーっとこちらを見てきた。
 ……嫌な予感がする。

「じゃあ……みんなで行く?」

「え? いいの?」

 ほらキタ! なんつーいらん発言するんだ、アイナ!
 余計面倒なことになっただろうが!

「せっかくみんなと知り合ったんだもん。このまま、またね、なんて嫌だし」

「アイナさん……」

「そうだね。それに夕方から夜までなら、手続き出せば外出は大丈夫だし」

「ではセルシア様、早速人数分用意してきます」

 皆さん果てしなく行く気満々だな、オイ!

「俺は行かな『お姉ちゃん(アユミ)は絶対に参加だよ』なんでだよ!!?」

 なんで俺は強制参加!!?
 しかもどうしてセルシアも強制してんだよ!

「妹さんが君を誘ってきたんだ。姉として行くべきだと思うが?」

「だからってテメーも強制しなくていいだろ!?」

「…………。じゃあしょうがないな。生徒会長権限でアユミは強制参加だ。以上」

「初耳だけど、んな権限!」

 どういう訳か最近横暴になってきたんだけど!

「よし決まりだ。準備が出来たら早速行こうか」

「なんでじゃあァアアアッ!!」

 俺の怒りの叫びも虚しく、結局全員で行くことになりました。
 ……おのれセルシア、後で覚えてろよ……!←

 ――――

 トコヨ

 手続きやらなにやら済ませ、俺らはとうとうトコヨへやってきた。
 ……まあ俺はこの時点でどっと疲れがあったけど。

「うっひゃあー! すごい人だかり!」

「見て見てレオ! あのお菓子おいしそう!」

 うん、お子様二人は非常に喜んでいる。
 ……もちろんお菓子にな。

「……で。これからどうするんだよ」

「うん。せっかくだし、それぞれ自由行動でいいんじゃないかな? 時間が来たらまた集合ってことで」

「なるほど。という訳で――」

 瞬間、俺の瞳に光が宿った。

「早速屋台巡りだ! という訳で俺は行くぜ!」

「え!? アユミ!?」

 射撃に輪投げ、ヨーヨー釣り。
 タコ焼き焼きそば、綿飴にかき氷!
 屋台が俺を呼んでんだ!!

「戦利品をがっぽり求めてレッツゴーッ!!!」

 とりあえず一言告げてから、俺は猛ダッシュで街中を駆け巡った。
 そりゃもう、さっきの疲れなんてぶっ飛ぶ勢いでな!

 ――――

 ブロッサムSide

「な……なんで……?」

「やっぱりお姉ちゃん、最終的にはノったね。だって根っからのお祭り好きなんだし」

「そうなのか!?」

「去年なんか、全部の屋台38件を制覇したんだからっ」

『38件全部!?』

 アユミが去った後の全員。
 アユミのテンションに唖然呆然となり、唯一知っているアイナだけが苦笑していた。

「だ、大丈夫か……?」

「大丈夫じゃないかなあ。胃袋は人一倍丈夫だし。ちっちゃい頃からヨーグルトなりかけの牛乳飲んでもケロッてしているもの」

「あの……それは、腐った牛乳では……?」

 フリージアも表情にはっきりと驚きが出ている。
 ……まあ、たしかに食に関しては異様なチャレンジャーではあったけどさ。

「うーん。とりあえずお姉ちゃんは大丈夫だから。早く行かないと時間が無くなっちゃうよ」

「それもそうね~。ま、妹さんがこう言ってるんだし、私たちも楽しみましょうか!」

「うん! じゃあ行こう!」

「アイナちゃん、待って~」

 ブーゲンビリアの言葉をきっかけに、それぞれ楽しみ始めた。
 レオパーティ+シルフィーはアイナと一緒に、セルシアたちはいつものパーティで歩き始める。
 残ったのは俺一人だ。

「……よし」

 せっかくだし楽しむか。……甘いものが食べたいし←
 そう言いつつ、俺も街中を歩き始めた。

 ――――

 アユミSide

「ふふふふふふ……」

 現在お好み焼きを頬張りながら進む俺。
 とりあえず屋台は半分くらいクリアした。

「いやー、いいねぇ。夏祭りはあ。戦利品がっぽり♪」

 食う楽しみに回る楽しみ、選ぶ楽しみ。
 最高だぜ、マジで♪

「……ん?」

 ふと、目の前に見慣れた人物が目に入った。
 あれは……。


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