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眼鏡パニック!?

「……あ゙。アユミちゃんにライラちゃん……」

「ロアさんも……ご一緒ですか」

「げっ……帰ってきたのか」

 帰って早々、シルフィーに。そして途中で合流したのか、一緒にいるフリージアとバロータからもしかめっつらをされた。

「…………」

 早く帰って来ればよかった。
 帰って来なきゃよかった。
 現在相反する二つの感情が、俺の中で巡っていた。
 ……なぜなら。

「おや、アユミさん。ずいぶん早い帰宅ですね」

「ねぇねぇ、ブロッサム君♪ 次、私を膝に乗せて♪」

「あ! ずるい! 次はボクね。ブロッサム君♪」

「おやおや、皆さん。ずいぶん積極的ですねぇ」

 そう言いながら、擦り寄る複数の女子や男子を膝に乗せたり近くに抱え込んだりしてやがるブラッド。
 ――って。

「何やってんだテメェはァァァァァァッ!!!!!」

 コンマ1秒で奴の溝尾に飛び蹴りを叩き入れた。
 これが許さずに入られるかあ!!!

「何、綺麗どころの美少女・美少年をはべらせて一代ハーレム作ってんだ! 俺らがいない間に何があった!?」

「何がって、適当に血を吸ったりしてただけですが?」

「俺はおとなしくしてろっつっただろーが!!」

「いやですねぇ。私が黙っておとなしくするとでも?」

「落ち着いてるじゃねぇか。じゃあ俺も落ち着いて」

 言って、カチャ、と金属音を鳴らす。

「今すぐ殺してやる」

「「いや、あなた/おまえは落ち着いてください/落ち着けェェェ!!!」」

 刀に手に掛け、静かに切っ先を奴に向けた。
 それを素早い動きでフリージアとバロータが止める。

「離せ、止めるな! リージー、バロ! ぜってー殺す! 今殺す!!」

「ダメだって! 今斬ったらブロッサムが死ぬぞ!」

「そうですよ! アユミさんの目的は、ブロッサムの解放でしょう!?」

「ギギギ……ッ!!」

 二人に言われ、なんとか武器を下ろした。
 とは言え、精神状態はよろしくないけど。

「今殺ったらブロッサムも死ぬからやめておけ。だから落ち着こう? 頼むから落ち着こう? というより落ち着いてください」

「アユミさん……ロアさんもいらっしゃるんですから、せめてブロッサムと吸血鬼を引き離してからの方がよろしいかと……」

 般若召喚中の俺が恐ろしいか、前に立つバロータがガタガタと震えまくっている。
 反対にフリージアは子供に言い聞かせるみたいに頭を撫でてきた。

「……しかたないな」

 フリージアに言われ、渋々(今度こそ)刀を収めた。
 リージーが言うならしかたねーもん←

「おや。そこのエルフの言うことは素直に聞くんですね。そこのバハムーンと違って」

「リージーとなら浮気したっていいからな」

「浮……ッ!!? な、何をおっしゃるんですか、あなたは!」

 そう言って、照れ隠しに持っていた本を思いきり投げてきた。

「グホォ!!?」

 もちろん俺は避けた。で、避けた先のバロータがダメージを受けた。
 だってリージーの照れ隠しの攻撃って、壁に減り込む威力なんだよ←

「剛速球で攻撃しましたねぇ」

「リージーって、実は可愛いからな。頭撫でたくなっちゃうし、いじりたくもなっちゃう」

「いじりたく、という点はわかりますね」

「そこ! 黙りなさい!!」

 今度はシャイガンを放ってきた。もちろん避けたけど。避けてバロータがダメージ受けたけど←

「で。ブラッド。ハーレムもそうだけど、君、今までどうやって生きてたんだい?」

 ここで口を挟んだのはロアだった。
「というか、よく生きて来られたね」とどこまでも軽く言う。

「私も初代に封印されてから退屈でしたよ。ま、歴代ウィンターコスモス当主のおかげで退屈はしませんでしたが」

「あー、なるほどなるほど」

「あ。ただ、セントウレアだけは別ですね。彼だけ乗っ取れませんでしたし。それどころか消されかけました」

「まあ、センちゃんならそうだろうね」

 非常に楽しそうに会話をしてるお二人さん。

「……おい」

 が、俺は間を割って話し掛けた。
 くるっと二人が「なんです?」と振り向く。

「歴代ウィンターコスモスって……ブラッド。もしかして、ウィンターコスモス本家に飼われてるってこと?」

「飼われてるわけではありませんが、まあ初代の子孫たちは見てきましたね。今もですけど」

「……それってさ。本家の連中は、おまえの存在を知っているってことだよな?」

「ええ。そうですよ。今、知っているのは当主であるセントウレアとその執事だけですが」

「……ということはアレか? 今はセントウレアが管理していると?」

「はい。先日あなたと校長の乱闘で、眼鏡は倉庫に吹っ飛んでしまいましたが」

「…………」

 サラっと答えてくれた。
 が、言われた俺は一瞬黙り。

「……今度こそ殺す、あの野郎」

 校長抹殺の決意が固まった。
 なんで知らない間に事件起こしますかな、あの人は!!
 俺も4分の1は悪いけどね!

「え~……じゃあ、校長先生も原因ってこと~?」

「校長も原因……一発殴る?」

「殴るどころか殺してやる」

「やめてください! アユミさん!」

「つーか、いくらアユミでも、校長相手に勝てるのかよ……」

 パキポキと拳を鳴らしている俺に食いかかるフリージアと怯えるバロータ。
 勝てるかだと? んなもんやらなきゃわからないだろ。

「……ってそれもそうだけど! おい、いい加減ブロッサムを返せ!」

 慌てて本来の目的を思い出し、がくがくと揺さぶった。
 そうだよ! まずブロッサムを取り返さないと!

「初代そっくりの彼のことですね。……返さないとダメですか?」

「当たり前だ! 張っ倒すぞ、テメー!!」

「……抹殺プログラム……起動しそう……っ!」

「あわわわ……! ライラちゃん、ストップ~!」

 どこまでも胡散臭い笑みを浮かべるブラッドに詰め寄る俺と、戦闘体勢を取るライラ。
 さすがに限界を感じたか、ロアもブラッドに近づいてくる。

「ブラッド。肉体なら俺が復元するから、ここはおとなしく返してくれないかな? じゃないとホントに殺されるよ。この二人に」

 凶悪な鈍器にしか見えない外見のメイスで肩たたきをしながら、ロアはにこにこと笑いかける。
 何気に失礼な……ってか。

「復元って……そんなことできんのかよ?」

 バロータやフリージアもさすがに驚いている。
 錬金術って、そんなことまでできるの……?

「アハハ。やだな、俺は神だよ? 得意分野だし、訳無いって♪」

「神だから、の一言でなんでもかんでも済ませると思うなよ!」

 くそぅ……なんて便利な言葉を使うんだ、こいつは。
 ぶん殴りたいくらいだ、ホントに←

「……で? どうする? 受けた方が、多分楽になれるよ?」

「その言い方だと死にそうで恐ろしいですがね。……まあ、死ぬよりはマシでしょうが」

「それは……申し出を受けるのですか?」

 てっきり拒否すると思っていたのか、フリージアが意外そうな表情でブラッドを見る。
 たしかにあっさり受けたな、意外にも。

「ロア先生に逆らう方が恐ろしいですし。……それに」

「それに?」

「いい加減返さないと……そこの二人に消滅させられそうですから」

『……は?』

 なんの事だ。と全員の声が揃った。
 そして何気なく、ブラッドの視線の先に目を向ける。

「げっ……」

 全員何とも言えない……というか何も言えない空気になった。
 なぜなら……。

「「…………」」

 なぜなら、視線の先にはブラックな笑顔で、武器と魔法を構える本家兄弟がいたからだ。
 つーかいつからいたの? そして誰を殺るつもりなの!?

「セルシア様に、セントウレア様……? あの、何を……?」

「やだな。そこまで怯えないでよ、フリージア」

「ええ。あなた方には何も致しませんよ?」

 笑顔で言いながら、ブラッドに視線を向ける兄弟。
 いや、あなた方は、って……そいつには何をする気だ!?

「だったらなんで武器と魔法を構えてるの? 明らかに誰かさんを抹殺する気満々だよな?」

「大丈夫だよ、アユミ。蘇生魔法を使ってもロストしないから」

「いや、そういう問題じゃねーだろ!!」

 殺人の部分まで否定しろよ!!
 ブロッサム(の身体)を斬る気だな!!?

「お待ちください、セルシア様! ロアさんもいらっしゃいますし、ここは彼に任せた方が……」

「わかりました。では、彼を一回粉々にしてから作業に取り掛かっていく方向性で」

「余計悪化してんだろうが!! どんだけこいつを抹殺したいんだ、校長!」

 どこまでブラックになれば気が済むんだ!? この人たち!

「つーか、元はと言えば校長の監督不行き届けが原因だろうが! おまえも原因だ!」

「おや。あの乱闘は、最初あなたが仕掛けてきたものですが?」

「4分の3はテメーだ!」

 思いきり校長に怒鳴り付ける。
 教師と生徒? んなもん、知るか!!

「どうします、セントウレア。このままだと彼女があなたを斬りにいきそうですが」

「原因のあなたに言われたくありませんね。言われなくてもわかってます……ロア君」

「いいよ。だからセンちゃんもおとなしく待っててね。邪魔したらメイスで殴り潰すから」

 笑顔で物騒なことを言いながら、ロアがブロッサムに掛かっている眼鏡に指先を当てた。

「……っ!」

「ブラッド!?」

 素早く何かを唱えると、ブロッサムの身体がぐらりと崩れ落ちた。
 同時にカツンッ、と眼鏡が床に落ちる。

「あ、外れた~!」

「外れた……切り離された?」

「ブロッサム? おい、ブロッサム!?」

 軽くグラグラと揺さ振りながら声をかける。
 目、開くよな……?

「…………ん……」

「ブロッサム!」

「……アユミ……?」

 何回か揺さ振ると、瞼が微かに動いた。
 声を掛ければ、ぽっかりと、見慣れた青い瞳が俺を映す。

「ブロッサム、だよな?」

「……みたいですね」

「眼鏡も外れてるしね。よかった、殺る前で」

 セルシアたち(一名物騒なことを言いながら)も顔を覗き込む。

『さすが初代。乗っ取られたにもかかわらず、すぐに意識を取り戻すとは……』

 と、ここで背後から聞き慣れない声がした。
 慌てて振り返ると、ロアの横に半透明の見慣れぬ人物が浮かんでいた。

「だ、誰だよ!?」

「おまえ……ブラッド?」

『そうですよ。肉体が無いため、今はこんな状態ですがね』

 やれやれ、と言わんばかりに両手を肩まで上げる。

(思った以上に人間に近い……ってかほとんど人間じゃないか!)

 幽霊状態のこいつを見てそう思った。
 蜂蜜色のセミロング。血のように紅い瞳。ついでに顔立ちも綺麗だ。
 口元から覗く牙や背中に生えている蝙蝠みたいな翼を除けば、ブラッドの容姿はほとんど人間だった。

「うわあ~……ブラッドさん、ホントに魔貴族なんだ~」

「魔貴族……魔貴族。魔貴族……!!」

「言っとくけどライラ。殴れないからね? 幽霊だから擦り抜けるし」

「魔貴族? 幽霊?」

 暴走寸前のライラに明るく言ったロア。それにブロッサムが首を傾げる。
 ……あ。そういや、ブラッドは死んでるんだっけ。

「ロア君。彼はどうなるのですか?」

「とりあえず。肉体を復元するまでは、また眼鏡に封印だね。復元したら他の四人同様、学園に通わせてよ」

「それは構いませんよ」

「ロア君。彼の吸血鬼や魔貴族としての能力はどうなるんだ? そのままだと困るんだけど」

 セントウレアの横で、セルシアが挙手した。
 たしかにそれは考えるべき問題だよな、うん。

「もちろん、それは封印するよ。無くすことはできないから、あくまでも封印だけどね」

「それはしかたないかな~。ボクはライラちゃんが暴走しなきゃなんでもいいし~」

「しかたないか……ま、ブロッサムが取り返せただけでも良しとしよう」

「え? え?」

 わけがわからない、と言った顔のブロッサムの頭を撫で、「で」とセントウレアに向き直る。
 刀の刃ごと←

「表出ろ、セントウレア。今度こそ息の根を止めてやる」

「まだ諦めてねぇのかよ!?」

 ぎょっとなったバロータがツッコミを入れた。
 ああ、諦めてねぇよ? つーか諦めなんてねーよ!!←

「どーせ肉体の復元とやらは時間がかかるんだろ? その間に済ませる」

「私は構いませんが……あなたが相手では手加減できませんので、うっかり殺してしまう可能性が……」

「構うものか。テメーも道連れにしてやらァ」

「おい、何恐ろしい会話をしてるんだよ!? 何が原因なんだよ!」

 状況を掴めないながら、ツッコミだけは忘れない。
 さすがだ、ブロッサムよ←

「おら、外へ出ろや。決着つけるぞ」

「しかたありません。お受けしましょう」

「待て待て待て!! 死人が出るって! おまえら二人が戦ったらやばいんだって!!」

「セントウレア様! どうかお考え直してください! セントウレア様!!」

 校庭へと歩き出した俺らに、慌ててブロッサムとフリージアが後ろから止めにきた。
 むろん俺らは無視したけど←

「どうする、セルシア。このままじゃ、アユミと校長。本物の殺し合いをするぞ?」

「兄様とアユミが……? ……どうしよう……僕はどっちを応援すればいいんだろう……!?」

「おまえの悩みはそこかよ!」

「セルシア君に、止めるって方向性は無いと思うよ~?」

「セルシア……超、天然ボケ?」

 続いてバロータ、セルシア、シルフィー、ライラもやってくる。

「かかってこいや、セントウレア!」

「しかたありません……苦しまないよう、早く楽にさせましょう」

「怖ェよ、発言が!!」

 どこまでもボケながら、校庭で俺とセントウレアの一騎打ちが始まったのだった。

 ――――

 残ったロアとブラッド。
 二人はにこにこと笑みを浮かべながら、アユミたちが去っていった方向を見ていた。

「賑やかですねー」

「そこがあの子たちのいいところだからね。……それに、今のウー君は幸せっぽいし」

「……私が乗り移った彼……ブロッサムのことですね?」

 ブラッドの発言に、ロアがぴくりと反応する。

「……ばれてた?」

「最初はホントに初代かと思いましたがね。姿形どころか、中身まで一緒なんですから」

「まあね。みんなは知らないだろうけど、ウー君とブロッサム。ほとんど一緒なんだもん。根本的な性格とか、料理の壊滅さとか。俺も再会した時驚いちゃった」

 クスクスと楽しげに言い、それからブラッドに向き直る。

「驚いたといえば……君もだよ? ブラッド。――まさか君が、ウー君との約束を律儀に守ってたなんて」

 今度はブラッドが黙った。
 ロアは仕返しと言わんばかりに笑みを深くする。

「知ってるんだよ? アガシオンとの戦い後、ウー君が死ぬ前に君に頼んだこと……世界を守ってほしいってね」

「……よくご存知で。大方盗み聞きでしょうけど」

「あ、わかっちゃった? ……で。本来ならとっくに抜け出せるはずの封印から出ないで見守ってきた。……違う?」

 にこにこと。笑みを浮かべ続けるロアに、ブラッドは小さくため息をついた。

「あなたのそういうところ。昔から嫌いです」

「ゴメンゴメン」

 呆れるブラッドに謝りながら、「さてと」と歩き出す。

「行こうか。君にもう一度、止まってしまった、たった一度の人生をあげるよ」

「ええ。期待していますよ。ロアディオス先生」


 眼鏡パニック!?

 ――――

(死ねェェェ!! セントウレアァァァァァァッ!!!)

(刃を振り回してはいけませんよ? アユミさん)

(笑顔で言うか!? 校長!)

 ――――

(……あのツッコミの部分など、初代と瓜二つですね)

(でしょ?)
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