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夏の図書室にて

「はあ……ったく、こうも暇だとつまんねぇな」

 シャクシャクと冷たいシャーベット(自作)を頬張りながら、やや蒸し暑い昼を過ごす。
 三学園交流戦が終了し、学院に長期休暇――俗に言う夏休みというのがやってきた。
 生徒はだいたいが実家に帰るか寮で休むか補習か……と言った具合に分かれている。
 もちろん俺は学校で休む派だ。べつに帰りたい訳でもないからな。

「こうもつまんねぇと、長期休暇も欝陶しくなるな」

「……俺に構ってる暇はあるのにか?」

 俺に抱き着かれてるブロッサムが大きなため息をついた。
 ブロッサムは保健室で療養中だったが、つい最近から普通に生活してもいい、ということらしい。
 だから今は堂々と本を読んでいたのだ。

「おまえ交流戦以降入院生活だったんだぞ? 俺に構えよ。寂しかったんだぞ、コノヤロー」

「後ろでシャーベット食ってるくせによく言うよ……」

 再度ため息をつく。
 文句だなんだ言ってるが、一人用の椅子に俺も座れるよう配慮してる辺り、さほど邪魔とは思ってないのがわかる。
 こいつ、なんだかんだで甘いからな。

「……あまり器近づけるな」

「なして」

「冷た過ぎんだよ、やめてくれ。ただでさえ翼がくすぐったいのに、その後ろにいるなんて……」

 バニラ味とイチゴ味のシャーベットが乗っかった器を一瞥後、ぶつぶつと小言を言うブロッサム。
 再びシャーベットを頬張る俺。

(ブロッサムが構ってくれない……チッ←)

 ここ最近はセルシアに引っ張り回されていた。
 だからブロッサムが戻ってきた時は嬉しかった。セルシアから逃げる理由ができたからな。
 もちろんそれ以外にもあるぞ? ……からかったりとか←

「…………」

 再びシャーベットを頬張る。
 冷たい甘味が口に広がり、口内が冷えていい気持ちだ。

(はあ……構ってくれないなあ……マジで暇だ……)

 ブロッサムは本に目が入ってる。俺なんて見ちゃいない。

(…………)

 ……なんかイラッてきた。人がせーっかく心配してやったっつーのに。
 シャーベットを食べながら、ふとブロッサムの耳が目に入る。
 ヒューマンの俺とは違う、尖んがった耳が。

「…………。うりゃっ」

 シャーベットを口に入れ、唇と舌をものすごく冷たくする。
 そして苛々の腹いせに、ブロッサムの耳たぶに甘く噛んでやった。ちょいと耳の中に吐息も吹き込みながら。

「んひゃああっ!!?」

 突然のことに驚いたブロッサムは、高い声音を出しながら椅子から転げ落ちた。
 それはもう面白いくらい見事に派手にな←

「お、おま……っ! いきなり何を!!」

「んー……退屈だったから」

「それだけ!!?」

 真っ赤な顔でこちらを見上げるブロッサム。
 それを見て俺は、腹を抱えて笑いたくなる程の満足感に満ちる。

「あはっ♪ こういうのはいきなりやるから良い声出るんじゃないか。そういう意味じゃあ、やっぱおまえは良いよ、最高に」

「人生で一番嬉しくない褒められ方なんだが!!」

「べつにいいじゃないか」

 にっこり、という効果音が付きそうな笑顔で言う。

「おまえが戻ってきて、すごく嬉しいんだから」

「な……っ」

 うん、狙い通りの反応だな。可愛い奴。

「……それともブロッサムは、俺とは嫌か?」

「なっ……! そ、そんな、こと……っ」

 わざと声のトーンを落とせば、ブロッサムが途端に焦り出す。
 ついでに見事にツンとデレが混在してるし←

「お、俺だって……」

「うん?」

「俺だって……お、おまえと――!!」

 ガンッ! ゴッ!!

「いでっ!!」

「あだっ!!?」

 せっかく良い雰囲気……だったんだが、突如後ろから頭を殴られてしまった。
 数秒遅れでブロッサムも頭を殴られる。

「痛ェ……っ。誰だよ、いった……い」

「……まったく、あなたたちという人は……」

「げっ……フリージア……!!」

 いたのは図書室の主であらせられるフリージアでした。

「今は長期休暇で人がいないとは言え……図書室では静かにしていただかないと困るのですが」

「す……すみません……」

「それとアユミさん。図書室での飲食とセクハラも禁止です」

「やだなあ、フリージア。これはセクハラじゃなくてひさしぶりの愛の絆の確認「アユミさん?」あ、すんません。黙りますから角はやめて」

 無言でフリージアが本の角を向けてきたのを見て口を閉ざす。
 眼鏡が光ってることもあり、恐怖感アップだ。

「……お二人とも。少しお話があります」

「「……はい」」

 完全に説教モードのフリージアに敵うはずがない。
 俺とブロッサムは肩を落としながら、フリージアに着いていくしかなかった。


 図書室ではお静かに。

 ――――

「だいたいあなたは普段から生活態度が悪いんです。少しは改めて……」

「もー耳タコになりそうなんだけど。なー? ブロッサム」

「ひゃあっ!! バカッ! どこ触って……」

「あなたという人は……ッ!!」
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