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マッドサイエンティストの恐怖?

「な~に~? ブロッサム、何か気になることでもあった~?」

「気になること……個人的に?」

「い、いや……べつに何も……」

 シルフィーとライラにも言われるが、何故か挙動不審にシルフィーと自分。そして俺を見ている。
 ……何なんだ、こいつは。

「なんだ、ブロッサム。自分が他の性転換女より貧乳な事でも気になったのか?」

 冗談で笑いながら言えば、ビシッ……。と音を発てて固まってしまった。
 ……え。マジで?

「ブロッサム」

「ち、ちち、違うからなっ? ぜ、全然気にしてなんかないんだからな!? 気にしてないったらないんだよ!!!」

 いやまだ何も言ってないんだけど。そしてさりげなく胸を隠すように両手で荷物を持つな。
 というか、俺が言う前に言ったってことは、認めてる証拠じゃないか←
 ブロッサム……まさか、精神まで女になったんじゃ……。

「――ブロッサム」

「な、なんだよ、セルシア」

 なんだかんだと思い込んでると、セルシアがブロッサムの肩を掴んだ。
 にっこり笑って、一言。

「性別変わっても、僕の優位は変わらないんだね」

 グサッ。

 満面の(しかも勝ち誇った)笑みで言い、ブロッサムの心にトドメを刺した。
 見えない矢がブロッサムにグッサリと刺さる。

「セルシア君~……ブロッサムが落ち込んじゃうよ~」

「落ち込む……再起不能?」

「やだな。そんな気は無いつもりなんだけどな」

 嘘つけ。思いきり喜んでただろうが。
 たしかにセルの方が、標準くらいには胸はあるけどね←

(うん……性別違っても、やっぱり何と無く体型って合ってる気がするな)

 何気にレオも標準だし、チューリップも文系男子って感じ。さっきも言ったがブーゲンビリアは変わらない←
 セルシアは……女生徒会長、兼お嬢様って感じだな。
 バロータは、多分この場の性転換女子の中で、一番スタイルもプロポーションも良い。シルフィーはロリだし。
 それからフリージアは……。

「…………」

「……なんですか。さっきから」

 フリージアは……見たまんま、クール系図書室のお姉様って感じ。
 感じ、なんだけど……。

「……リージー」

「なんですか」

 体型を見て、俺の感想。

「…………ブロッサムの貧乳を通り越して、絶壁の悲乳だな」

 ドズッ!!!

 俺には聞こえなかったけど、周りの皆さんには矢が突き刺さったのが聞こえたらしい。
 フリージアに至っては最初唖然と、で、徐々に顔が赤くなった。

「も、元は男なんですからそんなもの、関係無いでしょう!!」

 そう言ってブロッサムと同じく、いつも持っている記録帳を両手で抱えて胸を隠した。
 だから。それ完全に女の仕種だって。何、この二人。100%乙女属性だろ、おまえら←

「そ、そんなことより! 早く先生方にこの事を報告しませんと!!」

「そうだな……先生に報告と解決法を聞かないとな……」

 半ばヤケ気味に二人は職員室の奥へ駆け出した。
 残った俺らにも、何とも言えない空気が纏わり付く。

「……えーっと。俺らも追いかけるか?」

「そうだね。学院のみんなも困ってるし。早く兄様たちに聞きに行こうか」

「早くしないと、マジでフリージアとブロッサムが女になるかもしれないしな」

 ……たしかに←
 バロータの実現になりそうな笑えない冗談に頷きながら、俺らも職員室へと駆けて行くのだった。

 ――――

「おや、皆さん。お揃いで」

 奥では校長が待っていた。
 校長の前には先に行っていたブロッサムとフリージアがいる。

『…………』

「……どうしました? 皆さん。私に何か付いてますか?」

 俺らは校長を見て……絶句してしまった。

「……セントウレア……」

「何と無く予想はしていたんだけど~……」

「予想……想像以上?」

 校長の現在の容姿に、俺たちはしげしげと眺める。
 そして、全員の心がシンクロした。

(((ほ……ホントに校長なんですよね、この絶世の美女ォオオオオオオッ!!!!!)))

 多分今の俺たち(セル除く)は唖然・呆然・ポカーンの三拍子の状態だろうな。
 何せ校長(女体化)は絶世の美女なんですから! スタイル良すぎだし! 胸なんか俺らよりさらに上(俺の目視計測)だし!
 え、何。この反則的な容姿。天は二物どころか三物も四物も与えてませんか!?

「兄様! あ。今は姉様ですね。とにかく美しいです!」

「セルシアもとても愛らしいですよ。さすが私の弟――いえ、妹です」

「順応早ぇな! アンタら!」

 天然(腹黒)兄弟に思わずツッコミを叩き入れた。
 受け入れ早過ぎるだろ! おまえら!!

「つーかそれどころじゃねーんだよ! いったい学院に何があったんだ!!」

「ああ、そうでしたね」

 俺が叫べば、ようやく話す気になったらしいな。
 近くに置いてあった書類を手に取り、俺たちに向き直った。

「教師全員で調べてみたのですが……どうやらこれは魔法による影響ですね」

「魔法?」

 訝しる俺に「ええ」とにこやかに校長が頷く。
 ……女のせいか、さらに美女らしさに拍車がかかってるな←

「魔法って……大規模過ぎますよ~。だって、学院全域なんですよね~?」

「学院全域……相当なもの?」

 さすが妖精賢者シルフィー。
 鋭い質問ありがとう←

「ええ。ただ調べてみたところ、全域に広がっているせいか、魔法の効力も一時的なものなんです。二、三日もすれば治りますよ」

「一過性の風邪かよ。……治るならいいけど」

 とりあえず、治るってんならまだいいか。
 ……問題は。

「学院全体で性転換起こした魔法の中心はどこか……だろ?」

 女になっても勘の鋭さは顕在らしい。ブロッサムが俺の言葉を代弁してくれた。

「……そうですね。それほど大規模の魔法はどこからなのか。調べる必要はありますね」

 あれから落ち着いたらしいな。フリージアも頷いてくれた。

「学院全体って言っても、探し回るのって面倒だよー。ヒントか何か無いのー?」

「もう。レオったら。まためんどくさがって」

「レオ、そんな簡単にあるわけ……」

 めんどくさがりのレオの発言にチューリップが呆れる。
 が、俺はレオの発言に、ふと思うところを見つけた。

「……そういや。俺、起きた時に変な頭痛を感じたんだけど。あれは魔法のせいなのか?」

「え。頭痛?」

 思ったことをつぶやくと、全員の視線が俺に集まった。
 それから顔を見合わせ、各々につぶやく。

「俺も異様に頭が痛くて……で、起きたら……コレ」

「そういえば~。ボクも、なんか頭が痛かったかも~」

「頭痛……私も起床時に?」

「僕もだよ。痛くて目を開けたらこうなってた」

「セルシア様も……? 私も同じく……」

「おまえらもか。実は俺も……」

「ボクも! なんか珍しく頭が痛いなー。って朝、思ったんだ!」

「自分で言っちゃうんだ……まあ私も同じだけどね」

「レオったら……あ。私も頭痛を感じたわ」

「……どうやら皆さん全員みたいですね。私も起きた際に頭痛がしました」

 俺以外の全員が顔を見合わせ、自然と無言になった。
 沈黙が俺たちを包み込む。

「……性転換した全員に頭痛があるみたいだな。なあ。これも魔法の副作用みたいなもんなのか?」

「魔法だったなら、このような副作用は無いはずですが……」

 俺の問いにフリージアが答えてくれた。
 ……ってことは。

「これは魔法というより……」

「魔法に近い力を持った薬品、だね~。それなら頭痛や体調変化はあるかも~」

 シルフィーの言葉に、ふむ。と、みんなが頷いた。
 薬品か……。たしかに、それなら副作用の可能性はある。薬が毒になるのと一緒だな。

「……となると……。おい、セントウレア。それら魔法薬品に関して得意そうな。もしくは携わっている人物って今すぐピックアップできるか?」

「お任せください。ネメシア」

「はっ。こちらに」

 セントウレアが指を鳴らすと、即座にネメシアが資料を持って、セントウレアの後ろから現れた。

「いや、早過ぎだろ!!」

「ってかここ、俺らの後ろ以外扉無いよな? なんで校長の後ろから!?」

 突然現れたネメシア(もちろん女になってる)に、すぐにツッコミを入れた俺とブロッサム。
 怖いんだけど! 何なの、この悪魔執事!

「で、ネメシア。一度資料を見せてほしいんだけど」

「どうぞ。セルシア様」

「すみません。急に頼んでしまって」

「問題ありません」

 一同呆然の中、本家姉妹(今はな)が気にせず読み始めた。
 スルースキル高すぎだろ……。

「……セル。その中に該当者はいそうか?」

「んー……もう少し待って……」

 一枚一枚資料を見ていく。
 しばらくし、その手がピタリと止まった。

「彼は……」

「ん? なんかいたか?」

 ピタリと止まったセルの横から、ひょいっと資料をのぞき見する。

「イネス・ワイヨン・サルーフィ。マニア学科所属……」

 写真に写る、ディアボロスよりも顔色悪そうなエルフの青年から顔を離さず、横目でセルを見る。

「こいつ?」

「うーん……確率は高そうだね。彼、前はドクター学科に所属してたから、魔法薬とかも詳しいし」

「付け加えると、こいつ。前のベコニア並の問題児なんだぜ」

「この人も~?」

 バロータに小首を傾げながらシルフィーが言えば、「ええ……」とフリージアがため息をついた。

「生徒に危害を加えるようなことはしていませんが……研究という理由で、普段から部屋に引きこもっているんです。性格にも……少々問題が……」

「引きこもりのマニア……偽物の嫁に紛れて、誰の声も届かない自分の桃源郷に?」

「鋭いな、ライラ。マニアじゃなくてオタクなんだけどね」

「そうじゃないだろ!! つーかライラ、どこで覚えたんだ、そのダメ知識は!!?」

 横からブロッサムのツッコミが飛んできた。ライラに吠えた後、キッと俺を睨む。
 ……さあ、誰が教えたんだろーね、アッハッハー←

「その噂の出処はともかくー……どうする? 当たってみる?」

 俺に関わるとロクなことにならない、と経験済みのチューリップが、俺らを見回しながらたずねた。

「そうね……私は、行ってみるのもいいかもしれないって思うわ。間違いだったら謝ればいいもの」

「疑ってるだけじゃキリないし! とりあえず、怪しい奴は片っ端から調べてみようよ!」

「そうだな。異論は?」

 ブーゲンビリアとレオに賛成し、念のため他の連中にも聞いておいた。
 全員、反対することなく頷く。

「じゃあ行くか。部屋わかる奴、いる?」

「それでしたら私にお任せください。私の部屋の近くなので」

「よし! 任せたぞ、リージー」

 名乗り出たフリージアに笑みで返す。
 赤く染めた顔を隠すように早歩きし出したフリージアににやけながら、俺も着いていくのだった。
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