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アルコール・パニック!

 アルコールに弱い奴って二種類に分かれる。

 一つは酔い潰れてぐっすり眠っちまう奴。

 もう一つ、酔って人格が変わる奴。

 ……で。酔った先の人格も人それぞれで……。

 ――――

「…………」

 ……なんなんだ。何なんだ、この……。

「んははあ~♪ な~んかたあ~のし~♪」

「……あつい……ぬぎたい……」

 目の前には赤ら顔で嫌に上機嫌でソファに横になっているブロッサム。
 その向かい側のソファでは片足をテーブルに、もう片足を床に投げ出してソファにもたれ掛かっている、同じく赤ら顔で悩ましげな吐息をつくフリージア(しかも眼鏡無し)。

(しかも……)

 何のサービスか、二人はブレザーを乱雑に脱ぎ捨て、さらに言えばフリージアはネクタイも中途半端に解き、シャツのボタンも三個ほど外している。
 おかげで鎖骨露出にへそ出しという、爆発的破壊力(視覚的な意味で)を出している。

(え。何この超おいしい状況。……二人とも、食べていいの?←)

 むしろ食いたい。つーか食わせてください!!←

「……あ。アユミだあ♪」

「あ……ほんとだ……」

 はい、ここで二人は固まっている俺に気づきました。
 ……つーか性格変わりすぎだろ、おまえら。

「何やってんだ、おまえら。そしていったい何があった」

「え~……何がってぇ……何があ?♪」

「……あつくて、ぬぎたい……」

「あ~……そっかぁ……」

「納得するな。そしてフリージアももう脱ぐな」

 なんで露出狂になってんだ?
 やめろ、上半身裸なんて……確実に食っちまうぞ! 俺が!!←

「だって……あつくて……」

「だったら涼む方法を考えろ。ブロッサムの部屋だけど、何かしら使えばいいだろ」

「……なにもかんがえられません……」

「なんでだよ……ってボタン外すな!!」

 あー、もうボタン取れちゃったよ!
 しなやかで白い肌が拝み放題だよ!!

「おい、やめ――ぎゅえッ!?」

 フリージアの手を掴んだ瞬間、首に何かが全力でしがみついた。
 おかげで変な声が出た……。しかも首動かせないし。

「……テメェ……何すんだ、ブロッサム」

「う~……俺の目の前でぇ……堂々と、フリージアと浮気かあ!?」

「……はい?」

 なんでフリージアと?
 今のおまえには、いったい何が見えるんだ。

「フリージアのカッコを乱して……俺ってそんなに魅力ないのかあ!?」

「いや、たしかにフリージアも魅力的だけど……つーかカミングアウトし過ぎだろ!」

「んだよぅ……」

 ムスッ、と膨れるブロッサム。

「……あ。まさかー……俺が好きなのも、実は嘘なのかぁ……?」

「だからなんでそんな結論になんだよ!!」

 おい、冗談抜きでホントにおかしくね?
 こいつらにいったい何があったんだ!!

「……だ……」

「……はい? ブロッサム――」

「――やだやだやだあ!! アユミが俺から離れるなんてやだあ!!」

 俺の首筋で頭を横に振りながら、ブロッサムが大声でわめき出す。
 おーい……ツンデレの“ツン”はどこに消えたんだー?←

「ブロッサム、おまえ――」

「アユミは俺のだあ! フリージアにもセルシアにもエデンにも渡すかあ!」

「ちょ――」

 止めようとした瞬間、ブロッサムの顔が間近に映った。
 なんか、言葉が出ない……ってアレ? もしかして、キスされてる?

「おい、待っ……」

「う~……」

「んむ……っ」

 喋ろうとしたのが間違いだったな。こいつ、ぐいぐいと唇を押し付けてきた。
 さらにチロチロと舌先で俺のそれを絡めとろうとしている。

(…………。ん?)

 ――瞬間。ここで違和感を感じた。
 ブロッサムの舌から感じる、甘苦い味。

(……もしかして、こいつ……)

 間違いない。肝心の物はないが、本来未成年が摂取してはいけないものを、こいつは摂取したんだ。

(ブロッサム……酔ってやがる)

 そう……今のこいつは典型的な酔っ払いなんだ。
 どれくらいアルコールを摂取すればこうなるんだ。そして酒瓶はどこにあるんだ。

「ん……っ、ふぅ……」

 アルコールで顔に赤みが出て、そのせいか涙目に。かつそそられるような甘ったるい声でキスしてくるブロッサム。
 ……もういっそこのままでもよくね? 永久に←

「アユミ」

 ぐいっ。

「っでッ!!」

 突然髪を引っ張られた。
 そのおかげで変な声パート2である。

「フリージアか! 今度はなんだよ!」

「……ずるいじゃないですか……ブロッサムばっかり……」

「……は……?」

 このセリフ何回目だ? ……いや、この際それはどうでもいい。
 フリージア……前全部開けてますがぁぁぁぁぁぁッ!!!

「ブロッサムとアユミがいっしょのたび……わたしが……いつも、くるしいおもいをしているのに……」

「何を言ってるんだ、フリージア!!」

 つーかフリージアも酔ってるよね!?
 だってさっきからずっとひらがなで喋ってんだし!!←

「アユミ……」

「ふ、フリージア? なんでそんなに熱っぽい目「すきです……」……え?」

「あなたがすきです……アユミ……」

「…………」

 フリージアが密着しながら、耳元で甘い声で囁いてきた。時折俺の耳たぶもはむはむと甘噛みしながら舌を這わせてくる。

(うわ、くすぐってぇー……、……じゃなくて)

 今、フリージアなんつった?
 すき……スキ……隙? いや、『好き』だと思う。多分←

(つまり、フリージアは俺が好き、と……)

 まあ、酔うと人間は本性や本音をさらけ出すからなー。アッハッハー。

(って……え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!!?)

 フリージアが俺を好きィィィ!!?
 え、何? それは友人的な意味? それとも……れ、恋愛的な意味!?

「ふ、フリージア……あの……」

「あー! 俺のアユミに引っ付くな!」

「え、ちょ……」

「……。アユミはブロッサムだけのものじゃない」

「いや、待て!!」

 二人揃って抱き着くのやめてくんない!?
 シャツ越し(フリージアはもうはだけているけど)だから体つきがありありとわかるんだよ!!

「アユミは俺の!! 俺のなの!!」

「……いやだ。アユミはわたしのだ」

「いや、もしもし? 二人とも、まず正気に戻ろうや!!」

 胸にぎゅうぎゅうと押し付けるように抱きしめてくるブロッサム。
 背中から抱きしめ、俺の頭の上で顔を擦り付けてくるフリージア。
 そして二人に挟まれ、身動きが一切取れない俺。

(ま、マジで死ぬ!! 鼻血大出血で!!←)

 マジでヘルプ! 二人を食うまで死にたくないわ!!←

「なんだよぅ……」

「なんですかぁ……」

 ゴツン、と額を合わせ、ギリギリと押し付け合う。
 ……アルコールって、人をこんなにも酔わせるんだな。スゲーや、アハハ←

「って言ってる場合か、俺! おい、やめ……」

「「…………」」

「……アレ? もしもし?」

 途端に固まった二人に、ひらひらと手を振る。
 ……反応はない。

「……なあ、おい……」

「「…………くー……」」

「え」

 耳元に聞こえる吐息。そして同時にかかる重み。
 ……もしかしてもしかしなくても、寝てる?

「……アルコール回りすぎだろ」

 何とか抜け出しながら、疲れ気味にツッコミを入れる。
 ……つーか、無駄に心臓がバクバクなんですケド……。

「よりによって、フリージアも……?」

 これがセルシアやエデンならよかった。ばっさり切り捨てられるから←
 けどフリージアは……無理だ。こいつ真面目だし、優しいし……可愛いし眼鏡だし、クールにデレる、略してクーデレだし←

「……どうしよう、俺」

 頭を抱えて悩む。
 フリージアも切り捨てる……のは、なあ……?
 多分相当まともかつ真剣な理由だし?

「うーん……」

 悩んで頭がおかしくなりそう。
 ――と、ここであるものに目がいく。

「…………」

 テーブルの上、小さな箱の中にチョコレートが置いてある。
 キャンディのように包まれたソレに、じっと目がいく。

「……一個貰うか」

 頭使うと糖分が欲しくなる。
 まだ大量にあるし、一個くらいいいだろ。

「いっただきまーす」

 飴玉のように丸いフォルムのチョコレートを口に入れる。
 ビターチョコレートらしい。これ好きなんだよなー。そう思いながらチョコレートを噛み潰した時だった。

「……っ!?」

 簡単に砕けた、と思いきや、トロリとした甘い液体が出てきた。
 この独特の甘ったるさ……まさか……。

「……ウィスキーボンボン……」

 酒入りチョコレート……まさか、二人が酔った原因って、コレ?


 アルコール・パニック!

 ――――

(アユミ……)

(うぅ……)

(フリージアにも好かれるとは……どんだけ、俺? ……にしても、フリージアもアルコールに弱いなんて意外だな)
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