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クリスマス・リング

 12月24日。
 その日は聖夜と呼ばれし神聖な日であるクリスマス。

「……なあベコニア。これ、どうすればいい?」

「わ、私に聞かれても……」

 目の前にある物に、俺もベコニアも頭を悩ませていた。
 ……え? いったい何かって?
 ……ふっ。それは――。

「……焼却はダメだよな?」

「ダメに決まってるでしょ!! これは全部アンタ当てのラブレターなんだからね!」

「デスヨネー」

 がっくりと肩を落としながら、目の前の手紙の山……俺当てのラブレターを見る。
 山ほど積まれた手紙の束を見ると、もういい加減うんざりしてきた。

「どうしようか……」

「私に聞かないでよ」

 がっくりとうなだれていると、「だいたい」とベコニアがため息をつく。

「アンタ……いつも通り、先約がいるんでしょ?」

「まあ、な」

「言い方アレだけど……無視しちゃえば? アンタ、アイツしか興味ないんでしょ?」

「……そりゃ……」

「焼き捨てるのはさすがにかわいそうだからやめてあげなさいよ。……だからって真には受けなくたっていいんだから」

「…………」

 ベコニアの言うことに目を丸くする。
 焼き捨てるな、と言っておいて(本人のトラウマもあるだろうけど)、恋路はちゃっかり応援してくれるんだから。

「この手紙は私が処分しておくから。アンタはアイツのところの行きなさいよ」

「あ、ああ……ベコニア」

 手紙を人形たちでごっそり運ぶベコニアは「何?」と首だけ振り返る。

「悪いな。ありがとう」

「えっ? ちょ……礼を言われることじゃないんだから……!」

 素直に礼を言えば「いいからとっとと行ってきなさいよ!!」とツンデレ全開で部屋を出ていった。
 ……さすが現役ツンデレ学科←

「かーわいー♪ ……さて」

 せっかくベコニアが押し出してくれたんだ。
 ……行きますか!

 ――――

 ブロッサムSide

「うわあ……冷え込む訳だな……」

 部屋に帰る途中、窓の外に雪が降っているのを見てぽつりとつぶやく。
 クリスマスって言っても特にやることは無い。というかむしろ成績悪かった為、補習まで受けていたんだ。

「あーあ……最悪のクリスマスだぜ……」

 クリスマス当日は各自家族と過ごしたり、パーティの仲間たちとかで祝い、翌日に学院総出でクリスマスパーティーが開かれる。
 ……とはいえ。今日は補習が長引いたせいもあって、約束事なんか何にもない。約束事自体されることもないが←

「はぁ……」

 ここまで来ると、自分の学力の無さに情けなくなってきた。
 そりゃ……俺だって学生だし、クリスマスだって楽しみたい。
 ……夢のまた夢、だな。

「はあ……」

 もういいや……せめて明日のパーティーだけは楽しもう……。
 虚しさを引きずりながら、部屋のドアを開けた。

「あ。お帰り」

「……へ?」

 瞬間、マヌケな顔になった。
 何故ならドアを開けた瞬間、アユミが現れたからだった。

「おまえ、また補習かよ。好きだな、ホント」

「ち、違う! ってそうじゃなくて! なんでおまえ……」

 俺の部屋にいるんだよ、と言おうとすると、アユミに腕を引っ張られ、部屋の中へ。

「え……」

 部屋の中を見て驚いた。
 机の上には豪華な料理がある。

「え……これ……」

「たいしたものじゃないけど。ちょっとしたパーティ?」

 ニシシッ、と独特の笑い声が聞こえる。

「補習ある無し関係なく、俺はブロッサムと居たかったからな。……その様子じゃ、夕食もまだだろ?」

「ま、まあ……」

「よし。あ、妖精賢者と甘党ノームはそれぞれ楽しんでるから大丈夫だ」

 あの二人か。それならそれでいいけど。

「じゃ、食べようか」

「お、おお……」

 ――――

 料理とケーキを堪能し、あとはソファでゆっくり過ごす。

「んー♪ やっぱり最高♪」

「ああ……そう……」

 ……もちろんアユミに抱き着かれているが←
 寒いのが苦手なアユミは、最近じゃずっとこの通りべたついてる。
 もちろん二人だけの時だが……やっぱり少し恥ずかしい。……すぐに慣れるけど←

「アユミ、寒いのか?」

「おう。やっぱり人肌が一番温いわな」

 言ってまた密着してくる。
 ……別の意味で沸騰しそうなんだけど。

「……まあ、今は雪も降ってるからな。寒いのもしかたないか」

「雪? ……なるほど。今年はホワイトクリスマスか」

「……そういやそうだな」

 あの時ネガティブゲイトが開いてたからな……気づかなかった。

「……そだ! ブロッサム、指借りるぞ」

「え?」

 突然右手を取られ、グローブを外された。それから何かを着けられる。
 ……ってこれ……。

「……指輪?」

 中指に通された銀色の指輪。
 まじまじと見ると「そ」と短く返事を返される。

「クリスマスシーズンって訳で、購買部の方でアクセサリーとかの販売もやってたんだ。ペアのやつもあったし、思いきって」

「へぇ。そうか……え?」

 頷き、だがすぐに疑問符が頭に浮かんだ。

「今……ペアって……」

「ん? ああ、そうだよ。俺と一緒」

 言ってアユミも右手を見せた。
 俺と同じ指に同じ指輪がある。

「ぺ、ペアリング……っ」

「そ♪」

 うれしそうに、かつ猫のように頭を胸元に擦り寄らせてくる。
 ペアリングって……これじゃ……。

「こ、恋人みたい……?」

「みたいじゃなくてそうだと思うけど。じゃなきゃ買わないし」

 なんでそんな恥ずかしいことをサラっと言えるんだよ!
 ……まあ……悪い気はしないけど、さ……←

「――それに、ブロッサムは俺のだってわからせるし」

「え? 今なんか言ったか?」

 よく聞き取れなかったから聞き返すが「ううん」と首を横に振られた。
 ……気のせい、か?

「ブロッサム、失礼」

「へ?」

 考え込んでいると、突然首から肩に分厚い毛布をかけられた。
 アユミも包まると、頭突きを食らいそうなくらい至近距離からズボッ! と頭を出す。

「今日はこのまま一緒に寝るか。ブロッサム」

「…………。はい!?」

 い、今なんつった!?
 今とんでもないことを言ったよな!!?

「な、なんで!?」

「いや、寒いから」

「それだけ!?」

 た、たしかにこれならあったかいけど……。
 でも密着し過ぎ! 俺が困るよ、いろんな意味で!!

「な、なあ……いくらなんでもこれは……」

「んー……温いよ、これは♪」

「う……っ」

 ……そんな幸せそうな顔するなよ。なんだかんだで流されるだろうが!!←

「んー……気持ちいいや……」

「…………」

 気づかれないようため息をつく。
 ……ダメだ。俺には無理だ。とてもじゃないが断れない……←

「んー、最高♪ 今年のクリスマスプレゼントはこれで十分だな♪」

「そうか……安上がりでいいな……」

「まあな。ブロッサム」

 呼ばれると、ずいっと顔が迫ってきた。
 鼻がくっつきそうな程近くで、満面の笑みが浮かべる。

「メリークリスマス。ブロッサム」

「……っ、あ、ああ……」

 相変わらず心臓に悪いな……。
 ……でも。


 クリスマス・リング

 ――――

(今日くらい……別にいいか)

(クリスマスと銀の指輪に免じて、な……)
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