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乙女な天使

 ブロッサムはとても可愛過ぎると思う。

 女装よし、ツンデレよし、性格よし。

 ……絶対性別間違って生まれてきたんじゃね?

 ――――

「……お。なんだこりゃ」

 ローズガーデンの一角にある掲示板に目を向けると、あるチラシが目に入った。
 思わず足を止め、それをじっと凝視する。

「あれー? どしたのさ、バロータ」

「いや、ちょっと面白そうなのを見つけてよ」

 たまたま今日授業が休みだった俺は、同じく休みで暇していたレオに見つけたチラシを指さす。

「『ローズガーデン・ハロウィン企画・パティシエコンテスト』?」

「そ。なんか面白そうじゃないか? 見てる側にもつまみ用のお菓子も」

「お菓子!? 行く行く!」

「早っ!?」

 ま、まあいいけど……。
 とりあえずノッてきたってことで、俺たちは会場に行くことにしたのだった。

 ――――

「うわー……結構いっぱいいるなー……」

「ふーん。みんなお菓子見にきたんだ。暇な奴ばっか」

 いや、それは言うなよ。俺らも一緒になるだろ!?

「まったく……ん?」

「何? ……あ」

 ふと、奥の方へ目を向ける。
 その先には見慣れたドラッケンのバハムーンとタカチホのドワーフ、そしてモーディアルのエルフ。

「ジーク! カータロ!」

「ん……? ――あ!?」

「なんや。バロータにレオやないか」

「うん! ……それと」

「……僕はついでみたいだね」

 ジーク、カータロ……そして、スティクスがいた。
 ……って、なんでスティクス!?

「なんでおまえらが……」

「いや……わいとジークは『ファントムローズ』って花を買いにきたんやけど……」

「『ファントムローズ』? 綺麗だけど、あんま長持ちしないっつー、あの?」

 俺がそう言うと「そうなんだよ~~~!!」とジークとカータロがうなだれる。

「せっかくアイナさんにあげようと思ったのに……」

「ロクロちゃんにあげようと思うとったのに……」

「購入する前に真実聞けただけでもまだマシじゃないの? 気づかずにあげたら、逆に好感度下がると思うけど」

「「うっ……」」

 スティクスに言い返せない二人は言葉を詰まらせる。

「……って言うか、スティクスはなんでここにいるわけ?」

「僕はエデンを捜しにきたんだよ」

「エデンを?」

 俺らが首を傾げて言うと、スティクスは深くため息をつきながら両手をあげる。

「また仕事サボってプリシアナに向かったんだよ。この街でアユミとブロッサムを見かけたから、確実にここにいるからね」

「え、なんでそんな断言……」

「アユミいるところエデンあり、だよ。戦い終わった今でも付け狙ってるからね。今月だけでも12回目だし」

「ストーカーかよ!」

 あの(元)闇の生徒会長がストーカーって……。

「アユミとブロッサムはパティシエコンテストとやらで客寄せのアルバイトをしてるっぽいし。見張っていればそのうち捕獲できるはず」

「はあ……」

 そう言いながらスティクスは会場に向かう。
 ……つーかあの二人、客寄せのバイトしてるのか……。

「……まあ面白そうだし。俺らも行こうか」

「うん! おまえらも、食ってけば? 代わりに、美味い菓子とかあるかもしれないし」

「「……ソーデスネ」」

 完全に意気消沈した二人も頷きつつ、俺たちは四人で会場に入っていった。

 ――――

「うわぁ~~~!! チョー美味そ~~~!!」

「あ、レオ! わいにも寄越さんかい!」

「へぇ……結構良い細工だなぁ、この飴細工」

「これならアイナさんも喜んでくれるかな……」

「知らないよ。あとは当たって砕けな」

「砕けてたまるか!!」

 そんなこんなで菓子を見ながら、何故か五人で見る羽目になった。

「はあ……僕だって暇じゃないのに……邪魔だけはしないでよ」

「わいらはべつにそんな……つーかスティクス。アユミとブロッサムがいるんやろ?」

 ふと、カータロが「いったいどこにおるんや?」と辺りを見回す。
 そうだ。そういやあいつらもいるんだっけ。……どこだ?

「……アレ」

 そう言ってスティクスはある方向を指さした。
 つられて俺らもそっちに目を向ける。

「あのぉ……お兄さん、こちらの菓子はどこに……?」

「それは13番の札が付けられてますので、右側の方を探せば見つかるかと」

「なあ、お姉さん。こっちの菓子はどこに?」

「……そ、そっちの……4番テーブル、です……」

 視線の先には、看板持った黒髪狼男(いや、狼女か?)と可愛すぎるセレスティアの魔女っ娘。
 ……って狼女の方はアユミじゃねぇか!!

「ありがとうございますっ♪ ……あの~、私と一緒じゃダメですか?」

「申し訳ありませんが間に合ってますので。なあ? “チェリー”ちゃん?」

「……!(コクコク!)」

「くっ……彼氏付きか」

 男女ともに残念そうに離れる。
 ……つーか、あの可愛い娘は誰だよ!?

「……おい。この仕事成功すれば、俺らケーキタダ食いなんだから頑張れや」

「わかってる、けど……は、恥ずかし過ぎるよぉ……っ」

 言って魔女っ娘のチェリーさんはミニスカローブを下に引っ張り、帽子を深く被り直す。
 ……ぐはっ!! かなり可愛すぎだろう!?

「お~……なんや、アユミ。いつの間にあんな可愛い娘口説いたん?」

「たしかに可愛い……ってダメだ! 俺にはアイナさんという人が……!!」

「ジーク、アイナとまだ付き合ってないじゃん」

「うわー……ミニスカとニーハイのコンボにあの乙女属性はなかなかの破壊力が……」

「――あのさ。言っとくけど」

 遠くからチェリーちゃんの可愛さに(レオ除き)悶えていると、スティクスが衝撃的な一言。

「あの魔女。ブロッサムだよ?」

『…………。え?』

 理解出来なかった。というか思考が止まった。
 あの可愛い魔女っ娘さんが、ブロッサム……?

「……いや、まさかそんな」

 だって髪長いヨ? 恥じらって真っ赤になった顔可愛いヨ? 完全乙女だヨ? というかどっから見ても女の子だヨ!?
 思考回路はショート寸前の中、とある二人が二人に近寄る。

「アユミちゃ~ん。ブロッサム~」

「見ーっけ」

「あ。シルフィーとライラじゃ……」

「そっちで呼ぶなーーー!!!」

 と思ったらシルフィーとライラかい!
 それぞれ吸血鬼とフランケンシュタインのコスプレしてたから一瞬わからなかった!!←

「あ。今はチェリーちゃん――だっけ?」

「そそそ。どーよ、シルフィー&ライラ。この俺の腕前は」

「うん。すごいと思うよ~? ……いろんな意味で」

「女の子……ここも?」

「ちょ!! スカートの中覗くな! ヅラ引っ張るな!」

 ライラにスカートめくられかけるわ、髪(ヅラだったのか……)を引っ張られるわ……。
 外見女の子だから、正体知らなかったら鼻血出てた(さすがに正体知った今はない)な、うん。

「うわ。ブロッサムってば……女装めちゃめちゃ似合ってるんだけど」

「たしかに……外見はロクロちゃんに勝るとも劣らないな。うん」

「つーか……むしろアユミと同じで、実は女の子だったんじゃ……?」

「ジーク。さすがにそれはない……はず」

 外見のせいか、強く否定できない。
 ……実は俺もジークと同じことをちょっと考えたから←

「……とにかく。あの珍獣乙女もどきはブロッサム=ウィンターコスモス本人だから。紛れもなく」

「乙女もどきって……」

 たしかに可愛いけど……男に乙女は失礼じゃ……。

「ブロッサム。コラ、はぐれるぞ」

「ひゃ……っ」

 え。何今の「ひゃ」は。
 腕組まれて赤面するあたり、めっちゃくちゃ女の子なんですけど!?

「ちょ……アユミ、何を……!?」

「ん? 悪い虫つかないように。男だろうが女だろうが……」

 そう言ってアユミはブロッサムの胸倉を掴んで寄せて。

「俺のものに手を出す奴は許すかよ」

「……っ! ば……バカっ!」

 耳元で喋られたからか、ブロッサムが真っ赤になってビクッ! て震えた。
 言い方ツンデレ乙女……ってここ公衆の面前なんだけど!?

「……相変わらず恥ずかしくもなくやってるね。ブロッサムも、見ていてイジメたくなるし」

「おまえもかいな……まあアユミは昔から、超が付くほどサドっ気ありやしなあ……そこはしゃあないやろ」

「って言うか、絶対楽しんでるよね。ブロッサムの反応」

 不覚にもブロッサムにときめいてしまい、再起不能に陥った俺とジークを除き、三人が冷静にコメント。

「ブロッサム。ほら、落ち着いてよ~」

「わっ!?」

「ぎゅー」

「ちょ……!」

「……おい。貴様ら、俺のものに手を出すな」

「わぁあああ!!?」

 シルフィー、ライラ、アユミが順にブロッサムにしがみついた。
 ミニスカから足や腿をちらつかせながらオロオロするブロッサムがますます可愛く見えて……!

「「ぶふ……っ!」」

 ……ジークと揃って鼻血を吹き出しながらしゃがみ込んだ。
 お、男(女装とは言え)に鼻血を出すなんて……。

「俺……もしかして、」

 かなりやばいんじゃ……とつぶやいた時だった。

「貴様ァアアアアアア!!!」

「わぁ!?」

「うぉ!!」

 何故かアユミたちの近くの床下からエデンが現れた。
 って忍者かアイツは!!?

「アユミ……! 貴様、僕という者がいながら、そんな奴にくら替えしようと言う気か!?」

「それ以前に、いつ誰がテメーのものになったんだよ」

「……そいつか? そいつを消せば、君は僕の下に帰ってくるんだな!?」

「ひっ……」

 剣を構えてぶるぶると震えるエデンから、ブロッサムを庇うように前に出るアユミ。
 つーかエデン……それ完全にヤンデレの発言じゃ……。

「かくなるうえは……そいつを殺して僕のものに!!」

「だから。ならねぇっつってんだろ!」

 完全に目がイっちゃってるエデンに、ため息をつきながら刀を構えるアユミ。

「ちょ! おまえらさすがに戦いはアカンって!」

「やべえ……!」

 さすがにこれはまずい、と声を出し、俺たちはアユミたちの下へ駆け出す。

「はい、アウト」

 と、同時にパチンッ! と小気味よい音が響いた。
 それと同時にエデンが闇の精霊に拘束される。

「む!? これはまさか……スティクスか!?」

「そうだよ。生徒会長」

 やはりやったのはスティクスだった。
 深く長いため息をつきながら、その顔には怒りも含んでいる。

「ストーカーやっている暇があるなら、モーディアル学園再建に尽力を注いでもらいたいものだね」

「離せ! 僕はアユミを連れて帰るまで諦めないぞ!」

「悪かったね。こっちのバカが」

「気にするな。それより早くヌラリに差し出したら?」

「言われなくてもそうする。……じゃあね」

 そう言ってエデンを引き連れ、スティクスは会場を去っていった。

「スティクス、貴様ーーーッ!!! 覚えてろ、ブロッサムーーーッ!!!」

 最後に響き渡るエデンの怒号。
 さりげなくブロッサムにも宣戦布告する辺りもさすがだろうな。

「うわ……エデンってば、怖っ」

「エデン先輩……」

 何とも言えない顔で二人を見つめる俺たち。
 ……エデンってあんな奴だっけ……?

「……おい」

 固まっていると、アユミが俺たちに声をかけてきた。

「何やってんだ、おまえら」

「バロータたちも来てたんだ~」

 訝しげに俺たちを見るアユミ。反対に無邪気に喜ぶシルフィー。相変わらず無表情のライラ。

「あとは……」

「……!」

 ……アユミの後ろに隠れ、ふるふると震えるブロッサム。

(……やばい)

 ……可愛すぎだろ!

「……おまえら。念のため言っておくが……」

「わ、わかってるって!」

 瞬間、俺らに向けられる笑顔の裏にある静かな殺気。
 背後に阿修羅だが魔王だがを背負うアユミに、俺らはただコクコクと頷くしかなかった。

「よろしい。……じゃあ行こうか。チェリーちゃん?」

「あ……うん……」

 まるで箱入りお嬢様みたいにこくん、と頷くブロッサム。
 ……イカン。マジで乙女に見える……!

「ボクたちも行くよ~。みんな~じゃあね~」

「じゃあねー」

 シルフィーと真似っこライラも行っちまった。
 ……あいつら、強くなったな←

「……はあ……俺、アイナさんに会わせる顔がねぇかも……」

「俺に至っては同じ学校だぞ? ……やばい、ブロッサムとどんな顔で会えばいいんだ……?」

「んー……知らないふりとか?」

「出来たら苦労あらへんやろ……インパクト大きいで? アレは……」

 乙女ブロッサムが脳内に強く焼き残った俺たちは、いろんな意味でブロッサムとどんな顔で会えばいいかわからなかった。


 乙女な天使

 ――――

(エデン、テメェまた来やがったのかアアアアアアッ!!!)

(アユミをモーディアル学園に連れていくまでは戻らん!)

(生徒会長だろ、おまえは!)

((見かけ男……の時は普通なんだけどな……うん……))
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