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兄弟ってやっぱ似るんだな

 なんなのだろう。
 いったいどうしてしまったのだろうか。

「…………」

「あ、あの~……?」

 なんでセルシアから闘技場みたいなオーラが出ているんだーーー!?!?!?

 ――――

「はぁぁぁぁ~~~……」

「バロータ~……大丈夫~?」

「大丈夫……ため息、長い?」

 目の前の席に座るシルフィーとライラが首を傾げていた。
 俺は「大丈夫……」と言いつつ、だがキリキリと痛む胃の辺りを手で押さえる。

「……全然、大丈夫っぽくないよ~……?」

「……すみません、見栄張りました。最近……神経性の胃痛が激しくってな……」

「神経性……苦労ある? 苦労は未来で、ハゲる原因になる……」

「リアルに悲しくなるからやめて!!」

 悪気がない分、ライラの言葉がすごくキツイんだけど!?
 心に鈍器打ち付けられたんだけど!!?

「バロータがハゲるかどうかはどうでもいいとして~。……ホントにいったい何があったの?」

「酷ェ!! ……あー、ちょっと俺もわからないけどよ……」

 なんだこの毒舌コンビは!←
 それとはべつに、とりあえず今の俺の悩みを打ち明けた。

 ――――

「……つまり~。黒セルシア君の愚痴とブリザード並の話し方が胃に悪い?」

「ああ……」

 足をパタパタさせるシルフィーに頷く。
 最近の悩み。それはセルシアだ。あいつ、最近とんでもなく機嫌が悪いんだ……。

(原因はわかってるけどな……)

 言わずもがな。二人の原因はアユミだ。
 あいつが隙あらばブロッサムに(セクハラレベルで)イチャイチャしているもんだから、機嫌が急降下しているんだ。
 あいつ、セルシアも自分が好きだってことに気付いてないからなあ……。

「アユミちゃんスゴイね~。学院の生徒会長を虜にしちゃってるし~」

「まあ……あのセルシアを惚れさせるのはな」

「セルシアを惚れさせる……魔性の魅力?」

「ライラちゃん、どこで覚えたのかなその言葉!!?」

 誰!? 純粋な子供にこんな言葉教えたの!!
 多分アユミだろうけど!←

「とにかく! ……セルシア、何とかならないかな」

 気付いているか否か、セルシアは二面性の持ち主だ。
 あいつは機嫌が悪いと、とんでもなく恐ろしくなる。
 ガキの頃、セルシアを怒らせて恐ろしい目にあって以来、あいつのブチ切れは今でも俺のトラウマと化していた。
 ……というかアレは誰でもトラウマになる。絶対←

「もうホントに恐ろしいんだよ! セルシアは!」

「セルシア様が何か?」

「いや、正確にはセルシアじゃなくて黒セルシア……あれ?」

 今、目の前の二人じゃなくて、別方向から声が……。

「あなたと言う人はまた……!」

「懲りない奴だなぁ、おまえも」

「バロータ……俺は助けないからな……?」

「げっ!!」

 背後からフリージア、アユミ、ブロッサムが現れた!
 つーかおまえら、背後から現れるのやめてくれない!?

「あなたは……あとで説教6時間コースですね」

「え? ココは魔法攻めコースか鞭攻めコースだろ? リージー」

「……ではバロータ。どれがよろしいですか?」

「どれも嫌だぁああああああッ!!!」

 シルフィーとライラに助けを求めるが、二人は机の下で潜って『グッドラック』と書かれたプラカードで身を隠していた。って見捨てられた!!?

「って、誰かぁあああ!!!」

 誰かこのドS執事とドS女王を何とかしてェエエエッ!!!

「だいたいフリージア! おまえ、何アユミの言うことはちゃっかり聞いちゃってんだよ!!」

「! ……べつに、そうでは……」

 そう言ってアユミをちら見して、それで微妙に顔を赤くして……。
 ……赤く……?

「……む……」

 気づいたかなのか、ブロッサムがなんか拗ねたような表情を浮かべている。
 で、フリージアも気まずそうに目を反らしている。
 ……あれ……? フリージア……?

「フリージア君……まさか~」

「いや、まさか、そんな……」

「フリージア」

 シルフィーとオロオロしていると、ライラがフリージアにテコテコと近寄り、

「アユミのこと、好きなの?」

「「……ッ!!?」」

「「ちょ!!?」」

 よりによってド直球過ぎですよ!?
 見ろ! フリージアもブロッサムも固まってるぞ!?

(はッ! アユミは……)

 そうだ! アユミは!?
 成り行きで聞くことになったあいつは……?

「なあなあ。このチョコタルトくれよ。あっ、あとそのパンプキンプリンも」

 聞いてねぇええええええッ!!!!!←

「…………」

「まあ……あれだ。アユミが相手だし……?」

 明らかにフリージアがショックを受けてるぞ……。
 つーかアユミ……ブロッサム以外雑過ぎないか?

「この分じゃ、セルシアにも希望なんてなさそう……」

「誰が希望ないって?」

「だからセルシ、ア……」

 瞬間、背中と頬に冷たい感触。

「ねぇ……いったい誰にそんなこと言っているのかなあ?」

「ギャーーーーッ!!!」

 なんでいるんだよセルシア様ぁぁぁ!!?
 つーか頬の冷たい感触はマジ剣そのものじゃないか!!

「まったくもう……ちょっと目を離すとロクでもないことしか言わないんだねぇ?」

「違っ……ってか、助け……!」

 マジで命の危機を感じ、慌てて周りに助けを求める。

『…………』

 が、全員遠くに離れ、俺から顔を背けていた。
 なんでそういう時だけ息ピッタリなんだよ!?

「バロータ? ねぇ、僕の話聞いてる?」

「聞いてますッ! 聞いてますから!!」

 聞いてるからせめて剣はしまって!
 黒笑顔だけでも怖いのに、剣まで持たれたらホントに殺されそうなんですけど!!?

「バロータ? 逃げないで? ……間違って刺さっちゃうかも」

「縁起でもないこと言うなってのッ!!!」

 黒セルシアに追い詰められていく。
 つーか剣先が俺に向けられてるんだけど! 明らかに刺す気満々じゃないか!
 ちょ……ここでジ・エンド!?

「セルシア。ここで剣を振り回しては危ないですよ」

「兄様!」

 と、ここでどっからかセントウレア校長が現れた。
 校長はセルシアの手(剣を持つ方)を握り、制止をかける。
 た……助かった……!!←

「セントウレア様!」

「なんだ、校長か。毎度毎度都合の良いタイミングで現れるな」

「ちょ!? アユミ!」

 校長相手に偉くでかい態度取ったな……ブロッサムの慌てぶりもよくわかる。

「アユミさん! セントウレア校長に失礼ですよ!」

「あれから何回も邪魔されりゃ、校長も何もないわ。今回は違うけど」

「邪魔?」

 校長を不機嫌そうに睨むアユミに首を傾げる。
 それと同時にブロッサムがボンッ! って効果音が着きそうなくらい顔が真っ赤になる。
 ……あ。まさかこの二人絡み、か?

「私はただ、学院内での間違いを正してるだけですよ」

「どうだかな。ブロッサムの時は止めたのに、セルシアの時は止めなかったじゃないか」

「セルシアは自制あると思ってはいますから」

「きっぱり断言しろよ。あと少しでマジやばかったんだぞ、あの時は」

「それは失礼」

 アユミはイライラと、校長はにこにことしている。
 ……何このめちゃくちゃ怖い絵面は!!?

「なあ……二人にいったい何が……?」

「……知らない方が幸せだよ~」

「……(こくこく)」

 シルフィーとライラが同時に悟りきった顔で頷く。フリージアに視線を向けると、こいつも何故か顔が赤い。セルシアはにこにこと笑顔を浮かべ続けている。
 ……あれ? ハブられてるの、俺だけ!?

「で。結局何の用ですか? 言っておきますがセルシア絡みなら却下します」

「…………ダメですか」

 校長。今の間はなんですか!?

「というかセルシア贔屓し過ぎだろ。あなたは校長だろう」

「同時にセルシアの兄ですから。兄として弟の幸せを願うのは当然でしょう?」

「兄様……!」

 美しい兄弟愛。
 それをアユミは苛立ちながらため息をつく。

「あー、はいはい、そうですか。……それで? ぶっ飛んだ内容じゃありませんよね?」

「ええ。アユミさんがセルシアと婚約前提で付き合っていただければ」

「「な!!?」」

「「え!?」」

「できるかぁあああッ!!!!」

「かー」

 ブロッサムとフリージアがぎょっとなり、俺とシルフィーは唖然とし、アユミは大声で吠えた。そしてライラはそれを仕草ごと真似をする。
 ってか校長いったい何を言っちゃってんですか!!?

「ふざけんな!! 絶対にお断りだ!」

「……お断り、ですか。セルシアに何か不満でも?」

 セルシアの頭を撫でながら言う校長は……何故だろう。黒く見える……!!
 周りの連中も俺と似た表情で固まっているから見間違いじゃない。

(やっぱり御兄弟ですよね、この二人は!!)

 黒笑みなんてセルシアと瓜二つだ! ものすごく!

「僕じゃダメなのかな? 僕だって君が好きなのに」

「駄目だ。俺は一人だけを愛する一途な者だから」

「重婚でもダメですか? アユミさん」

「もっとまずいわ!! 何『これなら大丈夫』みたいな顔してんだ! つーか校長は大人だろ!」

「私はセルシアの幸せだけを思って言ってますので」

「大人になれやああああああ!!!!!」

 セルシアと校長の兄弟二人に、盛大なツッコミを入れるアユミ。
 ……苦労しているんだな。

「……校長って、弟バカ?」

「……みたいだね~」

 唖然とする周りで、シルフィーと俺は頷き合う。
 ……そして俺たちは改めて、校長とセルシアは兄弟だ。と認識するのだった。



 兄弟ってやっぱ似るんだな

 ――――

(アユミさん)

(やはりダメかい?)

(しつけーんだよ!!)

 ――――

(む……)

(……っ)

 ――――

(どれだけそっくりなんだよ……ってか、モテる女も苦労するな)
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