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女王の少女

 あの『女王』には絶っ対逆らわない方がいい。

 ……そう痛感した一日だった。

 ――――

「……ブロッサム。一つ聞きてぇんだけど」

「……なんだよ」

「……どうやったらこんなことになるんだ?」

「知るかっ!!」

 涙目で叫び、がっくりうなだれるブロッサム。
 目の前にあるのはクッキー……となるはずの謎の黒い物体だ。

「ブロッサム。自分の好きな料理以外は完全にアウトだもんね~……」

「ああ……というか、ホントにいるんだな。料理を激物に変える奴って」

「うるせぇええええええッ!!!!!」

 俺とシルフィーがブロッサムのクッキー(の成れの果て)に戦慄を感じていると、ブロッサムが大声を出す。
 今日は俺の部屋で菓子作り……なんだが、ブロッサムのだけ、何故か未知の物体が出来上がった。
 いやだってよ? 一緒に作ってたのに5分で炭に変えるなんて……ある意味スゲェんだけど……。

「不器用にもほどあるだろ……」

「これ、ある意味一種の生物兵器だよね~」

「消すぞ貴様ら!!」

 シルフィーの辛口コメントに杖を構えるブロッサム。
 ……つかシルフィー……意外と毒舌なんだな……←

「うう……なんで、なんで上手くいかないんだ……?」

 体育座りでいじけ、炭のクッキーを指先で転がし出す。
 なんつーか……うん……ドンマイ←

「まあ……あれだ? アユミにあげるには、もう少しレベルアップが必要だな」

「そうだな……ってなんでアユミが出てくるんだよ!」

 一瞬スルーし、しかしすぐに反応して俺に怒鳴り付ける。

「いやいや、隠すなって? プリシアナ学院じゃおまえらの仲だって知っているから」

「な、なんだよソレ!?」

 にやにやと笑いながら言えば、真っ赤になって慌て出した。
 うん、好きってバレバレなんだよ、おまえ。

「見ていてわかんだよ。なあ、シルフィー?」

「うん。ブロッサム、アユミちゃんのこと、だーい好きなんだよねっ♪」

「な、ななな、何言ってんだよ! おまえらは!!」

 シルフィーと一緒にからかえば、顔がもう茹蛸みたいに真っ赤になった。
 ますますブロッサムはからかいがいのある顔になっている。

「そりゃ……黙れば可愛いし。猫みたいに擦り寄って……あ、甘えてくるし……」

「け、けどよ!」と続ける。

「だからって別に……す、好きでもなんでもないからな! あんなロリグラマーなんか……!」

 ったくこのツンデレは……これはますます聞き出したい雰囲気――。

「――誰かロリだって? ブロッサム君」

 ――瞬間。空気が凍りついた。

「「「…………」」」

 三人で軋んだ音を発てながら、恐る恐る入口のドアに視線を向ける。

「楽しそうだなあ? お・ま・え・ら?」

「げっ……!!」

「ひぇえええッ!!?」

「やべ……っ!」

 そこには予想通りっつーか、やっぱりっつーか……とにかくいつの間にかアユミがいた。
 ……顔は笑顔なのに、彼女の後ろに般若の幻影が見えるのは、絶対に俺だけじゃないよな?←

「ブロッサム……テメッ、人のコンプレックスを指摘するたァ良い度胸だな? ん?」

「いや、あれは、その……」

 命の危険を感じたブロッサムはじりじりと後ずさる。
 が、それをアユミは絶対零度の笑みでブロッサムを追い詰めていく。
 俺とシルフィーは揃ってガタガタと震えるしか出来なかった。

「人のコンプレックスを指摘したブロッサムは……どうやらお仕置きする必要があるみたいだな?」

「なんだよ、お仕置きって!!? 何する気ですか!!?」

 壁まで追い詰められたブロッサムに、もはや逃げ道はない。
 もはや悲鳴に近い声を上げるブロッサムに、アユミはにやりと男くさい(ホントに女かよ……)笑みで近づいていく。

「逃がすかよ」

「え、ちょ――」

 びたりと密着し、ブロッサムの顎をするりと指先で一撫でし……。

「「え゙」」

「んっ……!?」

 あれ……え? 何が起きた……んだ?
 俺の目が間違ってなければ、アユミがブロッサムにキスしていて……。

「「え……ええええええッ!!?」」

 スゲェ悲鳴のはずが喉に引っ掛かり、掠れたような小さな悲鳴になった。
 これは幻覚じゃない。マジでアユミ様、ブロッサムにキスしてやがる! だってシルフィーも見えてるしね!!←

「ちょっ、や、めッ!」

「るわけねぇ」

「んぁ……ッ!?」

 ちょおぉおおお!!?
 今、舌入れたの見えたんですけどぉおおお!!?
 横からだから全部見えるんだよ! 全部!

「ふ、ぅ……っ! ん……ッ!」

 ビクッと肩を跳ね上がり、ぎゅっと目を閉じるブロッサム。
 ちょ……おまえら何? いったい何なの!?

「ぁ……も、……や、め……っ」

 ちょ……ブロッサム、声ヤバイんだけど……。加えて頬は赤みを帯びて涙目で、さらに投げ出された足がびくびくと反応している。
 あの……これ、普通逆だよね? 男女の役が逆だよね、これ!?

「はぁ……う……」

「ん……ごちそうさん」

 相当堪能したらしいアユミはぺろりと自分の唇を舐める。
 ……あの、どこの官能小説?←

「ぁ……ぅ……」

 一方とんでもなくディープなキスされたブロッサムは、がくっと糸の切れた人形みたいに身を投げ出す。
 時折びくんと痙攣する以外に反応がない。……もしかして気絶してる……?

「……あー……気絶したか」

 やっぱりか!!←

「アユミちゃん……」

「おまえ……なんてことを……」

 シルフィーと一緒に何とも言えない表情を浮かべてアユミを見る。
 ……どんだけドSなんだ、この女。

「……あ。おまえら。まだいたのか?」

 しかも俺らアウト・オブ・眼中かよ!!
 ブロッサムしか映ってなかったですか!!?

「まあいいや。あーそうそう。こいつ借りてくから。うだうだ文句言うなよ」

 そう言って気絶しているブロッサムを、所謂お姫様抱っこってやつで抱え、入口から出ていく。
 ……何故だ。アユミがやると様になるんだが。

「あ。あと一つ」

「ふぇ?」

「はい?」

 が、出ていく寸前、アユミは立ち止まった。
 クルリと振り返る――素晴らしい、黒い笑みで。

「このこと他人に口外したら……まあ――月の無い夜は背後に気をつけろよ?」

 そう……とんでもなく洒落にならないことに言い残し、今度こそ出ていった。
 残された俺らに沈黙が走る。

「……シルフィー」

「うん……」

 隅っこで固まる俺らは、ある決意を固める。

「「アユミ(ちゃん)には絶っ対に逆らわないようにしよう……」」

 人前でキスできる女なんだ。アユミなら闇討ちなんてのもやりかねない。
 ……今後一切、何があってもアユミには逆らわないようにしよう。
 俺とシルフィーはそう誓いあった瞬間だった。


 女王の少女

 ――――

(アユミちゃんのSはドSのSだね~……)

(みたいだな……あれからブロッサムはどうなったんだろ……)
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