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一方通行

 彼女は不思議な人。

 性格は僕より男っぽくてバロータ以上に面倒くさがり。

 そのくせ様々な秘密を抱えて一人で背負って。

 不思議で……そして三学園交流戦で彼女と本気で戦って負けた。

 あの日からずっと、彼女から目が離せない。

 ――――

 プリシアナ学院は今日も花の香りに溢れている。
 四季に沿った彩り豊かな花は、今日もその身を風に揺られていた。

「今日も学院内は綺麗だね。花もきちんと蕾が膨らんでいるし」

「……ああ。そうだな」

 中庭の大きな木陰の下で、アユミは一人不満そうにため息をつく。

「ずいぶん不機嫌だね。アユミ」

「寝ていたところを叩き起こされりゃ、そりゃ不満にもなるわ」

 ギロッと睨むアユミは、ため息をつくとイライラと貧乏揺すりしている。
 いや。ついさっき木の下で寝ていたところを起こしちゃったからね。それでだと思う。

「わざと起こしたわけじゃないんだけど」

「わざとだったら即刻殴る」

 舌打ちしながらも、隣に座り込むのは許してくれるらしい。
 変なところでアユミは優しいから。

「アユミはよくここに来るよね。この場所、気に入ってる?」

「日の光が心地良いから昼寝には最適……ってなんで俺がここによく来ること知ってんだテメーは」

「うん。目にすれば何故か君を追いかけてるから」

「それ、完全にストーカーのセリフだろうが」

 再び不機嫌な声を上げるアユミ。
 でも嘘は言ってない。目に映ると、自分でも気づいていない内に追いかけているから。視覚的にも距離的にも←

「……ったく。何を好き好んで俺なんか……」

「自分でも知らない内にやってるから止めようがないんだ」

「しかも天然二面性かよ……」

 何度目かのため息をつかれる。
 それきり諦めたのか、彼女は黙って花たちを見つめるだけだった。
 僕もまた何も言わず、黙って学院の景色を眺めた。

 ――――

 どれくらいそうしていたのだろう。
 不意に肩に重みがかかった。

「アユミ?」

「……すぅ……」

 隣にいるのはアユミだけ。
 声をかけるが返事はなく、代わりに寝息が聞こえてきた。
 ……どうやらいつの間にか寝てしまったらしいね。

「ふふ……本当に寝るのが大好きなんだね」

 何度か目にするが、彼女はたいてい寝ている時が多い。
 この前なんて木の上で器用に寝ていたし。

「……ん……」

 不意に彼女の手が探るように動いた。
 ぺたぺたと手の平で何かを探っている。

「ごめんね、アユミ……よいしょっと」

 肩を持ち膝下に手を入れ、横抱きに彼女を抱えた。
 クラッズと同じくらい小柄な彼女は、すっぽりと僕の中に収まる。

「……んん……」

 すると猫のように僕に擦り寄ってきた。
 離すまい、とがっちり服の裾も掴んでいる。

「こうしていれば可愛いのになあ……」

 普段の彼女は男っぽいが、寝ている時は無防備に甘えてくる。
 彼女自身気がついていないみたいだが、眠っている時はさっきのように、無意識に温もりを求めているんだ。

「……これ以外、アユミは僕を求めてくれないよね」

 どれだけ望んでも、僕は彼女の一番にはなれない。
 触れたくても彼女は僕ではなく、従兄弟の彼を求めている。

「…………」

 ズキリ、と胸が痛い。
 こうしているのだって、本当は僕ではなく彼を求めているんだってわかってる。

「僕だって……これでも真剣なんだよ?」

 アユミが好きだ。彼女の一番になりたい。
 ……どんな顔でもいいから、僕だけを見ていて欲しい。

「真剣過ぎて……ずる賢くなったくらい――」

 眠っている彼女の唇に、そっと自分のそれを押し付ける。
 ――きっと君は知らないよね? 僕が隠れてこんなことをやっているなんて。

「――辛いものだね。一方通行って」

 この感情に気付いても、気づいた時にはすでに手遅れ。
 頭ではわかっているのに、心は抑えきれない。

「本当に……ずるい……」

 こんなに僕の心を占めているのに、起きたら君は彼の下へいくんだから。
 本当は僕の隣にいて欲しいのに。

「それが無理なら――」

 せめて、この時だけは僕のものでいて?


 一方通行

 ――――

(報われないとわかっていても)

(この気持ちは抑えきれない)
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