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Cherry Blossom

「……あ、あの……アユミさん……お願いだから刀を――」

「じゃあ、俺の質問に答えて?」

 行き止まりに追い詰められ、怯えるバロータに向かって、にっこりと黒い笑顔を向けた。

「明日がブロッサムの誕生日って……マジで?」

 ――――

 ブロッサムSide

「はあ……」

 自室のベッドに寝転がりながら、何度目かのため息をついた。
 ……原因? 原因は……。

「……誕生日。どうしよう」

 ……そう。明日は俺の誕生日。
 今年は父上が忙しいから屋敷に戻ることはないだろう。多分セルシアとかセントウレア校長とかに祝われるな。
 ……ただ。

「……アユミに言うの忘れたな……」

 ……うっかりアユミに自分の誕生日を伝え忘れた。
 いや……もしかしたら誰か(多分バロータ辺りをシメて)に聞くかもしれないが……ただ、あいつ。とんでもなくめんどくさがるだろうな。

(……って、べつに祝ってほしいわけじゃねーけど!)

 ただ、前回は(バロータの策略に巻き込まれたが)祝ってやったから祝われたい……とか、あいつには「おめでとう」と一言聞きたい、とか……。
 そ、そういう有り触れたものでいいんだけど!?←

「……いや。無理だな……うん」

 興味ないことにはとことんどうでもいいからな……。
 言ってて虚しいが、高望みするだけ無駄か……。

「……はあ……」

 完全にネガティブモードに陥った俺はため息をつき、ごろりとふて寝することに決めたのだった。

 ――――

「――い……おい……」

「ん……」

 誰だよ……寝かせてくれ……。

「……起きないと……」

「……ぇ」

 あれ……身体が重い……? それに……暖かくて、柔らか……い……?
 ぼや~っとした視界が、徐々にクリアになっていく。

「――襲うぞ」

「ッ!!!!?」

 突然耳に生暖かい息が吹き込まれ、背筋にゾワッと寒気に似た何かが走った。
 一気に覚醒した頭で見れば、写ったのは寝る前にはいなかった人物。

「あ。起きた」

「なっ……え、ええっ!!?」

 ……なぜか俺と密着しているアユミがいた。

「おまえ……何を!?」

「いや、部屋に行ったらブロッサム寝てたし。せっかくの機会だから、潜り込もうかなっと」

「どんな機会!?」

 いったい何を狙ってるんだ、この女は!
 ただでさえ異性の部屋には入るのも気まずいっつーのに!!

「ベッドに潜るな! 密着するな! 誰かに見られたらまずいだろうが!!」

「今現在、誰かに見られたら一番まずいことをしてるのはブロッサムなのに?」

「は……?」

 アユミの言ってる意味がわからず、キョトンとなる。
 なので起き上がって聞こうとして……時に気づいた。

「あれ……」

 右手が何かを掴んでる。……そういや寝ぼけてる時に、何か柔らかいものを掴んだような……?
 だんだんと熱が上がっていくのを感じながら、恐る恐る右手に視線を向ける。

「…………あ」

 右手が捕らえていたのは……アユミの胸だった。

「ずっとわしづかみして……そんなに俺の胸が気に入ったのか。ブロッサム」

「ち、違っ!! これは、その……じ、事故だ! 事故!!」

 よりによってむ、むむむ……胸を掴んだって……!!?
 いや! これは寝ぼけていたのでってあって、決してわざとじゃ!!!

「うん。とりあえず落ち着いて手を離してくれないか? まずは」

「……はい」

 暴走を起こしている俺とは反対に、アユミはすごく冷静に俺の右手を掴んだ。
 言われて俺も手を離す。……ある意味アユミが冷静でよかった。

「で。どうだった。胸は」

「柔らかくて大きか……ってうぉおいっ!!!」

 サラっと何答えさせようとしてんの!!?
 普通、恥じらうとかないの!?

「そうか。……まあそれでからかいたい欲求はあるが、この際それは後日に回して」

「は……?」

 アユミがすぐにからかわない……?
 後日に回す(いや、それはそれで困るんだが)って……なんで?

「ブロッサム」

「は、はい」

 真剣な声で言ったかと思うと、すぐにへにゃりと柔らかく笑う。

「誕生日おめでとう」

「へ……へ?」

 出てきたのは祝いの言葉。
 いつものドS気味の笑みじゃなく、純粋かつ可愛い笑顔。

「0時0分。たった今、おまえの誕生日の日が来たってこと」

「え……」

「だから来たんだよ。おまえを最初に祝うのは、他の誰でもないこの俺だ」

 俺様みたいにそう言うと、ぎゅうっと抱き着いてきた。
 ふわっと甘い香りが鼻を霞める。

「さすがにこの時間、ケーキや料理はまずいからな。……だからって他の奴特にナデシコに先を越されるわけにはいかないし」

「そ、それだけの為に……?」

「そ。それだけ。最初と最後、二回おまえを祝う」

 そう言うと「だって」と俺の胸元に顔を擦りつけながら続ける。

「ブロッサムが好きだからな」

「え……っ」

 笑みと言葉の不意打ちに胸が高鳴った。
 同時に顔にまた熱が集まり出す。

「俺が生きてるのも。みんながいるのも。戦いが終わったのも。……こうして体温を感じ取れるのも、ブロッサムが守ってくれたからな」

「アユミ……」

「好きだよ、ブロッサム。一番大切。……すごく大好き」

「……っ」

 不意打ち過ぎるだろ……でも。

「ぉ……俺も……」

「ん?」

 俺も抱きしめ返す。
 恥ずかしさより、嬉しさが勝っていた。

「――俺も……好き」

「……ん」

 自分でも聞き取りにくい小さい声。……でも届いたみたいだ。

「ずっと好きだよ」

「……俺のセリフ」

 自然にふわりと互いにキス。
 ……すごく嬉しい。これが幸せってやつなのか?

「誕生日おめでとう」

「――……ありがとう」



 Cherry Blossom

 ――――

(やばっ……顔熱い……)

(ふふっ……かーわいー♪)
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