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愛称

 闇の世界突入前、フリージアからクエストの報告を頼まれた。
 それが終わり、後はもう準備するだけである。

「……アユミさん」

「なんだ?」

 準備を進めていると、フリージアに声をかけられた。
 作業は続けながら、首だけ振り向く。

「……前々から聞きたかったんですが……その、“リージー”って何なんですか?」

「え? 何……っておまえのことだけど?」

「そうじゃなくて……どうしてそう呼んだのか、です」

 ああ。そっちか。
 一人納得し、作業を一旦中断する。

「いやー……ぶっちゃけて言えば、俺、短く呼ぶ方が好きなんだよな。レオみたいに、二文字くらいで呼びやすく」

「はあ……」

「セルシアならセル、バロータならバロ。フリージアの場合ならリージー……ってな」

 こうした方が呼びやすいんだ。個人的に。
 ……ああ、ブロッサムだけは別だけど。特別だから。

「理由はそんだけ。……何かあるのか?」

「……いえ。ただ気になっただけです」

 神経質そうに眼鏡を上げ、どこかごまかすように言うフリージア。
 深く追求しない。怒らせると怖いし←

「……まあそういうことで。理由は深くないから、リージー」

「それはわかりましたが……というかアユミさん、また言ってますよ」

「だって呼びやすいんだし……それとも、この呼び方は嫌いか?」

「そんなの当ぜ……!」

 フリージアがバッと勢いよく振り返った。
 ……が、俺の顔を近くで見るなり、言葉を詰まらせる。
 俺、中断してから話しやすいよう、フリージアの近くに移動したんだよな。

「……なに?」

「……っ、う……そんなの……当然……」

「……当然?」

「き……気にもしてませんから」

「本当か?」

 ……まさかフリージア様から、気にしてない、と返されるとは。
 いやー、俺てっきり、全力で拒否られるかと思ってたから……。

「じゃあさ。これからもリージーって呼んでいいか?」

「……まあ。アユミさんが、そちらの方が呼びやすいと言うのでしたら……」

「そっか。じゃあ度々よろしくな、リージー」

「……あまり、調子に乗らないでください」

 また眼鏡を上げ、ツンとそっぽを向く。

「……おーい、耳赤いぞー?」

「気のせいです!」

 そうは言うが、エルフは耳が長いからな。隠さない限りよく見えるんだよ。

「はは……可愛い奴」

 ホント、可愛いツンデレ第二号フリージア――リージーだった。



 愛称

 ――――

(バロータ! おまえ、退けよ! おい!)

(ちょ、待て、ブロッサム! 今いいところなんだからもう少し――)

(バロータ?)

(す、すいませんでした、セルシア様……(声、低ッ! つーか目ェ怖っ!!))
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