ショック療法
「……39度ジャストじゃないか。どんだけ無理したんだか」
「うるさい……」
プリシアナ学院・寮。
自室で体温計を見たアユミは、寝間着姿でベッドでぐったりと横になっている俺にため息をつく。
「バロータの言う通り、今年の風邪は凄まじいな。セルシアもフリージアもやられたそうだし」
「チューリップの情報じゃ、学院の3分の1がやられたそうだぜ……」
「この調子じゃ、3分の2に上昇しそうだな」
「笑えない冗談はやめろ……アユミ」
俺が呼べば「なんだ」と短く返事を返してくる。
「……おまえ。もう帰れ」
「……は?」
そう言えば、意味がわからない、と言った顔を返された。
……こいつ、変なところで鈍感だな……。
「……俺の風邪が移るだろ……っ!」
「……ああ。そういう……だからなんで?」
「そんなの俺が困るに決ま――」
イライラしながら早口で言い、が、口にした言葉にハッとなる。
慌てて片手で押さえるがすでに遅く……。
「――へぇ? 責任感じてくれるんだ?」
「う、うるさいっ!」
案の定、にやにやとしながら意地悪く言ってきた。
あー、くそっ!! 数秒前の俺のバカ!!
「もういいから帰ってくれ! つーか帰れ!!」
「はいはい、わーったよ。とりあえず夕食終わったら、また来っから」
立ち上がり、「今日はセルシアもダウン中だからゆっくり食えるし」とか何とか言いながらアユミは部屋を出ていく。
「……おい」
が、その足はすぐに止まった。
気のせいか、声のトーンが低い――気がする。
「……なんだよ?」
「薬を飲んでねぇ」
ビシッ……。
それを言われた瞬間、自分自身が石化した音が聞こえた気がした。
「机に残ってるぞ。リリィ先生の薬が」
……言われなくてもわかってます。
リリィ先生の薬が残ってることくらい。
「飲めよ。ご丁寧にオブラートに包んでくれてるんだし」
「や……だってそれ……目茶苦茶まずい……」
「良薬口に苦し。苦いほど良い薬だって」
「嫌なもんは嫌なんだよ!」
タカチホの諺使われようが何言われようが飲みたくない!
「うわ。初等部のガキか、おまえは」
子供っぽいとか言うな!
「……薬ヤダ。苦い。嫌い」
「……はぁあああ……」
アユミから顔を背けて言えば、心っ底呆れた長いため息が聞こえてきた。
と、コトッと小さく物音が。
「おい、起きろ。ブロッサム。起きろコラ」
するとすぐに耳元で「起きろ」と連呼し始めた!
何なんだよ、いったい!!
「おまえ……っ! いったい俺に何を、」
したいんだ。と言おうとしたが言えなかった。
起き上がった瞬間、胸倉を掴まれ、ぐいっと引き寄せられ――気づいた時には目の前で映るアユミの顔と唇に触れる柔らかな何か。
「な……っ!」
え。何、この状況。
なんで俺、キスされてんの!?
「アユミ、やめ……っ!!」
う……っ!? 口を開いた瞬間、何かがヌルッて、ドロッて入ってきたんだけど……!! 何かの塊も入ってきたんだけど!!
何コレ!? 何なのコレ!!?
「ふ……っ! んぅ……!!」
胸倉は掴まれるし、首の後ろには腕回されて顔動かせねーし!! 吐き出したくても吐けねーし!!!
つーか病人にいきなりこんな深いキスするか普通!!?
「んぐ……ッ!!」
あ、飲んじゃった。なんか飲んじゃったんだけど! 息が苦しくて飲んじゃったんだけど!!
「ん……ぅん……っ」
や、ヤバイ……意識が……。
つかなんか、背筋がゾクゾクする……っ。
「……ふう……飲んだか」
「ぷは……っ」
小さくリップ音を鳴らしながらようやく顔を離した。息が苦しくて、ボフッと盛大に頭が枕に落ちる。
……なんで俺は呼吸困難なのにこいつは平気なんだ←
「な、なんで……!!」
「おまえが薬を飲まないと駄々をこねるからだろ」
「薬……?」
「しかし口移しって、意外と簡単だな」
そういやなんか……ヌルッて、ドロッてしたものが……あと何かの塊が口の中に入って――。
「……なななななッ!!?」
「お。すげえ赤いな。プラス涙目で結構そそられる。可愛い」
「アホかッ!!! この変態ッ!! ドS!! つーか男女の役が逆!!!」
なんでこいつはつねに俺の上を行くんだよ!
「ほぅ? その割にはおまえ、最後辺りすごい気持ちよさそうだったぞ? 翼はビクビク震えて俺の背中にぎゅってしがみついて……」
「あーあーあー!! 聞こえない聞こえない聞こえないーーー!!!」
とんでもないこと言い出したアユミの言葉を大声で掻き消した。
なんでサラって言い出すんだ、こいつは!!
「まあいいや。おまえは薬飲んだし俺も満足したし」
「満足するなーーーッ!!!」
とんでもないドSの笑みを浮かべるアユミに、俺は大声で叫び返した。
もちろん、後日うるさいという苦情が出て来た。
そしてその日以来。俺はどんな苦い薬も我慢して飲むようになった。
ショック療法
――――
(薬は……なんだ、飲んだのか。チッ)
(目の前であからさまな舌打ちすんなッ!!)
「うるさい……」
プリシアナ学院・寮。
自室で体温計を見たアユミは、寝間着姿でベッドでぐったりと横になっている俺にため息をつく。
「バロータの言う通り、今年の風邪は凄まじいな。セルシアもフリージアもやられたそうだし」
「チューリップの情報じゃ、学院の3分の1がやられたそうだぜ……」
「この調子じゃ、3分の2に上昇しそうだな」
「笑えない冗談はやめろ……アユミ」
俺が呼べば「なんだ」と短く返事を返してくる。
「……おまえ。もう帰れ」
「……は?」
そう言えば、意味がわからない、と言った顔を返された。
……こいつ、変なところで鈍感だな……。
「……俺の風邪が移るだろ……っ!」
「……ああ。そういう……だからなんで?」
「そんなの俺が困るに決ま――」
イライラしながら早口で言い、が、口にした言葉にハッとなる。
慌てて片手で押さえるがすでに遅く……。
「――へぇ? 責任感じてくれるんだ?」
「う、うるさいっ!」
案の定、にやにやとしながら意地悪く言ってきた。
あー、くそっ!! 数秒前の俺のバカ!!
「もういいから帰ってくれ! つーか帰れ!!」
「はいはい、わーったよ。とりあえず夕食終わったら、また来っから」
立ち上がり、「今日はセルシアもダウン中だからゆっくり食えるし」とか何とか言いながらアユミは部屋を出ていく。
「……おい」
が、その足はすぐに止まった。
気のせいか、声のトーンが低い――気がする。
「……なんだよ?」
「薬を飲んでねぇ」
ビシッ……。
それを言われた瞬間、自分自身が石化した音が聞こえた気がした。
「机に残ってるぞ。リリィ先生の薬が」
……言われなくてもわかってます。
リリィ先生の薬が残ってることくらい。
「飲めよ。ご丁寧にオブラートに包んでくれてるんだし」
「や……だってそれ……目茶苦茶まずい……」
「良薬口に苦し。苦いほど良い薬だって」
「嫌なもんは嫌なんだよ!」
タカチホの諺使われようが何言われようが飲みたくない!
「うわ。初等部のガキか、おまえは」
子供っぽいとか言うな!
「……薬ヤダ。苦い。嫌い」
「……はぁあああ……」
アユミから顔を背けて言えば、心っ底呆れた長いため息が聞こえてきた。
と、コトッと小さく物音が。
「おい、起きろ。ブロッサム。起きろコラ」
するとすぐに耳元で「起きろ」と連呼し始めた!
何なんだよ、いったい!!
「おまえ……っ! いったい俺に何を、」
したいんだ。と言おうとしたが言えなかった。
起き上がった瞬間、胸倉を掴まれ、ぐいっと引き寄せられ――気づいた時には目の前で映るアユミの顔と唇に触れる柔らかな何か。
「な……っ!」
え。何、この状況。
なんで俺、キスされてんの!?
「アユミ、やめ……っ!!」
う……っ!? 口を開いた瞬間、何かがヌルッて、ドロッて入ってきたんだけど……!! 何かの塊も入ってきたんだけど!!
何コレ!? 何なのコレ!!?
「ふ……っ! んぅ……!!」
胸倉は掴まれるし、首の後ろには腕回されて顔動かせねーし!! 吐き出したくても吐けねーし!!!
つーか病人にいきなりこんな深いキスするか普通!!?
「んぐ……ッ!!」
あ、飲んじゃった。なんか飲んじゃったんだけど! 息が苦しくて飲んじゃったんだけど!!
「ん……ぅん……っ」
や、ヤバイ……意識が……。
つかなんか、背筋がゾクゾクする……っ。
「……ふう……飲んだか」
「ぷは……っ」
小さくリップ音を鳴らしながらようやく顔を離した。息が苦しくて、ボフッと盛大に頭が枕に落ちる。
……なんで俺は呼吸困難なのにこいつは平気なんだ←
「な、なんで……!!」
「おまえが薬を飲まないと駄々をこねるからだろ」
「薬……?」
「しかし口移しって、意外と簡単だな」
そういやなんか……ヌルッて、ドロッてしたものが……あと何かの塊が口の中に入って――。
「……なななななッ!!?」
「お。すげえ赤いな。プラス涙目で結構そそられる。可愛い」
「アホかッ!!! この変態ッ!! ドS!! つーか男女の役が逆!!!」
なんでこいつはつねに俺の上を行くんだよ!
「ほぅ? その割にはおまえ、最後辺りすごい気持ちよさそうだったぞ? 翼はビクビク震えて俺の背中にぎゅってしがみついて……」
「あーあーあー!! 聞こえない聞こえない聞こえないーーー!!!」
とんでもないこと言い出したアユミの言葉を大声で掻き消した。
なんでサラって言い出すんだ、こいつは!!
「まあいいや。おまえは薬飲んだし俺も満足したし」
「満足するなーーーッ!!!」
とんでもないドSの笑みを浮かべるアユミに、俺は大声で叫び返した。
もちろん、後日うるさいという苦情が出て来た。
そしてその日以来。俺はどんな苦い薬も我慢して飲むようになった。
ショック療法
――――
(薬は……なんだ、飲んだのか。チッ)
(目の前であからさまな舌打ちすんなッ!!)