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二人の夏祭り

 フリージアVer.

「フリージア!」

「……! アユミさん?」

 フリージアだった。どうやら単独行動中らしい。なんか珍しい。

「一人で見てたのか?」

「え、ええ。まあ……そんなところです」

 俺の質問に答えるフリージア。
 ……けど気のせいかな? なんか歯切れ悪い気が……。

「……あ。もしかしてま「はぐれただけです」そ、そうか」

 ……即答された。
 これはこれでやりづらいな……。

「まあ、な。人が多いからはぐれてもおかしくないし」

「ええ……情けない話ですが」

 言ってフリージアは眼鏡を上げる。
 ……まあ深くは追求しない。したら説教タイムを喰らうに決まってる。

「えーっと……ここで会ったのも何かの縁だし? せっかくだから回ろうぜ」

「しかし……」

「俺はここらへん慣れてるし、それにもしかしたら途中で会うかも知れないだろ?」

「……わかりました」

 土地勘ある俺といた方が良いとわかったらしい。
 頭の良い奴で助かったよ。

 ――――

「はいっ、もっ匹ゲット!」

「32匹目ですね」

 フリージアの的確なツッコミを聞きながら、着々と屋台を制覇していく。
 今は二人で金魚掬いをしていた。

「しかしアユミさんは器用ですね……。こんな薄い紙で、金魚を掬えるとは」

「いや、これにはコツがあってな。慣れれば掬えるもんなんだよ」

 フリージアが網を見ながら感心していた。
 タカチホ独特の遊びである金魚掬いは、プリシアナ出身のフリージアに興味を持たせたみたいだ。

「よし、掬えるものは掬ったし楽しかった。おっさん、あんがと」

「あらら? もう行っちゃうの? おっさん、残念」

「こんだけやりゃ、上等上等」

 胡散臭いような風貌のおっさんに金を渡しながら、俺は金魚たちを返した。
 いや、さすがに寮内で飼うのもアレだしな。

「サンキュ、おっさん」

「いいえー、こっちこそ宣伝みたくなって助かっちゃったわ。またねー、男前な少年」

「少年……? あの、こちらは――」

「行くぞ、フリージア」

「え? あの、ちょっ……」

 何か言い足そうだが、時間も限られているので無視。
 フリージアの腕を引っ張り、次の屋台へ向かうのだった。

 ――――

「よし! 制覇!」

 あの後、全屋台を巡り、完全制覇を果たした。
 今は広場の角に座り込み、食べ物にかじりついてる。

「本当に制覇しましたね……胃の方は無事なんですか?」

「当然だ。夏祭りの女帝に不可能はない」

「なんですか、女帝って……」

 フリージアからツッコミがくるが、もぐもぐと食べ物に食いつきながら至福に浸る。

「……時にアユミさん」

「ん?」

「なぜ訂正しないんですか?」

「は?」

「あなたは男性ではなく女性、ということです」

 ああ、そのことか。

「べつによくあるこったし。否定して時間費やすのも惜しいし。何よりべつに気にしないしな」

 俺にとっては些細な問題なんだよ。
 そう思いながら再びタコ焼きを食いはじめた。

「…………」

 フリージアがため息をつくのが横から聞こえた。
 同時にがさがさと何かを取り出す音が。

「アユミさん」

「なん……」

 だ、と言おうとした瞬間、

 ぐいっ。

「え……」

 いきなり肩を引っ張られた。
 さらにフリージアの指が左耳に触れる。

「え、な……?」

「動かないでください。すぐ終わりますから」

「え、ちょっ……!」

 俺の髪が耳の後ろに掛かり、フリージアが左耳に触れる。

「……っ」

 くすぐったくて仕方がない。
 というかフリージアの顔がすぐ横にあるので、正直心拍数が上がりまくりだ。

「ま、まだか……?」

「もう少しです」

 早くしろよ……っ!
 心臓バクバクで死にそうなんだけど!

「……できました」

「あ、ああ……?」

 言われ、ようやく解放された。
 ……と、耳に何かが着けられていた。

「これは……」

「イヤリング、ですよ。そこの露店で売っていたので」

 鏡で見てみると、俺の耳に小さなイヤリングが着けられていた。

「え? なんで……」

「……ただのお礼ですよ。それが一番あなたに似合いそうだと思ったので」

「そう、か?」

 まあ、デザインは嫌いじゃない。逆に気に入った。

「えっと……ありがと、フリージア」

「れ、礼を言われるようなことでもないですから」

 あ。フリージア照れてる。顔が赤いし。
 なんだか珍しいので小さく笑って見せれば、耳まで赤くなっていった。

 小さなイヤリング

(これはただのお礼です。ただの……)
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