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スイートデビル

「……は? バレンタイン?」

「そうですよ! 女の子一大イベントです!」

 久しぶりにタカチホからアイナが来たと思ったら、一直線にそう言ってきた。

「あー……だからチョコレートの匂いが女子寮のそこかしこからするのか」

「感心している場合じゃないよ、お姉ちゃん! 早くチョコ作らなきゃ! 明日なんだよ!?」

「……なんで俺も?」

 バレンタインの意味は知っている。だが俺まで参加しろという意味がわからない。
 女の子だからってべつに強制参加ではないはずだ。

「えっと……ブロッサム君にもシルフィー君にもお世話になっているんでしょ? なら作ってあげなきゃ!」

「まあ……一理あるけど」

 正論だが……ぶっちゃけ面倒だ。
 だってさ、世話になっているのは戦闘だけだし←

「お姉ちゃんからのチョコもらったら、二人ともすっごく喜ぶよ! だからさ、ね?」

「……喜ぶ……」

 言って、脳裏にアイツらを思い浮かべる。
 子犬のような感じで喜ぶシルフィー。
 真っ赤な顔で百点満点のツンデレ披露するブロッサム。

「…………。わかった、作ろう」

「ホント!?」

「ああ」

「よかったあ!」とうれしそうな表情をするアイナ。
 それを他所に、自分の口角が上がって行くのがわかった。

(どんな反応するかな、ブロッサム……ふふふふふ……っ♪)

 むくりと沸き上がる、ドS心と同時にな。

 ――――

 ブロッサムSide

「……うう……」

 夜のテラスで寒さに耐えながら、俺は渡された手紙を見る。

『よぉ、ブロッサム。今日の0時、寮のテラスで待ってろ。じゃなきゃ寝込みを襲うからな』

「…………」

 この女らしからぬ手紙の内容。
 何が待ってるかわからないので不安だが、寝込みを襲われるのも(アイツならやりかねねぇ……)嫌だ。

 なのでとりあえず待つことにしていた。

「はあ……」

「ため息をつくと幸せが逃げるぞ?」

「うぉうッ!?」

 いきなり後ろから声が!?
 慌てて振り返れば、そこには俺にはた迷惑な手紙を送ったヒューマンの女が。

「アユミ……どうやってここに……?」

「いや、大脱出を使って」

「奇術を使ったのか!?」

 つか、いつの間にトリックスター学科を修了させたんだ……?

「……まあいいや。とりあえず、何の用だ?」

「ああ……とりあえず、中に入れてくれ」

「わかった」と言いながら、俺はこいつを中に入れた。
 寒いのも事実だしな。

「……で、何の用だ?」

「おまえに渡す物があってな……それっ」

 なっ!? こいつ、何か投げやがった!?
 まあ、ギリギリでキャッチできたけどよ!

「……なんだ。これ」

 渡されたのは、小さめの缶。

「開ければわかる」

「…………」

 言われ、「開けないと襲うぞ」という肉食恐竜みたいな瞳を向けられた。
 ……恐る恐る俺は缶を開ける。

「……! これ、って……」

「ああ。ホワイトチョコのトリュフ」

 入っていたのは、小さめの丸いホワイトチョコ。
 18個くらいか……? シンプルながら、それが一層美味しそうに見える。

「さて、ブロッサム?」

「あ、ああ……」

「白くて甘いバレンタインチョコ。……受け取るよな」

「……!」

 バレンタイン……。
 そうだ。0時を過ぎた今、“今日”はバレンタインデーだ。
 まさか……この時間帯の指命は、これの為?

「あ、ああ……」

「ふふっ♪ それはよかった。……さて」

 言ってアユミはハンカチを取り出した。そして中央のチョコを摘み、ハンカチの中に入れやがった。

「……はいっ」

 そして広げると、チョコは綺麗さっぱり無くなった。

「俺が作ったチョコはどこでしょうか」

「なんでだ!?」

「物体消失」

「また奇術かよ……」

 何がやりたいんだ、この女……。

「わかんねぇよ……」

「ホントか?」

「嘘言わねぇよ!」

「ほぉ……」

 言ってアユミは口角を上げ、ニヤリと笑いながら俺に詰め寄ってきた。
 ……あの、嫌な予感がするんだが。

「正解は――」

 言われ、腕を引っ張られ――。

「んっ……!?」

 ……え? あれ……なんか、口に違和感が――。
 ……って待てこれ……き、き、き……!!?

「ん……ふぅ……っ」

 ちょ、待て! ななな、なんで……いきなりこんな!?
 しかもすごく……ってかめちゃくちゃうまい……っ。

「ん……!?」

 あれ……なんか、甘ったるいのが入ってき……。

「……はい、ごちそうさま」

「ん……ぷは……っ」

 何かを入れられるとすぐに離れた。
 甘い丸い塊……まさか。

「……チョコ、レートか?」

「その通り。……いやあ、予想通り良い反応するじゃないか。たまには参加するのも悪くない」

 言ってこいつはニヤニヤと笑いながら、座り込んでいる俺を見ている。

(まさか……これが目的か!?)

 ……そもそも考えてみたら、この女はバレンタインなぞに参加するような奴じゃないことを知っている。
 やる時は、それはなんか企んでいる時だけだ。

「いやあ、良いもん見れたな。……目的の物も渡したし見れたし、俺はこれで帰るぜ」

「は!? ちょ、待っ……!」

「じゃーなー」

 言ってあいつはどこからかカーテンを被り、俺がそれを取った時には姿を消していた。
 また大脱出を使ったのか……?

「……あのバカ……」

 顔が熱い……真っ赤になってるのが自分でもわかる。

「……どうしよう……っ」

 恥ずかしい、と同時に嬉しい。
 少々アレだが、アユミからチョコレートをもらえたんだから。

(……嬉しすぎる……)

 眠気など一気に吹っ飛んでる。
 明日はどうしようとか、そんなもの、今の俺からは頭が吹っ飛んでいた。
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