雪原とクエストと妖精
「寒い、寒い、寒すぎるんだけど……」
「おい、俺の背中……ってか翼に体埋めるなよ!」
……現在の俺とブロッサムの状況。
……雪原に来ています←
――――
そもそも事の始まりは数分前。
「……プリシアナッツの実って何?」
「この学院のシンボルともなっている木の実なんだ」
真昼の図書室。
アユミは新しいクエストがないか、それを見に行っていたのだ。
そして偶然居合わせた同級生、並びにフリージアの主、セルシア=ウィンターコスモスからクエストの誘いを受けたのだった。
「今回の試験はリコリス先生からだ。ちょうど僕たちも受けようと思っていてね」
「ああ、あのぬいぐるみ先生か。うん」
人形遣い学科とアイドル学科の教師でもあるクラッズ、リコリスを思い出すと、納得したかのように指を鳴らす。
「最近基礎、訓練、食事、睡眠だけだったからなー。……受けてみようかな」
「受けるのでしたら、職員室にいるリコリス先生から話を聞きに来てほしいとのことです」
「う……そ、そうか」
フリージアの説明に固まるアユミ。
正直職員室には寄りたくないのが本音だが、そうも言う訳にはいかないのでぎこちなくも頷いて見せる。
「アユミ君もクエスト受けるなら、一緒にリコリス先生のところに行かないか?」
「おお、行く行く。……あ。その前に、ブロッサム呼ばねぇと」
パーティを組んだセレスティア、ブロッサムのことを思い出すと「先に行っててくれや」とセルシアたちに言い残し、悠々と図書室を出ていった。
「…………え? ブロッサム?」
後ろの、一瞬ほうけたセルシアに気づかず。
――――
「痛ててて……おまえ、人の背中、あんな思いっきり叩くなよ……ついでに拉致るな」
「いやぁ、急ぎなものでつい……」
背中を押さえるブロッサムに空笑いするアユミ。
ブロッサムは廊下を歩いているところをアユミに見つかり、背中を思いっきり叩かれ(アユミは軽く、と言うが)、そのまま職員室へともに連行されるのだった。
「しかも俺のいない間に勝手にクエスト受注して……」
「いやー、探し物? ってか採取的な? クエストだし……」
「はぁ……おまえの頭の中、意味わかんねぇ……」
頭を軽く押さえるブロッサム。
この転入生と組んだのはいいものの、まだ彼女の思考回路は理解不能だった。
というか、今まであまり人と関わり合うこともなかったので、戸惑っているのが正しい。
「そう言うなよ。今回はセルシアたちと一緒だし……」
「……え……セルシア……?」
職員室前に来た直後、アユミの発言にブロッサムは一瞬固まってしまう。
「ああ、一緒に受けるんだって。もう着いているんじゃねぇか?」
「マジ、か……?」
アユミは気づいてないが、ブロッサムの顔が徐々に強張ってきている。
というか青くなっていた。
「マジ。……着いたし、んじゃ、行くか」
「え!? あ、いや! ちょ、待っ……!?」
慌ててブロッサムは制止をかけようとしたが間に合わず、アユミは職員室の扉を開いた。
「ああ、アユミ君。……それと」
中に入り、最初に声をかけてくれたのはセルシアだ。隣にはフリージア。その隣にはガタイの良いバハムーンの青年がいる。奥にいるのがリコリスだ。
セルシアはアユミを一瞥すると、後ろにいるブロッサムに視線を向ける。
「久しぶりだね、ブロッサム」
「セ、ルシア……」
セルシアはにこにことあくまで人の良い笑顔を浮かべている。
反対にブロッサムは職員室に入らず、何を恐れているのか、ものすごく顔を青くしている。
「……ブロッサム? え? セルシアと何かある?」
「え、あ、いや……」
「ああ、転入生は知らなかったっけな」
「そうですよ、バロータ君。来て、まだ数週間くらいですから」
口ごもるブロッサムの変わりに答えたのは、バロータと呼ばれたバハムーンの青年だった。
バロータはブロッサムを職員室へ無理矢理引っ張り込むと、アユミに悪戯を思いついたような顔を向ける。
「おまえのお仲間のブロッサム。こいつ、セルシアの従兄弟なんだよ」
「………………。え? マジで?」
唖然とするアユミ。
それはそうだ。まさか隣の席のセレスティアが、目の前にいる学院の生徒会長の従兄弟だなんで、接点がセレスティア以外見つからない。
「無理もありません。成績、人望ともにセルシア様の方が圧倒的に上ですから」
グサッ。
フリージアの容赦のない言葉。
それが見えない矢となってブロッサムに突き刺さったのが見えた。
「フリージア……いくらなんでも言い過ぎじゃ……」
「……つーかおまえ。容赦ねぇな……」
「事実ですから」
セルシアとバロータのつぶやきに淡々と、それも即答で答えたフリージア。
あまりにも無慈悲な言葉に、ブロッサムの(精神的な)ライフが激減していくのだった。
「……何となく避けてた理由がわかったよ、うん」
「……気づくの遅ぇよ。うう……」
事実とわかっているだけに相当ショックらしい。彼は壁に頭を預けてうなだれていた。
アユミは肩にポン、と手を置くしかなかった。
「あー……コホン。皆さん? そろそろクエストの内容を説明してもいいですかー?」
ここでタイミングを見計らったリコリスが会話をすり替えてきた。
アユミ、セルシアたち、うなだれていたブロッサムもリコリスの方へ向く。
「今回のクエストはこれになります。プリシアナッツの実はこの学院のシンボルとなっている果実です」
「へぇ……」
『プリシアナッツの実を持ってくること』と書かれたプリントを見ながら、アユミはセルシアから聞いた話と色々符合する。
「この学院の創立となんか関係があったと思うんですけど……それは忘れちゃいました。てへへ」
「……それでいいのかよ」
「いいんです! ――では!」
「健闘を祈ります!」と意気込むリコリスに、アユミはそれ以上つっこむ気もなかった。
「おい、俺の背中……ってか翼に体埋めるなよ!」
……現在の俺とブロッサムの状況。
……雪原に来ています←
――――
そもそも事の始まりは数分前。
「……プリシアナッツの実って何?」
「この学院のシンボルともなっている木の実なんだ」
真昼の図書室。
アユミは新しいクエストがないか、それを見に行っていたのだ。
そして偶然居合わせた同級生、並びにフリージアの主、セルシア=ウィンターコスモスからクエストの誘いを受けたのだった。
「今回の試験はリコリス先生からだ。ちょうど僕たちも受けようと思っていてね」
「ああ、あのぬいぐるみ先生か。うん」
人形遣い学科とアイドル学科の教師でもあるクラッズ、リコリスを思い出すと、納得したかのように指を鳴らす。
「最近基礎、訓練、食事、睡眠だけだったからなー。……受けてみようかな」
「受けるのでしたら、職員室にいるリコリス先生から話を聞きに来てほしいとのことです」
「う……そ、そうか」
フリージアの説明に固まるアユミ。
正直職員室には寄りたくないのが本音だが、そうも言う訳にはいかないのでぎこちなくも頷いて見せる。
「アユミ君もクエスト受けるなら、一緒にリコリス先生のところに行かないか?」
「おお、行く行く。……あ。その前に、ブロッサム呼ばねぇと」
パーティを組んだセレスティア、ブロッサムのことを思い出すと「先に行っててくれや」とセルシアたちに言い残し、悠々と図書室を出ていった。
「…………え? ブロッサム?」
後ろの、一瞬ほうけたセルシアに気づかず。
――――
「痛ててて……おまえ、人の背中、あんな思いっきり叩くなよ……ついでに拉致るな」
「いやぁ、急ぎなものでつい……」
背中を押さえるブロッサムに空笑いするアユミ。
ブロッサムは廊下を歩いているところをアユミに見つかり、背中を思いっきり叩かれ(アユミは軽く、と言うが)、そのまま職員室へともに連行されるのだった。
「しかも俺のいない間に勝手にクエスト受注して……」
「いやー、探し物? ってか採取的な? クエストだし……」
「はぁ……おまえの頭の中、意味わかんねぇ……」
頭を軽く押さえるブロッサム。
この転入生と組んだのはいいものの、まだ彼女の思考回路は理解不能だった。
というか、今まであまり人と関わり合うこともなかったので、戸惑っているのが正しい。
「そう言うなよ。今回はセルシアたちと一緒だし……」
「……え……セルシア……?」
職員室前に来た直後、アユミの発言にブロッサムは一瞬固まってしまう。
「ああ、一緒に受けるんだって。もう着いているんじゃねぇか?」
「マジ、か……?」
アユミは気づいてないが、ブロッサムの顔が徐々に強張ってきている。
というか青くなっていた。
「マジ。……着いたし、んじゃ、行くか」
「え!? あ、いや! ちょ、待っ……!?」
慌ててブロッサムは制止をかけようとしたが間に合わず、アユミは職員室の扉を開いた。
「ああ、アユミ君。……それと」
中に入り、最初に声をかけてくれたのはセルシアだ。隣にはフリージア。その隣にはガタイの良いバハムーンの青年がいる。奥にいるのがリコリスだ。
セルシアはアユミを一瞥すると、後ろにいるブロッサムに視線を向ける。
「久しぶりだね、ブロッサム」
「セ、ルシア……」
セルシアはにこにことあくまで人の良い笑顔を浮かべている。
反対にブロッサムは職員室に入らず、何を恐れているのか、ものすごく顔を青くしている。
「……ブロッサム? え? セルシアと何かある?」
「え、あ、いや……」
「ああ、転入生は知らなかったっけな」
「そうですよ、バロータ君。来て、まだ数週間くらいですから」
口ごもるブロッサムの変わりに答えたのは、バロータと呼ばれたバハムーンの青年だった。
バロータはブロッサムを職員室へ無理矢理引っ張り込むと、アユミに悪戯を思いついたような顔を向ける。
「おまえのお仲間のブロッサム。こいつ、セルシアの従兄弟なんだよ」
「………………。え? マジで?」
唖然とするアユミ。
それはそうだ。まさか隣の席のセレスティアが、目の前にいる学院の生徒会長の従兄弟だなんで、接点がセレスティア以外見つからない。
「無理もありません。成績、人望ともにセルシア様の方が圧倒的に上ですから」
グサッ。
フリージアの容赦のない言葉。
それが見えない矢となってブロッサムに突き刺さったのが見えた。
「フリージア……いくらなんでも言い過ぎじゃ……」
「……つーかおまえ。容赦ねぇな……」
「事実ですから」
セルシアとバロータのつぶやきに淡々と、それも即答で答えたフリージア。
あまりにも無慈悲な言葉に、ブロッサムの(精神的な)ライフが激減していくのだった。
「……何となく避けてた理由がわかったよ、うん」
「……気づくの遅ぇよ。うう……」
事実とわかっているだけに相当ショックらしい。彼は壁に頭を預けてうなだれていた。
アユミは肩にポン、と手を置くしかなかった。
「あー……コホン。皆さん? そろそろクエストの内容を説明してもいいですかー?」
ここでタイミングを見計らったリコリスが会話をすり替えてきた。
アユミ、セルシアたち、うなだれていたブロッサムもリコリスの方へ向く。
「今回のクエストはこれになります。プリシアナッツの実はこの学院のシンボルとなっている果実です」
「へぇ……」
『プリシアナッツの実を持ってくること』と書かれたプリントを見ながら、アユミはセルシアから聞いた話と色々符合する。
「この学院の創立となんか関係があったと思うんですけど……それは忘れちゃいました。てへへ」
「……それでいいのかよ」
「いいんです! ――では!」
「健闘を祈ります!」と意気込むリコリスに、アユミはそれ以上つっこむ気もなかった。