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灼熱の戦闘

「……熱い」

「熱い~……」

「熱い……ダウン確定?」

 洞窟を前にして、俺を除く三人の発言。
 次の目的地……『礼節を灼く洞窟』を前にしていた。

「炎熱櫓並の暑さ……いや、洞窟な分、それ以上だな。四六時中サウナに入ってるようなもんだ」

「そうか……って、おまえは平気なのか?」

「ああ。砂漠と同じと思えばな」

「マジか……」

 驚くと動じに再度げんなりするブロッサム。
 タカチホの熱気はすごいからな。日焼けによる火傷がない分、こっちがまだマシかもしれない。

「まあ慣れるしかないな。……それより、アイツらはどこに……」

 先に先行している連中がいるはずなんだが……。
 洞窟の中に入り、キョロキョロと辺りを見回す。

「えーっと……」

「よぉ! 思ったより早かったな、アユミ!」

 どこだ。と捜していると脇道から声。
 そっちに顔を向ければ、バロータがシャーベットを片手に立っていた。

「見ろよ。ひどい暑さの洞窟だ。……と、食うか?」

「見りゃわかるっつの。何やってんだ、おまえら。あ、俺はいいからアイツらに頼む」

 暑さで息が上がってきた三人を指さす。
 俺? 俺は平気だ。まだ余裕あるし←

「俺たちはここに前線キャンプを作って、仲間が消耗した時に備えてるってわけさ」

「なるほどな」

 たしかに……さっきの荒野より気温がヤバイしな。
 苦手奴はまず無理だろ。

「冷たいお飲み物も用意しておきました」

「冷たいヒヤヤッコもあるの!」

「お。気が利いてるな。俺、冷奴いただくわ」

 トウフッコから冷奴をいただき、それを一口。
 トウフッコの豆腐は美味いからな。

「……ん。最高だな」

「ありがとうなの!」

「姫様のように炎の洞窟ではしゃぎ過ぎてダウン……とならないよう、お気をつけくださいね」

「忠告どうも。……で、肝心の姫様はどこに?」

 クラティウスに頷きつつ、肝心のキルシュの姿を捜す。

「うにゅ~……」

「飲み過ぎは良くないの!」

 いた。クラティウスからのジュースをいっぱい飲んでるし。
 それをトウフッコが諭してる。

「ったく……なあ、ここはどんな感じなんだ?」

「ん? 荒野と一緒だよ。洞窟の中は手強いモンスターでいっぱいみたいだ」

「さすが闇の世界……と言ったところかな」

 まあ予想はできてたが……やはり、か。
 魔貴族が来てる影響もあるし、活発なんだろうな。

「入口を塞がれたりしないように、俺たちが交代でしっかりここを守るから、封印の攻略はよろしく頼むぜ!」

「ほう? つまり、他人任せにする、ということか?」

「い、嫌なこと言うなよ……」

「冗談だよ」

 途端に青い顔になったバロータに、つい小さく笑ってしまう。
 これはこれで面白いんだよな。というか、俺、基本ボケだから、ツッコミタイプをからかうのが楽しいんだよ←

「ま。やれるだけやるか。はい、そこ! そろそろ行くぞ!」

 パンパンッ! と手を叩き、シャーベットを一心不乱に食べつづける三人に声をかけた。

「え……もう行くのか?」

「アユミちゃ~ん……まだもう少し……」

「アイス……食べ足りない?」

 甘い物大好きなお子様味覚の三人は不満げに俺を見る。
 おまえら……どんだけ食べる気だよ。

「……嫌ならいいぞ。食べ過ぎて虫歯になって、歯医者にも行けずズキズキとする痛みに耐えられるというなら」

「「「行きます」」」

「ならばよし。ほら、さっさと行くぞ」

 俺の説得(という名の脅し)にすぐに心を入れ換え、三人はすぐに立ち上がった。
 いやはや……やはり、恐喝というのは便利なものだな←

(鬼だろ、こいつ……)

 後ろからバロータの、何か言いたげな視線を感じる。
 もちろん俺はそれをガン無視し、三人を引き連れて奥へ進むのだった。

 ――――

 奥に進むにつれてわかったこと。
 ここは炎熱櫓・闇の世界バージョンのようで、所々に炎の噴出口があった。
 ついでにターンエリアとワープもあり、イライラが増長されるという、ムカつくダンジョンでもある。

「くそっ。ここも通れねぇのかよ!」

「炎の壁みたいなものだし~。無理に通ったら真っ黒焦げだよ~」

「真っ黒焦げ……もれなくウェルダン?」

「リバイブルでも治んねーぞ。それ……」

 目の前に次のエリアへのゲートが見えるのに、通れないどころかダメージも受けるという腹立たしさ。
 このダンジョンを作った創造主、出てこいコラァ←

「カボォアアアッ!!!」

「うるさいわ、ボケェェェッ!!!」

 襲ってきたカボチャの精霊(ジャック・フレア)をつばめ返しで返り討ちにする。
 無駄にモンスターが多いな! どこも一緒だけど!←

「あーーーーっ!!! イライラするぅぅぅ!!!」

 抑えられぬ内なる(怒りの)焔に、半壊しかねないばかりの大声で叫び声を上げるしかなかった。

 ――――

 腹立たしい炎の壁を抜け、なんとか次のエリアへやってきた。
 制服の所々に焦げた後ができたけどな←

「はあ……新調しないとな」

「ここを攻略したらな」

 俺と同じく焦げを作ったブロッサムが即答する。
 周りは熱いのに、言葉は冷たいなあ……。

「あー! アユミ!」

「ん? ……おお。ネコマたち」

 その時、洞窟の壁を調べるネコマパーティに気づいた。
 ネコマたちは一時中断し、バタバタとこっちに駆け寄ってくる。

「ちょうどよかった! 見て見てン、このガレキの山!」

「ああ? ガレキだァ?」

 何故か興奮気味に話し出すネコマ。
 指差す先を見ると、そこは洞窟の一部が崩壊して、岩石の山となっていた。

「うわっ!? なんだこれは!」

「これ……この洞窟を構成してる壁や天井の岩石じゃないかな~? ほら、周りの岩と一緒だし」

 驚くブロッサムと反対に、シルフィーは岩石を見ただけで当てやがった。
 なんとまあ……すごい観察力だこと。

「壁や天井……。かなりしっかりした洞窟に見えたけど、落盤かしら……?」

「……とは思えないが……どうなんだ。ヌッペ」

 この洞窟に固いからそうは思えない。とは言え、専門の学者でもないので言いきれない。
 なのでここは専門家に聞いてみることにした。

「ら、落盤するような地質とは思えないんだな。きっと何か、他の力が働いたんだな」

「他の力……」

 専門家ヌッペの言葉に岩石を見つめる。
 俺が見ても頑丈そうだな、と思えるほど硬そうな岩。
 これが落盤のような自然現象ではないなら……。

「み、見てください、コレ!」

 その時、今度はノッペが慌てながら大声を出した。
 その大声に、今度はノッペの近くへ群がり出す。

「……げっ!?」

「うぞっ……」

「……おお?」

「……やはりか」

 それを見た俺らの反応。まあ俺はある程度予想通りだったため、さほどでもないけど。

「す、す――すごい大きさの手なんだな!」

 ノッペが見つけたのは……岩に刻まれた、巨大な拳の跡だった。

「にゃ、にゃ……! それじゃまさか、コレって落盤じゃなくて、誰かがパンチで洞窟を掘った跡!?」

「ガレキの山の中にも……ほら……所々、ゲンコツの跡が残ってる岩がありますよ……」

「これが自然現象でできたものじゃないなら、そう考えるしかないだろうな」

 落盤でないなら、人為的なものでできたはずだ。
 ……もっとも、俺もまさかこんな脳筋的な方法でできたとは思わなかったけど。

「ぞぞ~っ……。とんでもない馬鹿力が、ここを通ったってことじゃない……」

「ま、魔貴族かもしれないんだな……」

「くわばらくわばら……!」

 ネコマたちが固まって一カ所に集まる。
 ……と思いきや、何故か俺らの前に道を開けた。

「……何してんだ、テメェら」

「い、いや~……アタシたちは、まだちょっと調べたいところがあるからン……」

「こ、ここは皆さん! お先に、お先にどうぞ~!」

 と言い、そそくさとこのエリアから立ち去った。

「……逃げたな」

「逃げたね~」

「逃げた……戦う気、無し?」

「あ~い~つ~ら~……!」

 やる気出せよ! タカチホ義塾は腑抜けな学校か? って思われるだろうが!!

「……もういい。あいつらに任せて事故ったら意味がない」

 どうせ最終的には俺らがやるに決まってるんだ。
 期待しない方が、まだ精神的に楽だな……。

「あー……行くか?」

「ん。行く」

 俺の心情を察したか、ブロッサムが奥を指さす。
 どれだけ道があるかわからないしな……。時間を掛ける気はない。
 ブロッサムにコクンと頷きながら、再び歩を進めていった。

 ――――

 モンスターを薙ぎ倒し、非常に面倒な仕掛けを解きながら、何とか最深部にたどり着いた。
 ……ここのダンジョン、なんて面倒なんだ←

「そろそろ封印があってもよさそうだが……」

 汗を拭いながら、キョロキョロと辺りを見回す。

「グオオオオオ!!!」

「わ……っ!!?」

 その時だった。
 洞窟中に響くのではというくらいの咆哮が響いたのは。
 あまりの音量に、ブロッサムが耳を塞ぐ。

「今の声~……!」

「可能性アリか……ブロッサム、大丈夫か?」

「な、なんとか……」

 涙目になりながら耳から両手を離す。
 アイドルとして耳が良いブロッサムにはキツかったか。

「なんや、なんや!?」

「こっちか!? 出たな、魔貴族!! ……ってカータロとアユミたちかよ!」

 咆哮を聞き、カータロやジーク、仲間たちが次々と駆けつけてきた。

「なあ。魔貴族はどこにおるんや?」

「さあ……」

 辺りを警戒しながら、刀を握りしめる。
 咆哮の大きさから、多分近くのはず……。

「おう……ヌシらがアガシオンの言うとった、地上の後輩どもか!」

 最深部の部屋から、野太い声が響いてきた。
 それに真っ先に反応したライラが駆け出し、つられて俺らも追いかける。

「……!」

「う……っ!」

 追いかけ、封印の前でライラと、それに対峙する魔貴族。

「おまえが……魔貴族か」

「いかにも! ワシぁ、魔男爵ゴフォメドー! 始原の学園の番長じゃ!」

 顔の半分以上を覆う白い髪から、ギロッと片目をこちらに向ける。
 学ランを纏う身体は巨体で筋肉質。……バハムーンより何倍もデカイ。
 頭にある二本の角と口から覗く鋭い牙から、まるでタカチホのモノノケ、“鬼”を連想させる。

「で、でけえっ!」

「近距離パワー型って感じね……!」

 ジークとベルタも、奴の巨体に後ずさる。
 確かに、こんなのに殴られたら、一発で死にそうだよなあ……。

「魔貴族……滅ぼす……!」

「まあ、ちょっと待っとれい、娘っこ……。今、アガシオンの頼み通り、アゴラモート様の封印を解くからのう」

 獣のように目を鋭くさせるライラにそう言うと、ゴフォメドーは黒い鐘を握り、俺らから封印へと向く。

 ガァン! ガァン!!

 ……で、それを封印に叩きつけはじめた。完全に力業だな。

「なんて乱暴なやっちゃ!」

「ミナカタ先生も顔負けの脳筋だわ……」

 ゴフォメドーの行動に、カータロとロクロも呆れ顔になる。
 まあ……確かに、力は凄まじいが、頭がアホじゃなあ……。

「待ちな、ゴフォメドー! 大魔王の封印は解かせねぇ! この勇者ジークムントと……アユミたちが相手だ!」

 ジークは一歩前に出ると、ゴフォメドーに指を突き刺した。

「念のため行っとくと……主に、アユミたちが相手だからな!」

「「おい」」

 が、後に言ったセリフで、かっこよさは台無しになった。
 ブロッサムと裏手ツッコミをしながら、やっぱりジークか……。と再認識する。

「ええ度胸じゃのう、ちっこい後輩どもよ。ワシぁ、キサッズドのような軟弱不良とはワケが違うぞ。見ろ! この輝く、“剛力の校章”!!」

 高笑いするゴフォメドーの前に、鋼のように輝く校章が現れた。
 やっぱり校章はあったか……。

「あれが、魔貴族を無敵にする盾……!」

「おまえらも知っとるだろうが、こいつを打ち破れるのは、同じ名前の力のみ……」

「剛力……というと」

「パワー――すなわち、力」

 俺に答えるように、ライラが呟く。
 それに「その通りじゃあ!」と豪快にゴフォメドーは頷く。

「じゃが、それを知っても意味ァない。ワシの校章を砕けるほどの力、ヌシら定命の者には決して出せんからのう!」

「チッ……」

 その言葉に舌打ちする。
 確かに魔貴族の言う通り、俺らには奴の巨体にみあう力は出せそうにない。
 どうすりゃいいかな……。
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