灼熱の戦闘
「……熱い」
「熱い~……」
「熱い……ダウン確定?」
洞窟を前にして、俺を除く三人の発言。
次の目的地……『礼節を灼く洞窟』を前にしていた。
「炎熱櫓並の暑さ……いや、洞窟な分、それ以上だな。四六時中サウナに入ってるようなもんだ」
「そうか……って、おまえは平気なのか?」
「ああ。砂漠と同じと思えばな」
「マジか……」
驚くと動じに再度げんなりするブロッサム。
タカチホの熱気はすごいからな。日焼けによる火傷がない分、こっちがまだマシかもしれない。
「まあ慣れるしかないな。……それより、アイツらはどこに……」
先に先行している連中がいるはずなんだが……。
洞窟の中に入り、キョロキョロと辺りを見回す。
「えーっと……」
「よぉ! 思ったより早かったな、アユミ!」
どこだ。と捜していると脇道から声。
そっちに顔を向ければ、バロータがシャーベットを片手に立っていた。
「見ろよ。ひどい暑さの洞窟だ。……と、食うか?」
「見りゃわかるっつの。何やってんだ、おまえら。あ、俺はいいからアイツらに頼む」
暑さで息が上がってきた三人を指さす。
俺? 俺は平気だ。まだ余裕あるし←
「俺たちはここに前線キャンプを作って、仲間が消耗した時に備えてるってわけさ」
「なるほどな」
たしかに……さっきの荒野より気温がヤバイしな。
苦手奴はまず無理だろ。
「冷たいお飲み物も用意しておきました」
「冷たいヒヤヤッコもあるの!」
「お。気が利いてるな。俺、冷奴いただくわ」
トウフッコから冷奴をいただき、それを一口。
トウフッコの豆腐は美味いからな。
「……ん。最高だな」
「ありがとうなの!」
「姫様のように炎の洞窟ではしゃぎ過ぎてダウン……とならないよう、お気をつけくださいね」
「忠告どうも。……で、肝心の姫様はどこに?」
クラティウスに頷きつつ、肝心のキルシュの姿を捜す。
「うにゅ~……」
「飲み過ぎは良くないの!」
いた。クラティウスからのジュースをいっぱい飲んでるし。
それをトウフッコが諭してる。
「ったく……なあ、ここはどんな感じなんだ?」
「ん? 荒野と一緒だよ。洞窟の中は手強いモンスターでいっぱいみたいだ」
「さすが闇の世界……と言ったところかな」
まあ予想はできてたが……やはり、か。
魔貴族が来てる影響もあるし、活発なんだろうな。
「入口を塞がれたりしないように、俺たちが交代でしっかりここを守るから、封印の攻略はよろしく頼むぜ!」
「ほう? つまり、他人任せにする、ということか?」
「い、嫌なこと言うなよ……」
「冗談だよ」
途端に青い顔になったバロータに、つい小さく笑ってしまう。
これはこれで面白いんだよな。というか、俺、基本ボケだから、ツッコミタイプをからかうのが楽しいんだよ←
「ま。やれるだけやるか。はい、そこ! そろそろ行くぞ!」
パンパンッ! と手を叩き、シャーベットを一心不乱に食べつづける三人に声をかけた。
「え……もう行くのか?」
「アユミちゃ~ん……まだもう少し……」
「アイス……食べ足りない?」
甘い物大好きなお子様味覚の三人は不満げに俺を見る。
おまえら……どんだけ食べる気だよ。
「……嫌ならいいぞ。食べ過ぎて虫歯になって、歯医者にも行けずズキズキとする痛みに耐えられるというなら」
「「「行きます」」」
「ならばよし。ほら、さっさと行くぞ」
俺の説得(という名の脅し)にすぐに心を入れ換え、三人はすぐに立ち上がった。
いやはや……やはり、恐喝というのは便利なものだな←
(鬼だろ、こいつ……)
後ろからバロータの、何か言いたげな視線を感じる。
もちろん俺はそれをガン無視し、三人を引き連れて奥へ進むのだった。
――――
奥に進むにつれてわかったこと。
ここは炎熱櫓・闇の世界バージョンのようで、所々に炎の噴出口があった。
ついでにターンエリアとワープもあり、イライラが増長されるという、ムカつくダンジョンでもある。
「くそっ。ここも通れねぇのかよ!」
「炎の壁みたいなものだし~。無理に通ったら真っ黒焦げだよ~」
「真っ黒焦げ……もれなくウェルダン?」
「リバイブルでも治んねーぞ。それ……」
目の前に次のエリアへのゲートが見えるのに、通れないどころかダメージも受けるという腹立たしさ。
このダンジョンを作った創造主、出てこいコラァ←
「カボォアアアッ!!!」
「うるさいわ、ボケェェェッ!!!」
襲ってきたカボチャの精霊(ジャック・フレア)をつばめ返しで返り討ちにする。
無駄にモンスターが多いな! どこも一緒だけど!←
「あーーーーっ!!! イライラするぅぅぅ!!!」
抑えられぬ内なる(怒りの)焔に、半壊しかねないばかりの大声で叫び声を上げるしかなかった。
――――
腹立たしい炎の壁を抜け、なんとか次のエリアへやってきた。
制服の所々に焦げた後ができたけどな←
「はあ……新調しないとな」
「ここを攻略したらな」
俺と同じく焦げを作ったブロッサムが即答する。
周りは熱いのに、言葉は冷たいなあ……。
「あー! アユミ!」
「ん? ……おお。ネコマたち」
その時、洞窟の壁を調べるネコマパーティに気づいた。
ネコマたちは一時中断し、バタバタとこっちに駆け寄ってくる。
「ちょうどよかった! 見て見てン、このガレキの山!」
「ああ? ガレキだァ?」
何故か興奮気味に話し出すネコマ。
指差す先を見ると、そこは洞窟の一部が崩壊して、岩石の山となっていた。
「うわっ!? なんだこれは!」
「これ……この洞窟を構成してる壁や天井の岩石じゃないかな~? ほら、周りの岩と一緒だし」
驚くブロッサムと反対に、シルフィーは岩石を見ただけで当てやがった。
なんとまあ……すごい観察力だこと。
「壁や天井……。かなりしっかりした洞窟に見えたけど、落盤かしら……?」
「……とは思えないが……どうなんだ。ヌッペ」
この洞窟に固いからそうは思えない。とは言え、専門の学者でもないので言いきれない。
なのでここは専門家に聞いてみることにした。
「ら、落盤するような地質とは思えないんだな。きっと何か、他の力が働いたんだな」
「他の力……」
専門家ヌッペの言葉に岩石を見つめる。
俺が見ても頑丈そうだな、と思えるほど硬そうな岩。
これが落盤のような自然現象ではないなら……。
「み、見てください、コレ!」
その時、今度はノッペが慌てながら大声を出した。
その大声に、今度はノッペの近くへ群がり出す。
「……げっ!?」
「うぞっ……」
「……おお?」
「……やはりか」
それを見た俺らの反応。まあ俺はある程度予想通りだったため、さほどでもないけど。
「す、す――すごい大きさの手なんだな!」
ノッペが見つけたのは……岩に刻まれた、巨大な拳の跡だった。
「にゃ、にゃ……! それじゃまさか、コレって落盤じゃなくて、誰かがパンチで洞窟を掘った跡!?」
「ガレキの山の中にも……ほら……所々、ゲンコツの跡が残ってる岩がありますよ……」
「これが自然現象でできたものじゃないなら、そう考えるしかないだろうな」
落盤でないなら、人為的なものでできたはずだ。
……もっとも、俺もまさかこんな脳筋的な方法でできたとは思わなかったけど。
「ぞぞ~っ……。とんでもない馬鹿力が、ここを通ったってことじゃない……」
「ま、魔貴族かもしれないんだな……」
「くわばらくわばら……!」
ネコマたちが固まって一カ所に集まる。
……と思いきや、何故か俺らの前に道を開けた。
「……何してんだ、テメェら」
「い、いや~……アタシたちは、まだちょっと調べたいところがあるからン……」
「こ、ここは皆さん! お先に、お先にどうぞ~!」
と言い、そそくさとこのエリアから立ち去った。
「……逃げたな」
「逃げたね~」
「逃げた……戦う気、無し?」
「あ~い~つ~ら~……!」
やる気出せよ! タカチホ義塾は腑抜けな学校か? って思われるだろうが!!
「……もういい。あいつらに任せて事故ったら意味がない」
どうせ最終的には俺らがやるに決まってるんだ。
期待しない方が、まだ精神的に楽だな……。
「あー……行くか?」
「ん。行く」
俺の心情を察したか、ブロッサムが奥を指さす。
どれだけ道があるかわからないしな……。時間を掛ける気はない。
ブロッサムにコクンと頷きながら、再び歩を進めていった。
――――
モンスターを薙ぎ倒し、非常に面倒な仕掛けを解きながら、何とか最深部にたどり着いた。
……ここのダンジョン、なんて面倒なんだ←
「そろそろ封印があってもよさそうだが……」
汗を拭いながら、キョロキョロと辺りを見回す。
「グオオオオオ!!!」
「わ……っ!!?」
その時だった。
洞窟中に響くのではというくらいの咆哮が響いたのは。
あまりの音量に、ブロッサムが耳を塞ぐ。
「今の声~……!」
「可能性アリか……ブロッサム、大丈夫か?」
「な、なんとか……」
涙目になりながら耳から両手を離す。
アイドルとして耳が良いブロッサムにはキツかったか。
「なんや、なんや!?」
「こっちか!? 出たな、魔貴族!! ……ってカータロとアユミたちかよ!」
咆哮を聞き、カータロやジーク、仲間たちが次々と駆けつけてきた。
「なあ。魔貴族はどこにおるんや?」
「さあ……」
辺りを警戒しながら、刀を握りしめる。
咆哮の大きさから、多分近くのはず……。
「おう……ヌシらがアガシオンの言うとった、地上の後輩どもか!」
最深部の部屋から、野太い声が響いてきた。
それに真っ先に反応したライラが駆け出し、つられて俺らも追いかける。
「……!」
「う……っ!」
追いかけ、封印の前でライラと、それに対峙する魔貴族。
「おまえが……魔貴族か」
「いかにも! ワシぁ、魔男爵ゴフォメドー! 始原の学園の番長じゃ!」
顔の半分以上を覆う白い髪から、ギロッと片目をこちらに向ける。
学ランを纏う身体は巨体で筋肉質。……バハムーンより何倍もデカイ。
頭にある二本の角と口から覗く鋭い牙から、まるでタカチホのモノノケ、“鬼”を連想させる。
「で、でけえっ!」
「近距離パワー型って感じね……!」
ジークとベルタも、奴の巨体に後ずさる。
確かに、こんなのに殴られたら、一発で死にそうだよなあ……。
「魔貴族……滅ぼす……!」
「まあ、ちょっと待っとれい、娘っこ……。今、アガシオンの頼み通り、アゴラモート様の封印を解くからのう」
獣のように目を鋭くさせるライラにそう言うと、ゴフォメドーは黒い鐘を握り、俺らから封印へと向く。
ガァン! ガァン!!
……で、それを封印に叩きつけはじめた。完全に力業だな。
「なんて乱暴なやっちゃ!」
「ミナカタ先生も顔負けの脳筋だわ……」
ゴフォメドーの行動に、カータロとロクロも呆れ顔になる。
まあ……確かに、力は凄まじいが、頭がアホじゃなあ……。
「待ちな、ゴフォメドー! 大魔王の封印は解かせねぇ! この勇者ジークムントと……アユミたちが相手だ!」
ジークは一歩前に出ると、ゴフォメドーに指を突き刺した。
「念のため行っとくと……主に、アユミたちが相手だからな!」
「「おい」」
が、後に言ったセリフで、かっこよさは台無しになった。
ブロッサムと裏手ツッコミをしながら、やっぱりジークか……。と再認識する。
「ええ度胸じゃのう、ちっこい後輩どもよ。ワシぁ、キサッズドのような軟弱不良とはワケが違うぞ。見ろ! この輝く、“剛力の校章”!!」
高笑いするゴフォメドーの前に、鋼のように輝く校章が現れた。
やっぱり校章はあったか……。
「あれが、魔貴族を無敵にする盾……!」
「おまえらも知っとるだろうが、こいつを打ち破れるのは、同じ名前の力のみ……」
「剛力……というと」
「パワー――すなわち、力」
俺に答えるように、ライラが呟く。
それに「その通りじゃあ!」と豪快にゴフォメドーは頷く。
「じゃが、それを知っても意味ァない。ワシの校章を砕けるほどの力、ヌシら定命の者には決して出せんからのう!」
「チッ……」
その言葉に舌打ちする。
確かに魔貴族の言う通り、俺らには奴の巨体にみあう力は出せそうにない。
どうすりゃいいかな……。
「熱い~……」
「熱い……ダウン確定?」
洞窟を前にして、俺を除く三人の発言。
次の目的地……『礼節を灼く洞窟』を前にしていた。
「炎熱櫓並の暑さ……いや、洞窟な分、それ以上だな。四六時中サウナに入ってるようなもんだ」
「そうか……って、おまえは平気なのか?」
「ああ。砂漠と同じと思えばな」
「マジか……」
驚くと動じに再度げんなりするブロッサム。
タカチホの熱気はすごいからな。日焼けによる火傷がない分、こっちがまだマシかもしれない。
「まあ慣れるしかないな。……それより、アイツらはどこに……」
先に先行している連中がいるはずなんだが……。
洞窟の中に入り、キョロキョロと辺りを見回す。
「えーっと……」
「よぉ! 思ったより早かったな、アユミ!」
どこだ。と捜していると脇道から声。
そっちに顔を向ければ、バロータがシャーベットを片手に立っていた。
「見ろよ。ひどい暑さの洞窟だ。……と、食うか?」
「見りゃわかるっつの。何やってんだ、おまえら。あ、俺はいいからアイツらに頼む」
暑さで息が上がってきた三人を指さす。
俺? 俺は平気だ。まだ余裕あるし←
「俺たちはここに前線キャンプを作って、仲間が消耗した時に備えてるってわけさ」
「なるほどな」
たしかに……さっきの荒野より気温がヤバイしな。
苦手奴はまず無理だろ。
「冷たいお飲み物も用意しておきました」
「冷たいヒヤヤッコもあるの!」
「お。気が利いてるな。俺、冷奴いただくわ」
トウフッコから冷奴をいただき、それを一口。
トウフッコの豆腐は美味いからな。
「……ん。最高だな」
「ありがとうなの!」
「姫様のように炎の洞窟ではしゃぎ過ぎてダウン……とならないよう、お気をつけくださいね」
「忠告どうも。……で、肝心の姫様はどこに?」
クラティウスに頷きつつ、肝心のキルシュの姿を捜す。
「うにゅ~……」
「飲み過ぎは良くないの!」
いた。クラティウスからのジュースをいっぱい飲んでるし。
それをトウフッコが諭してる。
「ったく……なあ、ここはどんな感じなんだ?」
「ん? 荒野と一緒だよ。洞窟の中は手強いモンスターでいっぱいみたいだ」
「さすが闇の世界……と言ったところかな」
まあ予想はできてたが……やはり、か。
魔貴族が来てる影響もあるし、活発なんだろうな。
「入口を塞がれたりしないように、俺たちが交代でしっかりここを守るから、封印の攻略はよろしく頼むぜ!」
「ほう? つまり、他人任せにする、ということか?」
「い、嫌なこと言うなよ……」
「冗談だよ」
途端に青い顔になったバロータに、つい小さく笑ってしまう。
これはこれで面白いんだよな。というか、俺、基本ボケだから、ツッコミタイプをからかうのが楽しいんだよ←
「ま。やれるだけやるか。はい、そこ! そろそろ行くぞ!」
パンパンッ! と手を叩き、シャーベットを一心不乱に食べつづける三人に声をかけた。
「え……もう行くのか?」
「アユミちゃ~ん……まだもう少し……」
「アイス……食べ足りない?」
甘い物大好きなお子様味覚の三人は不満げに俺を見る。
おまえら……どんだけ食べる気だよ。
「……嫌ならいいぞ。食べ過ぎて虫歯になって、歯医者にも行けずズキズキとする痛みに耐えられるというなら」
「「「行きます」」」
「ならばよし。ほら、さっさと行くぞ」
俺の説得(という名の脅し)にすぐに心を入れ換え、三人はすぐに立ち上がった。
いやはや……やはり、恐喝というのは便利なものだな←
(鬼だろ、こいつ……)
後ろからバロータの、何か言いたげな視線を感じる。
もちろん俺はそれをガン無視し、三人を引き連れて奥へ進むのだった。
――――
奥に進むにつれてわかったこと。
ここは炎熱櫓・闇の世界バージョンのようで、所々に炎の噴出口があった。
ついでにターンエリアとワープもあり、イライラが増長されるという、ムカつくダンジョンでもある。
「くそっ。ここも通れねぇのかよ!」
「炎の壁みたいなものだし~。無理に通ったら真っ黒焦げだよ~」
「真っ黒焦げ……もれなくウェルダン?」
「リバイブルでも治んねーぞ。それ……」
目の前に次のエリアへのゲートが見えるのに、通れないどころかダメージも受けるという腹立たしさ。
このダンジョンを作った創造主、出てこいコラァ←
「カボォアアアッ!!!」
「うるさいわ、ボケェェェッ!!!」
襲ってきたカボチャの精霊(ジャック・フレア)をつばめ返しで返り討ちにする。
無駄にモンスターが多いな! どこも一緒だけど!←
「あーーーーっ!!! イライラするぅぅぅ!!!」
抑えられぬ内なる(怒りの)焔に、半壊しかねないばかりの大声で叫び声を上げるしかなかった。
――――
腹立たしい炎の壁を抜け、なんとか次のエリアへやってきた。
制服の所々に焦げた後ができたけどな←
「はあ……新調しないとな」
「ここを攻略したらな」
俺と同じく焦げを作ったブロッサムが即答する。
周りは熱いのに、言葉は冷たいなあ……。
「あー! アユミ!」
「ん? ……おお。ネコマたち」
その時、洞窟の壁を調べるネコマパーティに気づいた。
ネコマたちは一時中断し、バタバタとこっちに駆け寄ってくる。
「ちょうどよかった! 見て見てン、このガレキの山!」
「ああ? ガレキだァ?」
何故か興奮気味に話し出すネコマ。
指差す先を見ると、そこは洞窟の一部が崩壊して、岩石の山となっていた。
「うわっ!? なんだこれは!」
「これ……この洞窟を構成してる壁や天井の岩石じゃないかな~? ほら、周りの岩と一緒だし」
驚くブロッサムと反対に、シルフィーは岩石を見ただけで当てやがった。
なんとまあ……すごい観察力だこと。
「壁や天井……。かなりしっかりした洞窟に見えたけど、落盤かしら……?」
「……とは思えないが……どうなんだ。ヌッペ」
この洞窟に固いからそうは思えない。とは言え、専門の学者でもないので言いきれない。
なのでここは専門家に聞いてみることにした。
「ら、落盤するような地質とは思えないんだな。きっと何か、他の力が働いたんだな」
「他の力……」
専門家ヌッペの言葉に岩石を見つめる。
俺が見ても頑丈そうだな、と思えるほど硬そうな岩。
これが落盤のような自然現象ではないなら……。
「み、見てください、コレ!」
その時、今度はノッペが慌てながら大声を出した。
その大声に、今度はノッペの近くへ群がり出す。
「……げっ!?」
「うぞっ……」
「……おお?」
「……やはりか」
それを見た俺らの反応。まあ俺はある程度予想通りだったため、さほどでもないけど。
「す、す――すごい大きさの手なんだな!」
ノッペが見つけたのは……岩に刻まれた、巨大な拳の跡だった。
「にゃ、にゃ……! それじゃまさか、コレって落盤じゃなくて、誰かがパンチで洞窟を掘った跡!?」
「ガレキの山の中にも……ほら……所々、ゲンコツの跡が残ってる岩がありますよ……」
「これが自然現象でできたものじゃないなら、そう考えるしかないだろうな」
落盤でないなら、人為的なものでできたはずだ。
……もっとも、俺もまさかこんな脳筋的な方法でできたとは思わなかったけど。
「ぞぞ~っ……。とんでもない馬鹿力が、ここを通ったってことじゃない……」
「ま、魔貴族かもしれないんだな……」
「くわばらくわばら……!」
ネコマたちが固まって一カ所に集まる。
……と思いきや、何故か俺らの前に道を開けた。
「……何してんだ、テメェら」
「い、いや~……アタシたちは、まだちょっと調べたいところがあるからン……」
「こ、ここは皆さん! お先に、お先にどうぞ~!」
と言い、そそくさとこのエリアから立ち去った。
「……逃げたな」
「逃げたね~」
「逃げた……戦う気、無し?」
「あ~い~つ~ら~……!」
やる気出せよ! タカチホ義塾は腑抜けな学校か? って思われるだろうが!!
「……もういい。あいつらに任せて事故ったら意味がない」
どうせ最終的には俺らがやるに決まってるんだ。
期待しない方が、まだ精神的に楽だな……。
「あー……行くか?」
「ん。行く」
俺の心情を察したか、ブロッサムが奥を指さす。
どれだけ道があるかわからないしな……。時間を掛ける気はない。
ブロッサムにコクンと頷きながら、再び歩を進めていった。
――――
モンスターを薙ぎ倒し、非常に面倒な仕掛けを解きながら、何とか最深部にたどり着いた。
……ここのダンジョン、なんて面倒なんだ←
「そろそろ封印があってもよさそうだが……」
汗を拭いながら、キョロキョロと辺りを見回す。
「グオオオオオ!!!」
「わ……っ!!?」
その時だった。
洞窟中に響くのではというくらいの咆哮が響いたのは。
あまりの音量に、ブロッサムが耳を塞ぐ。
「今の声~……!」
「可能性アリか……ブロッサム、大丈夫か?」
「な、なんとか……」
涙目になりながら耳から両手を離す。
アイドルとして耳が良いブロッサムにはキツかったか。
「なんや、なんや!?」
「こっちか!? 出たな、魔貴族!! ……ってカータロとアユミたちかよ!」
咆哮を聞き、カータロやジーク、仲間たちが次々と駆けつけてきた。
「なあ。魔貴族はどこにおるんや?」
「さあ……」
辺りを警戒しながら、刀を握りしめる。
咆哮の大きさから、多分近くのはず……。
「おう……ヌシらがアガシオンの言うとった、地上の後輩どもか!」
最深部の部屋から、野太い声が響いてきた。
それに真っ先に反応したライラが駆け出し、つられて俺らも追いかける。
「……!」
「う……っ!」
追いかけ、封印の前でライラと、それに対峙する魔貴族。
「おまえが……魔貴族か」
「いかにも! ワシぁ、魔男爵ゴフォメドー! 始原の学園の番長じゃ!」
顔の半分以上を覆う白い髪から、ギロッと片目をこちらに向ける。
学ランを纏う身体は巨体で筋肉質。……バハムーンより何倍もデカイ。
頭にある二本の角と口から覗く鋭い牙から、まるでタカチホのモノノケ、“鬼”を連想させる。
「で、でけえっ!」
「近距離パワー型って感じね……!」
ジークとベルタも、奴の巨体に後ずさる。
確かに、こんなのに殴られたら、一発で死にそうだよなあ……。
「魔貴族……滅ぼす……!」
「まあ、ちょっと待っとれい、娘っこ……。今、アガシオンの頼み通り、アゴラモート様の封印を解くからのう」
獣のように目を鋭くさせるライラにそう言うと、ゴフォメドーは黒い鐘を握り、俺らから封印へと向く。
ガァン! ガァン!!
……で、それを封印に叩きつけはじめた。完全に力業だな。
「なんて乱暴なやっちゃ!」
「ミナカタ先生も顔負けの脳筋だわ……」
ゴフォメドーの行動に、カータロとロクロも呆れ顔になる。
まあ……確かに、力は凄まじいが、頭がアホじゃなあ……。
「待ちな、ゴフォメドー! 大魔王の封印は解かせねぇ! この勇者ジークムントと……アユミたちが相手だ!」
ジークは一歩前に出ると、ゴフォメドーに指を突き刺した。
「念のため行っとくと……主に、アユミたちが相手だからな!」
「「おい」」
が、後に言ったセリフで、かっこよさは台無しになった。
ブロッサムと裏手ツッコミをしながら、やっぱりジークか……。と再認識する。
「ええ度胸じゃのう、ちっこい後輩どもよ。ワシぁ、キサッズドのような軟弱不良とはワケが違うぞ。見ろ! この輝く、“剛力の校章”!!」
高笑いするゴフォメドーの前に、鋼のように輝く校章が現れた。
やっぱり校章はあったか……。
「あれが、魔貴族を無敵にする盾……!」
「おまえらも知っとるだろうが、こいつを打ち破れるのは、同じ名前の力のみ……」
「剛力……というと」
「パワー――すなわち、力」
俺に答えるように、ライラが呟く。
それに「その通りじゃあ!」と豪快にゴフォメドーは頷く。
「じゃが、それを知っても意味ァない。ワシの校章を砕けるほどの力、ヌシら定命の者には決して出せんからのう!」
「チッ……」
その言葉に舌打ちする。
確かに魔貴族の言う通り、俺らには奴の巨体にみあう力は出せそうにない。
どうすりゃいいかな……。