荒野に響く歌声
――――
しばらく先に進むと、一層開けた荒野に出てきた。
それはもう、四人では探しきれないような荒野にな←
「……ここのどこか。だよな? 封印って」
「た、ぶん……」
「開け過ぎるね~……」
「開け過ぎる……逆に探しにくい?」
広がる荒野を呆然と見回す。
多分このエリアが最深部のはずだから、封印はここにあるはず。
……それでも面倒っちゃ、面倒だけど。
「どうする~?」
「どうする……飽きちゃう?」
「やばい……死ぬほどだるい。というわけでブロッサム。三人分任せた」
「ふざけんな! おまえも働け!!」
グイッ、と襟首を掴み、そのままズルズルと引きずられた。
作戦『ブロッサムに任せる』は失敗に終わり、俺らも(渋々と)探索を開始するのだった。
――――
封印の目印とやらを探して約30分。
それらしいものが見つからず、イライラが溜まってきた時だった。
「……! 何かいるぞ!」
「!?」
俺の耳に、戦いの音が耳に入ってきた。
相当激しいものなのか、金属音が止まることなく続いてる。
「ど、どこにいるの~!?」
「向こう……闇の気配、ある!」
「闇の……ってライラ!?」
「ライラ、待て!」
突発して駆け出したライラを追いかけるように俺らも走り出した。
ってかライラ、早ッ!←
「ライラ、待てって……!」
どんどん距離が引きはがされる、と思いきや、見慣れた人物たちが目に映った。
「強いっ……! 一旦下がろう!!」
「なんだアイツっ! 攻撃が全然効かないなんてっ!」
シュトレンとレオ、その後ろからロクロとブーゲンビリアだ。
何があったのか、非常に慌てている。
「ロクロ!」
「え? ……あ! アユミたち! いい所に!」
「やっぱり頼りになるぅ~!」
俺たちの登場で、四人の焦っていた表情がわずかだが明るくなった。
「新手が来たか……しかし無駄だよォ」
が、それは四人の向こう側からの声により、また表情を強張らせた。
「何なんだ、こいつは……?」
砂煙の中から、とても邪悪な魔力を纏った人物が近づいてくる。
一見人間か、と思ったけど、まがまがしい魔力に凶悪な風貌。人間にしては掛け離れていた。
「だ、誰この人~!?」
「こいつが、あの封印っぽい柱に、黒い鐘を近づけてるのを見つけたんだ!」
「それで、止めようとしたんだけど……」
四人の視線を追って、砂煙の向こう側を見る。
「あれか……」
奥にある石柱の近くに黒い鐘が浮遊している。
柱に闇のエネルギーを注いでる……?
「キミ、アガシオンの手下でしょ!? これって何の真似さ!」
「キッキッキ!」
シュトレンが怒鳴りながらたずねれば、相手は可笑しそうに笑った。
それはもう、俺らを見下した表情でな。
「私は魔公爵キサッズド……始原の学園を破壊した、魔貴族生徒の一人」
「魔貴族……!!」
「……!」
名乗り出たその名に、ブロッサムとライラが特に強く反応した。
武器を構える二人に習い、俺とシルフィーも戦闘体勢を取る。
「魔貴族って……ソフィアール先生の日記に書いてあった不良のコトね!? こ、怖いわレオっ!」
「こんなの怖くない! でも、始原の学園を壊したってどういうことだ!?」
同じく剣を構えてるレオも、三人を庇うように立ちながらキサッズドに叫ぶ。
が、「キッキッキ」と笑うだけで答える気は無いらしい。
「おい、聞いてんのかよ!」
「黙れェ!! おまえたちのように下等な後輩に、聞かせてやる義理はないねェ!」
「後輩って……」
一蹴し、鋭い爪を俺に向ける。
キサッズドの言う『後輩』という単語に、思わず首を傾げてしまった。
「始原の学園から見れば、私たちみんな、何千年もあとの後輩って意味かしらね……!」
「いかにもなァ。アガシオンとやらの手で、久々に封印を解かれた身……」
「やっぱりアイツか……」
まあ現状で、魔貴族とかを従えていても不思議じゃないか。
「……で? 俺たちを抹殺しようってか?」
「そのとォり……。おまえらのように、か弱い後輩をいたぶれるかと思うと、うれしくてたまらんよォ!」
「チッ……」
狂喜に満ちた笑みで俺らを見るキサッズド。
さすが魔貴族……鬼畜っぷりがすさまじいな。
「だが……その前に、だァ。アゴラモート様の封印が解ける所を、そこでよゥく見ておくがいいさァ!」
「何!?」
クルリと振り返ると、キサッズドは黒い鐘に魔力を込めた。
そしてその魔力は封印に注がれていく。
「その者が……アゴラモートの封印に魔力を注ぐのを……やめさせるのだ……」
「うぉ!?」
俺たちのすぐ傍に、揺らめくソフィアール先生が現れた。
なんで突然現れたりするんですかね、この人。
「あの黒い鐘は……アガシオンが始原の鐘の力を反転させた、邪悪なレプリカ……あの鐘の力を、封印に注がせてはならぬ……」
つまり、始原の鐘とは正反対ってことか。
ソフィアール先生の言葉に一人納得していると、キサッズドが顔を歪めて先生の方を睨んできた。
「ソフィアールか! こォのくたばり損ないの先公がァァァ! 地上の生徒どもを引き入れたのはおまえかァ?」
うわ、えらい嫌われようだな。
不良生徒を率先して更正させようとしてたせいか?
「だが無駄だァ……“魔曲の校章”を破らぬ限り、私は無敵だ!」
「校章……?」
またわけわからない単語が出てきた。
目を細めると、突然キサッズドの前に、まがまがしい魔力の校章が出てきた。
……魔法の一種か?
「あれだよ! あの盾みたいもので、攻撃が全部弾かれちゃうんだ!」
「ぜ、全部~!?」
「マジか……物理も魔法もダメってことか?」
「そうなの……まったく効かないのよ!」
四人の表情から、嘘では無いことがわかる。
おいおい……ここまできてコレは無いだろ!?
「キーッキッキ!!」
俺らが手も足も出ないとなるとわかってるのか、キサッズドは悠々と歩み、黒い鐘にさらなる魔力を注ぎ込んだ。
「そんな! 見てるしかないの!?」
シュトレンが悔しそうに叫んだ。
成す術無しか……!?
「――待ちなよっ!!」
「ンン~!?」
「誰だッ!!?」
諦めていた中、突然俺たちの背後に誰かが現れた。
突然の出現に、全員がその方向へ振り向く。
「おまえは……」
「あ、アマリリスちゃんっ!?」
「モーディアル学園のアイドル! アマリリス、オン・ステージ♪」
現れたのは闇の生徒会の一員、アマリリスだった。
すっかり全快してるらしいが……なんでいるんだ?
「キミっ、闇の生徒会でしょ!? なんでここに!?」
「闇の生徒会なんてもうやめた! アガシオンのじじーに利用されるのも懲り懲りだよ!」
憤慨するアマリリス。
散々手痛い目にあってようやくわかった。ってところか。
「世界を支配して究極アイドルになれないなら、大魔王なんて復活させなくていいし……それなら闇のアイドルなんてもうやめた!」
「アマリリスちゃん……!!」
「そーか。ようやくわかったか。いい子いい子ー」
「ちょ……!! 子供扱いすんなよ!」
頭を撫でてやれば、照れか否か、バシッ! と手を叩かれた。
……うん。可愛いな、子供っぽくて。
「バカバカしい……一人増えたとて、どうなるものかァ!」
一方、校章とやらが破られないと思ってるのか。
忘れられていたにも関わらず、余裕たっぷりのキサッズドがニヤニヤと笑っていた。
が、それに対し、アマリリスも勝ち誇った顔で返す。
「へっへーんだ。ボクは闇の生徒会で、アガシオンやネメシアの魔道書も読んでたから、知ってるんだぞ」
「知ってる……何を?」
「闇の世界に住む魔王や魔貴族……そいつらが盾とする校章は、無敵の防御魔法……ただし」
ニコッ、と可愛い笑みを浮かべ、そして武器でもあるマイクを構える。
「校章が冠する名前と同じ攻撃を喰らってる間は、無効化されちゃうんだ……ってね!」
「……!!!」
「魔曲の校章って言ったっけ? じゃあこれはどう? ボクの歌を聞いてみなーっ!!」
「ぬおおおォっ!?」
アマリリスの歌が荒野に広がった。
それと同時にキサッズドを守る校章にヒビが入る。
「効いてる!」
「でかした、アマリリス!」
「なるほど、そういうことね! だったら、私だってアイドル志望なんだから!」
続いて名乗り上げたのはロクロだった。
素早くアマリリスの隣に立つ。
「荒れ地も潤うタカチホの……乙女の和音、聞いてみなさ~い!」
ロクロの歌声が、アマリリスの歌に重なった。
キサッズドの校章のヒビは、ますます広がる。
「キキキキキキっ……校章の解呪方法を知ってるとはたいしたものだが……魔力がまったく足りんぞォ!」
押され気味……かと思いきや、それでもまだ、砕けない。
あと一押し足りないか……!
「ブーゲンビリア、出番だよ!」
「え、え? 私っ?」
シュトレンからの指名に、ブーゲンビリアが自分に指をさした。
「ずっとアイドル目指してるってみんなから聞いてるよ?」
「そうだよ~。兄弟ユニットの力、見せてやろうよ~」
「…………」
シュトレンとシルフィーに押され、ブーゲンビリアは必死に歌い続けるアマリリスとロクロを見つめる。
「で、でも……私が一緒に歌ったりしたら……アマリリスちゃん怒るわ……」
「ブーゲンビリア……おまえ、今はんなこたぁ、気にしてる場合じゃないと思うんだが」
「アマリリスちゃんに嫌われるのはもうイヤよ……」
ぐっ……! なんでこいつはネガティブなんだ! もうちょっと、大胆にならんかい!
「何グジグジしたこと言ってんだ! そんなんだから、アマリリスにも嫌がられるんだぞ!」
「れ、レオ……」
今度はレオにも叱咤され、ブーゲンビリアは大柄の身体をさらに縮こませた。
「アマリリスはもう闇の生徒会なんかやめたって言ってるんだし、仲直りしちゃえ!」
「そ、そんな簡単に……いくわけ……!」
だーーーっ!! もう、なんでこいつはネガティブゲイト発散中なんだよ!?
イライラのあまり、俺はぶん殴ろうと拳を固めた。
「いくよ。お兄ちゃん」
「アマリリスちゃん!」
が、それはアマリリスの声によって止められた。
思わぬ返答に、ブーゲンビリアの声に嬉しさが混じる。
「前は素直になれなかったけど……今なら言える。……ずっと迷惑かけてゴメン! ボクもお兄ちゃんと一緒に歌いたいよ!」
「アマリリスちゃん……!」
「やったあ! 仲直りだ!」
「兄弟は仲良く、だよ~!」
「……よー」
「うわわっ! ライラっ?」
レオ、シルフィーが手を取り合って跳ねて喜んだ。
で。それをライラは真似し、戸惑うシュトレンの手を取って跳ねる。
……ライラって、真似とか好きなのか?
「私、歌ってもいいのね!? アマリリスちゃんと歌えるのね!」
「許可下りたから大丈夫だろ」
だからさっさとしてくれ。一応危機なんだから。
そう思う俺とは反対に、ブーゲンビリアはウキウキしながらマイクを手に取る。
「それじゃあ……歌います。私がいつかアマリリスちゃんと歌いたかった、兄弟ユニットの新曲……」
そして、ガシッとしっかり構えた。
「『ブラザーアタックでモンキーダンス』!」
どんなタイトルだよ←
思わず心の中でツッコミを入れる俺を知らず、ブーゲンビリアは野太い、かつ耳にガンガンくる大声を発した。
「……お? こいつは……」
ブーゲンビリアの男らしい重低音が、アマリリスとロクロの歌に重なった。
意外と良い和音になり、キサッズドの校章にぶつかっていく。
「な、な、なんだ!? このパワーはァァァ!!?」
キサッズドを守る校章が完全に砕け散った。
奴は自分の予想を遥かに上回ったことに驚愕している。
「今だよ、みんな! 歌っている間しか、奴の盾は打ち消せない!」
「ボクたちで三人を守ってるから、アイツをぶっ倒しちゃえ!!」
「またか!!」
まあ予想通りの展開だけどね! なんでどいつもこいつも人任せなんだか!
そんなことを考えながら、刀の切っ先をキサッズドへ向ける。
しばらく先に進むと、一層開けた荒野に出てきた。
それはもう、四人では探しきれないような荒野にな←
「……ここのどこか。だよな? 封印って」
「た、ぶん……」
「開け過ぎるね~……」
「開け過ぎる……逆に探しにくい?」
広がる荒野を呆然と見回す。
多分このエリアが最深部のはずだから、封印はここにあるはず。
……それでも面倒っちゃ、面倒だけど。
「どうする~?」
「どうする……飽きちゃう?」
「やばい……死ぬほどだるい。というわけでブロッサム。三人分任せた」
「ふざけんな! おまえも働け!!」
グイッ、と襟首を掴み、そのままズルズルと引きずられた。
作戦『ブロッサムに任せる』は失敗に終わり、俺らも(渋々と)探索を開始するのだった。
――――
封印の目印とやらを探して約30分。
それらしいものが見つからず、イライラが溜まってきた時だった。
「……! 何かいるぞ!」
「!?」
俺の耳に、戦いの音が耳に入ってきた。
相当激しいものなのか、金属音が止まることなく続いてる。
「ど、どこにいるの~!?」
「向こう……闇の気配、ある!」
「闇の……ってライラ!?」
「ライラ、待て!」
突発して駆け出したライラを追いかけるように俺らも走り出した。
ってかライラ、早ッ!←
「ライラ、待てって……!」
どんどん距離が引きはがされる、と思いきや、見慣れた人物たちが目に映った。
「強いっ……! 一旦下がろう!!」
「なんだアイツっ! 攻撃が全然効かないなんてっ!」
シュトレンとレオ、その後ろからロクロとブーゲンビリアだ。
何があったのか、非常に慌てている。
「ロクロ!」
「え? ……あ! アユミたち! いい所に!」
「やっぱり頼りになるぅ~!」
俺たちの登場で、四人の焦っていた表情がわずかだが明るくなった。
「新手が来たか……しかし無駄だよォ」
が、それは四人の向こう側からの声により、また表情を強張らせた。
「何なんだ、こいつは……?」
砂煙の中から、とても邪悪な魔力を纏った人物が近づいてくる。
一見人間か、と思ったけど、まがまがしい魔力に凶悪な風貌。人間にしては掛け離れていた。
「だ、誰この人~!?」
「こいつが、あの封印っぽい柱に、黒い鐘を近づけてるのを見つけたんだ!」
「それで、止めようとしたんだけど……」
四人の視線を追って、砂煙の向こう側を見る。
「あれか……」
奥にある石柱の近くに黒い鐘が浮遊している。
柱に闇のエネルギーを注いでる……?
「キミ、アガシオンの手下でしょ!? これって何の真似さ!」
「キッキッキ!」
シュトレンが怒鳴りながらたずねれば、相手は可笑しそうに笑った。
それはもう、俺らを見下した表情でな。
「私は魔公爵キサッズド……始原の学園を破壊した、魔貴族生徒の一人」
「魔貴族……!!」
「……!」
名乗り出たその名に、ブロッサムとライラが特に強く反応した。
武器を構える二人に習い、俺とシルフィーも戦闘体勢を取る。
「魔貴族って……ソフィアール先生の日記に書いてあった不良のコトね!? こ、怖いわレオっ!」
「こんなの怖くない! でも、始原の学園を壊したってどういうことだ!?」
同じく剣を構えてるレオも、三人を庇うように立ちながらキサッズドに叫ぶ。
が、「キッキッキ」と笑うだけで答える気は無いらしい。
「おい、聞いてんのかよ!」
「黙れェ!! おまえたちのように下等な後輩に、聞かせてやる義理はないねェ!」
「後輩って……」
一蹴し、鋭い爪を俺に向ける。
キサッズドの言う『後輩』という単語に、思わず首を傾げてしまった。
「始原の学園から見れば、私たちみんな、何千年もあとの後輩って意味かしらね……!」
「いかにもなァ。アガシオンとやらの手で、久々に封印を解かれた身……」
「やっぱりアイツか……」
まあ現状で、魔貴族とかを従えていても不思議じゃないか。
「……で? 俺たちを抹殺しようってか?」
「そのとォり……。おまえらのように、か弱い後輩をいたぶれるかと思うと、うれしくてたまらんよォ!」
「チッ……」
狂喜に満ちた笑みで俺らを見るキサッズド。
さすが魔貴族……鬼畜っぷりがすさまじいな。
「だが……その前に、だァ。アゴラモート様の封印が解ける所を、そこでよゥく見ておくがいいさァ!」
「何!?」
クルリと振り返ると、キサッズドは黒い鐘に魔力を込めた。
そしてその魔力は封印に注がれていく。
「その者が……アゴラモートの封印に魔力を注ぐのを……やめさせるのだ……」
「うぉ!?」
俺たちのすぐ傍に、揺らめくソフィアール先生が現れた。
なんで突然現れたりするんですかね、この人。
「あの黒い鐘は……アガシオンが始原の鐘の力を反転させた、邪悪なレプリカ……あの鐘の力を、封印に注がせてはならぬ……」
つまり、始原の鐘とは正反対ってことか。
ソフィアール先生の言葉に一人納得していると、キサッズドが顔を歪めて先生の方を睨んできた。
「ソフィアールか! こォのくたばり損ないの先公がァァァ! 地上の生徒どもを引き入れたのはおまえかァ?」
うわ、えらい嫌われようだな。
不良生徒を率先して更正させようとしてたせいか?
「だが無駄だァ……“魔曲の校章”を破らぬ限り、私は無敵だ!」
「校章……?」
またわけわからない単語が出てきた。
目を細めると、突然キサッズドの前に、まがまがしい魔力の校章が出てきた。
……魔法の一種か?
「あれだよ! あの盾みたいもので、攻撃が全部弾かれちゃうんだ!」
「ぜ、全部~!?」
「マジか……物理も魔法もダメってことか?」
「そうなの……まったく効かないのよ!」
四人の表情から、嘘では無いことがわかる。
おいおい……ここまできてコレは無いだろ!?
「キーッキッキ!!」
俺らが手も足も出ないとなるとわかってるのか、キサッズドは悠々と歩み、黒い鐘にさらなる魔力を注ぎ込んだ。
「そんな! 見てるしかないの!?」
シュトレンが悔しそうに叫んだ。
成す術無しか……!?
「――待ちなよっ!!」
「ンン~!?」
「誰だッ!!?」
諦めていた中、突然俺たちの背後に誰かが現れた。
突然の出現に、全員がその方向へ振り向く。
「おまえは……」
「あ、アマリリスちゃんっ!?」
「モーディアル学園のアイドル! アマリリス、オン・ステージ♪」
現れたのは闇の生徒会の一員、アマリリスだった。
すっかり全快してるらしいが……なんでいるんだ?
「キミっ、闇の生徒会でしょ!? なんでここに!?」
「闇の生徒会なんてもうやめた! アガシオンのじじーに利用されるのも懲り懲りだよ!」
憤慨するアマリリス。
散々手痛い目にあってようやくわかった。ってところか。
「世界を支配して究極アイドルになれないなら、大魔王なんて復活させなくていいし……それなら闇のアイドルなんてもうやめた!」
「アマリリスちゃん……!!」
「そーか。ようやくわかったか。いい子いい子ー」
「ちょ……!! 子供扱いすんなよ!」
頭を撫でてやれば、照れか否か、バシッ! と手を叩かれた。
……うん。可愛いな、子供っぽくて。
「バカバカしい……一人増えたとて、どうなるものかァ!」
一方、校章とやらが破られないと思ってるのか。
忘れられていたにも関わらず、余裕たっぷりのキサッズドがニヤニヤと笑っていた。
が、それに対し、アマリリスも勝ち誇った顔で返す。
「へっへーんだ。ボクは闇の生徒会で、アガシオンやネメシアの魔道書も読んでたから、知ってるんだぞ」
「知ってる……何を?」
「闇の世界に住む魔王や魔貴族……そいつらが盾とする校章は、無敵の防御魔法……ただし」
ニコッ、と可愛い笑みを浮かべ、そして武器でもあるマイクを構える。
「校章が冠する名前と同じ攻撃を喰らってる間は、無効化されちゃうんだ……ってね!」
「……!!!」
「魔曲の校章って言ったっけ? じゃあこれはどう? ボクの歌を聞いてみなーっ!!」
「ぬおおおォっ!?」
アマリリスの歌が荒野に広がった。
それと同時にキサッズドを守る校章にヒビが入る。
「効いてる!」
「でかした、アマリリス!」
「なるほど、そういうことね! だったら、私だってアイドル志望なんだから!」
続いて名乗り上げたのはロクロだった。
素早くアマリリスの隣に立つ。
「荒れ地も潤うタカチホの……乙女の和音、聞いてみなさ~い!」
ロクロの歌声が、アマリリスの歌に重なった。
キサッズドの校章のヒビは、ますます広がる。
「キキキキキキっ……校章の解呪方法を知ってるとはたいしたものだが……魔力がまったく足りんぞォ!」
押され気味……かと思いきや、それでもまだ、砕けない。
あと一押し足りないか……!
「ブーゲンビリア、出番だよ!」
「え、え? 私っ?」
シュトレンからの指名に、ブーゲンビリアが自分に指をさした。
「ずっとアイドル目指してるってみんなから聞いてるよ?」
「そうだよ~。兄弟ユニットの力、見せてやろうよ~」
「…………」
シュトレンとシルフィーに押され、ブーゲンビリアは必死に歌い続けるアマリリスとロクロを見つめる。
「で、でも……私が一緒に歌ったりしたら……アマリリスちゃん怒るわ……」
「ブーゲンビリア……おまえ、今はんなこたぁ、気にしてる場合じゃないと思うんだが」
「アマリリスちゃんに嫌われるのはもうイヤよ……」
ぐっ……! なんでこいつはネガティブなんだ! もうちょっと、大胆にならんかい!
「何グジグジしたこと言ってんだ! そんなんだから、アマリリスにも嫌がられるんだぞ!」
「れ、レオ……」
今度はレオにも叱咤され、ブーゲンビリアは大柄の身体をさらに縮こませた。
「アマリリスはもう闇の生徒会なんかやめたって言ってるんだし、仲直りしちゃえ!」
「そ、そんな簡単に……いくわけ……!」
だーーーっ!! もう、なんでこいつはネガティブゲイト発散中なんだよ!?
イライラのあまり、俺はぶん殴ろうと拳を固めた。
「いくよ。お兄ちゃん」
「アマリリスちゃん!」
が、それはアマリリスの声によって止められた。
思わぬ返答に、ブーゲンビリアの声に嬉しさが混じる。
「前は素直になれなかったけど……今なら言える。……ずっと迷惑かけてゴメン! ボクもお兄ちゃんと一緒に歌いたいよ!」
「アマリリスちゃん……!」
「やったあ! 仲直りだ!」
「兄弟は仲良く、だよ~!」
「……よー」
「うわわっ! ライラっ?」
レオ、シルフィーが手を取り合って跳ねて喜んだ。
で。それをライラは真似し、戸惑うシュトレンの手を取って跳ねる。
……ライラって、真似とか好きなのか?
「私、歌ってもいいのね!? アマリリスちゃんと歌えるのね!」
「許可下りたから大丈夫だろ」
だからさっさとしてくれ。一応危機なんだから。
そう思う俺とは反対に、ブーゲンビリアはウキウキしながらマイクを手に取る。
「それじゃあ……歌います。私がいつかアマリリスちゃんと歌いたかった、兄弟ユニットの新曲……」
そして、ガシッとしっかり構えた。
「『ブラザーアタックでモンキーダンス』!」
どんなタイトルだよ←
思わず心の中でツッコミを入れる俺を知らず、ブーゲンビリアは野太い、かつ耳にガンガンくる大声を発した。
「……お? こいつは……」
ブーゲンビリアの男らしい重低音が、アマリリスとロクロの歌に重なった。
意外と良い和音になり、キサッズドの校章にぶつかっていく。
「な、な、なんだ!? このパワーはァァァ!!?」
キサッズドを守る校章が完全に砕け散った。
奴は自分の予想を遥かに上回ったことに驚愕している。
「今だよ、みんな! 歌っている間しか、奴の盾は打ち消せない!」
「ボクたちで三人を守ってるから、アイツをぶっ倒しちゃえ!!」
「またか!!」
まあ予想通りの展開だけどね! なんでどいつもこいつも人任せなんだか!
そんなことを考えながら、刀の切っ先をキサッズドへ向ける。