荒野に響く歌声
「うわ……ホントに何も無いな」
「辺り一面荒れ果て荒野だね~」
遺跡の修復を連中に任せて、闇の世界を進む俺ら。
近場の荒野を進むが……さっきのセリフの通り、辺りは一面の荒野。遺跡の『い』すら見つからない。
「(おまけに……)ブロッサム、危ない」
「え……わっ!?」
ブロッサムの腕を引っ張り、後ろに引く。
そのすぐあと、ブロッサムのいた地点に紫色のガスが噴出した。
「状態異常にするガス、な……。炎熱櫓より厄介だな……」
これだ。所々からこのガスが噴出している。
どの状態異常にかかるかわからないし、変なのにかかると支障が出る。
「そんなに数が多くないことが救いだよな……」
「多くない……進みやすい?」
「まあ……炎熱櫓に比べれば、その点は、な」
ブロッサムとライラに頷きながら、小さくため息をついた。
(こんなんで先に進めるのかね……)
まだ先は流そうだし……。
だだっ広い荒野を眺めながら、早々にうんざりしてきた俺だった。
――――
「……あ! アユミちゃん。これ、ちょっとは手掛かりにならない?」
「何?」
それから少し先に進むと、シルフィーが小さな瓦礫の山を見つけた。
机や椅子が石組みの隙間から見えている。
「たしかに……なんかありそうだな」
「けど、下手に触ったら壊れそうだぞ」
「壊れる……手掛かり紛失?」
「……調べよう、ない~?」
おまえら……不吉なこと言うなよ。
「……おーっ! アユミたち、そこにおったか!」
と、ここで聞き慣れた声が背後から響いてきた。
四人同時にそこへ振り返る。
「何? 何? ちょー強い聖剣とか、そろそろ見つけた?」
「ま、ま、待って欲しいんだな」
「レオにキルシュに……え、ヌッペ?」
やってきたのはレオノチス、キルシュトルテ、ヌッペの三人だった。
……え。何、この珍しい組み合わせは。
「ふむ。その目は『珍しい組み合わせだな』とでも思うておるな?」
「……思わない方がおかしいと思うが」
三人に共通点なんてない、と思うんだが。
そう思ってると、「へへっ」とレオが楽しそうに笑った。
「ボクらは『学園の修復なんてめんどくせー! 隊』だぜー!」
「めんどくさい……修復放棄?」
「ぼ、ぼくは違うんだな」
ライラの痛いところをついたツッコミに、ヌッペが慌てて否定した。
しかしレオ……おまえ、もうちょっとネーミングセンス何とかならんのか?
「ほほほ。後方の備えも大事じゃが、誰かがアユミたちの周囲を遊撃、援護した方が、闇の世界の探索もうまく進むというものじゃ」
「って言う建前で、掃除や修理をほっぽりだして戦ってるのさ!」
「わかったからレオは黙ってろ」
どっちが正しいのかわかんなくなってきたわ。
どっちでもいいけど←
「ぼ、ぼ、ぼくは――」
「ヌッペは遺跡や地理の調査に役立つかと思うてのう。無理矢理着てもらったのじゃ」
「なるほど……それは納得できるな」
「さっきは大活躍だったもんね~」
ブロッサムとシルフィー、俺もキルシュの説明に納得した。
たしかにこいつの知恵なら、遺跡とか任せてもいいだろうな。
「……しかし、わらわに無理強いされるなんて、超ご褒美であろう?」
「はあ……?」
……キルシュ。ヌッペに意味はわからないから。
あと、それはご褒美なわけないだろう。
「おお。ちょうど、そこにアユミたちが見つけた小さな遺跡がある。調べてみてはくれぬか?」
そんな俺の内心を知らず(当たり前だが)、気ままにキルシュのお願いが飛んできた。
言われたヌッペは俺たちが見つけた遺跡の周囲を調査し始める。
「……どうだ。ヌッペ」
「も、もも、もう少し……」
念入りな観察がまだ続く。
まあ俺にはわからないので、ここはおとなしく待っている。
「こ、ここ、この遺跡は、やっぱり始原の学園のい、一部なんだな。石材や建築様式もい、一緒なんだな」
「やっぱりか……元々ここにあったのか?」
「そ、それはち、違うんだな」
たずねてみるが、ヌッペはふるふると首を横に振りながら否定した。
「が、学園から、あ、あっちの方に向かって、ま、まるで、大爆発で吹き飛んだみたいな埋もれ方なんだな……」
「大爆発……」
聞いて、少し考える。
……そういや、ロアも気になること言っていた。
今になって、やっぱり問いただしておくべきだった。と頭を抱えたくなってきた。
「ずず、ずっと気になっていたけれど、この荒れ果てた荒野の岩や砂も、が、学園から何かが爆発したような、そんな破壊の跡のようにお、思えるんだな」
「この荒野もか?」
「すげー! 変なところで頼りになるなー、おまえ」
ブロッサムが荒野を見渡す隣で、レオが目を輝かせて感心した。
「学園で大爆発……のう。ふむぅ……む?」
その横で俺と同じく考え中のキルシュが、何故か俺の足元に目を向けた。
「なんだよ」
「これアユミ。そこの砂になんぞ埋まっておる。調べてみよ」
「ああ?」
キルシュに言われ、渋々だけど足元を退けた。
そして視線を足元へ。
「……これ。日記……?」
……なんか、すっげー風化した日誌らしきものがあった。
全員の視線が向けられるその日記は、今にも崩れそうだ。
「ふ、風化して崩れそうなんだな。と、取り扱いは任せるんだな」
「わかった。ブロッサム、音読よろしく」
「俺かよ……」
ヌッペが拾ってページをめくり始めた。
ヌッペはしゃべるのが苦手なので、ブロッサムに音読させる。
『彼らの行いは日に日に悪くなるばかりだ。生徒たちの中には、あの不良たちを“魔王”、“魔貴族”と呼ぶ者すら出てきた。心に闇を持って産まれた者たち。すなわち魔族の“王”や“貴族”といった意味なのだろう。だが、彼らも神々に愛されて生まれてきた子らだ。できることなら我が手で更正させたい。明日は他の先生方とも相談しよう』
「……ソフィアール。これで日誌は終わりだ」
一通り読み終わると、全員が顔を見合わせ始める。
「不良が魔王って……セントウレア校長先生の昔話と同じだ」
「始原の学園は、神々の時代にあらゆる種族が学ぶ学校、だったよな。ブロッサム」
「ああ。流れてきた記憶にも、今いる種族以外にもいろいろいた。中には竜そのものもいたし……」
「竜? え、バハムーンじゃなくて?」
ブロッサムも俺の確認にしっかりと頷いた。
つーか竜って……どんだけスケールデカすぎる学園なんですか。それは。
「なれば、その学園で悪いことをしていたのが後の魔王だった……ということも有り得るわけじゃな」
「スケールがでっかいんだか小さいんだか、わかんないなー」
「ボクも何と無くそう思う~」
キルシュとレオ、シルフィーがうんうんと頷く。
たしかに凶悪な魔王が、元は不良とは……親近感が湧くな。
「ソ、ソヒ、ソフィアールって誰なんだな?」
「わらわが知るわけなかろうが。されど他の先生方と言うからには、そやつも教師であろう」
「教師……ソフィアール先生?」
「……に、なるか」
ライラの髪をいじりながら、ソフィアールという先生の日誌の内容にめまいが起きそうだった。
だって途方がなさ過ぎるし。
「うわー、もうめんどくさくなってきた。こういうのはセルシア君やフリージアに任せて……」
「任せて……どうするの~?」
「ボクはなんでもいいからバラバラにしたいぞ!」
「ぼ、ぼくの方を見ないでほしいんだな!」
「レオ、ヌッペを怯えさせるんじゃない」
ゴンッ、とレオに拳を落として黙らせ、再び日記に目を向ける。
「……しかし、これ以上は手掛かりはなさそうだな」
「うむ……モンスターを退治しながら、他の手掛かりを探すのが一番かのう」
キルシュも頷きながら賛成する。
日記には始原の学園に何があったか、しかないから、あまり有益でもないしな。
「まだアガシオンの足跡も見つからぬ。アユミたち。引き続き探索の先陣を頼むぞ」
「それは構わない」
そっちのが楽だからな。修復よりも←
「わらわたちはこの遺跡と日誌の話を仲間たちにも伝えておこう」
「わかった。おまえらも気をつけろよ」
俺が言えば、三人は頷きながら戻っていった。
「魔貴族や魔王、な。始原の学園の不良って強いのか?」
「そこまで記憶は流れていないって……。けど、今の時代にはない魔法とかあるはずだから……多分」
「無い魔法……油断は禁物?」
「面倒っぽいね~」
三人もそれぞれため息をつく。
状況はまだよくないからな。
「とにかく先に進むか。手掛かり見つけないと、何にもならないからな」
「だな……」
荒野は続いているんだ。
まだ何かしらあるかもしれないし。
――――
手掛かり求めて三千里。
何かしら無いか、と渡り歩く俺らに、またも見知った顔が出てきた。
「セル! リージーも!」
「やあ、アユミ」
「よかった……。ご無事だったんですね」
荒野の片隅でセルシアとフリージアと遭遇した。
さらに奥では、ネコマとチューリップが周囲を見回している。
「うにゃ~……まだ遠いような……近いようなン……」
「気になる気になる! 本当に誰かいるなら大発見よ!」
「誰か? どういう意味だ?」
二人の話しに首を傾げる。
ブロッサムが主従コンビに聞けば、二人は揃って苦笑を浮かべた。
「この近くで合同のキャンプを張っていたら、ネコマさんが、『誰かの声が聞こえる!』って言い出してね」
「ネコマさんと一緒に、チューリップさんまで飛び出して行こうとしたので、セルシア様が護衛についてきた次第です」
「飛び出し……危険行為?」
「あいつら……どんだけ無謀なんだよ……」
思わず頭を抱え、込み上げる頭痛を堪えた。
そんな俺を知らず、「アユミー!」とネコマが駆けてくる。
「ネコマ……おまえ、どんだけ無謀なことをしているんだよ」
「だってだってン! フェルパーと忍者の聴力を併せ持つあたしには聞こえるの!」
「わかった。わかったから膨れっ面で俺を揺さ振るな。気持ち悪くなるから」
「なら、なら! アユミも耳をすましてみてン?」
耳と尻尾をピンと立たせ、目を輝かせて言う。
こうなるとネコマ、止まらないんだよ……。
(……しかたないか)
そう思い直し、俺も感覚を研ぎ澄まして、荒野全体に耳をすませてみた。
キィーン……、と耳鳴りが耳の中で鳴る。
「…………。……よ……」
「……!!」
今の声は……!?
微かに聞こえた声に、バッと顔を上げた。
「……我が声に耳を傾けよ、生徒たちよ……」
「!」
そう言って俺らの前に、突然朧げに光る女性が現れた。
「うにゃっ!?」
「な、ナニモノっ!?」
「落ち着くんだ。敵意や邪気は感じない」
驚くネコマとチューリップをセルシアが止めた。
女性は気にせず、すぃーっと俺の前で立ち止まる。
「ついに来たか……。我が声を聞く、予言された学び舎の子らよ……」
「……誰だ。おまえは」
一応警戒しながら、現れた女性をさりげなく見る。
女性はセレスティアと同じく翼がある。
が、全身は青白く光っており、手足には枷と鎖。顔にも目隠しされており、まるで何かの封印みたいな感じだ。
女性は俺の睨みを気にせず、感情の無い声でつぶやいた。
「私は――ソフィアール」
「ソフィアール……!」
「それは……! アユミたちが発見した日誌にあった、始原の学園の教師の名前……!」
「そうだ……。私は永劫とも思える年月を、この闇の世界で過ごしてきた……」
告げられた名前に全員が驚く。
まさか生きてた……!? けど、どっちかって言うと……幽霊みたいな感じなんだが……。
「あの……ソフィアール先生は、ここで何を……?」
「私は、失われたものを取り戻すために。去り行くものを繋ぎ止めるために。――そして、破壊の化身を封じ続けるために」
「破壊の化身って……まさか」
感情の無い声でブロッサムの問いに答えるソフィアール先生。
が、俺らは言葉の中にあった単語に反応してしまった。
「破壊の化身って……もしかして、アガシオンが復活させようとしてる、大魔王アゴラモート!?」
思い当たることを言えば、「そうだ」とソフィアール先生が肯定する。
「アゴラモートは、甦ろうとしている……! 我が導きを聞くのだ。生徒たちよ……」
導き、な。要するにやってくれってことか。
これからやることを聞き逃すまいと、全員が耳を傾ける。
「この闇の世界には、アゴラモートを抑える5つの封印が隠されている。……だが、かの大魔道士アガシオンと、その手先が、今や封印を破ろうとしている」
「つまり。俺らにはそれを止めろと?」
「そうだ……彼らを止めてくれ。生徒たちよ……」
「わかりました。では、封印のある場所とはどこですか?」
セルシアが問い掛けると、ソフィアールがスッ……、と指を後ろへ向ける。
「この“忘れられた荒野”のただ中に……そびえる石柱と、流砂の渦がある……その地こそ、第一の封印……」
「封印……意外と、近い?」
「止めてくれ……彼を……我が教え子の一人を……」
言いたいことを言うと、ソフィアールの姿は薄れ、消えていった。
残された俺らは、互いに顔を見合わせる。
「すっごいヒミツを知っちゃった……! これはメモメモね……」
「ね、ね? あたしの言う通りだったでしょ?」
「そうだな。今回は褒めてやろうぞ」
「にゃあ~♪」
擦り寄ってきたネコマの頭を撫でれば、うれしそうに耳と尻尾を動かした。
こういう時だけは可愛いんだよ……普段は可愛くないけど←
「封印、か……すごく重要なことを知れたな」
「たしかに重大な手掛かりですね。5つの封印と、アガシオンの手先。皆様にお知らせしなくては」
ブロッサムとフリージアの言葉に「そうだね」とセルシアが頷くと、クルリと俺の方へ振り向いた。
「僕たちは一度、合同キャンプに戻る。探索のペースは、アユミたちに任せるよ」
「わかった。おまえらも気をつけろよ」
「ありがとうございます。アユミさんもご無理はなさらず、いつでも拠点にお戻りください」
「じゃ、私たちは一旦これで!」
「みんなも気をつけてね~」
「……ねー」
手を振るシルフィーと、それを真似するライラに見送られ、セルシアたちは去っていった。
残された俺らは、互いに顔を見合わせる。
「封印、か。また厄介そうなパターンだな」
「その心は~?」
「確実にフラグが立つ」
「フラグ……戦闘と死亡?」
「縁起でもないことを言うな!」
シルフィーに促され、俺が言えばライラが追撃、そこをブロッサムがツッコミを入れた。
たしかに死ぬのは嫌だけどな←
「まあまあ。所詮フラグなんだ。そう簡単に当たってたまるかよ」
「そりゃそうだけど……」
頭を片手で押さえ、「あー、うー……」とブロッサムは唸る。
たかがボケの一つや二つで何を唸るんだが……←
「とにかく行くか。ヒントだけもらっても、目的の物を拝めなければ意味ないし」
「……そうだな。むしろそうさせてくれ……」
言ってため息をついて、思考を放棄するように歩き出した。
苦笑いを浮かべながら、俺らもブロッサムの後を着くように、歩き出すのだった。
「辺り一面荒れ果て荒野だね~」
遺跡の修復を連中に任せて、闇の世界を進む俺ら。
近場の荒野を進むが……さっきのセリフの通り、辺りは一面の荒野。遺跡の『い』すら見つからない。
「(おまけに……)ブロッサム、危ない」
「え……わっ!?」
ブロッサムの腕を引っ張り、後ろに引く。
そのすぐあと、ブロッサムのいた地点に紫色のガスが噴出した。
「状態異常にするガス、な……。炎熱櫓より厄介だな……」
これだ。所々からこのガスが噴出している。
どの状態異常にかかるかわからないし、変なのにかかると支障が出る。
「そんなに数が多くないことが救いだよな……」
「多くない……進みやすい?」
「まあ……炎熱櫓に比べれば、その点は、な」
ブロッサムとライラに頷きながら、小さくため息をついた。
(こんなんで先に進めるのかね……)
まだ先は流そうだし……。
だだっ広い荒野を眺めながら、早々にうんざりしてきた俺だった。
――――
「……あ! アユミちゃん。これ、ちょっとは手掛かりにならない?」
「何?」
それから少し先に進むと、シルフィーが小さな瓦礫の山を見つけた。
机や椅子が石組みの隙間から見えている。
「たしかに……なんかありそうだな」
「けど、下手に触ったら壊れそうだぞ」
「壊れる……手掛かり紛失?」
「……調べよう、ない~?」
おまえら……不吉なこと言うなよ。
「……おーっ! アユミたち、そこにおったか!」
と、ここで聞き慣れた声が背後から響いてきた。
四人同時にそこへ振り返る。
「何? 何? ちょー強い聖剣とか、そろそろ見つけた?」
「ま、ま、待って欲しいんだな」
「レオにキルシュに……え、ヌッペ?」
やってきたのはレオノチス、キルシュトルテ、ヌッペの三人だった。
……え。何、この珍しい組み合わせは。
「ふむ。その目は『珍しい組み合わせだな』とでも思うておるな?」
「……思わない方がおかしいと思うが」
三人に共通点なんてない、と思うんだが。
そう思ってると、「へへっ」とレオが楽しそうに笑った。
「ボクらは『学園の修復なんてめんどくせー! 隊』だぜー!」
「めんどくさい……修復放棄?」
「ぼ、ぼくは違うんだな」
ライラの痛いところをついたツッコミに、ヌッペが慌てて否定した。
しかしレオ……おまえ、もうちょっとネーミングセンス何とかならんのか?
「ほほほ。後方の備えも大事じゃが、誰かがアユミたちの周囲を遊撃、援護した方が、闇の世界の探索もうまく進むというものじゃ」
「って言う建前で、掃除や修理をほっぽりだして戦ってるのさ!」
「わかったからレオは黙ってろ」
どっちが正しいのかわかんなくなってきたわ。
どっちでもいいけど←
「ぼ、ぼ、ぼくは――」
「ヌッペは遺跡や地理の調査に役立つかと思うてのう。無理矢理着てもらったのじゃ」
「なるほど……それは納得できるな」
「さっきは大活躍だったもんね~」
ブロッサムとシルフィー、俺もキルシュの説明に納得した。
たしかにこいつの知恵なら、遺跡とか任せてもいいだろうな。
「……しかし、わらわに無理強いされるなんて、超ご褒美であろう?」
「はあ……?」
……キルシュ。ヌッペに意味はわからないから。
あと、それはご褒美なわけないだろう。
「おお。ちょうど、そこにアユミたちが見つけた小さな遺跡がある。調べてみてはくれぬか?」
そんな俺の内心を知らず(当たり前だが)、気ままにキルシュのお願いが飛んできた。
言われたヌッペは俺たちが見つけた遺跡の周囲を調査し始める。
「……どうだ。ヌッペ」
「も、もも、もう少し……」
念入りな観察がまだ続く。
まあ俺にはわからないので、ここはおとなしく待っている。
「こ、ここ、この遺跡は、やっぱり始原の学園のい、一部なんだな。石材や建築様式もい、一緒なんだな」
「やっぱりか……元々ここにあったのか?」
「そ、それはち、違うんだな」
たずねてみるが、ヌッペはふるふると首を横に振りながら否定した。
「が、学園から、あ、あっちの方に向かって、ま、まるで、大爆発で吹き飛んだみたいな埋もれ方なんだな……」
「大爆発……」
聞いて、少し考える。
……そういや、ロアも気になること言っていた。
今になって、やっぱり問いただしておくべきだった。と頭を抱えたくなってきた。
「ずず、ずっと気になっていたけれど、この荒れ果てた荒野の岩や砂も、が、学園から何かが爆発したような、そんな破壊の跡のようにお、思えるんだな」
「この荒野もか?」
「すげー! 変なところで頼りになるなー、おまえ」
ブロッサムが荒野を見渡す隣で、レオが目を輝かせて感心した。
「学園で大爆発……のう。ふむぅ……む?」
その横で俺と同じく考え中のキルシュが、何故か俺の足元に目を向けた。
「なんだよ」
「これアユミ。そこの砂になんぞ埋まっておる。調べてみよ」
「ああ?」
キルシュに言われ、渋々だけど足元を退けた。
そして視線を足元へ。
「……これ。日記……?」
……なんか、すっげー風化した日誌らしきものがあった。
全員の視線が向けられるその日記は、今にも崩れそうだ。
「ふ、風化して崩れそうなんだな。と、取り扱いは任せるんだな」
「わかった。ブロッサム、音読よろしく」
「俺かよ……」
ヌッペが拾ってページをめくり始めた。
ヌッペはしゃべるのが苦手なので、ブロッサムに音読させる。
『彼らの行いは日に日に悪くなるばかりだ。生徒たちの中には、あの不良たちを“魔王”、“魔貴族”と呼ぶ者すら出てきた。心に闇を持って産まれた者たち。すなわち魔族の“王”や“貴族”といった意味なのだろう。だが、彼らも神々に愛されて生まれてきた子らだ。できることなら我が手で更正させたい。明日は他の先生方とも相談しよう』
「……ソフィアール。これで日誌は終わりだ」
一通り読み終わると、全員が顔を見合わせ始める。
「不良が魔王って……セントウレア校長先生の昔話と同じだ」
「始原の学園は、神々の時代にあらゆる種族が学ぶ学校、だったよな。ブロッサム」
「ああ。流れてきた記憶にも、今いる種族以外にもいろいろいた。中には竜そのものもいたし……」
「竜? え、バハムーンじゃなくて?」
ブロッサムも俺の確認にしっかりと頷いた。
つーか竜って……どんだけスケールデカすぎる学園なんですか。それは。
「なれば、その学園で悪いことをしていたのが後の魔王だった……ということも有り得るわけじゃな」
「スケールがでっかいんだか小さいんだか、わかんないなー」
「ボクも何と無くそう思う~」
キルシュとレオ、シルフィーがうんうんと頷く。
たしかに凶悪な魔王が、元は不良とは……親近感が湧くな。
「ソ、ソヒ、ソフィアールって誰なんだな?」
「わらわが知るわけなかろうが。されど他の先生方と言うからには、そやつも教師であろう」
「教師……ソフィアール先生?」
「……に、なるか」
ライラの髪をいじりながら、ソフィアールという先生の日誌の内容にめまいが起きそうだった。
だって途方がなさ過ぎるし。
「うわー、もうめんどくさくなってきた。こういうのはセルシア君やフリージアに任せて……」
「任せて……どうするの~?」
「ボクはなんでもいいからバラバラにしたいぞ!」
「ぼ、ぼくの方を見ないでほしいんだな!」
「レオ、ヌッペを怯えさせるんじゃない」
ゴンッ、とレオに拳を落として黙らせ、再び日記に目を向ける。
「……しかし、これ以上は手掛かりはなさそうだな」
「うむ……モンスターを退治しながら、他の手掛かりを探すのが一番かのう」
キルシュも頷きながら賛成する。
日記には始原の学園に何があったか、しかないから、あまり有益でもないしな。
「まだアガシオンの足跡も見つからぬ。アユミたち。引き続き探索の先陣を頼むぞ」
「それは構わない」
そっちのが楽だからな。修復よりも←
「わらわたちはこの遺跡と日誌の話を仲間たちにも伝えておこう」
「わかった。おまえらも気をつけろよ」
俺が言えば、三人は頷きながら戻っていった。
「魔貴族や魔王、な。始原の学園の不良って強いのか?」
「そこまで記憶は流れていないって……。けど、今の時代にはない魔法とかあるはずだから……多分」
「無い魔法……油断は禁物?」
「面倒っぽいね~」
三人もそれぞれため息をつく。
状況はまだよくないからな。
「とにかく先に進むか。手掛かり見つけないと、何にもならないからな」
「だな……」
荒野は続いているんだ。
まだ何かしらあるかもしれないし。
――――
手掛かり求めて三千里。
何かしら無いか、と渡り歩く俺らに、またも見知った顔が出てきた。
「セル! リージーも!」
「やあ、アユミ」
「よかった……。ご無事だったんですね」
荒野の片隅でセルシアとフリージアと遭遇した。
さらに奥では、ネコマとチューリップが周囲を見回している。
「うにゃ~……まだ遠いような……近いようなン……」
「気になる気になる! 本当に誰かいるなら大発見よ!」
「誰か? どういう意味だ?」
二人の話しに首を傾げる。
ブロッサムが主従コンビに聞けば、二人は揃って苦笑を浮かべた。
「この近くで合同のキャンプを張っていたら、ネコマさんが、『誰かの声が聞こえる!』って言い出してね」
「ネコマさんと一緒に、チューリップさんまで飛び出して行こうとしたので、セルシア様が護衛についてきた次第です」
「飛び出し……危険行為?」
「あいつら……どんだけ無謀なんだよ……」
思わず頭を抱え、込み上げる頭痛を堪えた。
そんな俺を知らず、「アユミー!」とネコマが駆けてくる。
「ネコマ……おまえ、どんだけ無謀なことをしているんだよ」
「だってだってン! フェルパーと忍者の聴力を併せ持つあたしには聞こえるの!」
「わかった。わかったから膨れっ面で俺を揺さ振るな。気持ち悪くなるから」
「なら、なら! アユミも耳をすましてみてン?」
耳と尻尾をピンと立たせ、目を輝かせて言う。
こうなるとネコマ、止まらないんだよ……。
(……しかたないか)
そう思い直し、俺も感覚を研ぎ澄まして、荒野全体に耳をすませてみた。
キィーン……、と耳鳴りが耳の中で鳴る。
「…………。……よ……」
「……!!」
今の声は……!?
微かに聞こえた声に、バッと顔を上げた。
「……我が声に耳を傾けよ、生徒たちよ……」
「!」
そう言って俺らの前に、突然朧げに光る女性が現れた。
「うにゃっ!?」
「な、ナニモノっ!?」
「落ち着くんだ。敵意や邪気は感じない」
驚くネコマとチューリップをセルシアが止めた。
女性は気にせず、すぃーっと俺の前で立ち止まる。
「ついに来たか……。我が声を聞く、予言された学び舎の子らよ……」
「……誰だ。おまえは」
一応警戒しながら、現れた女性をさりげなく見る。
女性はセレスティアと同じく翼がある。
が、全身は青白く光っており、手足には枷と鎖。顔にも目隠しされており、まるで何かの封印みたいな感じだ。
女性は俺の睨みを気にせず、感情の無い声でつぶやいた。
「私は――ソフィアール」
「ソフィアール……!」
「それは……! アユミたちが発見した日誌にあった、始原の学園の教師の名前……!」
「そうだ……。私は永劫とも思える年月を、この闇の世界で過ごしてきた……」
告げられた名前に全員が驚く。
まさか生きてた……!? けど、どっちかって言うと……幽霊みたいな感じなんだが……。
「あの……ソフィアール先生は、ここで何を……?」
「私は、失われたものを取り戻すために。去り行くものを繋ぎ止めるために。――そして、破壊の化身を封じ続けるために」
「破壊の化身って……まさか」
感情の無い声でブロッサムの問いに答えるソフィアール先生。
が、俺らは言葉の中にあった単語に反応してしまった。
「破壊の化身って……もしかして、アガシオンが復活させようとしてる、大魔王アゴラモート!?」
思い当たることを言えば、「そうだ」とソフィアール先生が肯定する。
「アゴラモートは、甦ろうとしている……! 我が導きを聞くのだ。生徒たちよ……」
導き、な。要するにやってくれってことか。
これからやることを聞き逃すまいと、全員が耳を傾ける。
「この闇の世界には、アゴラモートを抑える5つの封印が隠されている。……だが、かの大魔道士アガシオンと、その手先が、今や封印を破ろうとしている」
「つまり。俺らにはそれを止めろと?」
「そうだ……彼らを止めてくれ。生徒たちよ……」
「わかりました。では、封印のある場所とはどこですか?」
セルシアが問い掛けると、ソフィアールがスッ……、と指を後ろへ向ける。
「この“忘れられた荒野”のただ中に……そびえる石柱と、流砂の渦がある……その地こそ、第一の封印……」
「封印……意外と、近い?」
「止めてくれ……彼を……我が教え子の一人を……」
言いたいことを言うと、ソフィアールの姿は薄れ、消えていった。
残された俺らは、互いに顔を見合わせる。
「すっごいヒミツを知っちゃった……! これはメモメモね……」
「ね、ね? あたしの言う通りだったでしょ?」
「そうだな。今回は褒めてやろうぞ」
「にゃあ~♪」
擦り寄ってきたネコマの頭を撫でれば、うれしそうに耳と尻尾を動かした。
こういう時だけは可愛いんだよ……普段は可愛くないけど←
「封印、か……すごく重要なことを知れたな」
「たしかに重大な手掛かりですね。5つの封印と、アガシオンの手先。皆様にお知らせしなくては」
ブロッサムとフリージアの言葉に「そうだね」とセルシアが頷くと、クルリと俺の方へ振り向いた。
「僕たちは一度、合同キャンプに戻る。探索のペースは、アユミたちに任せるよ」
「わかった。おまえらも気をつけろよ」
「ありがとうございます。アユミさんもご無理はなさらず、いつでも拠点にお戻りください」
「じゃ、私たちは一旦これで!」
「みんなも気をつけてね~」
「……ねー」
手を振るシルフィーと、それを真似するライラに見送られ、セルシアたちは去っていった。
残された俺らは、互いに顔を見合わせる。
「封印、か。また厄介そうなパターンだな」
「その心は~?」
「確実にフラグが立つ」
「フラグ……戦闘と死亡?」
「縁起でもないことを言うな!」
シルフィーに促され、俺が言えばライラが追撃、そこをブロッサムがツッコミを入れた。
たしかに死ぬのは嫌だけどな←
「まあまあ。所詮フラグなんだ。そう簡単に当たってたまるかよ」
「そりゃそうだけど……」
頭を片手で押さえ、「あー、うー……」とブロッサムは唸る。
たかがボケの一つや二つで何を唸るんだが……←
「とにかく行くか。ヒントだけもらっても、目的の物を拝めなければ意味ないし」
「……そうだな。むしろそうさせてくれ……」
言ってため息をついて、思考を放棄するように歩き出した。
苦笑いを浮かべながら、俺らもブロッサムの後を着くように、歩き出すのだった。