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荒野に響く歌声

「うわ……ホントに何も無いな」

「辺り一面荒れ果て荒野だね~」

 遺跡の修復を連中に任せて、闇の世界を進む俺ら。
 近場の荒野を進むが……さっきのセリフの通り、辺りは一面の荒野。遺跡の『い』すら見つからない。

「(おまけに……)ブロッサム、危ない」

「え……わっ!?」

 ブロッサムの腕を引っ張り、後ろに引く。
 そのすぐあと、ブロッサムのいた地点に紫色のガスが噴出した。

「状態異常にするガス、な……。炎熱櫓より厄介だな……」

 これだ。所々からこのガスが噴出している。
 どの状態異常にかかるかわからないし、変なのにかかると支障が出る。

「そんなに数が多くないことが救いだよな……」

「多くない……進みやすい?」

「まあ……炎熱櫓に比べれば、その点は、な」

 ブロッサムとライラに頷きながら、小さくため息をついた。

(こんなんで先に進めるのかね……)

 まだ先は流そうだし……。
 だだっ広い荒野を眺めながら、早々にうんざりしてきた俺だった。

 ――――

「……あ! アユミちゃん。これ、ちょっとは手掛かりにならない?」

「何?」

 それから少し先に進むと、シルフィーが小さな瓦礫の山を見つけた。
 机や椅子が石組みの隙間から見えている。

「たしかに……なんかありそうだな」

「けど、下手に触ったら壊れそうだぞ」

「壊れる……手掛かり紛失?」

「……調べよう、ない~?」

 おまえら……不吉なこと言うなよ。

「……おーっ! アユミたち、そこにおったか!」

 と、ここで聞き慣れた声が背後から響いてきた。
 四人同時にそこへ振り返る。

「何? 何? ちょー強い聖剣とか、そろそろ見つけた?」

「ま、ま、待って欲しいんだな」

「レオにキルシュに……え、ヌッペ?」

 やってきたのはレオノチス、キルシュトルテ、ヌッペの三人だった。
 ……え。何、この珍しい組み合わせは。

「ふむ。その目は『珍しい組み合わせだな』とでも思うておるな?」

「……思わない方がおかしいと思うが」

 三人に共通点なんてない、と思うんだが。
 そう思ってると、「へへっ」とレオが楽しそうに笑った。

「ボクらは『学園の修復なんてめんどくせー! 隊』だぜー!」

「めんどくさい……修復放棄?」

「ぼ、ぼくは違うんだな」

 ライラの痛いところをついたツッコミに、ヌッペが慌てて否定した。
 しかしレオ……おまえ、もうちょっとネーミングセンス何とかならんのか?

「ほほほ。後方の備えも大事じゃが、誰かがアユミたちの周囲を遊撃、援護した方が、闇の世界の探索もうまく進むというものじゃ」

「って言う建前で、掃除や修理をほっぽりだして戦ってるのさ!」

「わかったからレオは黙ってろ」

 どっちが正しいのかわかんなくなってきたわ。
 どっちでもいいけど←

「ぼ、ぼ、ぼくは――」

「ヌッペは遺跡や地理の調査に役立つかと思うてのう。無理矢理着てもらったのじゃ」

「なるほど……それは納得できるな」

「さっきは大活躍だったもんね~」

 ブロッサムとシルフィー、俺もキルシュの説明に納得した。
 たしかにこいつの知恵なら、遺跡とか任せてもいいだろうな。

「……しかし、わらわに無理強いされるなんて、超ご褒美であろう?」

「はあ……?」

 ……キルシュ。ヌッペに意味はわからないから。
 あと、それはご褒美なわけないだろう。

「おお。ちょうど、そこにアユミたちが見つけた小さな遺跡がある。調べてみてはくれぬか?」

 そんな俺の内心を知らず(当たり前だが)、気ままにキルシュのお願いが飛んできた。
 言われたヌッペは俺たちが見つけた遺跡の周囲を調査し始める。

「……どうだ。ヌッペ」

「も、もも、もう少し……」

 念入りな観察がまだ続く。
 まあ俺にはわからないので、ここはおとなしく待っている。

「こ、ここ、この遺跡は、やっぱり始原の学園のい、一部なんだな。石材や建築様式もい、一緒なんだな」

「やっぱりか……元々ここにあったのか?」

「そ、それはち、違うんだな」

 たずねてみるが、ヌッペはふるふると首を横に振りながら否定した。

「が、学園から、あ、あっちの方に向かって、ま、まるで、大爆発で吹き飛んだみたいな埋もれ方なんだな……」

「大爆発……」

 聞いて、少し考える。
 ……そういや、ロアも気になること言っていた。
 今になって、やっぱり問いただしておくべきだった。と頭を抱えたくなってきた。

「ずず、ずっと気になっていたけれど、この荒れ果てた荒野の岩や砂も、が、学園から何かが爆発したような、そんな破壊の跡のようにお、思えるんだな」

「この荒野もか?」

「すげー! 変なところで頼りになるなー、おまえ」

 ブロッサムが荒野を見渡す隣で、レオが目を輝かせて感心した。

「学園で大爆発……のう。ふむぅ……む?」

 その横で俺と同じく考え中のキルシュが、何故か俺の足元に目を向けた。

「なんだよ」

「これアユミ。そこの砂になんぞ埋まっておる。調べてみよ」

「ああ?」

 キルシュに言われ、渋々だけど足元を退けた。
 そして視線を足元へ。

「……これ。日記……?」

 ……なんか、すっげー風化した日誌らしきものがあった。
 全員の視線が向けられるその日記は、今にも崩れそうだ。

「ふ、風化して崩れそうなんだな。と、取り扱いは任せるんだな」

「わかった。ブロッサム、音読よろしく」

「俺かよ……」

 ヌッペが拾ってページをめくり始めた。
 ヌッペはしゃべるのが苦手なので、ブロッサムに音読させる。

『彼らの行いは日に日に悪くなるばかりだ。生徒たちの中には、あの不良たちを“魔王”、“魔貴族”と呼ぶ者すら出てきた。心に闇を持って産まれた者たち。すなわち魔族の“王”や“貴族”といった意味なのだろう。だが、彼らも神々に愛されて生まれてきた子らだ。できることなら我が手で更正させたい。明日は他の先生方とも相談しよう』

「……ソフィアール。これで日誌は終わりだ」

 一通り読み終わると、全員が顔を見合わせ始める。

「不良が魔王って……セントウレア校長先生の昔話と同じだ」

「始原の学園は、神々の時代にあらゆる種族が学ぶ学校、だったよな。ブロッサム」

「ああ。流れてきた記憶にも、今いる種族以外にもいろいろいた。中には竜そのものもいたし……」

「竜? え、バハムーンじゃなくて?」

 ブロッサムも俺の確認にしっかりと頷いた。
 つーか竜って……どんだけスケールデカすぎる学園なんですか。それは。

「なれば、その学園で悪いことをしていたのが後の魔王だった……ということも有り得るわけじゃな」

「スケールがでっかいんだか小さいんだか、わかんないなー」

「ボクも何と無くそう思う~」

 キルシュとレオ、シルフィーがうんうんと頷く。
 たしかに凶悪な魔王が、元は不良とは……親近感が湧くな。

「ソ、ソヒ、ソフィアールって誰なんだな?」

「わらわが知るわけなかろうが。されど他の先生方と言うからには、そやつも教師であろう」

「教師……ソフィアール先生?」

「……に、なるか」

 ライラの髪をいじりながら、ソフィアールという先生の日誌の内容にめまいが起きそうだった。
 だって途方がなさ過ぎるし。

「うわー、もうめんどくさくなってきた。こういうのはセルシア君やフリージアに任せて……」

「任せて……どうするの~?」

「ボクはなんでもいいからバラバラにしたいぞ!」

「ぼ、ぼくの方を見ないでほしいんだな!」

「レオ、ヌッペを怯えさせるんじゃない」

 ゴンッ、とレオに拳を落として黙らせ、再び日記に目を向ける。

「……しかし、これ以上は手掛かりはなさそうだな」

「うむ……モンスターを退治しながら、他の手掛かりを探すのが一番かのう」

 キルシュも頷きながら賛成する。
 日記には始原の学園に何があったか、しかないから、あまり有益でもないしな。

「まだアガシオンの足跡も見つからぬ。アユミたち。引き続き探索の先陣を頼むぞ」

「それは構わない」

 そっちのが楽だからな。修復よりも←

「わらわたちはこの遺跡と日誌の話を仲間たちにも伝えておこう」

「わかった。おまえらも気をつけろよ」

 俺が言えば、三人は頷きながら戻っていった。

「魔貴族や魔王、な。始原の学園の不良って強いのか?」

「そこまで記憶は流れていないって……。けど、今の時代にはない魔法とかあるはずだから……多分」

「無い魔法……油断は禁物?」

「面倒っぽいね~」

 三人もそれぞれため息をつく。
 状況はまだよくないからな。

「とにかく先に進むか。手掛かり見つけないと、何にもならないからな」

「だな……」

 荒野は続いているんだ。
 まだ何かしらあるかもしれないし。

 ――――

 手掛かり求めて三千里。
 何かしら無いか、と渡り歩く俺らに、またも見知った顔が出てきた。

「セル! リージーも!」

「やあ、アユミ」

「よかった……。ご無事だったんですね」

 荒野の片隅でセルシアとフリージアと遭遇した。
 さらに奥では、ネコマとチューリップが周囲を見回している。

「うにゃ~……まだ遠いような……近いようなン……」

「気になる気になる! 本当に誰かいるなら大発見よ!」

「誰か? どういう意味だ?」

 二人の話しに首を傾げる。
 ブロッサムが主従コンビに聞けば、二人は揃って苦笑を浮かべた。

「この近くで合同のキャンプを張っていたら、ネコマさんが、『誰かの声が聞こえる!』って言い出してね」

「ネコマさんと一緒に、チューリップさんまで飛び出して行こうとしたので、セルシア様が護衛についてきた次第です」

「飛び出し……危険行為?」

「あいつら……どんだけ無謀なんだよ……」

 思わず頭を抱え、込み上げる頭痛を堪えた。
 そんな俺を知らず、「アユミー!」とネコマが駆けてくる。

「ネコマ……おまえ、どんだけ無謀なことをしているんだよ」

「だってだってン! フェルパーと忍者の聴力を併せ持つあたしには聞こえるの!」

「わかった。わかったから膨れっ面で俺を揺さ振るな。気持ち悪くなるから」

「なら、なら! アユミも耳をすましてみてン?」

 耳と尻尾をピンと立たせ、目を輝かせて言う。
 こうなるとネコマ、止まらないんだよ……。

(……しかたないか)

 そう思い直し、俺も感覚を研ぎ澄まして、荒野全体に耳をすませてみた。
 キィーン……、と耳鳴りが耳の中で鳴る。

「…………。……よ……」

「……!!」

 今の声は……!?
 微かに聞こえた声に、バッと顔を上げた。

「……我が声に耳を傾けよ、生徒たちよ……」

「!」

 そう言って俺らの前に、突然朧げに光る女性が現れた。

「うにゃっ!?」

「な、ナニモノっ!?」

「落ち着くんだ。敵意や邪気は感じない」

 驚くネコマとチューリップをセルシアが止めた。
 女性は気にせず、すぃーっと俺の前で立ち止まる。

「ついに来たか……。我が声を聞く、予言された学び舎の子らよ……」

「……誰だ。おまえは」

 一応警戒しながら、現れた女性をさりげなく見る。
 女性はセレスティアと同じく翼がある。
 が、全身は青白く光っており、手足には枷と鎖。顔にも目隠しされており、まるで何かの封印みたいな感じだ。
 女性は俺の睨みを気にせず、感情の無い声でつぶやいた。

「私は――ソフィアール」

「ソフィアール……!」

「それは……! アユミたちが発見した日誌にあった、始原の学園の教師の名前……!」

「そうだ……。私は永劫とも思える年月を、この闇の世界で過ごしてきた……」

 告げられた名前に全員が驚く。
 まさか生きてた……!? けど、どっちかって言うと……幽霊みたいな感じなんだが……。

「あの……ソフィアール先生は、ここで何を……?」

「私は、失われたものを取り戻すために。去り行くものを繋ぎ止めるために。――そして、破壊の化身を封じ続けるために」

「破壊の化身って……まさか」

 感情の無い声でブロッサムの問いに答えるソフィアール先生。
 が、俺らは言葉の中にあった単語に反応してしまった。

「破壊の化身って……もしかして、アガシオンが復活させようとしてる、大魔王アゴラモート!?」

 思い当たることを言えば、「そうだ」とソフィアール先生が肯定する。

「アゴラモートは、甦ろうとしている……! 我が導きを聞くのだ。生徒たちよ……」

 導き、な。要するにやってくれってことか。
 これからやることを聞き逃すまいと、全員が耳を傾ける。

「この闇の世界には、アゴラモートを抑える5つの封印が隠されている。……だが、かの大魔道士アガシオンと、その手先が、今や封印を破ろうとしている」

「つまり。俺らにはそれを止めろと?」

「そうだ……彼らを止めてくれ。生徒たちよ……」

「わかりました。では、封印のある場所とはどこですか?」

 セルシアが問い掛けると、ソフィアールがスッ……、と指を後ろへ向ける。

「この“忘れられた荒野”のただ中に……そびえる石柱と、流砂の渦がある……その地こそ、第一の封印……」

「封印……意外と、近い?」

「止めてくれ……彼を……我が教え子の一人を……」

 言いたいことを言うと、ソフィアールの姿は薄れ、消えていった。
 残された俺らは、互いに顔を見合わせる。

「すっごいヒミツを知っちゃった……! これはメモメモね……」

「ね、ね? あたしの言う通りだったでしょ?」

「そうだな。今回は褒めてやろうぞ」

「にゃあ~♪」

 擦り寄ってきたネコマの頭を撫でれば、うれしそうに耳と尻尾を動かした。
 こういう時だけは可愛いんだよ……普段は可愛くないけど←

「封印、か……すごく重要なことを知れたな」

「たしかに重大な手掛かりですね。5つの封印と、アガシオンの手先。皆様にお知らせしなくては」

 ブロッサムとフリージアの言葉に「そうだね」とセルシアが頷くと、クルリと俺の方へ振り向いた。

「僕たちは一度、合同キャンプに戻る。探索のペースは、アユミたちに任せるよ」

「わかった。おまえらも気をつけろよ」

「ありがとうございます。アユミさんもご無理はなさらず、いつでも拠点にお戻りください」

「じゃ、私たちは一旦これで!」

「みんなも気をつけてね~」

「……ねー」

 手を振るシルフィーと、それを真似するライラに見送られ、セルシアたちは去っていった。
 残された俺らは、互いに顔を見合わせる。

「封印、か。また厄介そうなパターンだな」

「その心は~?」

「確実にフラグが立つ」

「フラグ……戦闘と死亡?」

「縁起でもないことを言うな!」

 シルフィーに促され、俺が言えばライラが追撃、そこをブロッサムがツッコミを入れた。
 たしかに死ぬのは嫌だけどな←

「まあまあ。所詮フラグなんだ。そう簡単に当たってたまるかよ」

「そりゃそうだけど……」

 頭を片手で押さえ、「あー、うー……」とブロッサムは唸る。
 たかがボケの一つや二つで何を唸るんだが……←

「とにかく行くか。ヒントだけもらっても、目的の物を拝めなければ意味ないし」

「……そうだな。むしろそうさせてくれ……」

 言ってため息をついて、思考を放棄するように歩き出した。
 苦笑いを浮かべながら、俺らもブロッサムの後を着くように、歩き出すのだった。
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